「えぇ…じゃあ、巴さん…またね。」
ツーツーツー…ガチャ……
「…マミちゃん何て言ってた?」
「別に、普通でしたね。こっちが拍子抜けするくらいに。」
「そうなの? 意外ねぇ。まぁ良かったわ。」
武天老師の事で何か一つ二つ言われても仕方ないかなと構えていたのだが。そんな事は一切なく、逆に夕食の誘いを断った事について丁寧に謝罪された。その後はとりとめも無い話を少し交わしただけ。
「わしはどうもマミちゃんに随分と気に入られているようでのぅ。嬉しい事なんじゃが…それ故にとでも言うべきか…そこに彼女の危うさを感じずにはおれんのじゃよ。」
二人の心配を知ってか知らずか、自身の不安を口にする亀仙人。
「…そのようですね。ですから武天老師様、どうか巴さんをよく見ていてあげてください、よろしくお願いします。」
「うむ、任せておきなさい。しかしのぅ…まさか魔女が魔法少女の成れの果てとは…」
「ほむらを魔女には絶対させねぇ!魔法だってもう使わせねぇぞ!!」
話についていけてないようにみえて、大事な点はしっかりと受け止めることが出来ている悟空なのだった。
「そういえば…ほむらちゃんの魔法…って、何なのかしら?」
暁美ほむらは魔法少女だ。それについて疑いの気持ちを抱いた事は無い。でもそうであるならば、ほむらの「魔法」というものが必ず有る。しかし、今のところ魔法と言うには程遠い、実に物理的な手段で立ち向かう彼女の姿しか見ていない。魔法少女と機関銃という本来ミスマッチである筈のそんな光景が、不思議と印象的だった。
「私の魔法…ですか。そうですね…」
ブルマの疑問に対し、ほむらはスッと目を閉じると、静かにソウルジェムに触れ、魔法少女へと変身する。
「おい、ほむら…」
「いいの、大丈夫だから…あっ、そうだわ悟空、おじいさんのドラゴンボールをちょっと貸してくれないかしら?」
「ん?…いいぞ。え~と、ほれ。」
悟空が心配そうな顔を浮かべながらも、形見の四星球を懐から取り出し、ほむらに手渡すのだった。
「ありがとう…」
ほむらは一言感謝を述べてから、受け取った四星球をそっと空中へ放る――
――――――
―――――
――――
―――
――
「あ…ら…?」
目の前にいたほむらが居ない。彼女の元より放たれたドラゴンボールが空中でピタリと静止している。悟空と亀仙人を見ると、視線をドラゴンボールに預けたまま、こちらもピタリと動かない。
「えっ!?…何なの…ウソでしょ…?」
辺り一面視界に入る物全てが、まるでモノクロ写真の如く、二色に染められている。
「……さん、ブルマさん…」
後ろから聞き覚えのある声がする。振り向くと、いつものほむらが迎えてくれた。ブルマの手を取ったまま、少し申し訳なさそうに笑みを浮かべている。繋がれた彼女の手に安心感を覚える。
「驚かせてごめんなさい、ブルマさん。」
「ほむらちゃん!!…やっぱりこれって…その、ほむらちゃんが…!?」
「えぇ…そうですね、今この世界において自由が許されるのは…多分…私と貴女だけ…」
宙に浮いたままのドラゴンボールに視線を移しながら、ほむらは続ける。
「時の流れを自由に操る…こんな背徳的な行為が許されてしまうのも…私が魔法少女だから。これが私に与えら…」
「凄い!! すんごいじゃないの!! ほむらちゃん!!!」
ほむらの手を強く握り直し、ブンブンと揺らしながら眼を輝かせるブルマ。
「時間を止める!? 自由自在に!? ほむらちゃん…ホント凄いことよコレ!! うちの父さんにだってこんなこと出来やしないわ!!」
「あ、ありがとうございます…と、とりあえず悟空と武天老師様を…」
はしゃぐブルマから片腕を何とか取り戻し、小さな悟空の手を取り、ぎゅっと握り締める。
「…お? ほむら、おめぇ…」
「あら孫くん、なんだか久しぶりねぇ。」
