アブソリュート・デュオ〜天狼〜   作:クロバット一世

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35話 魂の契約

「やっぱり、涼しいなぁ……」

 

夜。俺は夕涼みでもしようかと夜道を歩いていた。

 

「……ん、あれはもしかして……」

 

瞬時に木の陰に隠れ、こっそり前方を覗くと、透流とユリエがどこかへ向かうようだった。

 

「あの方向は……昼にいた屋外格技場か……?」

 

これは何かあるなと思い、こっそり後を追いかける。向かった先は予想通り屋外格技場だった。入り口から中へ入っていく透流たちの後に続き中へ入る。通路を抜けて格技場内が見渡せる観客席の近くにある柱に隠れ、中央部を見下ろすと、透流とユリエの他に月見がいた。

 

「なんでこんなところにーーー」

 

なぜだ、と考えていると、闘技場の奥の闇の中から漆黒の衣装を身に纏った少女と、その護衛であり、学園全教師を束ねる男性教員。

 

(なるほど、おそらく……)

 

「ーーー如何にも。璃兎は最初からドーン機関の者であり、他の組織へ所属など一時たりともしていません」

 

その言葉を聞き、俺はその話の重要性に気づいた。

 

(ある程度予測していたが…やっぱりか…朔夜ならやりかねんな)

 

あの時は《正義を掲げる国》と言ったがどちらかというとこっちの方が近いと思っていた。

 

「…では、まずどうして《新刃戦》で俺たちを狙わせたんですか」

 

いくら昊陵学園が《超えし者》なる常識外の存在を育成する異質な箱庭であろうとも、理事長自らが生徒の命を狙うよう指示するなど、理解の範疇をあまりにも超えている。

 

「《魂》とは、強き意志によってのみ鍛えられるものである_私はそう考えていますの。」

 

貴賓席の前から透流たちを見下ろしたままに朔夜は語り出した。

 

「強き意志____それは生きようとする意志に他なりません。その意志が最も強く発せられるのは、いったいどのようなときであると貴方は考えます?」

 

生きたいと最も望むとき___それは、正反対の存在を強く感じた時に他ならないだろう。

 

「なるほど、死の窮地に立たせることで《魂》は輝きを強くますって訳だ」

 

そして朔夜ならこういうだろう「死するのであれば、その程度だった」と

 

「……どうして俺たちを?」

 

透流は朔夜への怒りを堪えつつ、尋ねる。

 

「より正確に言わせて頂くと、《新刃戦》の時点で確固たる意志を持って強さを求めていた人物____貴方と橘 巴の二人へと、あの試練を与える予定でしたのよ。残念ながら橘 巴は試練の前に貴方に敗退し、貴方への試練も天峰 悠斗が介入したことで流れてしまいましたけど」

 

「…ユリエと悠斗は違うのか?」

 

透流は朔夜に質問する。

 

「ユリエ=シグトゥーナと天峰 悠斗は《超えし者》ではありませんもの。」

 

「っ!?悠斗も《醒なる者(エル・アウェイク)》なのか!?」

 

(あいつバラしやがった…まぁいずれバレるとは思っていたけど)

 

しかし、まさかユリエが俺と同じ《醒なる者》だったとは思わなかった。さらに朔夜は前に俺に話したように《醒なる者》をさほど重視していないと語った。

 

「最も、天峰 悠斗は《死ぬ気の炎》と《焔牙》の可能性を教えてくれる面では興味を抱いていましたけど」

 

笑みを浮かべながら朔夜は言葉を続けた。

 

「他に、同じことはしていないんですか?」

 

「私が動いたのは《新刃戦》の唯一度だけですわ。その後は放っておいても此方に関わってきた方々は居られましたので」

 

それ以上は口にされずともわかる。

《K》や幻騎士たち《神滅部隊(リベールス)》のことに違いない、と。

 

 

「《神滅部隊(リベールス)》は此方の期待以上によく働いて下さいましたわ。さすがに私も《装鋼の技師(エクイプメント・スミス)》様と最初にお会いした段階では、これほど早く《IV(レベル4)》へ到達する者が出てくるとは思いませんでしたもの」

 

透流を見つめたままに、黒衣の少女が悪魔を思わせるように妖しく笑う。だが、そんな理事長とは対照的に、透流は激しい怒りを覚えていた。

 

