アブソリュート・デュオ〜天狼〜   作:クロバット一世

42 / 55
41話《獣(ゾア)》

「あの男(メドラウト)には圧倒されたな……」

 

《狂売会》初日を終え、部屋に戻ってくるなり大きなため息とともに俺は呟いた。

 

現在リーリスたちは彼女にあてがわれたスウィートルームにいる。俺は俺用にあてがわれた部屋のベッドに寝っ転がっている。

 

「あのような男と談笑をしていたんだから、リーリスの心胆は相当なものだな」

 

ナーガと会話していたから詳しくは聞こえなかったのだが、黄金の少女は時折笑顔を見せていた。

 

「それにしても……」

 

《狂売会》は希少な宝石や美術品を大声を張り上げて落札する競売とは違く、ひどく落ち着いた感じで終始進んでいた。しかし、幾つかは明らかに違法と言える物ーーー盗品が出ていた。

 

「明日の方がもっと希少(レア)なものが出るて言ってたけど……どんなものが出てくるんだろうな……」

 

二日目であり最終日でもある明日の方が、メインになることは確かだろう。透流たちがその出品物を調査し、隠しようのない違法品を発見したら任務を次の段階に移行する。

透流たちが決行時刻を決め、橘がユリエとリーリスに伝える。食事を摂るために必ず訪れレストランのある階____その階のトイレに暗号を残すことが事前の取り決めである。

そして透流が予定通り騒ぎを起こすこということになっている。俺たちは変わらず《狂売会》へ。俺たちが何か動きを見せると《666(ザ・ビースト)》に警戒させる度合いが高まる可能性を考慮してのことだ。

 

 

 

「そういやあの男……」

 

俺はメドラウトのことを再び思い出す

 

『……似ているな』

 

あの時奴は一瞬俺を見て懐かしそうな顔をしていた。

 

「誰のことを言ったんだろう……」

 

俺は静かに呟いた。

 

 

 

 

 

二日目の昼____俺たちはレストランで食事をしていた。俺はリーリスたちの隣の席で食事をしていると、トイレからリーリスが出てきた。

 

「ちょっといいかしら」

 

おそらく暗号を見てきたのだろう、俺に周囲に聞こえないように声をかけてきた。

 

「決行時刻が決まったのか?」

 

「それもだけどそれだけじゃないわ」

 

なぜかリーリスはどこか苛立っていた。否、静かながらも確かに怒りを秘めていた。

 

「子供が囚われているみたいなの」

 

「……っ!!人身売買までしてんのか!?」

 

俺は周囲に聞こえないよう注意しながらも俺は怒りを抑えられなかった。

 

「《666(こいつら)》、気に入らないわ。子供の未来を奪おうってその魂胆が。だからーーー絶対に許さないわ……‼︎」

 

「……同意見だ、そんなこと俺も絶対に許すもんか」

 

俺たちの想いは一つになった。

いよいよ今夜、作戦が決行される。

 

 

 

 

 

 

二日目の夜、《狂売会(オークション)》の開始から五分後ーーー

爆発音とともに、ホテルが揺れた。直後、非常ベルが鳴り響く。

 

「な、なんだ!?」

 

「どうなってるのよ!?」

 

突然のことに周囲が取り乱した。

 

「リーリス、俺たちはこれからどうする?」

 

「あたしは透流の援護に行くわ」

 

周囲は大混乱であり俺たちも透流に合流するには良い機会である。ユリエも今頃、子供たちの救助に向かった橘に合流している頃だろう。合流した後は屋上へ向かい、そこから脱出するという手はずとなっている。

 

「よし、それじゃあ行くか!!」

 

「ええっ!!」

 

俺とリーリスは透流たちの元へと向かった。

リーリスは流石に着替えている余裕まではなかったらしく、動きやすいようドレススカートを裂いてスリットのようにし、すらりと伸びた足を露出させている。

 

 

俺たちが廊下を走っていると二人組の黒服がこちらに気づいて近づいてきた、

 

「悠斗!!」

 

「わかった!!」

 

