38話 試練
翌朝早く、俺は指定された時間に理事長室へと足を運んでいた。扉をノックすると、三國が中から開けてくれる。室内に月見の姿はなく、俺と理事長と三國、それから透流とユリエの五人だけだった。
「それでは本題に入りましょう」
「試練か」
「ええ、璃兎のような《高位階(ハイレベル)》の《超えし者イクシード》と手合わせをーーーという考えはしたのですけれど、それでは芸がないと言うもの……。ですので貴方たちには、特殊任務に赴いてもらうことにしましたの」
「研修みたいなものか?」
「違いますわ。今回はあるホテルの内偵を行って頂こうと思っていますのよ。……とはいえ、この話は役者が揃ってからとしましょう」
(役者が揃う?どういう意味だ?)
すると扉がノックされ、二人の女子が入って来た。
「はぁ……。日曜だっていうのに呼び出さないでよね、朔夜……」
早朝のため、酷くだるそうなリーリス、そしてーーー
「失礼します。……おや、キミたちも呼ばれていたのか」
俺たちの姿に、僅かに驚きを見せたのは橘だった。
「どうして橘が……?」
理事長の目的や裏の顔を知っているリーリスならわかる。だが、橘はこの試練には無関係なはずだ。
「どうしてと言われても、キミたちと同じく特殊任務ということで呼ばれたのだが?」
「なに……?」
約束が違うーーー理事長へそのことを言おうとしたがーーー
「ご心配するのも無理はありませんわ、お二人とも。先ほどお伝えしたとおり、此度の任務は危険を伴う可能性が高くありますからね。ですがーーーと、二人が来たのですから、申し訳ありませんけれど最初からお話をさせて頂きますわ」
平然と嘘を口にし、任務について語り始める。
「九重 透流、以下四名に命じます。貴方達には近いうちに、特殊任務に赴いて貰いますわ。任務の内容はーーー内偵調査と陽動になります」
「内偵調査に陽動ね。どういった任務なのかしら?ついでに、プロである護陵衛士を差し置いてこのメンバーが選ばれた理由も、教えて貰えると嬉しいんだけど」
リーリスは言外で、橘が招集された理由を理事長に問う。
「内定先は、山梨県のとあるホテルとなりますわ。そちらはある非合法組織が背景にあり、近いうちに催し物を行うとの情報が入って来ましたの。その名はーーー《狂売会(オークション)》」
《狂売会(オークション)》ーーー
それは《666(ザ・ビースト)》と呼ばれる秘密結社による、競売会とのことだった。
俺もボンゴレとして奴らの資料を少し見たことがあった。
背景が背景だけに売り出される品は特殊な物で、闇社会に流れた品々が集まる。
そして俺たちの任務は違法取引の証拠を発見すること。発見したら、近隣に配した護陵衛士(エトナルク)が突入、及び制圧を行うために騒ぎを起こすというものだった。ホテルに入った後は自分たちで判断して動かなければならず、なかなかに難度の高い任務だと聞いているだけで思う。
「ドーン機関にこの話が来たのは、《666》がただの犯罪組織ではないことに理由がありますの。それはーーー彼らの中には、人非ざる者が存在するからですのよ」
「人非ざる者だと⁉︎一体どんな……」
「《獣(ゾア)》ーーー彼らは自らをそう称しているそうです。獣の力を身に秘めた人に非ざる者であると、彼らと対峙した護陵衛士が報告を上げてきています」
(獣の力ねぇ…黒曜の犬や真六弔花みたいなもんか)
三國の補足に、俺は敵の特徴を思い描きリーリスが肩を竦める。
「つまり、化け物と闘り合う可能性があるってことね」
「だからこそ、《超えし者(イクシード)》に話が回ってきたってことか。だけどーーー」
「護陵衛士ではなく、学生の貴方達に赴いて貰う理由は、一言で言えば顔が知られているか否か、ということですの」
ドーン機関ーーー及び護陵衛士はこれまでに幾度か、《666》と相対しているそうだ。そのため、向こうが衛士の情報を得ていると推測すると、非正規である学生の俺たちに白羽の矢が立ったということらしい。
「経験不足の学生とはいえ、《IV(レベル4)》の貴方達ならば信を置けると思っての選出ですの」
