アブソリュート・デュオ〜天狼〜   作:クロバット一世

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53話 正義の皮を被った悪

《禍稟檎(アップル)》_____

 

神話において、神によって食することを禁じられた果実の名を与えられたドラッグ。

悪なる意を持つマルスの別名を与えられた禁忌の果実は口にしたものを虜にし、闇へと誘う。

視覚や聴覚、触覚といった五感への刺激を快感に変える効能を持ち、一度口にしたならば二度目の誘惑を拒むのは難しい。

安価でありながらその効能から瞬く間に愛好者を増やし、かなりの数が皐月市内に出回ることとなっていた。

しかし、クリスマスイブを境に供給者が姿を消したことでその数は減り続ける一方となり、1月の半ばに差し掛かった頃には高値で取引されていた。

そのような状況下で、半ば瓦解していたベラドンナのメンバー数人に行方知れずとなっていた男_____リョウから連絡があった。

 

『みんなに伝えてくれ。中止となったパーティーをもう一度開催する』

 

リョウのメッセージを受け取った者たちは歓喜する。

彼らは皆、警察の手を逃れた《禍稟檎》の常習者、もしくは売買に深く関わっていた者ばかりで_____

姿を消した禁忌の果実の甘い蜜を、再び味わうことが出来るのだと理解して。

彼らは餓えに耐え、狂おしく待ち_____

ついにその時を迎えた。

 

 

 

 

 

 

とある一室、そこには二つの影が向かい合っていた。

 

「……今宵の宴において、主賓のもてなしは盛大に願うよ」

 

「まぁ見ていてください、必ずや期待以上の結果を出してみせますので」

 

一人は《666(ザ・ビースト)》の《圜冥主(コキュートス)》が《第一圜(カイナ)》クロヴィス、もう一人はパーティーの主催者にして《第四圜(ジュデッカ)》メドラウトが側近、六冥獣の一人の男がいた。

 

「随分と自信があるようですね。ドーン機関だけでなくボンゴレからも目をつけられているというのに」

 

「それこそ心配ないですよ、俺たち《666(ザ・ビースト)》に比べたら奴らなんて雑魚、中でも俺はメドラウトの旦那に認められた六冥獣の一人ですよ?そこらの《獣(ゾア)》とは違うんですよ」

 

クロヴィスの問いに六冥獣の男は全く気にしない様子で返した。

 

「では期待していますよ、晴の六冥獣《九頭蛇(ヒュドラ)》」

 

「ええ、見ていてくださいよ」

 

そして、宴の刻が来る。

 

 

 

 

 

 

「気持ちはわかるが焦るんじゃないぞ透流」

 

時刻が二十時を僅かに過ぎた頃_____

透流の拳が固く握られていたのに気付き忠告する。

 

「……悪い」

 

「気にすんな」

 

俺たちの視線は二百メートルほど先に在る巨大な倉庫へと向けられていた。

あの倉庫の中でベラドンナのパーティーが催される。

主催はリョウとのことで、それによりパーティーの内容もある程度は予想がつく。

情報の出所は《沈黙の夜(サイラス)》からだ。

俺たちが見回りをしていると興奮して騒いでいたベラドンナのメンバーを発見し問い詰めたところ、情報を得たのだ。

その後、学園に戻った俺が報告した結果、いまだリョウの行方を追っていた御陵衛士ともども俺たちは動くことになった。

なお、《沈黙の夜(サイラス)》のメンバーには近づかないように警告をした。

今回は本格的に危険な戦闘になる。彼らの入り込めるレベルじゃないと、その言葉に鯨木も俺を信じてくれ、鶴屋を含んだ他のメンバーも渋々だが納得してくれた。

 

場所は皐月市繁華街_____ではなく中心部よりも北側にある貸倉庫だ。調べてみればベラドンナがこれまで大掛かりなパーティーを行った際の会場として使用された記録があった。

しかし、いまだリョウの姿は無い。

 

(……本当に来るのか?それとも……罠か?)