「期待以上、だと……?」

 

激昂し、怒りを言葉に代えて荒々しく叩きつける。

 

「ふざけるな‼︎あいつらのせいで多くの人が死んだんだぞ⁉︎それなのになぜ笑う‼︎命を落としたのはあんたが育て上げてきたはずの《超えし者(イクシード)》だろうが‼︎」

 

臨海学校のときも多くの《護陵衛士(エトナルク)》が命を落とした。この間の《神滅部隊》襲撃の時は、ボンゴレファミリーが援護に来たことで死者は出なかったが多くの負傷者が出た。

 

だがーーー。

 

「……死するのであればその程度だと、先ほども申し上げたはずですわ」

 

「どうして…….どうしてそんな風に言えるんだ……。《超えし者(イクシード)》を高みに至らせるってのは、あんたにとって人の命以上に大切なことなのかよ⁉︎」

 

「当然ですわ。今までの学友との楽しき生活も、厳しく苦しい訓練も、命を懸けた闘いも、貴方達が経験するすべてはたった一つの目的へ至るためのもの……。そうーーー」

 

夜空を見上げ、まるで星でも掴もうとするかのように手を伸ばしながら告げる。

 

「《絶対双刃(アブソリュート・デュオ)》へと」

 

「……その《絶対双刃(アブソリュート・デュオ)》ってのは、いったい何なんだ?」

 

透流が問い掛けると、理事長はゆっくりと振り返る。

 

「《魂》の《力》を極めた先に在る、終ついの領域ーーーとだけ」

 

「……俺たちは、そこへ至るために集められたってことなのか?」

 

理事長は口角を上げることで、答えを無言で語る。

 

「《焔牙(ブレイズ)》……」

 

「ーーーっ‼︎」

 

その一瞬のことに理事長を除く全員が息を呑む。

 

「構いませんわ、三國」

 

庇おうと前に立った三國を制して下がらせる。

 

 

 

「トール……」

 

「大丈夫だ、ユリエ。闘おうってわけじゃない。……悪魔との取引には《魂》が必要だって聞いたことがあるからな」

 

「何をしようというのですか?」

 

視線の先に立つ黒衣の少女ーーー九十九 朔夜は、闇と半ば同化した漆黒の衣装を纏い、まるで悪魔を思わせる。

 

「理事長。……いや、《操焔の魔女(ブレイズ・デアボリカ)》ーーー九十九 朔夜」

 

透流は深く息を吸い、はっきりと告げる。

 

「俺とーーー契約をしてくれ」

 

「……どのような契約をお望みですの?」

 

「あんたの試練とやらは、すべて俺が引き受ける!だから覚悟の出来ていないやつに、試練を課すのはやめろ‼︎」

 

「……その言葉がどういった意味を持つのかーーーわかっていて口にしていますのよね、九重 透流」

 

「当然だ」

 

「貴方が命を落とせば、契約は御破算としますわよ?」

 

「俺はーーー絶対に死なないと誓った。生きてみんなを守り抜くとも……‼︎」

 

「無論、此方が見込み無しと判断を下したときは破談とさせて頂きますわよ」

 

「構わない。そんな判断はさせないからな」

 

「では……貴方が至ってくれると言うのですねーーー《絶対刃双(アブソリュート・デュオ)》へと」

 

「誓おう、この《楯(たて)》に!」

 

具現化した《魂》を胸前にかざす。

 

「俺が至ってみせるーーー《絶対双刃アブソリュート・デュオ》へと……!」

 

「…なら俺も力を貸す」

 

俺がいきなり話し掛けたのに驚いたようだった。

 

「悠斗、どうしてここに⁉︎」

 

「悪い透流、偶然お前らが闘技場の方へ行くのを見かけたから後を付けさせてもらった」

 

俺はそう言って柱から姿を現す。

 

「俺やユリエが至ってもこいつの計画は終わりそうもない…かといってこいつを倒して無理やり計画を止めるってのは俺たちボンゴレの流儀に反する…なら俺のやり方は1つだ、誰も死なないように俺がサポートする。いいよな朔夜?」

 

「どうぞご自由に。くす、くすくす…」

 

 

 

 

 

