魔法少女リリカルなのは〜聖王少女と禍具(ワース)〜   作:八雲一家

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2話

――夢を見た。なんの夢だかは覚えていない。ただ、うる覚えでいるのは、赤く染まる城と、全身を紅く染めた私だった。

 

「……ぅん…………?……ここは」

 

目が覚めると見知らぬ天井が見えた。どこだここ。それに、私は、何してたんだっけ…?

 

「……まぁ、いっか。ムラマサ、ここどこ。」

 

私はいつも一緒にいるムラマサに声をかけた。

 

「………………? ムラマサ?」

 

すぐに返事が来るはずなのに、いつまでたっても返事がこず不思議に思った私は首元のネックレスを触った。

 

「………?…………――――ッ?!」

 

そこで私は初めて違和感に気がついた……

 

「ムラマサ、が……いない」

 

――――どこ行ったの?

 

――――――――――――――――――――――

あの娘を保護してからはや3日。いまは時空管理局、本局内保護施設があり、その建物の奥には重要参考人を隔離する為、施錠付きの部屋が用意されている場所があるのでそこで管理している。

 

しかし、ずっと監視はしているもののまだあの子は一向に目が覚まさない。

 

「なぁ、ほんまに大丈夫なんか? 目ぇ覚まさせんけど」

 

私はそばにいるあの子―名はフィアと言うらしい―のデバイス、『ムラマサ』が狼の様な姿になって、主の元を離れて私といるのだ。

 

『大丈夫です。バイタルは安定していますし計算では、もうすぐ目を覚ますはずです。』

 

ムラマサがそう言うと、フィアちゃんが目が覚めたのかムクリと起き出した。

 

《……ぅん…………?……ここは》

 

どうやらまだ寝ぼけているのか目を擦っている。髪が少々乱れてアホ毛ができていた。不覚にも可愛いと思ってしまった私は悪くないと思いたい。

 

『マスターは寝起きが一番無防備ですからね。私のマスターの可愛さは世界一です!』

 

ムラマサは機械なのにも関わらず興奮した声で言う。このこもほんま主のこと好きやねぇ

 

『家族ですから』

 

「さらっと心読むのやめい!」

 

《………………? ムラマサ?》

 

私とムラマサがコントしていると、フィアちゃんが胸元にいると思っていたのかムラマサを探すようにあちこち探っていた。普段は無表情なのだが、いまはとても焦っているように見える。

 

そこで私はふと疑問に思ったことを聞いた。

 

「そういえば、フィアちゃんから離れることってあったん?」

 

『いいえ、長時間で見れば今回が初めてですね。私がフィアさまの手元に渡ってからというもの、普段は肌身離さず持っておられ外す時は水浴びの時程度ですかね。』

 

ムラマサがそう言うと続けて話す。

 

『おそらくですが、普段は誰にも触れられず怖がられておられる人ですので、そんな時に私と言う存在ができてしまったから離れられないのでしょう。当時、私が初めて喋りかけた時最初は酷く警戒なされましたがそれも一瞬で、その後は片言ながらもコミュニケーションをとろうと必死でしたね。それ以来というもの何かしらあれば私に話しかけるようになりました。

ですから長時間離れた場合、どのような反応をなされるのか全く検討がつきません。』

 

私はその言葉を聞いて思った。きっと寂しさを忘れさせるためだと。

 

《………………まぁ、いっか。むしろいつも口うるさい奴がいなくなってせいぜいしたしね。うん。

よし、ここどこかしらないけどねーよおっと!ベットがふかふか〜》

 

私たちとあった時と変わり楽しそうにベットを叩いている。しかし、その表情は無表情だった。

 

《…………………》

 

すると、急に動きを止めるフィアちゃん。どうしたんやろう?