「何言ってんだブルマ? …っと、なんだこりゃ!?」
「あっ、悟空! 手を離さないでっ!!」
悟空の手をしっかりと掴んだまま、ブルマを傍らに、三人仲良く並ぶ。真ん中のほむら。静かなはずの彼女の世界に明るさが増していく。
「ふぅ。では武天老師様を…」
肩に手を置くようブルマに伝え、亀仙人の腕を取るほむら。
「……ふむ。」
静かに辺りを見渡すと、小さく頷く亀仙人。
「何よ、ちっとも驚かないのね。」
少し不満げな様子で、ブルマが顔を覗かせる。
「じいちゃん、じいちゃん!! ドラゴンボールが浮いてっぞっ!? これ、ほむらの仕業なんか!? オラ驚いちまったぞ!! どうなってんだ?こりゃ…」
「ちょっと! 孫くんっ…」
興奮冷めやらぬ悟空がドラゴンボールに触れようとほむらの手を放してしまう。それを何時ものようにブルマが止めに入り、うっかりほむらの身から離れてしまった。
「あっ…!」
「そのままでよい、ほむらちゃん。」
状況を元に戻そうとするほむらに対してそう促す亀仙人。
「このような世界でよく頑張って来たのぅ…。並大抵の覚悟ではここまで出来ぬ。ほむらちゃんは大したもんじゃ、よくぞ一人で…。」
何故だか妙に恥ずかしい。何か言わなくては思ったが、はい。と小さく答えることしか出来なかった。
「…うぅむ…そうじゃ! 立派なよいこは誉めてあげなくてはいかんな、うむ! …よしよし…」
いつものスケベなそれは無く、亀仙人の表情は慈愛に満ちていた。ほむらの頭を撫でるその姿は、さながら祖父と孫の様に。
「あっ…ふふっ。」
気を使わせてしまった。そう感じた瞬間、伸びてきた手がなんだか不器用な程に仰々しくて、思わず笑ってしまった。武天老師の手は温かく、とても大きく思えた。
「ほむらちゃん…今日はすまんかったの。わしが強引に話をさせてしもうた。」
「…そんな事ありませんよ…悟空やブルマさん、そして武天老師様まで私の為に力になってくれました。もう私は…こんな気持ちで、今ここに居られることが自分でも信じられないくらいに…。」
「…そうか、それは嬉しいの。…絶望の運命に抗うほむらちゃんの中には常に、まどかちゃんへの想いがあった。そうじゃろう?」
まどかと交わした約束を一時も忘れたことなど無い。
「えぇ、まどかを…まどかを絶望の運命から救い出すこと。それが私の全て…」
その為なら他の全てを投げ捨てる事さえ厭わない。実際、そうしてきた。何度も、何度も…。でも、彼らと出会えた。もう永遠の迷路に閉じ込められる事にはならない。たった一つの出口が見えた。
「偽りの奇跡なんかじゃない。本当の奇跡が今、こうして…ここにあるから…!!」
繋いだ手に想いを乗せて、武天老師をじっと見つめる。
「ありがとうほむらちゃん…。その想いはきっと、まどかちゃんに届いておるよ…。」
―ほむらちゃん…大丈夫、安心していいんだよ…だから…信じて…―
ふと、涙が溢れた。最近よく泣く。嬉しくて、嬉しくて泣いている。
「どうしたんじゃ!? 不味いことでも言ってしもうたかの?」
「…いえ、大丈夫です。とっても嬉しかったんです。有り難くて、もうどうしようもないくらいで。」
「そうか…では時の回廊を彷徨うのはもうこれで終わりじゃの。わしは、希望に満ちたほむらちゃんの未来が見たいのでな。」
「私の、未来…。」
「しかしまぁ、こやつらは面白いのぅ、見てみなさい、ほむらちゃんや。」
固まったままの悟空とブルマを見ながら武天老師が笑う。そちらではちょっとしたドラゴンボール争奪戦?が始まろうとしていた。
もちろん動きはしないが、彼らと出会ってからの日常が確かにそこにはあった。懐かしい一枚の写真を見ている様なそんな感覚を覚えてしまう。
「さて、時を元に戻そうか。この武天老師と言えども全てを見渡せる力は無いのでな、ほっほっほ。…良ければ、こやつらにも時の回廊の一端でも良い、話してやってはくれんかな。」
