アブソリュート・デュオ〜天狼〜   作:クロバット一世

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40話 第四圜(ジュデッカ)

三島レイジ____

《666(ザ・ビースト)》の構成員である彼は憤慨した。

《狂売会(オークション)》の《出品物》を目にしてしまったからである。

子供だった。

西洋系の少年少女と日本人の少女の計三人は麗奴(レイド)と呼ばれ、どの子供も見目麗しい。

三人は《狂売会(オークション)》の二日目に出品されるため、連れて来られた。

囚われの身という一点を除けば、扱いそのものは悪くない。

監視の目はあれど食事はしっかりと出されているし、抵抗さえしなければ暴力を振るわれることもない。

常に監視付きではあるが、他の客と同じタイプの部屋を与えられている。

すべては商品価値を落とさないためだ。三人は人でありながら、商品だった。

帰りたい、助けて、ママ____

それぞれの呟く声を耳にした瞬間、レイジは駆け出した。

目指す場所は十三階の支配人室だ。

本来ならばホテルの支配人と秘書が使うこの部屋も、今は《狂売会》のために来訪した組織の人物をもてなすために使われている。

 

「おいおいなんだテメーは、ここは立ち入り禁止だぞ」

 

「《獣(ゾア)》が何用だ……中に入ることは……許さない……」

 

支配人室に入ろうとしたレイジを金髪オールバックの大男とスキンヘッドの黒服が止める。

 

「オレぁボスに言いてえことがあるんだよ!!」

 

レイジは2人を振りほどいた。

 

「……認めない……」

 

「わかったらとっとと失せろ。ボスはてめえ程度のザコが話せるようなお方じゃねえんだよ」

 

「っせえテメーらは黙ってろ!ボス、俺の話を聞いてくれ!!ガキどもを解放してやってくれよ!!人間を売り買いするなんてクソみてーなことはやめ____がはっ!!」

 

分厚い扉を数度叩いたところで襟を後ろに引かれ、スキンヘッドの黒服にレイジは壁に叩きつけられる。

 

「ははっダッサ」

 

それを見ながら金髪の黒服はケタケタ笑った。

 

「くそっ……邪魔するならテメーらからぶっ倒す!!」

 

レイジが怒りを露わにして2人を睨め付けたそのとき____扉が内側から開かれた。

 

「《獣(ゾア)》が俺に何用だ」

 

扉の奥から姿を見せた男は本来レイジが会話することなど許されない相手である。

それもそのはず、男は《666(ザ・ビースト)》という組織の支配階級《圜冥主(コキュートス)》の筆頭なのだ。名はメドラウト____《第四圜(ジュデッカ)》の称号を持つ男だ。

 

「た、頼む!いや、お願いします!ガキを!ガキどもを____」

 

「いいだろう」

 

「っ!?ちょ、ちょっとボス!?」

 

メドラウトは静かに頷き、金髪の黒服は動揺した。

 

「マ、マジ____いや、本当か!?」

 

「構わん」

 

予想だにしなかった返答に、レイジは驚きと喜びでいっぱいになる。____が、それも束の間のことだった。

 

「……ただし、お前が俺に取り替わればの話だ」

 

「ど、どういう意味だ……?」

 

「組織のやり方に負担があるのなら、《力》を示し、頂点に立てと言っている。《力》無き者には誰一人従わん____それが《666(ザ・ビースト)》だ」

 

「……じゃあどうしたらいいんだよ」

 

「察しが悪い奴だな、要は俺を倒してみろってことだよ、そうですよねボス?」

 

金髪の黒服はレイジを嘲笑いながら問いに答え、メドラウトは不敵な笑みを浮かべながら頷いた。

シンプルな答えにレイジはしばし目を見開いた後____

 

「だったらお望みどおりにしてやらぁ!!」

 

意思を固め、メドラウトへと殴りかかった。

 

「馬鹿だろテメェ」

 

だが、拳がメドラウトに届く範囲に入るよりも早く、金髪の黒服が間に立ち塞がり、レイジの喉元を掴む。

 

「____ごっ、がふっ!!」

 

「たかが《獣(ゾア)》なんて下っ端がボスに成り替われるワケねぇだろうが、頭すっからかんなのか?」

 

「て……め……はな、せ……」

 

腕力には相当な自信があるレイジだが、男のそれは格が違った。そのまま五秒を放っておけば喉が潰れただろう。

 

「そこまでにしておけ」

 

レイジを助けたのは他ならぬメドラウトだった。

 

