アブソリュート・デュオ〜天狼〜   作:クロバット一世

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43話 六冥獣

「……ふぅ」

 

《獣魔(ヴィルゾア)》を倒した俺は《剛天狼(シグムント)》を解除した。

 

「うん、我ながらいい技を手に入れたな」

 

まだ改良の余地はありそうだが新しい武器としては問題ないだろう

 

(どうやら下は終わりそうだな……)

 

風穴から階下を見下ろして状況を確認すると、護陵衛士(エトナルク)が、《666(ザ・ビースト)》の構成員や、《獣(ゾア)》を圧倒し始めていた。

個々の能力は《III(レベル3)》に匹敵しようとも、戦術やチームでの闘いを熟知している護陵衛士に分があるようだ。制圧完了までは時間の問題だろう。

 

「おっとそうだった」

 

俺は近くからロープを見つけて《獣魔》を縛ることにした。

《獣魔》はすでに異形から先ほど見た金髪オールバックの男に戻っており、未だに気を失っているがまた目覚められたら面倒なことこの上ない。

 

「こんなことなら縄とか入った匣兵器持ってくるんだったな」

 

まぁ無い物ねだりも仕方ないのでそのままロープで入念に縛り付けた。

 

 

 

 

 

「おいおい、なんかすげー騒ぎになってんじゃん」

 

「________っ!?」

 

突然声が聞こえ、そちらを振り向くと

 

「ナーガ……」

 

《666(ザ・ビースト)》の支配階級《圜冥主(コキュートス)》筆頭、《第四圜(ジュデッカ)》のメドラウトが実子ナーガであった。しかし、ナーガの服装は龍が描かれた動きやすそうな衣服であり背中には巨大な剣があった。

 

「よぉ悠斗。そいつ、お前が倒したのか?」

 

ナーガは昨日会った時と変わらぬ態度で親しげに話してきた。

 

「……あぁ」

 

しかし、奴が戦闘態勢であることが俺にはわかった。

 

「やっぱりなぁ……わかってたよ、お前が強いって」

 

瞬間、ナーガが背負っていた剣を振るって斬りかかってきたので俺はすぐさま回避した。

 

「思った以上じゃねえか…久しぶりに本気出せそうだぜ」

 

俺の反応にナーガは歓喜しこちらに剣を向けて笑った。

 

「いくぜ!!」

 

ナーガは地面を蹴って飛び上がり上段から剣を振り下ろしてきた。

 

「オラァ!!」

 

ドコォォォン

 

「くっ……」

 

俺は咄嗟に回避すると地面が砕けて大穴が開いた。

 

「天に吼えろ____《覇天狼(ウールヴヘジン)》!!」

 

このままではマズイと考えた俺はすぐさま《覇天狼(ウールヴヘジン)》を解放した。

 

「せいやぁっ!!」

 

「はぁっ!!」

 

俺とナーガの《長槍》と剣が衝突し、押し合いになった。

 

「オラァ!!」

 

「なっ……」

 

しかし、ナーガが更に力を込め俺は吹き飛ばされた。

 

「まだ先があんだろ?見せてみろよ」

 

「くそっ……」

 

《覇天狼(ウールヴヘジン)》が力負けした。それも《獣魔》ですらない人間に

 

(こいつ……強い)

 

このままではマズイ、全力で行くべきであろう

 

「天に吼えろ____《剛天狼(シグムント)》!!」

 

俺は再び《剛天狼(シグムント)》を解放した。

 

「いいねぇ、だったら俺も見せてやるよ!!」

 

歓喜したナーガは剣を振り上げると刀身を青い炎____雨の炎が渦巻いていた。

 

「くらいな……《海龍波(かいりゅうは)》!!」

 

渦巻いた雨の炎がまるで津波のように迫ってきた。

 

「くそっ……天狼一閃・剛!!」

 

回避不能と考えた俺は咄嗟に《剛天狼(シグムント)》で強化した天狼一閃を放った。

 

ドコォォォン

 

