アブソリュート・デュオ〜天狼〜   作:クロバット一世

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51話 騒ぎの後

 

「何を突っ立っている!死にたいのか貴様らは!!」

 

《獣魔(ヴィルゾア)》たちと同様に、音羽が消えた直後、トラが怒鳴り声をあげてこちらに来た。

 

「あ……ト、トラ…」

 

「何を呆けている!死にたくなければ今すぐ脱出するぞ!!他に逃げ遅れた者は居ないか確認は済んだのだろうな!?」

 

「あ、ああ……だけど、トラ……音羽が……音羽が、今……」

 

「は?音羽だと?何を言ってるんだ、貴様は!?」

 

透流はあきらかに動揺して言葉がうまく紡げていなかった。

 

「居たんだ!さっきまでここに!生きて!あの桜色の子が音羽だったんだ!!」

 

「さっきから何をバカなことを言っている、透流。忘れたのか!?音羽はもう……!!」

 

「わかってる!だけど本当に居たんだ!!」

 

透流は自身もあまりのことに冷静さを失っていた。

当然だ、俺だって信じられない。確かに髪の色は違ったが確かに写真で見せてもらった少女と瓜二つだった。

 

「そうだ、追いかけないと……!」

 

透流はそのまま炎の海へと駆け出そうとしたので、俺は咄嗟に透流の腕を掴んだ。

 

「馬鹿野郎!!とにかく落ち着け!!死にたいのかお前は!?」

 

「トール!トラ!ユウト!」

 

「悠斗くん!」

 

そこへユリエとみやびが姿を見せた。

 

「悠斗くん、早く外へ行かないと…」

 

「あ、ああ…でも透流が…」

 

「どうかしたのですか、トール?______っ!トール!?」

 

トールは俺が二人に気を取られた隙に手を振り払ってそのまま火の中へと走っていった。

 

「あの馬鹿……俺はあいつを追う!!お前らは避難していてくれ!!」

 

俺は透流を追いかけて走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あのアホ……どこ行ったんだ……」

 

壁に開いた大きな穴を発見した俺はそこから外に出る。そこは、街灯の光も届かないような裏路地だった。

正面はエレフセリアが入っている建物の横手に建つビルで、首を横に降ると左はすぐ突き当たりになっていた。

 

(……まぁ気持ちはわからんでもないか……死んだと思っていた身内がいきなり目の前に現れたら誰だって動揺するな)

 

俺だって死んだ家族が目の前に現れたら透流と同じ行動をしているかもしれない

 

「……ん?いたいた……」

 

しばらく走っていると、陸橋の袂に透流がいた。

 

「透流!!」

 

「____っ、悠斗か……」

 

俺に気づくと透流は申し訳なさそうにこちらを見た。

 

「……悪い悠斗、俺…」

 

「……まぁ気持ちはわかるが落ち着け、みんなだって慌ててたぞ」

 

「……すまん」

 

「よし、そんじゃみんなに報告しないとだな」

 

そういうと、俺はケータイを取り出した。

 

「……とりあえずいちばん心配してるだろうからユリエに連絡するか」

 

登録された幾つかの番号から、ユリエに配布されたケータイ番号を選び、発信ボタンを押そうとしたそのとき____上空から、風を切るような音が聞こえた。

 

「____透流っ!!」

 

「!しまっ____」

 

見上げた視界の中に、捷豹の鋭い爪が透流を狙って落ちてくる様が映った、

 

「くそっ、狼王____」

 

俺は《長槍》を具現化し、捷豹(ジャガー)へ攻撃を繰り出そうとしたそのとき、突如目が眩むほどの光と何かが大きく弾ける音____次いで断末魔にも似た苦痛の叫びが響き____最後に大きく重い何かが、地響きを立てて路上へ落下した。

 

「今のは……」

 

光の残像が残る中、落ちてきた何かーーー捷豹の様子を窺うと、《獣》はぶすぶすと黒煙を上げて倒れ伏していた。人の姿へと戻ったその体には、パチッパチッと電気火花らしきものが時折走る。

