「そこまでだ!!」
「観念しろ!!」
クリスマスイヴ、俺は鶴屋とともにクスリの売人を取り押さえていた。
俺は《沈黙の夜(サイラス)》から聞いた情報を透流たちに話した。その結果、透流たちはそのままベラドンナと接触し情報収集、俺たちは《沈黙の夜(サイラス)》と行動して情報収集をすることになった。
「くそっ……《沈黙の夜(サイラス)》のゴロツキどもが……」
売人の男は恨めしそうに俺たちを睨みつけた。
「悠斗、クスリは回収したぜ。あとはこいつを処分しちまえば……」
「またお前らか」
「まったく……またやってるのか……」
すると、突然物陰から二人の警官が現れた。
一人はゲンさんと呼ばれる中年の警官、もう一人は以前も彼と一緒にいた黒いツンツン頭でまつげの長い二十代半ばの警官だった。
「クソ警官……今更来たのかよ」
「クソ警官って……お前らなぁ……俺たちだって何もサボってたわけじゃ……」
「菊池、お前は黙ってろ」
菊池と呼ばれた警官をゲンさんは睨みつけ、菊池はそのまま黙ってしまった。
「とにかくあとは俺たちがやる。お前らはとっとと帰れ」
「……ちっ、また手柄の横取りかよ」
「お前らがとっちめても手柄にはなんねえよ。だから俺がそのぶん貰ってやるからとっとと失せろ」
鶴屋は文句を言うがゲンさんはそのまま売人の男に手錠をはめ俺たちが回収したクスリを押収するとそのまま売人を連れて行った。
「あーイライラするぜ、あの警官事あるごとに俺たちの邪魔しやがる」
鶴屋は苛立ちながら俺とパトロールを続けていた。
「まぁそう言うなよ。あっちだって仕事なんだしさ」
「そう言うけどな悠斗、あいつらがしっかりしねえからこの街にヤクなんて出回っちまったんだぜ。」
このあいだの一件以来、俺と鶴屋はこうして会話をするくらいの仲になった。
「あのゲンってクソジジイもそうだ。「街を守るのは俺たち警察の仕事だ」って言うくせに守れてねえからこうなってんだよ」
「鶴屋……」
悔しそうにする鶴屋をみて、彼らが本当に街を守りたいと言うのが伝わった。しかし……
「あれ、お前ら……」
突然声をかけられたのでそちらを見ると
「あんたは確か……」
そこには先ほどゲンさんに菊池と呼ばれていた警官がいた。
「テメェ……クソ警官の手下…」
鶴屋は鬱陶しそうにその警官を見た。
「悠斗、こいつは菊池っていってあのクソ警官にいつもくっついてるコバンザメみたいな奴だ。」
「コバンザメって……俺の上司があの人なだけだよ」
鶴屋の紹介に菊池さんは苦笑いした。
「……まぁおまえらがあの人を嫌いな気持ちはわかるよ、色々口うるさく叱ってくるしな」
本人がいないのをいいことに菊池さんも結構言っている。
「でもさ、それはあの人が本気でお前らのことを心配してるからなんだ。心配だからお前らに危険なことに巻き込まれて欲しくないんだよ」
菊池さんは笑いながらゲンさんを擁護した。
「……だったらヤクなんてこの街にばら撒かせるなよ、お前らがしっかりしねえから俺たちが頑張ってんだろ?」
「……あぁ、俺たちも頑張るよ。だからお前らも俺たちを信じてくれ」
「菊池っ!!何道草食ってんだ!!」
怒鳴り声が聞こえそこを見るとイラついた顔のゲンさんが遠くにいた。
「やべ……それじゃあお前らも早く帰れよ!!」
菊池さんは慌てながらゲンさんの方へと走っていった。
「ちっ……見回りはこの辺までにしとくか…行くぞ悠斗」
「あ、あぁ」
鶴屋は舌打ちをして俺もそのまま鶴屋についていった。
「悠斗、今日はいよいよクリスマスイヴ……ベラドンナがドラッグパーティーを開く日だ、俺たちは乗り込んで奴らを止めるぞ」
「あ…ああ」
鶴屋は意気込んでいるが《666(ザ・ビースト)》の案件だ。一般人の彼らに危険な目に合わせるわけにはいかない。
「鶴屋、念のため言っておくんだが……危険なことは極力控えたほうがいい。それよりも騒ぎがあった時に一般人を守るようにするよう心がけよう」
「何言ってんだよ悠斗、俺たちがやらないと…」
「そうじゃない、俺たちに何かあったらこの街を守る戦力が少なくなる。それに……ただ闘うだけが手段じゃない。お前だって街を守るために動いてんだろ?だったらただ暴力で解決するだけじゃいたちごっこだ」
俺は彼らが無茶をしないように言葉で誘導した。
「……まぁ確かにそうだけどよお……」
「心配すんな、行動はともかく「何かを守りたい」って思いに間違いはない」
「……わかってるよ」
それは事実だ、だからこそ俺は彼らに協力しようと思ったのだ。
「ところで悠斗、ちょっと気になったんだけどーーー」
鶴屋が俺の首に巻いてあるマフラーを指す。
「それ買ったのか?」
「ふっ…ふふふ……ふふふふふ.………」
…そうか、そうなのか…
「聞いてくれるか、それを!ならば聞いてもらおうではないか!」
口調が橘っぽくなるが気にしない!!この喜びを鶴屋にも聞いてほしい!!
