アブソリュート・デュオ〜天狼〜   作:クロバット一世

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54話 炎の獣

「いくよ_____」

 

「ちょ…おい雲雀!?」

 

闘いの始まりの合図と共に雲雀は菊池へと殴りかかった。

 

「おっと、お前の相手はこいつらだよ」

 

向かってくる雲雀に視線を向けた菊池がスナップを打ち鳴らすと観客から数体の異形が躍り出た。

 

「こいつら…《獣(ゾア)》…いや、《獣魔(ヴィルゾア)》もいるのか…」

 

まさか蟻(アント)の《獣魔(ヴィルゾア)》以外にも《獣魔(ヴィルゾア)》がいたとは思わなかった。

 

「こいつらはこの日のために連れて来た俺の部下さ、俺たち六冥獣は特例として《獣(ゾア)》や《獣魔(ヴィルゾア)》を自分直属の部下として引き連れることが出来るんでね」

 

菊池は得意げに解説し、《獣魔(ヴィルゾア)》たちは雲雀を取り囲み牙や爪を向けていた。

 

「雲雀、手伝おうか?」

 

俺は雲雀を見ながら聞いてみた。

 

「邪魔したら咬み殺す」

 

どうやら心配無用らしい。

 

 

 

 

気付くと周囲の参加者_____否、観客と化した連中が足を踏み鳴らし始めた。ガンガンとドラム缶を叩いていると思われる音が鳴り響き、倉庫内は突入直前よりもさらに騒々しくなっていく。透流たちを見ると透流の言っていた灰色熊(グリズリー)の《獣(ゾア)》はすでにその姿を異形にしていた。しかし、その姿は明らかに熊だけの形ではなかった。

確かに熊のような形態だが所々がどこか違う。体格は他の《獣(ゾア)》に比べて大きく腕の太さが異常である。

 

「透流_____そいつは…」

 

「気をつけろ悠斗、今のこいつは前に俺が闘った灰色熊(グリズリー)の《獣(ゾア)》じゃない…他にも大猩猩(コング)の《力》を手に入れてやがる…」

 

「《獣魔(ヴィルゾア)》ってわけか……しかもなんとまぁ面倒な組み合わせを……」

 

灰色熊(グリズリー)の腕力に大猩猩(コング)のパワーと握力まで加わるとは_____以前俺が闘った海象(ウォールラス)の獣魔(ヴィルゾア)同様の単純なパワー重視の能力は下手な特殊能力があるよりもある意味厄介だ

 

「おいおい、手前から喧嘩売っておいて俺を無視とは良い度胸だな。俺をぶっ倒すんじゃなかったのか?」

 

ふと気付くと少し苛立った様子で菊池が睨んでいた。

 

「透流_____その熊野郎は任せて良いか?俺はこいつを倒す。もしこいつが六冥獣だってんなら全力で行かないと流石に危険だ……」

 

以前闘ったナーガは生身の状態で《剛天狼(シグムント)》を使った俺と力で張り合った。

あのレベルを《獣魔(ヴィルゾア)》と一緒に倒すのは無理がある。

 

「任せろ悠斗、こいつは俺たちがなんとかする」

 

「こっちをなんとかしたらすぐに加勢に向かいます」

 

「だから安心しなさい」

 

透流、ユリエ、リーリスの言葉に俺は安心した。

彼らになら任せられると

 

「まだ蟻(アント)の《獣魔(ヴィルゾア)》の姿が見えない、警戒は怠るなよ」

 

「勿論だ!!」

 

そして俺たちは改めて互いに敵と向き合った。

 

 

 

 

 

「待たせたな六冥獣、早速始めるぞ」

 

俺は菊池に向かって《長槍》を構えた。

 

「上等だ、この俺の根城で好き勝手してくれたてめえらに俺を怒らせるとどうなるか思い知らせてやる」

 

そういうと菊池は匣兵器を取り出しリングに晴の炎を灯し、匣兵器に注入した。

 

「ギギィッ」

 

すると、匣からエレフセリアでみた晴蟹(グランキオ・デル・セレーノ)が現れた。

 

「なるほど、やっぱりこいつはてめえの匣兵器だったのか……」

 

「俺は疲れることは最低限にしたいんだよ。俺を倒したけりゃこいつらを倒してみな」

 

菊池はさらに匣兵器を取り出すと炎を注入した。

すると、今度は十匹ほどの鋭い牙を持つ魚が出てきた。

 

「こいつは……ピラニアか」

 

菊池の周囲には十匹の晴ピラニア(ピラーニャ・デル・セレーノ)が舞っている。

 

「そらてめえら、そのガキを喰い殺しな!!」

 

菊池の合図とともに晴蟹(グランキオ・デル・セレーノ)と晴ピラニア(ピラーニャ・デル・セレーノ)が襲いかかってきた。

 

晴ピラニアが俺を取り囲み鋭い牙で俺に喰らいつこうとし、俺は《長槍》で振り払い続けるも、背後から晴蟹が巨大な鋏を振りかぶって襲いかかってきた。

 

「くそっ_____」

 