2つの技がぶつかり合って周囲に衝撃が走った。

 

「へぇ……俺の《海龍波》で押し切れないとは、すげー技だなそれ」

 

「……どうも」

 

こいつは間違いなく剣士だ。しかし、山本やスクアーロ、幻騎士のような剣術の達人ではない、こいつの剣はただ力任せに振り回しているだけの攻撃、しかし、それでいて脅威。山本たちとは別のタイプの剣士であると考えられた。

 

「残念だぜ悠斗……お前とは友達になれると思ったんだけどな」

 

少し残念そうにナーガは呟いた。

 

「まぁ仕方がねえな。俺は《666(ザ・ビースト)》でお前はボンゴレ、お互い敵同士なんだからな」

 

「……そうだろうな、俺もあんたのことは嫌いじゃねえがお前たちの組織は気に入らねえ……」

 

「……そっか……そんじゃあ改めて……戦闘再開と行こうか……」

 

ナーガは横薙ぎに剣を構え再び雨の炎を刀身に灯した。

 

「海皇……」

 

ナーガが更に技を繰り出そうとしたその時________

 

 

 

「ナーガ様!!」

 

突然、以前会場でナーガを連れに戻った黒髪褐色肌の女性が走ってきた。

 

「ソーニャ……何の用だよ。人の闘いに水を差しやがって……」

 

ナーガは不満そうにソーニャと呼ばれた女性に文句を言った。

 

「申し訳ありません……しかし、メドラウト様よりすぐ戻ってこいとのことで……」

 

ソーニャは申し訳なさそうにしながらも報告していた。

 

「……はぁ、わかったよ。戻りゃいいんだろ戻りゃ」

 

ナーガはため息を吐きながら剣を背中の鞘に収めた。

 

「悪いな悠斗、そういうわけだからお前との決着はまた今度で頼むわ」

 

「……あぁ、お前との決着は必ずつける」

 

俺も《剛天狼(シグムント)》を解除してナーガに決着をつけると約束した。

 

「そういや、お前には俺の正体を詳しくは話してなかったな」

 

ふと呟いたナーガは再びこちらを見て告げた。

 

 

 

 

 

「《666(ザ・ビースト)》が支配階級筆頭、《第四圜(ジュデッカ)》直属。冥府に集いし雨の六冥獣____《海皇龍(リヴァイアサン)》ナーガだ。よく覚えときな」

 

六冥獣、おそらくボンゴレの守護者やミルフィオーレの真六弔花のような立ち位置の存在だろう。

 

「あぁ、覚えとくよナーガ。」

 

「おう、じゃあな悠斗、また会おうぜ」

 

そういうとナーガは壁に開いた穴からソーニャとともに立ち去った。

 

「さて……透流たちのとこに行かないと……」

 

 

 

 

「大丈夫か透流?橘やリーリスも……」

 

俺が透流たちのいる屋上に開いた穴の下に来ると、橘は眠っており、透流はリーリスに膝枕をされていた。

 

「……悪い、お楽しみ中だったか?」

 

「まて悠斗!!変な誤解をするな!!」

 

俺が他所に行こうとすると透流があわてた感じで手を伸ばしてきた。

 

「頑張った透流へのご褒美よ♪」

 

リーリスは笑みを浮かべながら答えた。

 

「橘は?」

 

「巴は大丈夫よ、今は眠ってるだけ」

 

「そうか、それを聞いて安心したよ」

 

 

 

「トール!!」

 

そこへ銀色の少女が帰ってきた。

 

肩で呼吸しつつユリエはじっと透流たちを見つめ、透流たちもユリエをじっと見つめ返す。

 

じーーーーーーーーーーーーーーーーっ。

 

(あれ?コレ俺蚊帳の外じゃね?)