「これはみやびからのプレゼントなんだ!しかも手編みだぞ!普段からの感謝を込めてと言われてクリスマスプレゼントとして出発前に俺に渡してくれたんだ。そのような気遣いなどしなくてもよかったのに、うう……俺は、俺は何と素晴らしき恋人を得たんだ‼︎この喜びがわかるか⁉︎いいやわかってもらいたい!」
「そ…そうか…ってかお前とあの娘って付き合ってたのか!?」
「あれ…言ってなかったっけ?」
「あ…あぁ…そ…そうなのか…」
なぜか鶴屋は少し残念そうだった。
「と…兎に角…パーティーは今夜だ…浮かれてないで準備はしとけよ」
「…わかってるよ…ん?…あいつは…」
俺の視線の先には黒い学ランを背中に羽織って《風紀》と書かれた腕章をつけている…あいつは…
「雲雀?それに草壁も…」
そこには毎度同じみボンゴレ雲の守護者、雲雀 恭弥とその右腕、草壁 哲也がいた。
「あれ?天峰さん、久しぶりですね」
「悠斗、そいつは?」
おれが二人に話しかけると鶴屋が聞いてくる。
「あ、あぁ。俺の中学時代の同級生だよ。ちょっと待っててくれ」
鶴屋に軽く説明し、俺は二人に小声で話した。
「お前ら…なんでここにいんだ?」
「ええと…実は…」
無視する雲雀の代わりに草壁が説明した。
「以前、並森の方で…チンピラがクスリを売ろうとしていたのを止めたことがあったんですが…調べて行くうちにこの街で取引されているものみたいで…」
そしたら雲雀が「並森の風紀を乱した奴らを咬み殺す」と言って乗り込んだらしい
「もしかして天峰さんも?」
「あぁ、俺もその案件でこっちに来てるんだが…」
「僕は群れるつもりはない、邪魔をしないくれ」
俺の言葉を遮って雲雀はそのまま歩いて行ってしまった。
「すいません天峰さん…」
「いいよ、なれてる。また何かわかったらよろしく」
「えぇ、それでは」
草壁は俺にお礼を言うとそのまま雲雀についていった。
「悪いな鶴屋、待たせた」
「まぁいいけど…早く行くぞ、鯨木さんが待ってる」
そのまま俺たちは待ち合わせ場所へと向かった。
「いいかみんな!!奴らはいつもと同じクラブで例のドラッグパーティーを開こうとしてる!!俺たちでそれを止めるんだ!!」
オォォォォッ!!