 

「これはいったい……?」

 

「雷の炎……じゃねえな……」

 

何があったのかと、今日だけで何度目の疑問だろうか。けれど幸いなことに今回ばかりは明確な答えが返ってきた。

 

「ちょっとした魔術(マジック)ってやつさ、九重 透流、天峰 悠斗」

 

聞き覚えがある声が、陸橋が作り出した闇の中で俺たちの名前を呼ぶ。

 

「お前はーーー」

 

闇の中に白い何かが揺れーーーそれがマフラーであることに気づく。神父を思わせるような服装を身に纏うそいつはーーー

 

「ユーゴ…」

 

「こうしてツラを合わせるのは、《狂売会(オークション)》以来だな、お前ら」

 

「ああ、そうだな。……だけど、どうしてここに……?」

 

「積もる話ーーーってほどあるかどうかわからねぇが、まずはお前の仲間と合流してからにしようぜ。……こいつを連れて、な」

 

《獣》であった男の首根っこを掴み、ユーゴはーーー口元は見えないままだがーーーにやりと笑った。

 

「ーーーっ!そいつは……‼︎」

 

男の顔を見て、俺は驚きを口にする。エレフセリアで見た顔だからでありーーー常にリョウの傍らに姿を置く、ドレッドヘアの男だったからだ。

 

 

 

 

 

「……ちっ」

 

とあるビルの天井で黒い影が手に匣兵器を持ち舌打ちをした。

今回自身がつかえている主人から直接命じられた任務、《666(ザ・ビースト)》の計画する《禁忌ノ禍稟檎(プロジェクト・マルス)》の第一段階、それを自分が根城にしている街で、さらに自分に任せていただけることに六冥獣の男は歓喜していたのだ。これがうまくいけば自分は他の六冥獣より一歩先んずることができる、そう思っていた。

 

しかし、突如現れた少女にせっかく用意したパーティーをめちゃくちゃにされたのだ。早速部下と自身の匣兵器で殺そうとしたが、主人から今は手を出すなと連絡が入りそのまま撤退させた。

自分が企画しクスリによって壊れる人間の様を見るのを楽しみにしていた彼は非常に不機嫌になっていた。

 

「ボス、監視を任せていたものがやられたそうです」

 

そこへ、自分の部下の一人、リョウが報告をしてきた。

どうやら捷豹(ジャガー)はやられたらしい。

 

「ご安心を、次のプランはもう考えてあります。紅蓮の存在は予想外でしたが、次は間違いなく成功するでしょう」

 

紅蓮、ここ最近あちこちで《666(ザ・ビースト)》の関連施設を襲撃している存在だ。

 

「俺の計画を狂わせやがって……大人を舐めるとどうなるか教えてやるよ」

 

紅蓮はかなりの戦闘力があるようだが問題ない。六冥獣である自身に楯突いたことを後悔させてやろう、男はそう決めた。

 

「そういえば、先ほど報告があったのですが……増援が来るそうですよ。そろそろ来るそうなんですが……」

 

「ここにいるぜ」

 

すると、突如声が聞こえ、そちらを向くと黒スーツの男が立っていた。

 

「……まぁいい、来たからにはしっかり働けよ」

 

六冥獣の男は黒スーツを一瞬見てすぐに空へと視線を移した。

 

 

 

 

その後、ユーゴとともにみんなと合流し、透流は頭を下げた。それからすぐにドーン機関の指示により、サラと合流して学園への帰路に就いた。

 

「ベラドンナの相談役リョウ、彼は____供給者だと判明した」

 

橘がそう断じる理由は、エレフセリア付近で保護したベラドンナのメンバーからもたらされた情報によるものだ。

そいつは道端に座り込み、呼吸を荒くして大量に発汗するというドラッグへの禁断症状を発症していた。人目のある中で《禍稟檎(アップル)》を口にしようとしていたところを橘に止められ、誰から手に入れたという問いに対してリョウからだと白状した。

そのリョウはというと、火災の起きた時刻を境に姿を消した。

 