 

やがて銀色の少女はぽそりと言った。

 

「……何をしているんですか?」

 

静かで、淡々としていて____そしてちょっぴり怒りの色が滲んだ少女の問いかけに、透流に冷や汗が流れていた。

 

「ま、待て、ユリエ!!これには深い事情が____」

 

必死で弁解しようとする透流へと向けられる深紅の瞳(ルビーアイ)は、底冷えするような冷たさを孕んでいた____

 

「………………」

 

ゆらりと、一歩踏み出す銀色の少女。

一歩、また一歩。

 

これから起こるは凶事か、はたまた惨劇が。

 

(怖いけど、ちょっと結末が楽しみだな)

 

他人事なのをいい事に俺はちょっとワクワクしていた。

 

「ユリ、エ……」

 

銀色の少女は俺たちを見つめ____その場にちょこんと座った。

 

「はい……?」

 

いったい何をしようと言うのか____と状況を見つめていると、ユリエは自身の膝をぽんと叩く

 

「トール、休むならこちらでどうぞ」

 

(ユリエ、動けないっぽいから無理だと思うぞ)

 

「残念ね。透流は柔らかい方がいいみたいよ?」

 

「トールはあまり高い枕は好まないので」

 

どんどん二人の言い争いはヒートアップしていく

 

「ですのでどうぞ」

 

ぽんぽんと再び。

 

「え、えーっと……今は全然体が動かなくてだな……」

 

どうやら透流は現状を伝える事にしたみたいだ。

 

「そうでしたか。……そう言う事なら、仕方ありません」

 

ユリエは随分とあっさり引いた。

 

「あら、引っ張っていかないわけ?」

 

「無理強いは良くありませんので」

 

僅かに眉をひそめている様子から不満を持っているようだが……なんとか場は収まったようだ。

 

「ははははっ、争いが収まって一安心ってところだな、透流」

 

俺とリーリス、橘、透流、ユリエしかいないはずのこの場に、笑い声が響き渡る。

 

「________っ誰だ!!」

 

俺は声の方向に《長槍》を向けると屋上に開いた穴の縁から俺たちを見下ろす、白いマフラーをした男が笑っていた。

 

「待ってくれ悠斗、あいつは味方だ」

 

慌てて透流は俺たちに、今回の任務の協力者のユーゴという男だと手早く説明した。

 

「こっちのカタがついたから様子を見に来たんだが、どうやら心配する必要は無かったようだな」

 

「見てたなら声くらい掛けろよ……」

 

「自分にはまったく関係無い女の戯れに、割り込もうなんてバカがいると思うか?」

 

もっとも正しい意見に、透流はぐうの音も出ないようだった。

 

「にしてもそっちのお前さんも大したもんだな《獣魔》を単騎で仕留めた後に六冥獣とやりあうなんてな。」

 

今度はユーゴは俺に話しかけてきた。

 

「六冥獣を知ってんのか?」

 

「奴らは《第四圜(ジュデッカ)》直属の精鋭だ。その戦闘力は並みの《獣魔》を遥かに超える奴らだ」

 

その言葉に俺はナーガのあの強さに納得した。

 

「ところでお前さん天峰 悠斗って聞いたんだけど……親父の名前って何だ?」

 

突然ユーゴが俺にそんなことを聞いてきた。

 

「…何で親父のことをあんたに……」

 

「詳しくは話せないんだが……頼む、教えてくれ」

 

ユーゴはまっすぐな目で俺を見つめてきた。その目を見た俺は少し迷いながらも教える事にした。

 

「……天峰 戒斗(あまみね かいと)」

 

「…………そうか。いや、悪かったな」

 

そう言ってユーゴは黙り込んだのだが彼の様子から何か事情があると察し俺はこれ以上聞けなかった。

 

 

「そっちの首尾はどうだったんだ?」

 

透流は周囲の空気が変わったことを察したのか話を切り替えた。

 

「ハズレだったな。せめて《第四圜(ジュデッカ)》は潰しときたかったんだが、《獣魔(ヴィルゾア)》に足止め喰らってな。……ったく、ぞろぞろと何匹も出て来やがって」

 

「へぇ……《獣魔》は何体くらい相手にしたんだ?」

 

