今後はこの様なことがない様にいたします。
「痛てて…まだ完全には塞がってねえか…」
鳴皇 榊(なるかみ さかき)に敗北した俺はその後透流と同じ病院に運ばれた。その後は医者の的確な処置のお陰で確実に癒えてきた。
ただ1つ問題があるとすれば…
「悠斗くん…駄目だよ無茶ばっかりしちゃ…」
みやびを心配させてしまったことであった。
しかし、俺が怪我を負った経緯は正しく教えていない。
みやびや他のメンバーには先の土曜の外出先からそのまま御陵衛士(エトナルク)の任務に合流した透流たちの応援に向かい、そこで負傷したと言うことにしていた。
流石に私闘で敗北して重傷を負ったとは言うわけにはいかないらしい。このことを知ってるのは朔夜と三國、月見、ユリエとあとはボンゴレの仲間である。
「悪かったみやび、それで透流は?」
「うん、さっき目が覚めたって。今ユリエちゃんが看病している」
透流はかなり重傷だったが無事だそうなのでよかった。
榊に敗れた日から六日が過ぎた。
俺と透流は今日退院することになった。
「大丈夫か透流」
「あぁ、まあな」
透流の左手は榊との戦闘で斬られた為ギブスをはめているが来週には外せるらしい。その後はリハビリをこなすことで、左手は以前と同様に動くとのことだ。
「さあ、戻ろうぜ」
「おう」
「ヤー」
俺たちが病院を出たところで____黒衣の少女九十九 朔夜が護衛を連れて立っていた。
「…こんにちは、理事長」
逡巡し、平静を装って挨拶すると、透流とユリエは無言のまま頭を下げる。
黒衣の少女はそんな俺たちを見て、口角を僅かにあげた。
「御機嫌よう、九重 透流。怪我の具合はよろしくて?」
「……リハビリさえ済めば、以前と変わらず動かせるとのことです」
「そう、それは良き知らせですわ」
くすくすと笑うと、少女は次の句へと続ける。
「けれど今後は浅はかな行動を控えて頂きたく思いますわ。私と《魔女(デアボリカ)》と契約した以上、貴方には《魂》の《力》を極めた先に在る、《終の領域》へ辿り着いて頂かねばならないのですからね」
「……ええ、わかっていますよ」
浅はかという部分に不快感を抱きながらも、透流はぐっと堪えて頷いた。
「ところで、1つお訊きしたいことがありましたの」
「なんですか?」
「貴方たちは敗れた____相違ないですね?」
「……まぁな」
「それがどうしたんですか?」
俺が頷き、透流は警戒しつつ尋ねた。
「そのような表情をせずとも結構ですわ。私、貴方たちが敗れた相手に興味などありませんもの。それに先ほどのは確認____質問はこれからですのよ」
一拍置き、《魔女》は今度こそ質問を俺たちに投げかける。
「闘う意志はいまだお有りですの?」
「どういう意味ですか?」
「契約は続いていると思っていいのかと訊いていますの。私が求めているのは、無様であろうと生き残ろうとする覚悟を持ったもの____無論それは、己の前にそびえ立つ壁へと立ち向かおうという意志を持ち続けていることが条件であり、苦難に遭って背を向けるような輩ではお話になりませんわ」
なるほどここで心が折れるような敗者であれば要らないというわけか____
くすりと僅かに笑いを挟み、《魔女》は改めて俺たちの意志を確認する。
「今一度、問いますわ。貴方たちに闘う意志はお有りですの?」
「……俺の意志に変わりはないです」
「俺もこんなところで終わるつもりはない」
「ならば、今回は不問としますわ」
その言葉を最後に、朔夜の質問は終了となる。
俺たちが退院してから一週間が過ぎた。
俺も腹部の刺し傷も傷痕こそ出来たが完治し、後遺症も無い。現在俺は____
「はぁ……はぁ……」
人気の無い林で《覇天狼》を発動して《長槍》の素振りをしていた。
「このままじゃ……駄目だ……」
自惚れていた____
《焔牙》を手にし、秘められた力も開放して強くなっているという確信もあった。
しかし、鳴皇 榊という遥かに格上の存在を知り、自分はほとんど相手にならなかった。自分が井の中の蛙だったと痛感した。
