「はぁっ!!」
橘は自身の《鉄鎖》を梓に向けて放った。《鉄鎖》は梓に向かっていき、梓の腕を拘束しようとした。しかし、
「無駄ですよ」
「がはっ…」
梓は《鉄鎖》を見切り橘との距離を詰めると自身の《大鎌》を振るい刃の側面を橘に叩きつけた。
「口ほどにも無いですねぇ…まぁ分かりきってましたけど、温室育ちの貴方たちと私では、くぐって来た修羅場の数が違うんです…よっ!!」
「ぐぅっ!!」
梓は倒れる橘の横腹に蹴りを放った。
「優しくっ!!してくれるっ!!人たちがっ!!いるっ!!場所でっ!!ぬくぬく育った人にっ!!私のっ!!何がっ!!わかるんですかっ!?」
それからも梓は橘の横腹に蹴りを何度も叩きつけた。
「はぁ…はぁ…やっとここまで来れたんだ…この計画が成功すれば博士は私に要職を与えてくれると約束してくれた…邪魔を…するな…」
《大鎌》を巴に向けて梓は彼女を睨みつけた。
「…梓、私も分かったことがある…」
「…何ですか?」
突然橘がそんなことを言ったので梓は聞いてみた。しかし、それは彼女が予想していなかった言葉であった。
「キミは…嘘が下手だ…」
「…え?」
不知火 梓は家族を知らない。物心ついた頃には彼女は暗い部屋で同じくらいの子供たちと一緒にいた。
彼女がいた場所は幼い子供たちをあらゆる手段で『集めて』スパイや暗殺者として育成し、派遣する組織であった。そこでは彼女たちは人として扱われず、唯の駒として育成されてきた。そんな中で同期たちは次々と任務で死んでいった…いずれ自分も死ぬのか?そんな恐怖がいつも自分の中にあった。同時に彼女は世界を憎んだ、自分たちが血に染まった世界で生きているのに自分と同じくらいの子供が家族に囲まれて幸せそうに生きていることが許せなかった。こんな理不尽が神の意志であるのなら…私は神を許せない、そう思っていた。
「良い目をしておるな、お前さん…儂の部隊に入らぬか?」
そんな時、一人の依頼人が私に問いかけてきた。
「…私をですか?…何のために…」
「お前さんの目が気に入ったわい…神を許せないという憎しみに染まった目じゃな」
その言葉に私は少し驚いた。まさか見透かされるとは思っていなかったからだ。
「どうじゃ?儂の部隊は神を滅する力を目指しておる…お前さんも神が憎いのだろ?儂にお前さんの力を貸してはくれんかのう?」
その言葉に私は喜びを隠せなかった。自分が欲した力を手に入れられるかもしれないからだ。まさに願っても無い話であった。
「では…」
こうして私は《神滅部隊》に所属した。
「昊陵学園…ですか?」
「うむ、そこで探して欲しい人材があるんじゃよ」
ある日、私は《装鋼の技師》に呼び出され任務の依頼をされた。内容は昊陵学園というドーン機関が運営する学園に生徒として潜入し、今後の研究に必要な《素材》の捜索、そして、学園に《神滅部隊》が強襲する際の手引きというものであった。
「…分かりました、引き受けます。」
「うむ、頼むぞ」
そして、私は学園に潜入した。
そこでは平和な環境で育った人たちが表面だけの平和を楽しんでおり、私にとっては嫌悪の他に何も無かった。しかし、
「梓、キミは小食過ぎる。もっと食べなければ体が持たんぞ」
「………(またこの人は…)」
自分のルームメイトとなった橘 巴は何かにつけてお節介をしてきたのだ。本当は周りとはある程度離れて行動しようと思っていたのにお陰で迂闊に情報収集もできない始末であった。
「梓、何か困ったことは無いか?もし良ければ私も協力しよう」
「…いえ、大丈夫です(…だったらいちいち私に構わないでください…はぁ…この人あれ?世話焼かないと生きてけない人?)」
「梓、聞きたいことがあるのだが…」
「(やれやれ、またですか…しょうがないですね)何ですか?」
「梓…」
「はい、どうしました?(…ふふっ来た来た)」
気づけばそれは習慣になり自分も満更でもなくなってきた。そして…
「梓、もし相手がいないなら…私と組まないか?」
「…はい、よろしくお願いします」
それからは毎日が楽しかった。巴さんを通じて他にも沢山の仲間が出来た。幼い頃、自分が密かに願っていたものが今になって手に入ったのだ。それが嬉しかった。
…しかし、楽しい時間は終わってしまった。
『梓、《装鋼の技師》殿から計画の開始が言い渡されました。今後の情報連絡を頼めますね?』
「…はい、分かっています」
