「それじゃあトラ、俺は《沈黙の夜(サイラス)》の奴らと合流してくるよ」
「あぁ、僕はこの辺りで聞き込みをするからまた落ち合おう」
現在、俺とトラは再び皐月にしていた。
任務で皐月に来る必要はもう無かったのだが、俺は《沈黙の夜(サイラス)》にあの後の様子を聞きたかったので個人的に向かうことにしていた。
トラは例の音羽に良く似た少女のことを探ってみるそうなので二人で行くことにしていた。
「いたいた、おーい鶴屋ー」
「悠斗、無事だったんだな!!」
俺が声をかけると鶴屋と他の《沈黙の夜(サイラス)》のメンバーが数名こちらへ走って来た。
「昨日お前が火の中に飛び込んだ後、騒ぎを収めていたら見失っちまって……心配してたんだぞ」
そういえばあの後、そのまま帰っちゃったんだっけ
「悪い、心配かけたな」
「あとで鯨木さんにも謝っとけよ、あの人も心配してたんだからよ」
「もちろんだよ、ところでこっちではなにか変わったことはあったか?」
俺は鶴屋にこの街の様子を聞いてみた。
「《禍稟檎(アップル)》の数が減ったとかで値段が高騰しているみたいだな」
「あと相談役のリョウってやつが行方をくらませたってベラドンナのやつが騒いでたのを見たぜ」
「奴らも溜まり場がなくなったから一ヶ所に集まらなくなって実質的にグループとしては瓦解したも同然だな」
「なるほど……」
鶴屋が俺の質問に答えて他のメンバーが続いた。リョウの失踪とともに《禍稟檎(アップル)》の数が減って値段が高騰したとなると、やはり橘の推察通りリョウが供給者で間違いなかったのだろう
「とするとこれからはその数の減った《禍稟檎(アップル)》を無くすことか?」
「そうだな、数が減ったってだけで無くなったわけじゃねえ、今のうちに《禍稟檎(アップル)》以外のクスリもこの街から無くすんだ」
鶴屋は今後の予定を俺に教えてくれた。
「今から売人がいそうな場所を見回りしに行くとこなんだけど悠斗も来るか?」
「もちろん」
俺は鶴屋たちについて行くことにした。
「いたか?」
「だめだ、そっちは?」
「こっちもいない」
現在俺たちは人気のない路地を捜索し売人を探していたが見つからなかった。
「まぁ数が減ったってことであちこちで売れなくなったってことだろ」
「そうだな、この調子で街からドラッグが無くなれば良いな」
俺たちは内心ホッとしながら捜索を続けていた。
「おいお前ら!!またこんなとこで警察の真似事か!!」
捜索を続けていると突然声が聞こえそちらを向くと毎度お馴染みの警官ゲンさんと菊池さんの二人がこちらに歩いて来た。
「お前ら…昨日のエレフセリアの火災でもバカしていたそうじゃないか!!」
「ちょっ…ゲンさん落ち着いて……」
「うるせぇ菊池、だいたいお前もお前だ!!お前も警官ならこんな奴らに頼るような事態になってんじゃねぇ!!」
なだめようとする菊池さんにゲンさんは怒鳴りつけた。
「お前らも毎回毎回俺たちの仕事を増やしてんじゃねぇ!!」
「んなっ!?お前らがしっかりしねえから俺たちがやってんだろ!!」
ゲンさんの言葉に鶴屋は文句をいった。
「ちっ、お前らがやってることは単に誰かと喧嘩しているだけだろ、そのあと処理を誰がやってると思ってんだ」
ゲンさんは舌打ちをして言葉を続けた。
「いいか、この街を守るのは俺たち警察の仕事だ。お前らのやってることは人の仕事を増やしているだけなんだよ。わかったら余計なことをするな」
そういうとゲンさんは再度舌打ちをしてその場を去っていった。
「……悪いなお前たち、ゲンさんがキツイこと言って……」
申し訳なさそうにしながら菊池さんが謝って来た。
「でもゲンさんの言ってることもわかる。世の中には危険な連中がたくさんいる。この街を守るのが俺たち警察だ。だからここは俺たちに任せてくれ」
そういうと菊池さんは「それじゃあまた」と言ってその場を去っていった。
「ちっ……俺たちもさっさと行くぞ悠斗」