そこには二十人以上の男たちが集まっていた。
彼らはみんな今日のパーティーを止めるために集まったものたちである。
「悠斗くん、私たちは…」
「あぁ、こいつらが無茶をしないようにサポートしよう。」
俺とみやびはこっそり話し合っていた。
「おい鶴屋、実は…」
「…なに?あいつらが…」
すると仲間の一人が鶴屋に報告をして来た。
「悠斗、この前お前と一緒にいた奴らがエレフセリアに向かってるって……」
「透流たちか…」
「悠斗、あいつらは…」
「心配すんな、あいつらにはやつらのことは教えている。あいつらもおそらく俺と同じ考えだと思う」
「…そうか、では行くぞっエレフセリアへ!!」
鯨木の合図とともに俺たちはエレフセリアへむかった。
「な…なんだよ…これ…?」
エレフセリアの前で鶴屋の呆然とした声が聞こえる。
当然だ、俺ですらも動揺を隠せない。
エレフセリアが燃えていた。
スタッフと思われる男たちが倒れている。
「悠斗!!穂高!!」
突然呼ばれてそちらを向くと、透流たちがそこにいた。
「お前ら…行くぞっ!!」
「お、おい悠斗…」
火の中に入ろうとする俺を鶴屋が慌てて止めようとする
「鶴屋たちは一般人の避難を!!中は俺たちに任せろ!!」
俺はすぐさま鶴屋に指示し、スタッフをトラに任せエレフセリア内に入ろうとする。
けれど俺が扉に触れるより早く、店内から三度爆発音が、それとともに悲鳴をあげて
「ヤベェ!」「逃げろ!」「何なんだよ!?」「早くどけよ!!」
口々に叫び、俺たちにぶつかることも構わずに逃げて行く
「お前ら…これは一体…」
突然、呼ばれて振り返ると、菊池さんが走っきた。
「菊池さん?何でここに…」
「パトロールをしていたら騒ぎが聞こえて…」
どうやら巡回中だったらしい…それなら納得だ。
「おい、なにがあったんだ!?」
透流が何度か話をしたことがあるやつの首根っこを掴んで怒鳴るように問うと____
「知らねーよ!なんか急に爆発が!ヤベーって!!」
パニックに陥った男はもがき、透流が手を離すとつんのめって転びそうになりつつ駆けていく。
しかし、事は爆発だけで終わりではなかった。
「化け物だーーーーーっ!!」
(化け物………!?)
俺はその言葉にすぐに《獣(ゾア)》のことに気づいた。
「おいおい…爆発どころか化け物まで出たって……!?どうなってんだよ」
菊池さんは動揺しながら呟いていた……
「…………みやび、ここは任せた」
「悠斗くん…!?」
「おい……っなにを言って……」
菊池さんの声を無視してそのまま俺は彼らの頭上を飛び越えて店内に入り、その勢いのままワイヤーアクションの如くエントランスの壁を駆けて奥へと向かう。
我先に逃げようと、エントランスでぎゅうぎゅうと押し合う客を超えた先で待っていた光景、それは____
まるで地獄だった。
赤く、紅く、朱く____店内を明るく照らすのは色とりどりの証明ではなく、至る所で舞い上がる灼熱の炎だった。
「なにが……あったんだ……!?これは一体何なんだよ!!」
後ろから聞こえたのは透流の叫びだった。どうやら透流も俺と同じで店内に入り込んだのだろう。
「透流、まず落ち着け。今は…」
「とお、る……ゆう、と……?」
俺たちの言葉に反応する声があった。
「美咲!!」
床に座り込んだままソファにもたれ掛かる美咲の姿を、さらに近くにも見るからにドラッグでトンだ数名の姿を認める。
「どかーんって、すごかったぁ……。あはは、びりびりってして、ふふふ……」
「美咲……」
あきらかにマトモじゃない様子に俺は言葉を失う。何が彼女をこうしてしまったかを悟り、痛いほどに拳を握る。
(早く外へ____いや、中にまだ人がいたら……それにさっきの化け物って言葉……)
「悠斗くん!!」
「トール!!」
そこへユリエとみやびが店内へと駆け込んでくる。
「みやび!ユリエ!美咲たちを頼む!!」
「うん!悠斗くんは!?」
「俺と透流は他に逃げ遅れたやつがいないか確認してくる!!」
手短に言葉を交わすと俺と透流は店の奥へと、みやびとユリエは美咲たちの下へと駆け寄った。
(……いったい何を使えばこんな酷いことに……)
奥に進めば進むほど炎は激しくなっていく、幸いにも逃げ遅れた人たちはいない。
そのままダンスフロアへ向かおうとした時だった。
「……!」
炎の燃える音に混じり、甲高い声が聞こえた。
(あれは……!)