 

契約は締結された。

これでみんなには、そして御陵衛士であろうと透流と朔夜

の契約が生きている以上は試練が課されることはない

 

「悠斗、ユリエ…巻き込んで悪かった。ああする以外、俺には何も思い浮かばなくて……」

 

「気にすんな、俺たち仲間だろ?」

 

「私もトールと同じ思いだと、先ほどあったはずです」

 

「そうか……ごめ____いや、ありがとう二人とも」

 

「おう」

 

「ヤー」

 

俺たちはコクリと大きくうなづいた。

 

 

 

「それにしてもユウト、貴方も《醒なる者》だったのですね」

 

ユリエが俺に問い出した。

 

「ああ、まぁな」

 

「最初に力に目覚めたのは?」

 

「一年前…いや、俺が5歳の頃だな」

 

最初は朔夜に出会い彼女を守る際に目覚めたのが最初だと思ったが、俺は少年時代のある日のことを思い出した。

 

 

 

 

 

「俺が5歳だった時、俺は山の中で迷子になってな…どこに行けば良いのかもわからずあたりを彷徨ってたんだ」

 

あの時は父からようやく槍の練習を教わっていた頃でまだひ弱だった。

 

「そうしたら母さんが見つけてくれたんだけど…途中でオオカミの群れに遭遇しちゃって…追いかけられたんだ」

逃げても逃げても追いかけてくるオオカミ、とうとう俺と母さんは追い詰められてしまった。

 

「このままじゃ殺される、母さんが死んじゃう、こいつらを倒せたら…そう強く思った……気づいたら俺はベットで寝ていた…目が覚めて一瞬頭に焼きついた景色が映った…血を流して倒れているオオカミの群れ…俺の手にある《長槍》…」

 

その時は夢を見ていたんだと思ったけどその後、母さんは俺におまじないをした。

 

『いい悠斗?貴方の力は本当に大切な時に使いなさい。貴方が大切な人を、仲間を見つけて誰かを守ると決めた時、貴方の《魂》は応えてくれるわ』

 

そう言って母さんは俺の胸に何かをした。

 

「思えばあれが俺の《焔牙》を今まで封じていた枷だったんだと思う」

 

「…そんなことが」

 

「ユウト…」

 

俺は二人に自分の過去を伝え終えた。

 

「透流、俺はこの《長槍》をボンゴレで…そしてこの学園で知り合った仲間のために使う、だから一人で背負いこむな」

 

「悠斗…ありがとう…」

 

俺は自身の覚悟を伝え、透流は礼を言った。

 

 

 

 

 

 

「くす、くすくすくす……」

 

密会が終わりを告げ、悠斗たちが去って行く様を見つめながらに九十九 朔夜は笑う。ほぼ、彼女の思惑どおりにーーーそれも上の上と言っていい形で事が進んだためだ。

朔夜が黙ったまま思考を続けていると、隣で月見 璃兎は大げさにあくびをした。

 

「さーて、と……。だいたいアンタの予定通りの結果になったことだし、アタシはねみーからとっとと戻って寝ることにすんぜ」

 

再びあくびを漏らすと、手をひらひらと振りながら去っていった。

 

「……随分と機嫌が悪いようですね」

 

月見の遠ざかっていく姿に、三國が呟くように言う。

 

「仕方ありませんわ。璃兎のお気に入りである彼らが、私の掌の上で踊らされていることが、気に入らないのでしょう。ですがーーーそれもいい傾向ですわ」

 

悠斗たちはあずかり知らぬことだが、璃兎は変わった。

 

「本当に興味深いですわ、九重 透流に天峰 悠斗。九重 透流は《醒なる者》と《絆》を結び、《特別》の《魂》を震わせ、天峰 悠斗は素質の片鱗すら感じさせなかった者の瞳に輝きを宿らせた____何より…」

 

朔夜の脳裏にユリエが、リーリスが、みやびが浮かび、最後に再び璃兎を思う。

 

「あの璃兎までもが彼らと関わることで変わりつつある…とても面白いですわね。くす、くすくすくす…」

 

月夜に、《魔女(デアボリカ)》は笑い声を小さく響かせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからしばらくした八月最後の休日、九重 透流は戦闘によって敗北、重傷を負った

 

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