鶴屋は舌打ちをしてそのまま鯨木と合流することになった。
「なるほどな……じゃあベラドンナはグループとしてはもう瓦解したも同然だな」
「そうだな」
あの後、鯨木と合流して心配かけたことを謝った俺はその日は彼らと別れトラと合流した。
「そういや例の音羽ちゃんの方はどうだった?」
「そっちはだめだ、一つも情報は得られなかった」
どうやら手がかりは得られなかったらしい。
「……なぁトラ、音羽ちゃんってどんな子だったんだ?」
気になった俺はトラに聞いてみた。
「……僕から言わせて貰えば、物静かなところはあったが、細かなことによく目が届く、気立てのいい子であったと思うな。……少々世話を焼き過ぎるところもあったが」
「……そっか……」
いい子だったんだな、と改めて思った。しかし、仮に生きていたとしたら何故透流に気づかなかったのだろうか……それにあの炎……考えれば考えるほどに疑問が出てくる。
「音羽ちゃんは死んだんだよな?」
「あぁ、だが透流のやつがあそこまで取り乱したのをみたのは初めてだ。もう少し探ってみようと思っている」
なんだかんだでこいつは透流のことを心配してんだなと思った。
「トラ、リーリスにユリエ、ライバルは強敵だから気をつけろよ。お前がどんな趣味を持っていても俺はお前の友達だ」
「変な誤解をするな馬鹿者が!!」
トラをからかうと予想通りいいツッコミが帰って来た。
日曜の午後、学園敷地の北西区画にてーーー
「ひゃあっ⁉︎」
俺がが放った轟音と強い冷気とほぼ同時、悲鳴があがった。
「こんなところでどうしたんだ、みやび?」
呆気に取られたまま尻もちをついた姿のみやびに、俺は尋ねる。
「ゆ、悠斗くんは今日はこの辺りにいるって巴ちゃんに聞いて来たら、悠斗くんが吹雪みたいなのを出してたからびっくりして……」
俺の差し出した手をみやびがぎゅっと握り返してくる。転んだ拍子に何かが捲れ上がり、ライトグリーンのあれが見えたが、みやびが気付いていないようなので俺も何も言わずに助け起こす。
「悪いな、驚かせちゃったか」
「ううん、気にしないで。それより、今のってもしかして_____」
「あぁ、最近開発中の技だ」
榊との敗北後、俺は切り札の開発に没頭していた。奴に勝つためには少なくとも二つ、出来れば三つは切り札を手にしていなければならないと判断したためである。
バチィィィ
「ひゃあっ!?」
突然離れた場所から轟音と強い光が輝き、みやびは再び驚いた。
「悠斗くん、今のって…」
「透流だな」
透流は俺が情報収集をしているとき、ユーゴから魔術を習うことにしたらしい。
数日前、透流はユーゴから与えられた課題を無事クリアした。教わった術式を組み、《精霊との契約》とやらを一つだけ成功させた透流は、そうして魔術を行使できるようになったらしい。
「まあ使えるようになったばかりだから、発動まで時間が掛かりすぎて、実戦じゃまだ使い物にならないみたいだけどな、俺から《死ぬ気の炎》を習うことも考えたそうだけど「それじゃあ悠斗の真似をするだけになっちまう。俺自身の切り札を手に入れたい」んだって」
「そうなんだ……」
あれからも俺はみやびと時間を作っては《死ぬ気の炎》を用いた訓練をしている。炎の効率のいい使い方や応用性を現在勉強中だ。
「……ところでみやび。何か用があるのか?」
寮に戻るのを待たずにここへ足を運んだということは、何かしらの用件があるのだろう。
「あ、えっと_____た、大した用件じゃないんだけどね。あのね、これ、作ったからどうかなって……」
両手を前に突き出し、何かを差し出すようなポーズを取るみやび。
「どれだ……?」
「……あれ?」
そう、ポーズだけで、みやびの手には何もなかった。
「あ、あれ?あれっ?_____あっ!」
慌てた様子できょろきょろと周囲を見回し、みやびの視線が一点で止まる。
「はう……」
先刻、尻もちをついた辺りで転がるバスケットに、がっくり肩を落とす。