 

《………………ムラマサ》

 

ポツっとムラマサの名前を呼ぶフィアちゃん。となりにいるムラマサは終始無言だ。

 

《…………………………寝よ》

 

布団に潜るフィアちゃん。そんな様子を観察する私たち。ふと、フィアちゃんの声が聞こえてきた。

 

《……別に、寂しくなんかないし。そんなの思ってないし。ムラマサなんていなくても平気だし……いつもひとりだった、から、こんな、の、いつもどう、り、だし》

 

フィアちゃんはブツブツと独り言をはいているが、その声がだんだんと小さくなってきた。

 

《…………グスッ……ヒグッ……ウッ……別に、寂し、く…ないもん……ズズ》

 

フィアちゃん…

 

《……グスッ……ズズ……ヒック……さ、寂しくなんて、な、いもん…スン……ムラマサいなくても…へい、きだもん…………ヒック…》

 

フィアちゃんは布団に潜り泣いていた。顔は見えないが、必死に涙を押し殺す声が聞こえてくる。

 

《…エッグ……………グス…ヒッグ……エグッ…………スン…ズズズ……ウゥッ………………むらまさぁ……どこ…いったのぉ…………ヒグッ》

 

フィアちゃんはそれでもムラマサを呼び続ける。

 

《……むらまさぁ……さみしぃよぉ……ヒック……むらまさぁ……ズズ》

 

とうとう我慢の限界がきたのか、フィアちゃんの鳴き声が大きくなってきた。ここは奥の部屋って部分もあるが聞かれたくない者も多いいので防音もしっかりしているから、この監視室以外に音が漏れることは無い…。でも、その悲痛な泣き声はこの部屋に響いていた。

 

『……マスター』

 

どこかグッとこらえるような声をだすムラマサ。デバイスなのだが、私の夜天の書から生まれたヴォルケンリッター達と似たような存在だと言われたが、まさにその通りなのかとても感情が豊かだ。今もこうしてここにいる。

なにも自分が拘束しているわけではないのだが、迷惑かけたのでその謝罪とこれからの為に全て……とは言い難いが、フィアと自分の事を話してくれていたのだ。

 

「ええよ行ってもうて。流石にあんな悲しそうに、寂しそうに泣いている子をほっとくほど私は鬼ちゃうからね」

 

私は律儀なデバイスにそういった。

 

『……しかし』

 

「しかしもなんもあらへん。自分の主が寂しがってあんたを呼んどんならいかな。悲しんでいるマスターを喜ばすのががあんたの役目ちゃうの?」

 

『…………八神はやて。ありがとうございます』

 

「ええよええよ! ほら、いったげ」

 

『はい』

 

そう言ったムラマサは魔法で転移した。【次元歩法(ディメイションムーブ)】という魔法で、目視できる距離を一瞬で移動できる短距離転移魔法だそうだ。

 

『マスター。私はここですよ。だから泣かないでください、ね?』

 

《……むらまさ?》

 

『はい。あなたの専用デバイス、ムラマサでございます。それとも、私の声をお忘れですか?』

 

《……むらまさだぁ!》

 

フィアちゃんはガバッとベットから飛び起きるとムラマサを抱きしめる。

 

《むらまさ、むらまさ、むらまさ、むらまさぁ》

 

『はいはい。落ち着いてくださいフィア。さぁ、まだ疲れているのでしょう? まだ寝ててくださいね』

 

ムラマサは自分を抱きしめていたフィアを口で優しくどけると、ベットに寝かせ布団をかける。

 

《………………いなくなったりしない?》

 

『えぇ、私はあなたのおそばにずっといますよ、フィア。だから安心してくださいね。』

 

《……うん。わかった……おやすみなさい》

 

『ええ、おやすみなさい。私の可愛い可愛いマスター』

 

《……―――Zzz》

 

『……寝ましたか』

 

――シュンッ

 

一瞬姿が消えたかと思うと、ムラマサは私のとなりに来ていた。

 

「もうえんか?」

 

『はい。これでしばらくしたら落ち着くでしょう。……それと、例の件なのですが』

 

「うちに任しときぃ! それはうちがなんとかしてみるさかい。大船に乗ったつもりでいいや!」

 