俺は先手必勝と言わんばかりに一人にボディブローを、もう一人には後ろ回し蹴りを放った。

 

(それじゃ急ぐとするか)

 

そのまま俺たちが先を行こうとしたその時、

 

「マジか……⁉︎」

 

ボディブローで廊下の壁に叩きつけた男が、ゆっくりと立ち上がったために。同時に、後ろ回し蹴りを食らわせた男が、頭を振りながら片膝をついて起き上がる。手加減したとはいえ、常人ならどちらも立ち上がることなど不可能なダメージだ。そう、《常人なら》。

 

「ただ者じゃあないな、貴様……」

 

俺を睨み付け、ボディブローを喰らった男が口を開くーーー口端が裂けながら。それだけじゃなく、同時に着ていた服が内側から破れて皮膚が露出していく。ただしその皮膚は、人の元とはかけ離れたものへと変わっていく。頭からは巨大なツノが生え体格も巨大になっていく。どことなくヘラジカ____箆鹿(ムース)のように見える。

 

「《獣(ゾア)》か……」

 

理事長から聞かされた言葉が、口から出る。

 

「ほう、その名を知っているとはな」

 

姿とともに声帯も変化したらしく、箆鹿(ムース)の《獣》はどこかから響くような声質で言葉を発する。

 

「てめぇ、よくもやってくれたな……!」

 

怒声を放つのは、蹴り飛ばしたはずの男だ。箆鹿(ムース)と同様に、既にその姿は人ではない。鋭い鎌に昆虫独特の触覚と三角の顔____こいつはカマキリ____蟷螂(マンティス)だろう。

どちらにも共通して言えるのは、動物のような特徴は持っているものの、それはあくまで外観の印象だ。あえて言うなら、動物をモチーフとした全身鎧(プレートアーマー)を着ているといったところだ。

 

「リーリス、ここは俺に任せて先に行け」

 

「……いけるの?」

 

俺の言葉にリーリスは聞いた。

 

「すぐ追いかける」

 

その言葉にリーリスは笑みを浮かべてそのまま走っていった。

 

直後、二人ーーーもしくは二匹は、咆哮をあげながら襲い掛かってきた。人の姿のときに比べると、スピードは速くなっている。箆鹿(ムース)の突進を避け、蟷螂(マンティス)の鎌を《長槍》ガードする。

 

「速いな……でも、俺に比べたら遅い」

 

そのまま蟷螂(マンティス)を押し飛ばし《長槍》での斬撃を食らわせ、箆鹿(ムース)の突進を避けて死角から突きを食らわせた。

 

「ご、ぶぅっ……」

 

「馬鹿……な……」

 

そのまま二人は倒れ、そのまま起き上がらなかった。

 

(人非ざる者ーーー《獣(ゾア)》、か……)

 

こいつらがホテル内にあとどれ程いるのかわからない。急いで皆んなと合流した方が良さそうだ。

 

「……ちょっとずっこいけど……」

 

俺は近くの窓を割ると壁伝いに走って屋上を目指した。

 

屋上に着くと、そこには透流たちの他に三人の男がいた。二人はスキンヘッドの黒服と金髪オールバックの黒服、そしてもう一人は____《圜冥主(コキュートス)》筆頭____《第四圜(ジュデッカ)》メドラウト。

どうやら脱出しようとしていたようで、メドラウトとスキンヘッドと金髪は離陸準備の整ったヘリに乗り込もうとしていた。

 

「ほう、《聖騎士》が追いかけてくるには早いと思ったが、まさか《超えし者イクシード》までが潜り込んでいたとはな」

 

《焔牙》を見て、俺たちが何者なのかを即座に察したらしい。

 

「どうやら……騒ぎを起こした者のようです……上へ向かっていると……報告が……」

 

無線で連絡を受けたのだろう。スキンヘッドの話を聞き、メドラウトは俺たちの顔を見回す。

 

「我々《666(ザ・ビースト)》に牙を剥いたことを後悔させてやれ。下の奴ら(エトナルク)どもにもな」

 

「……承知……しました……」

 