「悪い、俺が驚かせたから…」
「ううん、気にしないで」
とは言われたものの、せっかく作ってくれたものなので、やはり申し訳無く思う。
「えーっと……差し入れ、なんだよな?」
これまでにも何度か、みやびから弁当やお菓子といった手作りのものを差し入れて貰ったことがある。今回もそうかと思って訊くと、「そのつもりだったんだけど」と過去形の返事が。
「だったら休憩して頂くとするかな。向こうに日当たりのいい場所があるから行こうか」
バスケットを拾ったところでみやびが慌てる。
「ま、待って、悠斗くん。それ、落としちゃったから__________」
「バスケットを、だろ。中身はこぼれてなかったし問題ないって」
「だ、だけど_____」
困惑するみやびに、いいからいいからと俺は先を歩き出した。やがて時計塔まで通じる水路脇に到着すると、そこで腰を下ろす。
「うう、やっぱり……」
バスケットを開くと、中身のパストラミサンドとチーズキュウリサンドは少し形が崩れていた。みやびが見た目を気にするも、俺は美味しそうだと言って一つ手に取りかぶりつく。
「うん、美味いよ。さすがみやびだな」
「た、ただのサンドイッチだよ、悠斗くん……」
みやびは苦笑いしながら言うも、その表情はどこか嬉しそうにも見える。サンドイッチはさほど多くなかったと言うこともあり、雑談を交えながらも十分と経たずに食べ終えた。適度に腹がふくれた俺は、食べ終わると空を見上げるようにして寝転がった。
「ごちそうさま、みやび。はぁ……ほんと美味かった……」
「くすっ、お粗末様でした。崩れちゃったの食べてくれてありがとう、悠斗くん」
「なぁに、見た目なんて問題ないさ。気持ちが籠ってるってことの方が重要だし」
「見た目なんて問題無くて……気持ちが……」
「みやび?」
ぼけっとして何やら呟くみやびに呼び掛けると、慌てて我に返る。
「ーーーっ‼︎う、ううんっ、なんでもない、なんでもないから……!そ、それよりも、悠斗くんもなんだか随分疲れてるみたいだね?」
「ちょっと、な…新技に苦戦していて…今までと勝手が違うから苦戦しているんだ」
初めて会った頃のみやびは、勉強も運動も苦手だと力無く口にしていた彼女だが、毎日のように走り続けた結果、今ではクラス内でも指折りの体力の持ち主だ。体力強化訓練マラソンが始まるときは、自己ベストを更新しようと活き活きとした表情さえ見せている。技術的なものに関してもゆっくりとだが着実に成長しており、何事にも一生懸命に取り組むみやびの姿はとても眩しく思える。
「あ……。このまましばらく休憩するの、悠斗くん?」
せっかくだから十分くらい休憩したら、また向こうへ戻るつもりだと答えるとーーー
「そ、それだったらーーー」
「ーーー?」
きょろきょろと周囲を窺うみやびはなんだか挙動不審だ。
「こ、この前の約束、いいかな?」
恥ずかしそうに頬を赤らめながら、そっと膝を指すみやびの様に、俺は意味を理解した。
「……ど、どうかな?」
以前はとんでもないことになった膝枕だが、改めてやり直しとなった今回、早速感想を求められる。
「えっと……や、柔らかいな」
「そ、そうじゃなくて、高さの話なんだけど……」
「えっ……。だ、大丈夫。ちょうどいい」
「そっか、それならよかった」
嬉しそうな声が、山の向こうから聞こえてくる。そう、山の向こう(比喩表現)から。真上に顔を向けていると、みやびの胸が大きすぎるために顔が遮られて見えないのだ。
「あ、あのね、悠斗くん。せっかくだから、いま少しだけ眠ったらどうかな?ちょっとお昼寝をするだけでもいろいろと効率が上がるって話だし、今ならわたしが起こしてあげられるし……」
「えーっと……」
みやびの気遣いはとても嬉しい_____が、先日の出来事が脳裏をちらつく。
「あっ。だ、大丈夫だよ。悠斗くんがまた寝ぼけてえっちなことをし始めたら、今度は我慢しないで、えーっと……ぽかぽか叩いて起こすからっ。だから安心して、ねっ」