ダンスフロアの先にあるステージ上に、四つの影が目に入る。
一つはフードをした少女、三つの影は人の姿をしていなかった。
「《獣(ゾア)》……!!」
認識するや否や俺たちは床を蹴る。
《獣(ゾア)》____捷豹(ジャガー)が少女に向けて爪を振り上げたからだ。
俺の蹴りが捷豹(ジャガー)を体ごと吹き飛ばす。
「_____っ!!」
突然の一撃にもう一体が表情を変えた。
(こいつは蟻(アント)……いや、だけど……)
顔は蟻に見えるが左手は巨大なハサミとなっていて、背中には綺麗な模様をした羽を生やしている。どちらも蟻とはかけ離れた特徴、つまりこいつは____
「《獣魔(ヴィルゾア)》か……!!」
《666(ザ・ビースト)》の生み出した複数の《力》を宿す人非ざる者。俺がいざという時の切り札《剛天狼()シグムント》を使わなければ倒しきれなかった相手。
「ギギィッ!!」
突然もう一つの影が俺に襲いかかった。
(こいつは……)
そいつは他の二体の《獣》や《獣魔》のように生物をモチーフにした鎧といった感じではなく巨大な蟹そのものだった。そして、ハサミには黄色い晴の炎を纏っている。
すると答えは……
「匣兵器か!!」
「ギギィッ!!」
俺の言葉を無視して晴蟹(グランキオ・デル・セレーノ)は再び斬りかかってきた。
「穿ち……砕けえっっ!!」
先手必勝と言わんばかりに透流の《雷神の一撃》が炸裂する。巨体が吹っ飛び轟音とともに崩れた壁に《獣魔》の姿は見えなくなった。
(やったか?)
と思った束の間、ガラガラと瓦礫の中から《獣魔》が、その傍で捷豹がまた起き上がる。晴蟹も彼らの傍でこちらへハサミを向けていた。
「透流、気をつけろ……こいつらは…」
「あぁ……」
俺と透流は再び身構える
「君、早く逃げろ」
俺は後ろの少女を流すように少女に話しかけた。
しかし、少女が逃げるよりも早く《獣魔》たちが動く。
ただし、俺たちに背を向けて
「なっ……⁉︎」
その行為に理解出来ず、呆気に取られたまま二人の姿が炎の中に消えていく様を見送ってしまう。
晴蟹も彼らについていく形でその場を去った。
(逃げた、だと……?)
何か理由があって逃げたのだろうか、少なくとも逃走したフリをして油断させようといったわけじゃ無さそうだ。
(よし、他に逃げ遅れた人はいないな)
周囲を見回し、その確認が出来れば、これ以上この場に留まる理由はない。
「キミ、ここから逃げるぞ」
そう言って、少女の手を取ろうとしたときだった。目深に被ったフードの奥から、少女が声を発した。
「邪魔……」
「え……?」
あまりにも予想外の言葉に、俺の動きが止まる。ゆっくりと、少女の手が俺に向かって突き付けられる。向けられた掌に何だと思ったその刹那ーーー
「んなっ……!?」
俺はとっさに何かを感じて目の前に雪の炎で氷のシールドを作った。とっさに作ったものだがある程度の強度はあるはずだ。
瞬間、
炎が、爆ぜた。耳をつんざく激しい音と同時に視界が真っ赤になり、衝撃が俺を襲う。しかし、それ以上に驚いたのは……
(氷のシールドが……溶けてる!?)
いくら急造とはいえ《死ぬ気の炎》の氷を炎はたやすく溶かしたのだ。
「死ぬ気の炎……?いや、違う!!」
一瞬《死ぬ気の炎》のものかと思ったが違うと気づいた。
属性云々以前に根本から違う炎だと感じたのだ。
(今のは、さっきのやつなのか……⁉︎)
数分前に店の外で見た、スタッフが吹き飛ばされた爆発と同じものだと気づき、同時にそれが視界に映るフードの少女が起こしたものだと驚愕する。
「何者だ、キミは……?」
返事は無かった。少女はただ無言のまま俺を見つめていた。炎が形あるものすべてを灼く音だけが響く。そのとき、熱風が舞い上がった。熱風は強く、少女が被ったフードを大きく揺らして捲り上げたフードの奥に隠されていた顔は、十代半ばくらいのものだった。
「悠斗!!大丈夫……か……」
少女の顔を見た途端、透流は信じられないものを見たような顔で少女を見ていた。
「透流……どうした?」
「そん、な……バカな……どうし、て……どうして、お前が……」
透流の声が震える。
そして、俺も気づいた。その少女の顔を自分も知っていることに、透流が見せてくれた写真に写った少女であることに……
「音羽…………」
九重 音羽(ここのえ おとは)、九重 透流の妹にして……二年前に鳴皇 榊に殺されたはずの少女がそこにいた。