やがて日が傾き始めた頃、最初に予定したアトラクションは一つを除いて乗り終えた。
時間も時間のため、残る一つ___リーリスの希望するアトラクション『魔王城(ダークキャッスル)奪還』で今日は最後にすることに。
「よし、これで良いか」
と呟いた俺の手には狼の顔のフードのついた身軽そうな鎧がある。
なぜそんな衣装があるのかと言うとこの魔王城奪還はコスプレをして参加をすることが可能なアトラクションだからだ。俺は男性更衣室に置かれた衣装から獣戦士と書かれたものを選択した。
「準備できたか悠斗?」
透流は肩当てのついたマントと黒い衣装、さらには頭に角をつけた魔王のコスプレだった。
「あぁ、今着替えるよ」
そう言って俺は服を着替えだした。
(さて、みんなはどんな感じにしたのかな?)
女性陣のことを考えつつ、待ち合わせ場所へ。そのまま数分待ったところで、女子更衣室からみんなが姿を見せる。
「えへへ、なんだかこういうのって恥ずかしいね」
先頭はみやびで、頭に犬(狼?)の耳飾りをつけ、胸元と腰、そして両手両足がふさふさの毛皮で尻尾がついているとなると、人狼といったところだろうか。
「悠斗くんも狼にしたんだ、お揃いだね♪」
少し恥ずかしそうにみやびが微笑んだ
(……やべぇ、めっちゃ可愛い)
あらためて自分の恋人の可愛さに悶えた。
「トール♪」
次に出てきたユリエは両腕が翼、下半身が鳥、胸元は水着で覆った格好だ。おそらくハーピーだろう、鳥ということで選んだらしく上機嫌だった。
その後ろからは胸元を水着で、しかも下半身は馬の姿___半人半馬(ケンタウロス)の月見に、額に角があり手には金棒でビキニアーマーを纏った____鬼(オーガ)と思われる梓、その後ろには、黒色の鎧を纏った橘がいた。長い黒髪と相まって、頭のてっぺんからつま先までほとんど黒一色だった。
「……それって、何のコスプレなんだ?」
「魔王直属の暗黒騎士、らしい。他の衣装はひらひらしたものか、妙に露出が高いものばかりでな……」
女子は全員違うコスプレにしたらしく、選んだ衣装から橘の苦悩が窺えた。
「あとはリーリスだけだな……」
「とーおーるっ、おっ待たせー♪」
「ぶ___っ⁉︎」
最後に出てきたリーリスの姿はどう見ても下着としか思えない衣装だった。頭の角と背中の羽、そして尻尾がかろうじてこれはコスプレだとアピールをしている。
「どう、透流?」
「どうって、言われても……」
リーリスから顔をそらして返す透流。
「ちょっと透流。感想はきちんと見て言うものよ」
そうは言われても目のやり場に透流は困っていた。
「…大変だな透流」
ちなみに俺はみやび一筋なのでかけらも動じなかった。
「さ、さてと、それじゃあ出発しようか」
みんなが注視する中、透流は何も返さずに歩き出した。尚、進行役の女性スタッフがリーリスの姿を見て一瞬ぎょっとしたが、すぐに笑顔に戻っていた。……プロってすげぇな。
勇者に追い出された魔王は、自分の城を取り戻すために部下とともに闘いに赴く___といったストーリーで始まったアトラクションは、様々な謎を解きながら奥へ、そして階上へと進んで行く。
しかし、その途中で事件が起こった。
「もう直ぐ勇者がいるステージよ」
「ていうかなんで勇者待ち構えてるんでしょうね?」
いよいよラスボス戦が近いことに興奮するリーリスと何気ない事を気にする梓たちが歩いていると、
ゴゴゴゴゴ…
突然何か音が聞こえたかと思うと
ウィィィィィィン
「え…うわぁっ!?」
「なんだ!?」
「これは……」
突然足元の床が動きだし、ルームランナーとように後ろへと猛スピードで動きだした。
「おいおいおいおいこれってどこかで……っ」
先ほどのティーカップの高速回転といい今回のこれといい俺は今回のようなことをどこかで体験したことがあった。
「ふむ……この速さなら余裕で熟すか……」
モニター越しに悠斗たちを見つめる小さな影は再びキーボードを打ち込み床の速度をあげていった。
「これで全身の基本的な解析と運動能力は分析できるな……あとはやはり《超えし者》たちの戦闘能力を調べなくては…」
小さな影はそういうと新たに画面に入力した。
「さて……やはりここからはモニター越しよりも実際に見た方が面白そうだ」
「はぁ…はぁ…どうなったんだこれは…?」
「おかしいわね…私こんなの…知らないわよ…」
突然動きだした床によって一同フラフラになった。
「うん…やっぱりこれ知ってるぞ…」
「悠斗くん?」
間違いない…もしそうなら…
「みんな気をつけろ…奴はおそらくこの先で待ち構えている…」
「よくぞ来た魔王たちよ!!さぁこの勇者が貴様らを葬り去ってくれよう!!」
いよいよ最上階に着くと、そこには派手な鎧と剣を纏った勇者と思われる人が立っていた。
「悠斗…あいつ?」
「いや違う」
「あれはこのアトラクションの人よ」
予想と違う人に俺はため息を吐いた。しかし、間違いなく奴はここにいる…そして…そろそろ出てくるはずだ。
「さぁ魔王よ!!わが聖剣の錆にして…」
ドッシーン!!