俺は咄嗟に体を捻り鋏を回避してなんとかピラニアの包囲網を抜けた。

 

「あーもう!!ほんとめんどくさい!!」

 

数が多くすばしっこいピラニアの噛みつき攻撃に加えて巨大な蟹の鋏による強力な一撃、面倒なことこの上ない。

 

「天に吼えろ_____《覇天狼(ウールヴヘジン)》!!」

 

俺はすぐさま《力在る言葉》を口にし《覇天狼(ウールヴヘジン)》を解放した。

 

「ほぉ〜そいつがてめえの《焔牙》の真の力ってやつか。面白えじゃん、見せてみろよ」

 

菊池は興味深そうにその様子を見ていた。

 

「は、その余裕_____すぐに無くしてぶちのめしてやるよ!!」

 

俺は《長槍》を構えてこちらへ攻撃を向かってくる晴蟹(グランキオ・デル・セレーノ)と晴ピラニア(ピラーニャ・デル・セレーノ)を迎え撃った。

 

「オラァッ」

 

俺は食らいつこうとしてくるピラニアを見切り《長槍》をピラニアの1匹に叩きつけた。

ピラニアは《長槍》の一撃で破壊され、残りのピラニアは一斉に襲いかかってきた。

 

「その攻撃は、見たよさっき!!」

 

しかし、俺はピラニアたちの攻撃を次々と見切り1匹1匹を確実に倒していき、ついに最後のピラニアを倒した。

 

「ちっ……何やってんだ晴蟹(グランキオ・デル・セレーノ)!?早くそいつを倒せ!!」

 

「ギギィッ!!」

 

苛立ちながら怒鳴る菊池の言葉に反応して晴蟹(グランキオ・デル・セレーノ)は巨大な鋏を振りかざして飛びかかった。

 

「無駄だ!!」

 

しかし、俺は鋏を跳び上がって避けて蟹の甲殻に雪の炎を灯した《長槍》を叩きつけた。

 

「ギ……ギギ…………」

 

蟹の甲殻は凍りつき、終いには全身が凍った。

 

「てめえも……これで終わりだ」

 

そしてお俺は氷漬けになった蟹に《長槍》を叩きつけ粉々に砕け散った。

 

「ちっ……こんなガキなんかにあっさりやられてんじゃねえよ……」

 

舌打ちをしながら菊池は氷のかけらを踏み砕いた。

 

「おまえ……倒した俺が言うのもなんだけど自分の相棒をそんな風に扱うのは無いんじゃねえか?」

 

匣アニマルは自分と共に闘う相棒と言っても過言では無い。俺もガロと共にあらゆる闘いを乗り越えてきた。そんな相棒をあのように扱うなど納得がいかなかった。

 

「けっ……匣アニマルなんか所詮《死ぬ気の炎》で動く兵器に過ぎないだろ?使えない兵器に価値なんかねえんだよ」

 

「おまえ……本当にムカつくな」

 

菊池の答えに俺はさらに怒りが増した。

目の前の男は自分の仲間をまるで道具のように扱う外道であるのだ。

 

そのとき_____

 

 

 

 

「いやぁああああああっっ!!リョウ!?リョウ__________っ!!」

 

スミレの悲鳴が聞こえそちらを向くと、リョウがステージ上で倒れていた。

どうやら透流たちが一瞬の隙をついてリョウを仕留めたらしい。

 

「あーあーリョウの馬鹿、油断してるからだ」

 

それを見た菊池はため息を吐いて頭を掻く

 

「これでおまえらの戦力は減った……と見て良いのかな?」

 

そう聞きながらも俺は戦闘前から感じていた違和感を再び感じていた。

リョウが幾ら何でも簡単にやられ過ぎていないか?並みの《獣(ゾア)》を遥かに凌駕する《獣魔(ヴィルゾア)》と思わしき存在がこうもあっさりやられるか?

 

(何かを見落としている……?)

 

そのとき、俺は奇妙な違和感を感じ始めていた。

体が重い、戦闘で思った以上に体力を消耗し過ぎたのか?…………いや違う……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(この消耗は疲労によるものじゃない!!)

 

間違いない_____これは毒の類!!とすれば……《獣魔(ヴィルゾア)》はまだ戦闘不能ではない!!

 

俺はすぐさまリョウの方を見た。しかし、彼はまだ目覚めている様子は見られない……ならばと菊池の方を見たが違う_____そもそも俺は菊池から一切目を離していない……その他の攻撃をしたのならすぐに気づけたはずだ……では誰が……

 

 

 

 

「あ…………」

 

そうだ……もう1人いた……このパーティーの参加者が……リョウたちと一緒にいた仲間がもう1人……《あいつ》なら……いつもリョウと一緒にいた《あいつ》なら……リョウを影武者として俺たちに攻撃が出来る_____!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「透流_____っ!!リョウの側にいたあの女が《獣魔(ヴィルゾア)》だ!!」

 

俺が透流に叫ぶと同時に俺に向かって人影が降ってくる。

影からはまるで尻尾のようなものが生えており、その先端が俺へと襲いかかる。

 