そう、分かっていたことだ…自分のやらなければいけないことを、自分の宿命には抗えないことも、
私が裏切り者だと知ったら…みんな許してくれないだろうな……そうだ、だったらもういっそのこと始めから利用していたってことにして悪人になってしまおう…そうすれば…割り切っちゃえば…苦しまなくて済むから…
「な…何を言っているんですか…?」
梓は橘の言葉に同様を隠せずにいた。
「梓…私には、君が本当の悪人には思えない」
「は…?」
「今の君は、まるで悪人というより、悪人を演じているように見えるんだ。自分が悪人だと言って私たちに嫌われようとしているみたいにな」
「ち…違…私は…」
「なによりキミの攻撃には敵意が無い…私を本気で斬ろうという敵意がな」
橘は梓の目をまっすぐ見ながら言った。
「君が本当に全力で迷いなく斬っていれば私はこうやって立っていない…どれだけ悪人振っても本心までは騙せない…なぁ梓、君は本当はこんな事をしたくは無いはずだ。君が今まで私に見せていた笑顔は…噓いつわりの無いものだったはずだ」
「私は迷ってなんか無い!!私のことを何も…」
「わからないっ!!」
「っ!!」
橘は大きな声で叫んだ。
「梓、キミの言う通り…私は今までキミがどんな生活を送って来たか知らない…だけどな…それでもわかることがある…キミは本当は優しい心の持ち主だと言うことだ…」
まっすぐと自分を見つめる橘に梓は動揺した。
「ち…違う…私は貴方たちを裏切って…」
「梓…今からでも遅く無い。こっちに戻ってこい」
しかし、橘の言葉に迷いはなかった。
「っ…もう遅いんですよっ!!」
梓は今まで抑えていた感情を爆発させる。
「梓…」
「仮に私に迷いがあったとしても…私は仲間を裏切ったんですよ!!もう戻れないんですよ!!だから…こうするしか…悪人になるしか無いんです!!」
「それは違う!!!!!」
巴は声を張り上げ梓の言葉を否定した。
「私は梓、キミを助けたい…何故なら…キミが苦しんでいるからだ!!」
「だからなんですか!?あなたに何が…」
「キミが苦しんでいる!!それがわかれば十分だ!!…だから、キミを助けたい!!それだけだ!!…キミが自分のしたことを悔いているのなら…みんなに謝ればいい!!簡単なことだろう!?」
「無理ですよ!!私一人が謝ったところで…みんな許してくれませんよ!!」
「なら私も一緒に謝ってやる!!!キミ一人に重荷を背負わせるものか!!」
橘 巴は諦めない。苦しんでいる自分の絆双刃を救うために
「…どうして?どうして私なんかのために…」
「そんなの…決まっているだろう…私は…キミの絆双刃なのだから」
そう言いながら橘は梓の方へとまっすぐ歩き出した。
その目はまっすぐと梓の目を見ていた。そして、一切の迷いがなかった。梓が気付いた時には、橘は梓の目の前に立っていた。
「先に謝っておくぞ梓」
橘はそう言うと梓の目をしっかりと見つめた。
「私は不器用でな…友の目を覚ませる方法を『これ』しか知らない」
そう言うと自身の右手を平手にして振り上げ、そして
「歯を…食い縛れ!!!」
パァンッ!!
それは《焔牙》でも橘流でも無い…唯の平手打ちであった。しかし、確かに梓の頬に打たれ、梓は倒れた。
「はは…何ですかこれ…唯の平手打ちじゃないですか…唯の平手打ちなのに…なんでこんなに痛いんですか…」
梓の目から涙がポロポロこぼれていった。橘は梓に近づきそして、優しく抱きしめた。
「梓…すまなかった。キミが一人で苦しんでいたのに気づけなかった。だけど…やっぱり君を助けたい…助けさせてくれ」
その言葉に梓は我慢の限界であった。涙がさらに流れてきた。
「…なさい…巴さん…ごめんなさい…う、うわぁぁぁぁ!!」
橘は泣き噦る梓を優しく抱きしめた。
〜某所〜
ここに、七人の影が集まっていた。その中には以前《生存闘争》の際に乱入してきた雲雀 恭弥もいた。
「10代目〜準備出来ました。何時でも出れます」
「うん、ありがとう獄寺くん」
「いえいえ、にしても天峰のやつ…勝手に揉め事持ってきやがって…」
「ははっ、あいつらしくてイイじゃねーか」
「極限に燃えてきたぞ!!」
「ランボさんも暴れちゃうもんね!!」
「ボス…そろそろ行かないと…」
「…………」
彼は一見どこにでもいる少年少女だ…だか彼らを侮れなしない…そして彼らは、仲間のために戦い、仲間を決して見捨てない。
「よし…行こう!!」