「それなら……」
そこまで言われて尚断るという理由も無いので、お言葉に甘えさせて貰うことにする。やがて俺がうとうとし始めた頃、山の向こうからみやびのあくびが聞こえてきた。
「ふわぁ……」
こくりこくりと船を漕ぐ様が、振動から伝わってくる。
(いい天気だし、眠くなるのも当然だよな……)
ぼんやりとした意識の中、苦笑する。笑っていられるのも、ここまでだった。
もにゅん。
「っっっ⁉︎」
突然、顔にーーーそれもものすごく柔らかく、重い何かが押し付けられた。いきなり顔を覆われ、息苦しさから意識が一気に覚醒する。
(なんっ……だ、これっ……って、もしかして…………#〆×♯__________っ⁉︎)
瞬間、パニックに陥りかけるも、すぐに押し付けられた何かの正体に思い至る。突如現れた難題ーーー居眠りをして、上体を前屈みにしたみやび。柔らかな太ももが土台となり、上からはもっと柔らかい両胸が俺の顔にプレス。しかもうとうとしているためか微妙に体が上下し、俺の顔を土台にして弾む豊か過ぎな膨らみが、むにょんむにょんと形を変える。
(どうすりゃいいんだ__________っ⁉︎)
手っ取り早いのは騒いでみやびを起こすことだが、それで目を覚まして状況を理解したとき大変恥ずかしい思いをさせてしまうだろう。となれば、俺が騒がず、みやびから圧力が減ったところで横に転がるなりして逃げるのがベストだと答えを出す。
一分……二分……三分ーーーと過ぎた頃、圧力が変わる。
悪い方向へ。
みやびは自身の腕を枕にし、俺の体の上で完全に熟睡を始めてしまったのだ。おかげで口元まで完全に埋まってしまい、俺はここから無呼吸となった。この状況をまさしく天国と地獄ーーーそう呼ぶのだろう。そんな言葉をよぎる中で、自身を励ます俺。
(まだ行けるぞ俺!限界を超えるんだ__________っ‼︎)
しかしながら、本来ならばとんでもなく無呼吸を続けていられる時間であるも、状況が状況なだけに心拍数が上がりまくりで_____
(もう無理だ__________っ‼︎)
限界突破。
「ん__________っ‼︎んん__________っ‼︎」
ばたばたと手足を動かし、新鮮な空気を求め続ける。もちろんその行動は、振動となってみやびの意識を揺さぶり_____
「ん、う……」
小さな呻きとともに、顔に押し付けられた重みが僅かに減った。
「ぶはぁっ!ひゅぉおおおおおおっっ‼︎」
息を吐き、そして酸素を思い切り体内に取り入れるため大きく吸う。
ずぼっ。
「もがっ⁉︎」
思い切り吸った直後、何かが突然口を覆う。
「ふわ……?え……?」
「もむ?もむもにゅ?」
「ひうんっ⁉︎」
みやびの可愛い悲鳴がした瞬間、圧力がすべて消え去る。
「ふはぁっ……!はぁっ、はあっ、はぁ……は……ふはぁあああ……」
何度も深呼吸をして、しばらくするとようやく落ち着きを取り戻してきた。
「最後の……何だったんだ……。急に口の中に入ってきて……妙に柔らかくて暖かかったけど……」
体を起こした俺は、疑問をそのまま呟き_____
「え?」
「え?」
背後からの反応に振り向く。そこではみやびが身をよじり、自身の大きな胸を両手でぎゅっと押し潰すかのように隠していた。その顔は耳まで真っ赤で_____
「い、いま、悠斗くん、わたしの、胸……口、に……」
俺は、そしてみやびも、先刻に俺が何を口に含んだのかを理解した。
「ぴゃぁあああ_____っっ‼︎ゆゆゆ悠斗くんのえっち__________っ‼︎」
「ま、待ってくれ‼︎話を聞いてくれ、みやび__________っ‼︎」
みやびはまるで橘が乗り移ったかのように、ダッシュで逃げていった。
結局、慌てて追いかけて状況を説明し、理解はして貰えたものの_____さすがに気まずく、この日はその後、部屋でも互いに言葉を交わすことはなかったのだった。
それから数日後、《禍稟檎》の件で動きがあった