「良いねぇ……そうこなくっちゃよお!!」

 

主の命に頷いた直後、黒服二人が宙へと大きく飛び上がった。

 

「みんな、離れろ‼︎」

 

黒服の男二人が、宙空で変質する。内側から服が裂け、これまで見たどの《獣》よりも分厚い鎧皮膚が盛り上がる。

 

「オォオオオオオッ‼︎」

 

咆哮とともに頭上で組んだ両手を振り下ろしてくる。轟音とともに、ホテルが揺れた。

 

「大した破壊力だ……」

 

崩落し、階下が見えるほどの大穴を目にして俺は呟く。もうもうと石埃が立ち込める中で、化け物二人は俺たちを睨め付ける。その姿は、異様だ。スキンヘッドの黒服だったものは体の大半は灰色がかった分厚い鎧皮膚が、顔____鼻のあった部分には角のようなものが現れている。

それだけだったら、サイ____犀(ライノセラス)といった印象なのだが、体中のあちこちから白と黒のまだら模様をした毛がだらんと垂れ下がっていた。

金髪の黒服だったものは茶色じみた分厚い鎧皮膚に口元から鋭い牙が二本生えていた。

それだけだったらセイウチ____海象(ウォールラス)といった印象なのだが両手が異常に長くなり鋭い鉤爪が付いていた。

 

(なんだ、あれは……?)

 

俺たちが見合う中、メドラウトを乗せたヘリが離陸する。だが、今の俺たちはヘリに意識を向けている暇はない。

 

「オラァッ!!」

 

「……死……ね……」

 

金髪の黒服だった謎の《獣》は一匹は俺たちに飛びかかり、もう一匹はその場から動かぬままに腕を振るう。無論、間合いは遠く、拳が当たるような距離ではない。だが空を貫き飛来するものが、まだら模様の体毛が数本、まるで投げ槍のごとく俺たち目掛けて襲い掛かってきた。

 

「なっ……⁉︎」

 

俺はとっさに《長槍》でガードするが、飛びかかったきた《獣》が俺の《長槍》を掴み大穴に引き摺り込んだ。

 

「悠斗っ!!」

 

透流が慌てて俺の手を掴もうと手を伸ばす。

しかし、

 

「お前はそっちに残って子供達を守れ!!俺はこいつを倒す!!」

 

俺はそのまま穴の中に落ちた。

 

 

 

落ちた先は大広間であり、誰もいなかった。

 

「ボスがお前になんか興味深々だったからな、やりあってみたかったんだよ」

 

ケタケタと笑いながら異形の《獣》はこちらに近づいてきた。

 

(なんか知らんけど……さっきまでの奴らとは違うみたいだ……)

 

最初から全力で行く、そう決めた。

 

「天に吼えろ____《覇天狼(ウールヴヘジン)》!!」

 

俺の意志により額から白い炎が噴出する。

 

「能力持ち……《高位階(ハイレベル)》かぁ…久しぶりに楽しませてもらおうじゃねえか!!」

 

「その口ぶりーーー闘ったことがあるのか?」

 

警戒を決して緩めず、俺は訊く。

 

「三人ぶっ殺したよ。あいつらなかなか強かったゼェ…まぁ俺様には及ばねえ……上級(ハイクラス)________複数の《力》を宿す《獣魔(ヴィルゾア)》にはなぁ‼︎」

 

「《獣魔》ーーー複数の《力》、か……。それで納得がいった。どうりで他の奴らより特徴が掴みづらいと思った。

顔や特徴から見てセイウチ____海象(ウォールラス)なんだと思うけど……長くて鋭い爪は……アリクイ____食蟻獣(アントイーター)ってところか。」

 

「大正解!!ご褒美にお前は俺自ら殺してやる!!」

 

「そんなご褒美死んでも要らねえよ……」

 

俺は鋭く《獣魔》を睨みつける____そして、

 

 

 

 

 

「てめえは俺が倒す!!」

 

声高らかに宣言した。

 

 

 

 

 




いよいよバトルに入りました!!


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。