 

エレフセリアで僅かだが闘った際、俺と透流は敵に認識されただろう。常人では有り得ない《力》を持っていることも。もしかしたら《666》がリョウの名を使って情報を流したとか……

 

「悠斗、あれ……」

 

透流が指差した方向を見るとそこには一台の車_____その車種に透流は見覚えがあるらしい。なんでもクリスマスイブの時にリョウが乗っていた車だそうだ。

 

双眼鏡で降りて来る人影を確認すると、後ろ姿だがリョウであることがわかり、別の場所で監視してた御陵衛士からも顔を確認したそうだ。

 

「ん?あの黒服……」

 

見慣れない黒スーツの男が、ケースを片手にリョウや寄り添う女、スミレの後から降りてきた。

《狂売会》の時に警護していた連中と同じ服装だったので《獣(ゾア)》の可能性も考えられる。

 

「入ったぞ」

 

背後に立つ御陵衛士、園田隊長が、リョウが倉庫内に入ると同時に呟く、その呟きに、隊長の傍で控えていた御陵衛士が手元の時計に視線を動かす。即座に動いて警戒されないように少し時間を置いてから倉庫の包囲を完成させ、その後に突入部隊が制圧するという手はずになっているためだ。

 

「時間だ。任務を開始する」

 

俺たちの背後で園田隊長が無線で任務開始を宣言し、他のの場所から倉庫を監視していた御陵衛士が包囲を開始する。

エレフセリアの一件で《獣魔(ヴィルゾア)》の存在が明らかになった為、突入部隊は《Ⅳ(レベル4)》である俺、透流、ユリエ、リーリス、サポート役に園田隊長と御陵衛士を一人加えた六人となる。

みやび、トラ、橘、梓は包囲部隊に配置されて別の場所で御陵衛士と共に行動している。

 

 

 

 

「時間だ_____突入するぞ!!」

 

「はい!」

 

こうして包囲が完成し、園田隊長の合図と共に俺たち突入部隊が動き出し、派手な音ともに二階の窓ガラスを破り、突入する。

俺たちは二階の高さに設けられた通路に立ち、吹き抜け部分から一回を見下ろす。

騒々しい音楽が響く空間にはスモークがたかれ、様々な色のレーザーが飛び交っていた、

だがここで俺たちは違和感を覚える。

 

(……参加者たちの様子がおかしい)

 

彼らは言葉を発することなく無言で、それも無表情のまま俺たちを見上げていた。

誰一人とて俺たちの突入に驚きを見せることなくだ。

その不気味さが、この場が異様であることを教えてくれる。

_____とその時だった。

 

「やぁ、久しぶりだね。歓迎するよ」

 

声の主は、一番奥に設置された一際高さのあるステージ上にいた。

リョウだ。両脇にはスミレと黒スーツがいる。

 

「あいつは……」

 

透流はどうやら黒スーツに心当たりがあるようだ。

 

「知ってるのか?」

 

「たしか《狂売会(オークション)》の時に俺と闘った灰色熊(グリズリー)の《獣(ゾア)》だ」

 

透流に教えてもらった俺は再度黒スーツを見た後、再びこの場の支配者を改めて見る。リョウも俺たちの姿を確認すると、片手を真上に上げた。その合図と共に音楽が止まり、リョウはにこやかな顔で俺たちに向かって話しかけて来る。

 

「久しぶりだね、まさかキミたちが《超えし者》だとは思いもしなかったよ。よくこんな街の情報を掴んできたものだ」

 

誤魔化しを一切口にしないところを見るとやはり罠だったようだ。

 

「隊長、予定どおりお願いします」

 

小声で園田隊長に告げると、僅かに頷く様が視界の端に映る。

《Ⅲ》の彼らに《獣魔》の相手は危険である。なので彼らには一般人の避難誘導をしてもらい、俺たちが気兼ねなく闘える状況を作ってもらうことにした。

だか_____

 

入口を大きく明け放つために園田隊長たちが一階に飛び降りた瞬間、リョウがスナップを打ち鳴らした途端_____

 

「なっ……!?」

 

そのまま傾れ掛かられ、二人は床に押し倒された。

 

「ぐ、ううっ……なんだ、この力は……!?」

 

「隊長!?」

 

まさか御陵衛士の彼らが!多数とはいえ常人に押さえ込まれるとは予想だにしなかった。

 

「せっかく舞台を用意したんだ。野暮なことはしないでもらいたいね」

 

リョウは手を横に大きく動かすと、パーティーの参加者が端に寄るように移動して中央にスペースを作った。

あからさまなさそいではあるが俺たち四人は作られた空間へ飛び降りる

 

「やっぱりこいつら様子がおかしいな…」

 

視界の端にリョウを映して警戒しつつも周囲を見ると、まるでゾンビのように参加者たちは虚ろな目で僅かに体を揺れ動かしていた。

 

「君たちには手出ししないように命じているから安心しなよ」

 