『ありがとうございます。これで心配事はありませんね』

 

「せやね。……これであとはあの子しだいやね」

 

『えぇ、そうですね。そこは何とかしますか』

 

そうして、私たちは計画の為に動き出すのだった。

 

――――――――――――――――――――――

 

あれから数時間がたち、目が覚める少女――の様な少年。

 

「……んっ、うぅ」

 

「お、目覚めたんやね」

 

『おはようございます。フィア』

 

少年――フィアのとなりで声が聞こえ、顔を声のした方へ向けると、そこにいたのは、狼モードのムラマサと八神はやてだった。

 

「………………なんのよう?」

 

最初、ムラマサの姿を見て安堵するフィアだったが八神はやての姿を見ていつもの無表情かつ冷たい声で言う。

 

「君のデバイスが止めへんかったら、君今ごろもっと酷い怪我しとったんやで? 自分の身体は大事にせな」

 

八神はやては、フィアを優しく叱る。

 

「そんなの関係ない。自分の身体は自分のモノ。あんたに心配される意味が無い。」

 

「そうは言ってもそれが大人ってもんや。まだ小さいんやから、大人の言うことくらい聞いとき」

 

八神はやてはめげずにそういうが、フィアはその言葉に言い返す。

 

「大人?……ふん。大人なんてみんな同じだ。自分が都合のいい時だけ優しくして都合が悪くなったらすぐ見捨てる。子供だから、小さいから――そういって優しく手を差し伸べ都合が悪くなれば簡単に掌を返し、そして捨てるんだ」

 

いままで無表情だったはずのフィアが、まるで感情が爆発したかのように喋り出す。

 

「ああそうさ!大人なんて生き物は自分の力よりも弱い者には手を出し、強い者には媚びへつらう。たとえ優しく手を差し伸べた奴でも自分の都合が悪くなれば簡単に裏切りそして見捨てる!

いままでそうだった! 私がいくら助けを求めてもみんな見知らぬふりし、中にはそれに交じる奴だっていた、自分の利益の為に私を欲する者もいれば、自分の害になるなら殺そうとする奴だっていた! 優しい振りをし手を差し伸べた振りをし、私を道具にしようとした奴もいた!!!!」

 

感情的になったフィアは、ひと呼吸してまた叫ぶ。

 

「それなのに、そんな奴らしかいない人間を私は信じろと? ましてやそんな奴らの代表である大人という生き物を信じろと?……そんな奴らといるくらいなら、そのまま独りになるくらいならいっその事―――死んだ方がマシだ!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

―――パァァァンッ!

 

 

 

 

 

 

フィアの死んだ方がマシと叫んだ瞬間。八神はやてはその頬を強く叩いた。

 

「そんなこと……死んだ方がマシだなんてこと言ったあかん!!!」

 

八神はやてはフィアの顔を強く掴んで無理やり目を合わせる。

 

「あんな?確かに世の中は辛いことでいっぱいや。そん中でも君はもっと辛いことにあっとると思う。私が想像も出来へんほど辛い目にあってきてると思うわ。でもな、それでも死んだ方がマシだなんて言うてはあかんよ? まだ君は若いんや。これからもっともっと知っていかなあかんもんだって沢山ある。それなのに、それを知らずに死んでいくなんてしたあかん。

それにな、命をそんな簡単に見たあかんのや。世の中にはな、死にたくないのに死んでしまう命だってある。それなのに死にたいだなんてその人達に失礼や。

何よりも、そんな汚い部分だけ見て、本当の幸せを知らないまま死ぬなんて私は絶対に許さへん!」

 

そして、はやては放心しているフィアを優しく抱きしめる。そのまま子供をあやす様に頭を優しく撫でて背中をポンポンと軽く叩いた。

 

「独りは辛いよなぁ、私は周り心配かけんと我慢しとった。けど、君は我慢せんでもええんよ?辛い時は、寂しい時は泣いてええんや。君はまだ子供なんよ、子供はな?大人にめいいっぱい甘えるのが仕事なんよ。だからいっぱい泣き、いままで我慢しとったぶん吐き出してしまい。もう、我慢しなくてええから」