「…はい、では…」
武天老師に一礼してから離れると、空中のドラゴンボールをじっと眺める。手を伸ばし、四星球をそっと引き寄せながら笑みを浮かべると、優しく懐へと迎え入れた。
***
「さーて、ランチのランチは、な~にっかな~?」
「もう、美樹さんったら!!」
「実にくだらないわ。」
「あはは…」
「残念でした、自分で作ってきたの。今日はスーパーランチさんの日だから。ふふっ、朝からクリリンくんがひどい目に遭ってたわ。」
「
「多重人格ってやつかな?でも髪の色までは変わらないような…。」
「スーパーだなんて、ちょっと安易な気がするわ。少しばかりセンスを疑うわよ、巴さん。」
「あら、そうかしら? じゃあセンスの良い暁美さんに考えてもらわないといけないわね?」
「そーだそーだ。」
「確かに、ほむらちゃんのも聞いてみたいな。」
「えっ!? そもそも私は金髪のランチさんしか見たことないのよ。料理が得意な、その温和な方のランチさん?も見てからじゃないと、だから、…パ、パワフル…ランチ…?」
「ぷっ…あっはっはっ!! それじゃあ、あんたもマミさんと変わったもんじゃないじゃん! あっ…!」
「…さやかちゃん。」
この日この時、スーパーだかパワフルだか知らないが、温和なランチに戻ったのは間違いないのだった。
***
「はっ、ほっ、ふっ!!」
今日の悟空の修行場は、ブルマにうるさいからという理由で追いやられた、窓際のちょっとしたスペースだった。もちろんミクロバンド装着済みである。
「うーん…」
一方ブルマは朝から悶々としていた。ほむらの魔法を見てはしゃいでいた自分が恥ずかしく思えてくるほどに。
その彼女が頬杖をついているテーブルには、ドラゴンレーダーと印の入った地図が無造作に置かれてある。今日は隣町までドラゴンボールを探しに行く予定になっていた。
「どうしよ…」
必ず力になれると大見得きった割には、現状何も出来ない自分が情けなかった。魔女と戦える悟空達が羨ましい。
ガッシャーン!!
「あっ、やっちまった。はは…」
「孫くん!? 何やってんのよ!!」
ドタドタッとブルマがやって来ると、目に飛び込んできたのは、辺り一面ぐっちゃぐちゃになったプランターの残骸と土まみれの小さな悟空。
跡形もなくなったこのプランターはブルマがお店で見つけたお気に入りのインテリアだった。
「ちょっと軽く蹴りいれちまって…」
窓ガラスに飛び散った花びら達がなんとも切ない。
「……でも、良かったわ。こっちは無事で…。」
安堵した顔を見せたブルマは、近くの可愛らしい植木鉢を手に取ると微笑んだ。
「すまねぇブルマ。ほむらにも謝るから…」
「そんなのいいのよ。でも孫くん、忘れてないわよね?…今度なんかしたらこのギラッギラのサボテン、お尻にぶっ刺すからって!!」
「いいいい!!!???」
***
―おじいちゃん、今日はちゃんと家に居てくださいね!!―
ちょっと遅めの昼食をとり終え、茶を啜りながら、亀仙人は今朝のマミとのやり取りを思い出していた。
「しかし、マミちゃんにはのぅ…」
「マミさんがどうかしたんですか武天老師様?」
思わず口にしてしまい、クリリンからツッコミが入る。
「ん、いやいや何でもないんじゃ…」
「何ですか~?教えてくださいよ~。」
「しつこいぞクリリン!!…もう一つバイト増やすかの?」
「えっ!? いやいや、もう十分ですよ! あっランチさん、片付け僕も手伝いますよ~。」
そそくさとランチの元へ逃げて行くクリリン。
「まったく、呑気なもんじゃの…」
マミと一緒に穏やかに日々を過ごす事。それが当面の間亀仙人に課せられた使命だった。