「……橘は、それにリーリスもまだ《III(レベル3)》だろ。そんな化け物と闘うことになるかもしれない任務に参加させるのはーーー」
「護陵衛士の資格は、この学園の卒業ーーーつまり、《III》以上の者ということですわよ」
「っ……‼︎」
痛いところを突かれ、透流は言葉を失う。
だが、今回の任務は《魔女(デアボリカ)》の試練でもある。そこに覚悟の無いものを____橘を巻き込もうとしているのは、契約違反以外のなにものでもない。
「けど朔夜____」
俺も透流の考えに同意し朔夜にそのことを告げようとした時、朔夜は特に感情を浮かべることなく言葉を続けた。
「それに先ほど私自身が言ったように、貴方達は学生です。故に、無理をする必要はありませんし、強要するつもりもあひませんわ。任務は主に《IV(レベル4)》である九重 透流が行い、他の二人にはサポートに入って頂くつもりですのよ」
橘を巻き込みはしない、と理事長は言っている。透流一人で任務を遂行出来るのならば、という前提条件を付けて。
「…?朔夜、《Ⅳ》っていったら俺やユリエだってそうだけど…」
透流がメインという言葉に俺は少し疑問を抱いた。
「残念ながら貴方たちはその容姿からして、内偵には向いていませんの。特に天峰 悠斗に至ってはボンゴレファミリーとして彼らが素性を知っていてもおかしくありませんからね。ですから此度の任務では貴方たちにはリーリス=ブリストルと行動を共にしていただきますわ」
「あたしたちが……?」
「貴方はドーン機関の《三頭目(ケルベロス)》が一つ、ブリストル家の娘。それほどの人物であれば、《666(ザ・ビースト)》が存在を知らぬはずがありませんわ。その点を最大限に利用し、貴女には衆目を引きつける役をお願いしたく思いますの」
「とすると俺たちはリーリスの護衛役ってわけだな」
確かに、現在俺たちボンゴレファミリーとドーン機関は同盟関係を結んでいるといっても過言ではない。リーリスの関係者として入り込むことは下手に侵入するより良いだろう。
「……確かにそうだとしたら、人目を引かないはずはありませんがーーー私はどのような形でサポートに入ればいいのでしょうか?」
唯一、現時点で役どころが不明となっている橘が、自身のことを問う。
「橘 巴。貴女には九重 透流と行動を共にして頂きますわ。そうですわねーーー《夫婦として》ということにでもしましょうか」
「ふ……」「ふう……」「ふ……」「あらら…」
透流、次いで橘、リーリス最後に俺が呟きーーー
「「「えぇえええええええっっ⁉︎」」」
直後、三つの響き声が重なった。任務は翌週の朝に出立することとなった。
「つーわけで特殊任務をすることになった。」
『《666(ザ・ビースト)》か……こっちどんな組織なのか色々調べてみるよ』
俺は《狂売会》への内偵についたをツナに連絡していた。
「朔夜から聞いた話じゃ連中はかなり危険な組織らしいからな。場合によってはお前らに助けを頼むことになるかもしんねえ」
『わかった、その時は必ず行くよ』
ツナはいつもと変わらぬ様子で俺に言葉を返した。
「サンキューなボス」
「天峰くんも気をつけてね」
ツナへの報告が終わり俺は電話を切った。
「さて……例の《アレ》を試してみるか…」
深夜、とある孤島の海岸。
「なあなあソーニャ、今度開かれる《狂売会》ってオヤジも行くんだよな?」
茶色の髪に翡翠の瞳を持ち、背中に身の丈ほどの大剣を背負った少年は海を見ながら後ろの黒髪の褐色肌の麗人に問いかけた。
「はいその通りでございますナーガ様」
「せっかくだし俺も行こうかな」
「え……ナーガ様も?」
少年の言葉に褐色肌の麗人は驚いた。
「いずれ俺はオヤジの後を継ぐんだ…だったら組織の内情はどんな小さなとこでも見ておきてえんだよ…何より…」
ズハァァンッ
少年は大剣を抜き、近くの岩を一刀両断した
「なんか強い奴と闘えそうな気が済んだよ」
少年は嬉しそうな顔で月を見た。
新たなキャラ登場!!
果たして敵か味方か…
感想待ってます!!