アブソリュート・デュオ〜天狼〜   作:クロバット一世

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5話 新刃戦に向けて

週が明け、月曜日の朝。

HRの時間となり、やたらとハイテンションな璃兎が教室に入ってきた。

 

 

「おっハロー♡みーんな無事に《絆双刃(デュオ)》が決まってよかったねー♪うんうんっ☆

さてさて、パートナーが決まったことで今日から心機一転、席も《絆双刃》同士の並びに変更しよっか♪……ん?おやおやぁ?仮同居のときとパートナーが変わって無い人もいるみたいねー?九重くんも天峰くんも結局以前と同じ絆双刃だし〜」

 

俺たちの席が変わっていないのに気づいた璃兎がニヤニヤしながらこっちを見てきた。

 

「相性がよかったんです」

「わわっ!どんな相性?どんな相性?」

「性格」

「ちぇー……」

 

 

面白い答えが出てこなくて璃兎がつまらなさそうにしている。

 

 

「じゃあ九重くんの前の席に座る仲良しコンビは?」

「誰がこの筋肉バカと仲良しだ!」

 

 

トラの《絆双刃》はタツとなっていた。最終的に《絆双刃》申請を行わなかったのはトラ、タツの二人だった為、学園側が仮《絆双刃》をそのまま正式な《絆双刃》にしたと悠斗は聞いていた。

…虎と竜か、案外いい組み合わせかもな。

 

「んもー、トラくんってばセンセーへの口の聞き方がなってないよ。めってしちゃうぞ☆」

 

「断る!」

 

「ほんっとなってないなぁ。……まぁいっか。さてさて話を続けるけど、《絆双刃》も決まったことだし、早速来週に《焔牙(ブレイズ)》の使用を許可した模擬戦ーー《新刃戦(しんじんせん)》を行っちゃうよー♪」

 

その発言に生徒が驚きと戸惑いで騒めく。

《焔牙》の使用が許可された模擬戦が行われるという話は聞いていたが、これほど早くに行われるとは誰も思っていなかった。

 

「うんうん。みんなの言いたいことはよーくわかるよ。アタシも学生時代に同じこと思ったもん♡いきなり何を言い出すのよこのクソメガネーって。……あ、今の三國センセにはないしょね」

 

(ってことは月見先生の学生時代の担任は三國先生なのか…)

 

意外な事実を知ることになった。

 

「それじゃあ《新刃戦》のルール説明するから、耳を立てて聞いておくんだよー☆」

 

 

そう告げて頭の上で手を立てて、うさぎの耳っぽいアクションを取る璃兎。

 

「まず日程だけどー、来週の土曜日ーーつまりGWの前日ね。誰かが病院送りになってもいいように休み前にやるってわけ♪」

 

つまりは毎年病院送りになる生徒がいるという事だ。

 

「開始は十七時、終了は十九時までの二時間ってことで、時計塔の鐘が合図だからねー。場所は北区画一帯になるよー」

 

「……そこに学園内はカウントされるんですか?」

 

俺が口にした疑問に璃兎は親指を立てて頷いた。

 

「答えはイエス♡《焔牙》にはそれぞれ特性があるわけだし、それに合わせて正面から闘うも良し、戦略を練るも良し。地形を考慮して、いかに自分が有利な状況で闘うかも重要ってわけ♪」

 

(どうやら相当実践的な内容だな。みやびとの連携も大事になるな)

 

俺は璃兎の言葉を聞きながら今後の対策を考えていた。

自身の武器だけでなく仲間の武器にも適した環境で戦う必要があるようだ。

 

「さーてさてさて、お楽しみの対戦相手について……ななななんとー♪」

 

璃兎は満面の笑みを浮かべ、指を立てて楽しそうに言った。

 

「全員、敵♡」

 

その言葉に、俺は思わず笑みを浮かべた。

 

その日の昼休み。

俺、みやび、透流、ユリエ、巴、梓、トラ、タツの八人で昼飯を学食で食べていた。

そして食事の合間に出される話題は当然《新刃戦》の事だった。

 

「はぁ……。まだ《絆双刃》が決まったばかりなのに……」

 

「いや、決まったばかりだからだと思うぞ、みやび」

 

「俺も悠斗と同じだな。この時期だからこそ、意味があるんだと思う」

 