こちらの様子を見て、笑みを崩さないままリョウが告げる

 

「……こいつらに何をした?」

 

俺はリョウを睨みながら問い詰めた。

 

「…想像にお任せするよ」

 

ドラッグの症状だけで園田隊長たちが抑えられる筈がない、考えられるのは何かしらの《力》によって操られていることだ。状況的にはリョウによるものだと思うのだが…

 

(…何か違和感がある)

 

妙な胸騒ぎがしていた。

 

「さて、その前に…そこにいる人たちにも出てきてもらおうか」

 

リョウが一箇所に目をやるとそこの物陰から二つの影が出てきた。それは…

 

「ゲンさん…それに菊池さんも…」

 

そこには警察の活動服に身を包んだゲンさんと菊池さんが銃を片手に出てきた。

 

「ゲンさんがここでドラッグパーティーが行われるって情報を掴んで俺たちで来たんだ」

 

「てめえら…さっき警察に応援を出した。しばらくすりゃあ増援が来る、観念しろ」

 

ゲンさんは銃をリョウへと向けて警告した。

 

「警察ですか…彼らに僕たちを止めることなんて出来ませんよ」

 

「ほざけ、この街を守るのが俺たち警察官だ」

 

「この街を…守るですか…ふっ」

 

ゲンさんの言葉にリョウはふと笑った。

 

「何がおかしい?」

 

「いえ……街を守るのが警察官ですか……なにもわかってませんねぇ……」

 

「_____っ!!」

 

ドカァァンッ

 

リョウの言葉を聞いた瞬間、俺は全てに気付きある人へと攻撃を仕掛けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゲンさんの隣にいる菊池に

 

「な……っおいガキ!!お前何を……」

 

突然のことにゲンさんも驚きを隠せずにいた。

 

砂埃が晴れると…

 

 

 

 

 

 

 

「……ムカつくなぁ……なんで俺の正体に気付いた?」

 

鋭い目でこちらを見る菊池が俺の《長槍》を掴んでいた。

 

「我ながら恥ずかしいぜ……今の今まで気づかなかったんだからな……お前がクリスマスイブの時にエレフセリアで発した言葉を思い出した」

 

あの時奴は口にしていた。

 

「あんた言ってたよな?『おいおい…爆発どころか化け物まで出たって……!?どうなってんだよ』って、おかしいだろ?ドラッグパーティーの会場で、ましてや火災でパニックになってるやつの言葉をどうして警察のあんたが信じてるんだよ?普通幻覚症状を疑う筈だろ?」

 

でも菊池はあの言葉を疑っていなかった。つまりそれは……化け物の存在を……《獣(ゾア)》を詳しく知っているからである。

 

「そっか……ヘマしてたんだな俺って」

 

「おい……菊池……テメェそりゃどういうことだ……」

 

声が聞こえそちらを見るとゲンさんが怒りを込めた声で菊池を睨んでいた。

 

「お前なのか?お前が…ガキどもにヤクをばら撒いていた張本人なのか?」

 

ゲンさんの問いに菊池はため息を吐くと

 

「どうしたんすかゲンさん、そんなに怒ったりして。そんな怖い顔しないでくださいって」

 

「質問に答えろって言ってんだろ菊池ぃぃぃぃ!!!」

 

ヘラヘラする菊池にゲンさんは怒鳴りつけた。

それに対し菊池は苦笑いをした後、質問に答えた。

 

「ええ、そうっすよ。正確には俺が仕入れた《禍稟檎(アップル)》を部下のリョウに売らせていたんすけどね……いい職業なんすよ警察官って、クスリを欲しがりそうな奴らのリストが簡単に見れますからね」

 

菊池は自慢げに話し続け、それにゲンさんは激昂した。

 

「てめぇ……それでも警察官かぁぁぁ!!!」

 

ゲンさんは叫びながら菊池に殴りかかった。

 

「ゲンさん待っ……」

 

俺はゲンさんを止めようと声を出したが_____

 

 

 

ドカッ

 

「がはっ_____!」

 

「無駄だっつーの」

 

菊池の蹴りがゲンさんの腹部に炸裂しゲンさんは後ろの壁に叩きつけられた。

 

「たかが人間にこの俺を倒せるわけねぇだろ?」

 

ケタケタ笑いながら菊池はゲンさんに近づいた。

 

「そうそう、警察の増援ですけどうちの部下を何体かそっちに送ってるんで来ないっすよ。残念でした♪」

 