「……わかりました」

 

首領の言葉に金髪の男は手を離す。

咳き込みながら膝をつくレイジへと、支配階級《圜冥主(コキュートス)》の筆頭は語る。

 

「組織に、世界に唾を吐くなど誰にでもできる。だが____変革させることが出来るのは、《力》を持つものだけだ。変革を望むなら《力》を得ろ。《力》を示せ。さすれば《666》は、いずれお前の望む《力》となるだろう」

 

言葉は楔となり____

やがて楔は呪いとなる。

 

 

 

「良いんですか?あのザコ始末しとかなくて」

 

レイジが立ち去った後、金髪の男はメドラウトに聞いた。

 

「構わん、俺に挑むだけの度胸があるならそれなりに素質があるかもしれんしな」

 

面白そうにメドラウトは笑みを浮かべながら返した。

 

「そういえばナーガの奴が来たそうだな」

 

「はい、突然の来訪でしたので空いていた部屋にご案内させましたが……」

 

「まぁ良い、あいつの自由奔放なところは余程のことが無い限り治りはせん」

 

溜息を吐きながらメドラウトは呟いた。

 

「そういえば……先ほど……ホテルの支配人から報告があり……リーリス=ブリストルが来たそうです……」

 

すると、突然スキンヘッドの男がメドラウトに報告した。

 

「ほお、ブリストルの孫娘か……面白い」

 

その報告にメドラウトは笑みを浮かべた。

 

「それから……隣にいる男を調べたら……ボンゴレファミリーの……《天狼》天峰 悠斗のようです。」

 

「……なに?」

 

突然、メドラウトは驚いた表情でスキンヘッドの男を見つめた。

 

「……この男……です……」

 

スキンヘッドの見せた監視カメラの静止画にはリーリスの後ろを歩く悠斗の姿があった。

 

「そうか……あいつの……天峰 戒斗(あまみね かいと)の息子か……ククク……」

 

メドラウトは嬉しそうに笑みを浮かべ、そして笑った。

 

「面白い……まさか……あいつの息子が俺の前に現れるとは……これも因果が……ククク……フハハハハッ!!」

 

部屋の中にメドラウトの笑い声が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

やがてダンスパーティーは終わりを告げ、しばし時間を置いてから別のホールで《狂売会オークション》を開催する旨のアナウンスがされる。すぐに始まらない理由は、女性客の化粧直しを考慮してのことだ。

 

(やれやれ、やっとか……)

 

女性たちの相手をしていた俺はようやく解放されると内心ホッとした。

 

「あの……」

 

「受け取ってくださいまし……」

 

すると、女性たちが突然数字の書かれた小さな紙を渡して来た。なぜか頬が紅潮している。

 

「これは?」

 

すると、女性たちは小さな声で

 

「私の……部屋番号です」

 

「……待っています」

 

女性たちはこちらを見つめて小さく手を振りながら去ってった。

うん、行くのは絶対にやめよう。笑い話にもならないことになる。

 

 

 

 

ほどなくして、俺は《狂売会(オークション)》のホールへと移動する。中は小さめではあるものの映画館を思わせるような形状で、舞台へ向かって客席が段々になっていた。

 

(えーと、ユリエとリーリスは……)

 

そっと周囲を見回すと、それとわかる黄金色の髪が目に入るが銀色の少女がいない。

 

(そういや、ホールの入口脇にメイドが並んでたな)

 

おそらく、この中に通されたのは招待客だけなのだろう。

俺が招待客として扱われたのは幸いだか……《殺破遊戯》後に透流に聞いたのだがユリエはすでに《Ⅳ(レベル4)》の力を持ってるらしい。ならば問題ないだろう、

 

俺はリーリスの隣の席に座った。

 

「ん、お前はさっきの……」

 

すると、その隣に先ほどダンスパーティーの会場前であった少年がいた。確か名前は……

 

「えっと……ナーガさんだっけ?」

 

「ナーガでいいって、堅苦しいのは嫌なんだ。」

 

「あ、あぁそうなのか?じゃあナーガって呼ばせてもらうよ」

 

ナーガの服装は先ほどと違いおれと同じ燕尾服を着ていた。

 

「俺も飛び入り参加だけどオヤジが大人しくしてれば参加していいって言ってくれてさ、まぁこんな動きづらい格好しなきゃいけないのが嫌だけど」

 

「へぇ、ナーガのオヤジさんってこのホテルのお偉いさんなのか?」

 