俺の言葉に、透流も同意した。

 

「どういうことなの?」

 

「早くから実戦形式の戦闘を経験させておきたいからだろ。授業の座学と実戦とじゃ得る経験値が違う。聞くだけのただの知識ではなく、経験として蓄積させ実感させることで本当の知識として理解させたい。簡単に言えば習うより慣れろ、実践あるのみってことだ」

 

みやびの質問に俺が答えた。

 

「ふんっ。時間帯や範囲の広さ、バトルロイヤルというルールからしても、不確定要素を高くし、より実践的な状況を用意してくれているしな」

 

「時間帯?そういえばずいぶん遅くにやるよね。それはどうして?」

 

「開始から三十分程度で夕暮れ、終了三十分前になれば日没で視界不良。視界の悪さが戦況に大きな影響を及ぼすことも経験させておきたいんだろ」

 

ましてやまだ詳しく無い地形での闘いだ、そう言った場所での闘いも将来ありえる。そういう意味もあるのだろう。

 

「そっかぁ。いろいろ理由があるんだね……。理由はわかったけど、もっと《焔牙》に慣れてからでもいいと思うのになぁ……」

 

これまで《焔牙》を扱う授業は無く、そしてこれから《新刃戦》まで《焔牙》を扱う授業は無い。

 

「みやび、今回は入試と違って負けても終わりというわけでは無いから、そう心配することはないよ。今日の放課後からは《焔牙》を使えるのだから地道に慣れていこう。もちろん俺も手伝うしさ。」

 

本日から《新刃戦》までの期間は申請さえすれば、放課後に学園内のみだが《焔牙》の使用許可が下りる。

そしてほぼ確実にクラス全員が今日の放課後から《焔牙》の訓練を始めるだろう。

だが、ここで一つ考えなければならない事がある。

 

「まぁあまり手の内をさらし過ぎないようにもしんないといけねーけど

 

《新刃戦》に向けて《焔牙》を使用する事は許可されるが、《焔牙》を使った訓練を他の《絆双刃》に無許可で見学されてしまう事だ。

いわゆる諜報行為が学校側から許可されている。

誰がどのような《焔牙》を持つのかは既に情報として与えられている。

だが同じ武器でも戦闘スタイルは人によって違い、それによって武器は様々な変化をする。

この二つが揃って初めて対策を練る事が出来るようになる。

その情報を集めるところから、つまりこの時点で既に《新刃戦》は始まっていることになる。

 

「まったく、厄介な話だな……」

 

「ふんっ、顔はそう言っていないぞ、透流」

 

「トラも透流の事言えないと思うんだが……。まぁそれを言ったら俺もか」

 

やはり、強敵との本気の手合わせがこんなにも早く叶うとは思ってもおらず、俺は楽しみで仕方がなかった。

この学園にもかなりの手練れがいる…そいつらとの闘いが楽しみで仕方がないのだ。

 

「こ、九重くんもトラくんも悠斗くんも、すごいやる気いっぱいだね……。やっぱりあの賞与があるからなの……?」

 

《新刃戦》で優秀な成績を収めた《絆双刃》には、特別賞与という名目で学年末を待たずに昇華の機会が与えられる。

必ず一度で《位階昇華》できるとは限らない為、《昇華の儀》は少しでも多く受ける事に越したことは無いというのが普通の考えだろう。

この三人は賞与以外にも理由がある。

 

「賞与があるからってわけじゃないんだけどな。もちろん、それも理由の一つだってことは否定しないけど」

 

そうみやびに返しながら、透流は俺の方を見た。

 

「次は負けないからな、悠斗」

 

「面白え、返り討ちにしてやる。」

 

不敵な笑みを向け合い、軽く拳を交わす。

透流のあの格闘センス、スピード重視の俺と違いパワー重視のストライカー、何より伊万里との闘いで見たあの技、今から楽しみでたまらない。

 

「え、えっと……」

 

「ふふっ、みやびの絆双刃はやる気十分だな。キミも頑張らないとな。」

 

「う、うん……。でも、わたしじゃ足手まといに……」

 

「大丈夫だ。俺がサポートするからな。これは一対一じゃなくって、《絆双刃》による勝負なんだからさ」

 