「てめぇ……本当にムカつくな」

 

俺はゲンさんをかばうように菊池の前に立ち《長槍》を構えた。すると、

 

 

 

 

 

 

「待……て……」

 

突然後ろからゲンさんが腹を抑えながら立ち上がり俺の前に立とうとした。

 

「あらら、防刃チョッキを着てたから加減を間違えたか」

 

「ゲンさん、こいつの相手は俺が」

 

ふらふらのゲンさんを止めようとすると

 

「黙れ……こいつは……絶対ゆるさねぇ……この街にクスリをばら撒いて…ガキどもを……苦しめ続けたこいつは…俺の手で倒す……この街を……こいつらなんかの好きには……させねぇ」

 

「ゲンさん……」

 

やっぱり_____と思った。口では《沈黙の夜(サイラス)》の連中にキツイことを言っていても、それは彼らを_____子供たちのことを大切に思っていたからなのだ。彼もこの街を愛し_____守ろうと戦い続けていたのだ。

 

「ゲンさん……こいつはあんたの勝てる相手じゃない。あんただってわかってるだろ?」

 

俺はゲンさんの肩を掴んで止めた。

 

「…………ちくしょお……」

 

俺の言葉を聞き、ゲンさんは悔しそうに呟いた。

 

「だから_____あんたの想い、覚悟を_____俺に預けてくれ。あんたに代わって俺がこいつを倒す」

 

「……ガキ……」

 

その言葉にゲンさんはこちらを見つめた。

 

「……すまねぇ……お前らが傷つかねえようにするために俺たち大人がいるのに……俺の力じゃこいつを止められねぇ……頼む」

 

「心配すんな、必ずこいつを倒す」

 

俺の言葉にホッとしたのかゲンさんはそのまま意識を失った。幸い命にも別状はないだろう。

 

 

 

 

 

「ほぉ……俺を倒すって?大きく出たじゃねえかガキ、六冥獣の一人である俺を倒すとかさぁ……」

 

俺を睨みながら菊池はこちらに近づいて来た。

 

「……六冥獣か」

 

ナーガと同じ六冥獣……《666》のボス、メドラウト側近の一人、もしそうなら間違いなく他の《獣》や《獣魔》よりも厄介だ。俺は警戒しながらも身構えた。

 

 

 

 

 

 

ガッシャーン

 

 

突然ガラスの割れる音が聞こえ、そちらを向くと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここかい、薬をばら撒いたっていう張本人がいるのって?」

 

腕についた『風紀』の腕章、両手にはトンファー、ボンゴレ雲の守護者_____雲雀 恭弥が現れた。

 

「雲雀……やっぱりここを見つけたか」

 

俺の質問に答えず雲雀はリョウと菊池を睨みつけた。

 

「……君たちが売り買いしてる薬が並森で出回りそうになった……おかげで危うく並森の風紀が乱れそうになったよ。だから_____咬み殺す」

 

「……どうやら数も揃ったようだしパーティーを始めましょうか。キミたちドーン機関、ボンゴレの同盟と僕ら《666(ザ・ビースト)》は、和やかに会話をするような関係じゃないからね」

 

「同感だ」

 

「始まる前に言っておくよ。もし外にいる連中がこの倉庫内に踏みいれようとしたら、参加者がどうなるか保証は出来ないよ」

 

「つまり俺たちだけで闘う限りは一般人にゃ手を出さないってわけか?」

 

「ああ。僕らは彼らに、決して手を出さないと約束しようじゃないか。良いですよねボス?」

 

「はぁ……まぁいいか」

 

リョウにボスと呼ばれた菊池はため息を吐きながらも承諾した。

どこまで信じていいかは怪しいところではあるが俺は外に待機している御陵衛士に通信し手短に情報を伝えて中への手出しは無用と伝える。

 

「それじゃあ始めようぜ菊池、お前は絶対に許さない!!」

 

俺は再び菊池に《長槍》を向けた、

 

「……上等だ。《666(ザ・ビースト)》が支配階級筆頭、《第四圜(ジュデッカ)》直属。冥府に集いし晴の六冥獣_____《九頭蛇(ヒュドラ)》菊池 義樹(きくち よしき)だ。後悔しながら地獄にいきな」

 

「ボンゴレファミリー雪の守護者、天峰 悠斗だ。お前は必ずぶちのめす。」

 

 

 

 

こうしてパーティーが始まる。

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