「くっそぉ!!」

 

俺はすぐに《長槍》で防御するも影は口から液体を吐き出す。

俺は咄嗟に体を捻って回避すると液体がかかったドラム缶がシュウシュウという音とともに白い煙を上げた後、ものの数秒と経たずに溶けて消えた。

 

「酸か………」

 

「ざぁんねん、はっずれぇ♡」

 

影は、機械質のような声を発し姿を見せた。

背には蝶(バタフライ)の羽、見るからに硬質の皮膚鎧、そして蟻(アント)の顔を持つそいつは、エレフセリアで透流と対峙した《獣魔(ヴィルゾア)》に違いなかった。

 

「悠斗……そいつが……」

 

「あぁ、完全に油断してた……ほんと最近は見落としてばかりだ……たしか……スミレとかって名前だっけ?」

 

「せぇかぁい♡すぅっかり騙されてるからぁ、なぁんども笑いそうになっちゃったぁ♪でもぉ、そっちの槍使いは最後の最後でギリギリ気づいたわよねぇ♪嬉しくてついそっちを攻撃しちゃったぁ♡」

 

スミレは不満を言いながらも嬉しそうに喋った。

 

「裏社会にいるとさ……たまにあるんだよ。リーダー格が実は唯の傀儡で……その取り巻きが影で糸を引いていた裏の支配者ってパターンが、今回それを思い出してピンときたのさ、だから周りの奴らもまだ騒がしいんだろ?」

 

変わらず足を踏みならしている観客を僅かに見つつ問うと、頷きが帰ってくる。

 

「それもせぇかぁい♡あたしはぁ、蝶(バタフライ)の《力》ももってるからぁ、こういったせまぁい空間だとぉ、鱗粉で人の思考を操ったりできるのよねぇ」

 

「_____それ以外の効果もあるのでは?」

 

問いかけたのはユリエだった。

 

「んもぉ、せぇかいばっかりで、キミたちぜぇんぜんつまんなぁい」

 

腰に手を当てて、スミレは不満そうな態度をとる。

 

「スゲェだろ?そいつは俺の部下のなかでも1番優秀な奴でな、鱗粉に《獣魔(ヴィルゾア)》や《獣(ゾア)》にゃ効かないお前らにとってタチの悪い毒が入ってんだ」

 

菊池がスミレに代わり俺たちに答えを言った。

 

(やっぱり毒か……)

 

そして倉庫内に蔓延した毒は今もなお俺たちを蝕んでいる。

体力的に俺たちより劣る園田隊長たちは、意識が朦朧としているようだった。

 

「わりぃな《超えし者(イクシード)》。オレぁ今回こいつのサポート役だったのさ」

 

すると、灰色熊(グリズリー)の《獣魔(ヴィルゾア)》の男は少し複雑な表情で俺たちに謝罪した。

 

「ご苦労だったな三島 レイジ、あとは好きにしてな」

 

すると、菊池が俺の前に再び出てきた。

 

「お前は正直めんどくさい相手だからな……スミレを消されるとこっちが困るから俺が倒してやるよ」

 

「んもぉボスぅ、あたしを見くびらないでくださいよお♪」

 

「黙ってろよスミレ、今回のプロジェクトは俺が他の六冥獣を出し抜くチャンスなんだよ。手抜きが出来るか」

 

笑いながら文句を言うスミレに菊池は言葉を返した。

 

「ようやくてめえも《獣魔(ヴィルゾア)》の《力》を使うってか。望むところだ」

 

こいつが《獣魔(ヴィルゾア)》たちを部下にしているということはこいつも奴ら以上の能力を持ってることになる。

そう思って改めて俺は警戒し《長槍》を向けた。

しかし_____

 

 

 

 

 

「は?《獣魔(ヴィルゾア)》だぁ?笑わせんな」

 

菊池は俺の言葉に不満を述べた。

 

「メドラウトの旦那は俺に_____《獣魔(ヴィルゾア)》をも越える最強の《力》を俺に与えてくれたんだぜ」

 

「最強の《力》?」

 

菊池の言葉に俺は問いだしてみた。

 

「本当はこんなところで見せるようなもんじゃ無いが……匣ももう無いし、しゃあねえか」

 

すると、菊池は自身の警察の活動服の上を脱ぎだした。

そして、上はワイシャツだけになると俺に向けて凶悪な笑みを浮かべる。

 

「光栄に思いなボンゴレ!!《666(ザ・ビースト)》の最新技術_____《獣魔(ヴィルゾア)》と《死ぬ気の炎》の複合技術を見せてやるよ!!」

 

そう言うと力一杯ワイシャツを引き裂く_____そこには

 

 

胸に金属のパーツが埋め込まれており、そこには孔のようなものがあった。

 

そして俺は知っていた。形は微妙に違うがそれは未来で俺たちを苦しめたミルフィオーネの、白蘭の編み出した技術だからだ……その名前は_____

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いくぜ__________修羅開匣!!」

 

 

菊池が胸の孔に炎を注入し_____一気に菊池の炎が上昇し彼を包んだ。

 

 

 

 


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