みやびの不安を和らげる為の言葉を俺は紡ぐ。

その言葉にみやびは少し安心したような表情をした。

 

「みやびと悠斗は中々うまくいっているみたいだな。私たちも負けてられないな梓。」

 

「…そうですね。誰であろうと容赦しません。」

 

橘の言葉に梓がそう返していた。梓は初めは周りに壁を作っていて一人でいることが多かったが今ではだいぶしたしくなれたと橘が言っていた。

確かに、初めて会った時はいつも1人で暗いところがあったが今ではだいぶ話すようになった。それも橘と仲良くなってきているからだろう。

 

「ーー《絆双刃》か……」

 

「どうかしましたか、トール」

 

「いや、《絆双刃》で思い出したんだけどさ、以前、理事長が言ってた《絶対双刃(アブソリュート・デュオ)》って何のことだったんだろうなって……」

 

「ふむ、あれか。私も気になってパンフレットを見返してみたが、そのような言葉は載っていなかったな。語感から《絆双刃》と関係することに思えるし、わざわざ理事長が我々のいずれかが《絶対双刃》に至ることを願うといったことを口にしている以上、何か重要なことではあるのだろうが……」

 

「ふんっ。彼女にとって僕らが有益な実験体モルモットと認識されたときにでも明らかになるんじゃないか?」

 

「…まぁ今はあまり気にしなくていいと思うぞ。いつか分かるだろうし」

 

悠斗は透流たちの言葉に耳を傾けながらそう言った。

 

「それにしてもモルモット、ですか……」

 

先程のトラの皮肉めいた言葉を思い出し、ユリエが眉を顰める。

 

「まぁ、そういう言い方に気分が悪くなるのはわかるよ、ユリエ」

 

「ナイ。そうではなくて……」

 

「そうじゃなくて?」

 

「私はハムスターの方が好きなので、そちらの方が……」

 

何ともズレたユリエの言葉に全員が苦笑いを浮かべていた。

 

 

 

「せいっ!!」

 

ガキィンッ

 

「きゃあ!!」

 

現在、俺とみやびは林の中で特訓をしていた。

俺の手には《長槍(ロングスピア)》が、みやびの手には巨大な《騎兵槍(ランス)》があった。

しかし、みやびは自身の《騎兵槍》の重さに振り回されていた。

 

「ふむ……」

 

休憩の際、俺はみやびの《焔牙》について考えていた。

 

「みやびの《焔牙》は威力は高いけどそのぶん重いからな……まずはしっかりと安定して持てるようにしようか。そして突き技を今は重点的に練習しよう」

 

《騎兵槍》の重さは同時に攻撃の威力に繋がる。

戦闘未経験のみやびにいきなり多くの技を教えるのは難しい、それよりも1つの技を集中して教える方が大事である。

 

「凄いね悠斗くん…色々詳しくて。私、力になれるかな…」

 

「…みやび?」

 

みやびは少し悲しそうに呟いた。

 

「…私、勉強のスポーツも得意なこと何も無いから。そんな私が悠斗くんみたいに凄い人と絆双刃になれたんだから迷惑かけないように頑張ろうとしてたんだけど…やっぱり私じゃ悠斗くんの力に…」

 

「なれるさ、俺だって苦手な相性はある。互いの苦手をサポート出来るからこそ絆双刃なんだ。」

 

自信なさげに言うみやびに俺はそう返した。

 

「…それに、俺の知り合いに勉強もスポーツも全然ダメで挙句の果てにはチワワにビビるってダメダメなやつもいるぜ…でもそいつには誰にも負けない長所がある。それと同じようにみやびにも俺より凄い長所が絶対あるさ」

 

闇に染まり、自分の命を狙った俺を友達と言い、仲間に迎えてくれた大事な親友を思い出しながらそう言った。

 

「だから、一緒に頑張ろうみやび(ニッ)」

 

「…ありがとう悠斗くん」

 

 

 

それから一週間という時間はあっという間に過ぎ去った。

それぞれの《絆双刃》が知略を巡らし、己が実力刃を研ぎ上げるには短い期間だっただろう。

準備が十分かと聞かれれば、殆どの者が否と答えるだろう。

だがそれでも幕は上がる。

夕闇と剣戟に彩られた《新刃戦》が今始まる。

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