「数えちゃいなかったが、十は下らなかったはずだな」

 

その言葉に俺は驚いた。一匹でもかなりの脅威だと言える《獣魔》をそれだけ倒すとは……ユーゴの強さがかなりのものだと伺えた。

 

「さて、と……。お前らの無事も確認出来たことだし、俺は先にあがらせてもらうぜ。今回は手を組みはしたが、こっちのお偉いさんにもそっちのお仲間にも秘密裏に動いてっから、見つかって面倒なことになる前に、な」

 

ユーゴは踵を返すと、視線だけをこちらに向けて言う。

 

「じゃあな。お前らが今後も《666(ザ・ビースト)》に関わるってんなら、またどこかで会うかもな」

 

「あ、ユーゴ!待っ____」

 

待ってくれと最後まで透流が口にする前にユーゴは姿を消した。

最後に、夜闇へ白いマフラーを踊らせて。

 

 

 

 

 

 

 

「…………体が動かん」

 

現在俺は学園の医務室、帰ってきた俺を最初に襲いかかったのは疲労と筋肉痛だった。理由はわかる、《剛天狼(シグムント)》の反動によるものだろう。身体能力一点を強化する《剛天狼》____考えてみれば実際に本格使用したのは今回が初めて、さらには《獣魔》との闘いの後、ナーガとの試合でも使ったのでその反動が一気に来たのだろう。そのお陰で現在そのままの服装でジャケットを脱いだだけのままベットに寝かされている。

 

(………もっと使いこなせないと)

 

ガララ

 

「悠斗くん、大丈夫?」

 

そこへみやびがお見舞いに来た。

 

「みやびが、平気だよ。ちょっと体が動かすのがしんどいけど…」

 

俺は軽く笑いながらみやびを迎えた。

 

「よかった……悠斗くんが無事で帰って来て」

 

みやびは余程心配だったようで安心したようにホッとしていた。

 

「心配すんなみやび、俺は必ずおまえの元に帰って来るからよ」

 

「悠斗くん…………」

 

俺の言葉にみやびは顔を紅潮し、俺たちは見つめ合った。

 

 

 

パラパラパラ

 

すると、椅子に掛けてあった俺の潜入調査時のジャケットのポケットから数枚の紙切れが出て来た。

 

「悠斗くん、何か落ちたよ」

 

みやびはそれを拾い上げた。

…………はて、何か忘れているような…………

 

「ええと……674号室…691号室…729号室…なにこれ?」

 

 

 

 

 

 

「……………………あ」

 

やばい…………忘れてた…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダンスパーティー会場で女性たちに渡された部屋番号の紙……捨てるの忘れてたァァァァ!!!

 

しかもよく見たら明らかに女性の手書きで口説きの言葉まで書かれているし!!完全に見落としてたァァァァ!!

 

「ま……待ってくれみやび!!これには事情が…」

 

「悠斗くん」

 

俺は慌てて説明しようとするがみやびから冷たい空気が立ち込めて来た、

 

 

 

 

 

 

 

「正座して」

 

やばい…………みやびも目が完全に変わってる…………完全に怒ってる…………

 

「あの…今俺筋肉痛で…」

 

「正座して」

 

「だから…その…」

 

「正座して」

 

「だか…」

 

「正座して」

 

「はい」

 

その時、俺はキャバクラ行きが嫁にバレた夫の気持ちってこんななんだろうって感じた。

 

 

 

 

 

透流…………膝枕のいざこざを影で笑ってごめんなさい、もうからかいません…だから…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………助けてください」

 

その後、どうしてそのような経緯になったのか、紙を捨てるのを本当に忘れていただけであること、やましい気持ちは無かったことをみやびに説明し、どうにか理解してもらい、許してもらった。そして、改めて思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《獣魔(ヴィルゾア)》や六冥獣よりマジで怒ったみやびが遥かに怖いと




ナーガとソーニャのキャラデザはツバサクロニクルに出て来る龍王と蘇摩です
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