ほむらの過去は凄惨を極めていた。繰り返し巡った日々の中で、彼女が捨てざるを得なかったもの、変えざるを得なかったものが、語るほむらを通して亀仙人には伝わった。こんな年端もいかぬ少女が体験すべき事では無かった。そして、その渦の中で、慌てふためくマミの姿も見えた。
「…ワルプルギスの夜…のぅ。さて…」
お茶を飲み終え、大きく伸びをする。テレビの電源を入れ、食い入るように画面に見いっていた。
***
「のろいなぁ。やっぱり筋斗雲で来た方がよかったんじゃねぇのか?」
風見野行きのバスの中、外を見ながら悟空が溢す。
「ダメよ。」
ブルマが一言で一蹴する。
「ふふっ。あ、でも筋斗雲かぁ。私も乗りたかったかも。」
悟空とブルマのやり取りを見て、つい笑ってしまうまどか。
「そうね。筋斗雲もついて行きたそうにしてたわ。」
よしよしと、筋斗雲を撫でて家を出てきた。最早ほむらの習慣になりつつある。
「ハイハイみんな、そろそろ風見野みたいよ。」
***
「えっと、これが後5分であっちが10分。これを待ってる間に…」
今日という今日は必ず食べて貰うわよ!!と言わんばかりの気迫で懸命に調理に勤しむマミ。
「あ、おじいちゃん。もうちょっと待ってて下さいね。それに今日はもうお出かけしちゃダメですよ!」
「あぁもちろんだとも。せっかくマミちゃんが頑張ってるんじゃからの。ここでゆっくり待たせてもらうよ。」
そう言い残すと部屋に戻り、わざわざキッチンに椅子を持ってきて腰を掛ける。
「そういえばマミちゃんや。あの喋る犬っころは何処へ行ったんじゃ?マミちゃんが可愛がっておったんじゃろ。あれから見かけておらんが。」
「えっ、喋る犬っころって…ふふっ、まさかキュゥべえの事ですか? そうですね…多分家には来てないと思いますけど…。どうかしましたか?」
「いや、それがの…」
「僕は犬なんかじゃないよ。僕の名前はキュゥべえ。」
***
「ふぅ、レーダーの反応からすると、ここの筈なんだけど…」
賑やかな市街地を通り抜け、本道から外れたひっそりとした場所で立ち止まる。
「この中だったらちょっと困ったわね。」
「これは…」
「なんだかちょっとさみしい感じ。」
「何だこのきたねぇ家は?」
各々の思いの前に在るのは、随分前に閉店した商店らしかった。あったであろう往時の面影はなく、店名は擦りきれてまともに読めなかった。赤い字で「売物件」と書かれた真新しい看板が人目を引く。
「とりあえず外から探してみましょうか。」
店の周辺から捜索を進めていくことにした。日も暮れ始めている。
「ここから数メートルってとこだろうから、中か外か微妙ねぇ。」
ブルマは全体を見ながらドラゴンレーダーとにらめっこ。ほむらはボロボロの自動販売機の廻りを。まどかは古びた業務用の冷凍庫の廻りを。悟空はというと、ほむらの横でなにやらしゃがんでいた。
「うーん、このままだと窓ガラス割るしかないわね。」
店の入り口の前で腕を組み、堂々と不法侵入の算段をたて始めるブルマ。
「おっ!!」
悟空に視線が集まる。
「石どけたらよ、ムカデが取れた!! 焼いて食うか?」
満面の笑みでガシッっと大きなムカデを掴んでいる。
「食べないわよ!!!! バカッ!! あんたは屋根の上でも見てきなさい!!」
「丸焼き旨いのになぁ…。」
うねうねと生きのいいムカデを名残惜しそうに地面に離すと、ピョンっと屋根に上る悟空。難を逃れたムカデはそそくさとほむらの横を抜けていった。
「ひっ…!! …久しぶりに見たわ、ムカデなんて。」
「ふふっ…何時見ても元気いっぱいだよね、悟空くんて。」
「ったくもう! はぁ、ちょっと休みましょ。歩き通しで疲れちゃったでしょ。」
店の軒下にベンチが設置してある。一息つけるように、ちょっとした休憩に使われていたのだろう。三人で仲良く腰を据える。
「はい、じゃあこれ。」
ホイポイカプセルから冷蔵庫を取り出し、ジュースを配るブルマ。
「ふ~こりゃ意外と時間かかるかもねぇ。夜までには何とかしたいけど。」