突如巨大なロボットが天井から現れた。
「あ………あれ?なんか台本と…」
あまりのことに勇者役の人は唖然とし
「当て身っ!!」
トンッ
「きゅう…」
俺はとっさに眠らせた。
「みやび、この人を離れたところに…」
「あ、うん」
俺の指示に従いみやびは勇者役の人を安全な場所に寝かせておいた。
「さてと…やっぱりテメーか…姿を見せやがれ!!」
「ふむ…やっぱり貴様はすぐにわかったか」
声とともにロボットの腹部が開き中から白衣を着てメガネをつけた赤ん坊が出て来た。
「ヴェルデ…なんの真似だこれは…」
ヴェルデ…リボーンと同じ《最強の赤ん坊》の1人にしてダヴィンチの再来とまで言われた天才発明家である。研究のためならあらゆることを企み、悠斗たちボンゴレも過去に何度もその被害に遭っている。
「当然研究の為だよ。この前の闘いをこっそり見させてもらったが君たち《超えし者》に興味が湧いてね…色々と調べさせてもらったよ…」
「ちょ…ちょっと待ってください!!色々って…スリーサイズとかも!?」
なぜか梓が変なとこに食いついた
「あぁ、そういやそれも一応調べたな」
「最っっ底っっ!!どうせそのデータ見てニヤニヤしたりすんでしょ!?主に巴さんやリーリスさんやみやびさんとか見て!!」
なぜか梓がブチ切れていた。
「くだらん…胸などただの脂肪の塊に過ぎん、全く興味は無い」
「みなさん、この人いい人かもしれません」
梓がなぜかすぐに手のひらを変えた。
「さて…あとは君たちの戦闘データだ、私自らが直に調べさせてもらうとするか!!あと、このフロアのカメラはハッキングしているから君たちの《焔牙》が見られることはないぞっ!!」
突然ヴェルデが乗るロボットが迫って来た。
「みんな、やるしかねえぞ…」
「あぁ…《焔牙》っ!!」
俺たちも《焔牙》でヴェルデを迎え撃った、
「オラァッ!!」
俺はロボットに《長槍》を叩きつけようとした。
「無駄だ」
しかし、ヴェルデが操作するとロボットは突如手から網を出してきた。
「うおっと!!」
俺はとっさに躱すと今度は透流がロボットのボディに打撃を与え、さらにユリエ、リーリス、橘、月見、梓が追撃した。
「ぬぅっ!?」
その衝撃は流石に効いたのかロボットはぐらついた。
「やるなぁ…ならこれはどうだ!!」
すると、ロボットの胸が開きミサイルが一斉に放たれた。
「牙を断て___《絶刃圏(イージスディザイアー)》‼︎」
しかし、透流はすぐさま障壁を張りガードした。
「《焔牙》の真の力とやらか…素晴らしい…ますます調べたいな!!」
ヴェルデは再びキーボードを打ち込み攻撃をしようとしたが、
「なんだ…?動かない…っこれは…!!」
よく見ると、ロボットの全身が氷漬けになっていた。
「天に吼えろ____《覇天狼(ウールヴヘジン)》…」
悠斗は額から炎を出しヴェルデを睨みつけた。
「こっちはよぉ…この前から色々遭って疲れたんだよ…今日だってみやびと平和に過ごしたかったんだよ…それをよぉ…」
「な…き…貴様…」
ヴェルデは突然の悠斗の変貌に戸惑いを隠せなかった。
「とっとと失せろゴラァァァァ!!」
悠斗の渾身の一撃でロボットは粉々に砕け散った。
「くそっ…ヴェルデの奴逃げやがったか…」
俺は少し怒りが治まったがヴェルデは壊れたロボットの中にはいなかった。
あの後、壊れた場所をなんとか直し眠らせた勇者役の人を起こしてうまくごまかした後、記念撮影をすることとなったのだが…
「ちょっとユリエ、透流から離れなさいよ」
「ナイ、トールは私の絆双刃です」
透流の右肘にリーリス、左肘にユリエがくっついていた。
そして、
「み…みやび…どうした…」
「わ…わたしも悠斗くんにくっつきたいなって…!」
俺の左肘にはもふもふした毛皮の下でボリュームを主張するみやびの胸が。
「くはっ。おめーは参加しなくていいのか、委員長?」
「ど、どうして私が……⁉︎」
「さっき、いい声で鳴かされてたじゃねーか」
「___っっっ⁉︎ああ、あれは……‼︎」
「はーい、撮りますねー」
心なしか怒りを感じる声音(笑顔のまま)で、シャッターを切るスタッフ。
すみませんと心から思った一幕だった……。
「みやび、着いたぞ」
「……ん…………」
すっかり夜の帳が下りたDNL(デスニューランド)の帰り___学園前にモノレールが到着したところで、さっきまで元気よくはしゃいでいた、みやびの肩を揺する。
だが、みやびは一瞬目を開けるも、すぐにうとうととし始めてしまった。
(今日は俺も疲れたし、みやびが疲れて寝ちゃっても仕方ないよな……)
遊び疲れて眠っている少女をおぶる。
(軽いなぁ……。でも、背中にマズイものが当たってる……)
すやすやと寝息を立てる姿は、何とも愛おしかった。
「やれやれ…まさか天峰 悠斗がここまで強くなっていたなんてな…」
ヴェルデは脱出ポッドから抜け出し手に握ってたUSBメモリを白衣にしまった。
「ふふふ…ますます興味が湧いたぞ…また必ず調べつくしてやる…」
ヴェルデは全く懲りてなかった。