「おそらくリョウが蟻(アント)の獣魔(ヴィルゾア)だと思うけど……」

 

《禍稟檎(アップル)》の供給者であり、常に傍にいた男が《獣(ゾア)》ならおそらくそうだろうが……なんか違うような気がする

 

「とりあえず今後はリョウを捕らえることを主とするけど……流石に街には姿を見せないよな……」

 

これで姿を見せるほど馬鹿には見えなかった。

 

エレフセリアの一件で蟻(アント)の《獣魔(ヴィルゾア)》は俺たちに警戒しているだろう

 

現在機関の方で行方を追っているが実家には戻っていないらしい、リョウを見つけ次第、俺たちに連絡が来ることになっている。《獣魔(ヴィルゾア)》と渡り合うのは《Ⅳ》以上の《超えし者(イクシード)》でなければ難しいからだ。

 

 

 

「さて、次にだが_____」

 

橘の視線が、あくびをしながら窓の外へ顔を向けていたユーゴへと向かう。

 

「ユーゴ。如何なる理由で、あなたは皐月に居たのだ」

 

「エージェント経由で《魔女(デアボリカ)》の伝言を____九重 透流が俺に用があるって聞いてな。たまたま日本に戻って来たことだし、じゃあ会ってみるかって連絡つけたら《666(ザ・ビースト)》関連の任務の真っ最中って話じゃねえか」

 

この時点で、ユーゴの素性については簡単に説明してある。裏社会について知っているリーリスと梓や先の《狂売会(オークション)》で顔を合わせたユリエと橘はともかく、トラやみやびにどう説明すればいいか迷ったが「《超えし者》やボンゴレ同様に公に出来ない裏社会に属する人間」と説明して納得してもらった。

「そういや今後の任務はどうなるんだ?橘とかなんか聞いてる?」

 

「いや、今のところは特に無いな」

 

話は再び任務の話へと戻る。その中で、エレフセリアについても語られた。

火災で死者は出なかったものの怪我人はそこそこ居て、病院へと搬送されたこと。

《獣(ゾア)》を見たと恐慌に陥った者は、未成年飲酒、もしくはドラックをやっていた疑いで警察に保護されたこと等々____

 

それらの話が落ち着いた頃には、モノレールまで数分のところへ戻って来ていた。

しばらく後、学園の敷地内に戻るとサラを除いた全員で理事長室へ出向くことに、もちろんユーゴも一緒にだ。

 

「以上が、本日の報告となります」

 

「わかりました。改めて明日中に報告レポートを提出するように。また、《禍稟檎(アップル)》の供給者が判明した以上、明日以降は皐月で捜査を行う必要はありません。それと、機関から例の《獣魔(ヴィルゾア)》についての新たな情報が入り次第、皆さんには動いてもらうことになりますので、そのことを念頭に置いておくようにお願いします。」

 

三國先生からの明日以降の指示が出され、これで今日の任務は終了となる。

続いて口を開いたのは黒衣の少女、朔夜だった。

 

「ご無沙汰しておりますわ、《聖庁(ホーリー)》の聖騎士様」

 

「元気そうで何よりだが、子供はそれぞれ寝る時間だぜ、《操焔の魔女(ブレイズ・デアボリカ)》」

 

「お心遣い痛み入りますわ、《煌闇の災核(ダークレイ・ディザスター)》様。……ところで、未だに《颶煉の裁者(テンペスト・ジャッジス)》様の首を刈ることはかまいませんの?そろそろお使いにならないと、ご自慢の死神の鎌が錆びついてしまいそうにおもえますわ」

 

笑顔で言葉を交わす二人に、室内の温度が下がったような気がする。

 

「……じゃ、じゃあ俺たちはこれで失礼するよ。……えっと、ユーゴは?」

 

「俺はもうしばらくこのお嬢ちゃんと話があるんでな」

 

そう返され、俺たちはユーゴを残して退出することとなった。

 

「……まぁ三國先生がいるし……」

 

妙なことにはならんだろう…絶対…おそらく……多分

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