「ん?いや、おれの親父は……」

 

すると突然、照明が僅かに落ちた。どうやら始まるようだ。袖から身なりのいいーーーついでに言えば恰幅のいい男が舞台中央に歩み出ると、客席へ向かって左右正面と三回頭を下げた。

 

「今宵は我らが《666(ザ・ビースト)》の主催する《狂売会(オークション)》へご来場頂きありがとうございます。本来ならば、オーナーである私がご挨拶の時間を頂戴したいのですがーーー本日に限っては、私などより皆様にお顔を見せるに相応しい御方がご来訪されておりますため、短くはありますが此れにてご挨拶を終わらせて頂きます」

 

(より相応しい……?)

 

オーナーと入れ替わりに舞台に姿を見せた人物ーーー二メートルは越える外国人の男性を目にした途端、そこかしこからどよめきが起きる。

 

「メ、メドラウト様」「あれが《第四圜(ジュデッカ)》のーーー」「このような場所に来られるとは……」

 

(大物登場ってわけか……)

 

どういった人物なのかと周囲の反応に耳を傾けていると、《666》の支配階級とやらの筆頭ーーー一言で言えば、組織のボスだと判明した。

 

「アレ俺の親父」

 

「……は?」

 

衝撃の事実に俺は驚きを隠せなかった。

まさかこいつが世界的な秘密結社《666(ザ・ビースト)》のボスの息子だとは思わなかった。

 

(だけど、どうしてそんな大物がここに……?)

 

けれどその疑問も周囲の声に耳を傾けているうちにある程度理解することが出来る。《狂売会》の参加者は、多かれ少なかれ《666》へと関わりを持っている。手に入れたい物に金を出すのは当然だろうが、同時に組織へ自分の存在をアピールする場でもあるということだ。

その上、今はメドラウトという首領が会場で見ている。この《狂売会》は、より深く組織と繋がりたい者にとって、これ以上ないアピール会場ということだ。

 

(しかし、あの男……。組織のボスがこんな場所に姿を見せるなんて……。もしくは相当自分の腕に自信があるのか……?)

 

立ち姿だけでも自負心の強さが伝わってくる。舞台から目を離さずにいると、メドラウトという男は両手を上げ、会場のどよめきを制した。

 

年齢は四十くらいだろうか。精気が満ち溢れた巨躯、漲る自負心、纏う雰囲気ーーー人の目を引きつけてやまない圧倒的な存在感を持つあの男こそが、《666(ザ・ビースト)》の支配者なのだと心底納得が出来る。しんと静まり返った中、男はニッと笑みを浮かべた。

 

「メドラウトだ。今宵は《狂売会》へ来てくれたことを感謝する。より多くの者が、望みの物を手に出来るよう祈っている。……存分に欲望を満たせ。それにより、我らがまた欲望を満たさせてもらおう」

 

言い終えると《666》の頂点に立つ男は、ある一点ーーー俺たちへと視線を向けた。

 

「ブリストルが黄金の姫にボンゴレの若き守護者よ。我らが《狂売会》を楽しんでいってくれ。無論、気が向けば祖父への土産でもボスへの手土産でも好きに持ち帰るがいい」

 

メドラウトの言葉に反応したのは、ドーン機関とボンゴレファミリーの同盟と《666》の関係を知る者たちだ。

 

「ではーーー皆も楽しんでいってくれ」

 

そう締めると、《第四圜(ジュデッカ)》メドラウトは舞台を降りーーーリーリスの隣の席へと座った。

 

「ふむ……」

 

すると、メドラウトは俺の方へ再び視線を向けた。

 

「……な、なにか?」

 

突然のことに俺は戸惑うがメドラウトはふっと笑みを浮かべ

 

「……やはり似ているな」

 

そう呟くと再びリーリスと談笑しだした。

 

「へぇ、お前ボンゴレファミリーだったのか」

 

突然ナーガが俺に肩組みして話しかけてきた。

 

 

 

「なあなあ、後で手合わせしてくんねぇ?」

 

「____っ!!」

 

突然ナーガは先ほどとは違う、獲物を見つけたような笑みを浮かべてきた。

 

「ナーガ、大人しくしていろ」

 

しかし、メドラウトが鋭い目でナーガを睨みつけ

 

「うげっ、わかったよ親父…」

 

渋々ナーガは諦めた。

 

 

 

その後のオークションはひどく落ち着いた感じで終了した。




少し長くなりましたがキリのいいところまでかけました。








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