 

この時フィアの心の中に、いいしれない何かが満たされる感じがした。そして、初めて本当の人の暖かさというものを知った。

 

気付けば、フィアははやての腕の中で今までの辛さをそして――寂しさを吐き出すように初めて人前で泣き叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「落ち着いた?」

 

フィアは無言で頷いた。今の顔を見られたくないのか、またずっと下を向いている。

 

 

「…………もう、大丈夫です。すみません、服が」

 

フィアは自分の涙で濡れた服をみて謝った。

 

「そんな気にせえへんとってこんなの平気やから。とりあえず君、明日には出せるけどこれからどうするん?」

 

八神はやてはおちゃらけたように、右手をヒラヒラとしながら言う。

 

「………わからない。任務が失敗した以前に、アイツらは私を殺すつもりでいてた。このまま帰ったとしても待っているのは"死"だ。……まぁ、このままいたとしても帰る場所のない私には"死"以外の道なんてないけど」

 

「もう、またそんなこと言って」

 

「あうッ!」

 

ピンッとデコピンをフィアにするはやて。フィアはデコピンされたおでこを擦りながら睨む。

 

そんなフィアを軽く無視しながら、はやては懐から一枚の紙を取り出して渡した。

 

「君が良かったら、なんやけどな。君、私の子にならん?」

 

 

「……?………よ、養子縁組み手続き!?」

 

それはフィアを養子として迎え入れる為の手続き書類だった。

 

そう、これこそ八神はやてとフィアのデバイス『ムラマサ』が話をしていた例の件と言うものだった。

 

「あなたは正気ですか!? 私はあなた達を殺しに来ていたし殺そうとした! なにより、過去に何人もの人達を殺しているのに、そんなイカれた得体のしれない奴を養子だなんて……」

 

フィアはありえないといったふうに顔を歪ませた。いままで無表情だったフィアは泣いたのか少し感情が顔に出るようになっていた。

 

「私たちを襲撃し殺しに来ていた?ああ、んなことあったなぁ~。けど、襲撃犯は『逃走』したって記憶しているんやけどな〜。なぁ、フェイトちゃん」

 

「…………え?」

 

直後、スピーカーからノイズが流れて、別の女性の声が聞こえてきた。

 

『確かに私たちを殺しにきたであろう襲撃はあったけど、事前に備えていた局員と私たち三人によって撃退』

 

『あと、その襲撃犯は私たちの包囲網を掻い潜り逃走。でも、はやてちゃんの部下であるヴィータとシグナムが犯人を捉えて捕まえたよ〜』

 

実は気絶したフィアは知らないだろうが、様子を見に来ていたであろう男が逃走。だが索敵していたヴィータとシグナムによって逮捕された。尋問の結果、その男がフィアに任務の書いた手紙を届けた犯人でありその男の仲間であろうグループも時空管理局員によって、もれなく全員逮捕されたそうだ。

 

 

「どうして?」

 

フィアは文字通り、目を丸くして驚いた。

 

事実がねじ曲げられ、自分が起こした襲撃や騒ぎが殆ど無かったことになっていた。

 

そんなフィアを見たはやては可笑しそうに笑う。

 

「さっきも言ったやろ?私も君くらいの頃に両親亡くしてるんよ。君の心に負った傷は、私なんかと比べ物にならんやろうけど」

 

はやては優しくフィアの頭をもう一度撫でた。

 

「せめて、君の心の傷を癒やしてあげたいんよ」

 

「……………………1日……1日だけ考えさせてください」

 

フィアは自分の手に持つ養子縁組手続きの紙とはやての顔を交互に見ながら言う。

 

「ええよ。いつでも時間はあるからゆっくり考え。もし答えが決まったら呼び」

 

「………………はい」

 

こうして、長い1日が終わりを告げた。


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