「《焔牙》を……《魂》の力を……もっと使いこなせるようにならないと」
これから先、格上の相手と対峙する日が必ず来る____。その時に、大切な仲間たちを守れるようにならないといけない。
「くそっ……」
俺は再び素振りを続けた。
「悠斗くん……?」
すると、草陰からみやびが現れた。
「みやび……どうしたんだ?」
「えっと……悠斗くんが特訓しに行ったって聞いて……もし良かったら一緒に走りに行こうかなって思ったんだけど……」
すこし恥ずかしそうに呟くみやびを見て少し俺も表情が和らいだような気がした。
「……そうだな、一緒に走るか」
「う、うん!!」
みやびは俺の言葉に表情が明るくなり嬉しそうにした。
こうしてランニングを始めた俺たちは海沿いの道を走っていた。
「ところで、最初の頃に比べて随分とペースが速くなったよな」
四月からずっと走り続けているみやびはこの五ヶ月でかなり体力がついた。
瞬発力では劣るものの、持久力という点では《Ⅱ(レベル2)》へ昇華した女子の中で二番目に位置する程に。
「ふふっ、悠斗くんが私を鍛えてくれたおかげだね」
「そんなことねえよ。みやびが頑張ってきたからこそ今があるんだって」
入学して間もない頃を振り返っていうみやびに、俺は彼女自身が努力してきたことだと伝える。
「そんなことないは、わたしの言葉だよ。悠斗くんがわたしに教えてくれたから____才能なんて無くても変われるってことを教えたくれたことが、今日までわたしを……ううん、これからも支えてくれるって思ってるの」
「みやび……」
俺がまさか、こんな風に言ってもらえるほどに彼女の支えになっていたのかと思うと嬉しくもあり、どこか気恥ずかしい気持ちになった。
そんな俺をよそに、みやびは言葉を続ける。
「わたし、ね。昊陵(こうりょう)学園に入学して本当によかったなぁって思うんだ。こんなわたしでも変わることができるんだって知ることが出来たから……。それと____」
みやびは少し俯き気味になって言葉を切り、僅かに間を置いて次の句を告げるも____
「…い…きな悠……んに出会え……………なぁって」
かつての離島での告白とは真逆に、言葉は強い海風の音で途切れ途切れになってしまう。
「えーっと……」
「悠斗くん?」
残念ながら俺の頭では、話の流れからみやびが口にしそうなことが思い浮かばない。
だから申し訳ないと思いつつも、俺は聞き返すことにした。
「悪い、波の音でよく聞こえなかったから、もう一度言ってくれないか」
「………………えっ?も、もう一度?」
目を丸くして訊くみやびに、俺は頷いて返す。
するとみやびは「うう……」と呟くと、またしても頷き気味に。
「だ……だから、その……」
なぜかみやびは、言葉に詰まる。
直前に口にしたことなのに、どうかしたんだろうか。
「だ……」
(だ?)
続く言葉はなんだろうと思っていると____
「大好きな悠斗くんに出会えてよかったなぁって……」
はにかみながらか改めて告げられ、俺は頰を紅潮させてしまった。
「に、二度も恥ずかしいことを言わせるなんて、悠斗くんって結構意地悪かも……」
「ご……ごめん……いやだって普通に言ってた様だったから……まさかそんな俺内容だなんて思いもしなくて……」
困った様になったな表情での評に俺は狼狽するも、みやびはすぐ明るい笑みを浮かべる。
「ふふっ冗談だよ。悠斗くんはすごく優しい人だってわかってるから。……だから好きになったんだもん」
少し照れくさそうにに言う最後の一言に、俺は思わずみやびを抱きしめた。
「ゆ、悠斗くん!?/////」
突然のことにみやびは顔を紅潮させて慌てた。
「悪い…みやび…少しの間でいい…こうさせてくれ」
俺の言葉にみやびは恥ずかしそうにしながらも小さく頷き俺の背中に手を回した。
(…必ず守る……大切な君を……死ぬ気で守ってみせる…)
それからしばらくして____月見に俺は呼び出された。
俺は息を呑む。《魔女(デアボリカ)》の試練が行われるのだと、悟ったからだ。
次回、新章突入!!
感想お待ちしています。