「ごめんなさい。私がついていきたいって言っちゃったから…。」
「良いのよまどかちゃん。一緒に来れて楽しかったわ。ここに有るのはわかってるんだし。」
「そうよ。私も楽しかったわ、まどか。」
「おーい、屋根の上にはドラゴンボールねぇぞ。」
屋根から顔を覗かせながら、くるっと一回転。綺麗に着地を決めた。
「ねぇ、悟空くん。その背中の…赤い棒みたいなの。 ふふっ、かっこいいね。」
まどかの目の前に降り立った悟空の背中には、筒に入った棒状の物がさげてあった。艶のある赤い先端が頭を出している。悟空が身に付けていると、おもちゃの類いにも見えそうな。
「おっ、こいつか? こりゃオラ自慢の如意棒だ!」
「如意棒? へぇ~なんだか凄そう…!」
「ちょっくら見せてやるか。」
店先で棒術を見せながら、演舞を披露する悟空。その側で、楽しそうに声をかけながらまどかが見守っている。
「まどかちゃんも煽てるの上手ね。」
「ふふっ、そうですね。」
ブルマとほむらがジュース片手に二人で笑いあう。こんな一時の休息も悪くない。
「棒よ、のびろっ!!」
「えっ?」
ギューーーーーーーーン!!
「あれ、伸びるの?」
「そうよ。でもあそこまで伸びるのは久しぶりに見たわね。」
悟空の掛け声と共に、空に向かって物凄い速度で伸びて行く。棒の先端はもう目では追えない程に。魔女の結界で武器として使っていたのは知っていた。まさかこんなことができるとは。
「凄い!! びっくりだよ!え~!? どこまで伸びちゃったんだろ?全然見えなくなっちゃった!! 」
「え~と、たしか月までなら行った事あるぞ。」
「月までっ!? ウソっ!?」
「たしかウサギもいたぞ、ピョンピョン跳ねてたな。へへっ!よ~し、棒よ、もどれっ!!」
ギューーーーーーーーン!!
「…本当なんですか? 悟空が嘘をつくとは思えないけれど…。」
「えぇ、多分ホントよ。まぁ、私も月までついていったわけじゃないけどね。」
そんな事可能なのか。流石に月までは色々とおかしいだろと思ったが、もう考えるのをやめた。
「でも何であの時、孫くん…。でも、もう月は無くなっちゃったし…。」
「えっ!? 月が無くなったって、どういう…」
またよく分からない事をブルマが言い出す。
「あ、あぁぁ…ほむらちゃんっ!! 次の満月っていつ!?」
「どうしたブルマ?でっかい声出して…」
「い、いや何でもないわ。気にしないで。あっ、まどかちゃん!ちょっとこっち来て、孫くんにもジュースあげてくれる?」
「あ、そうですね!わかりました。」
「ブルマさん、満月ならまだ先だと思いますけど…?」
「ほむらちゃんごめんね、帰ってから話すわ。ちょっと忘れてただけ。大したことないから。」
「そうですか…。」
こっちの世界にも月はあった。あっちの世界はジャッキー・チュンなる人物(武天老師)が月を破壊して、その心配はなくなった。まぁ、悟空が満月を見なければ問題ない。可哀想だが、しっぽを切っておくという手段もあるし。
「はい、悟空くん。気が利かなくてごめんね。好きなの選んで良いよ。」
「まどか、ありがとう! おっ、冷えた棒まであるぞ!!」
冷蔵庫を開けてやると、悟空が嬉しそうに近寄ってくる。キラキラとした目で中を覗くその姿は純真無垢な子供のまま。
「うひゃあ~つめてぇ!ははっ!」
「ふふっ、タツヤ見てるみたい。」
両手いっぱいにアイスを抱えて無邪気に笑う悟空を見ながら、まどかは微笑む。この店の顛末を知ることはもうできない。恐らくこんな光景がたくさんあったのだろう。店先で駄菓子片手に、はしゃぐ子供達の姿が目に浮かんだ。
「…ねぇ、ほむらちゃん、きっとこの中は色んなアイスでいっぱいだったんだろうね…。」
「えぇ、そうね…。」
今は空っぽの古びたアイスケースに柔らかな眼差しを向けながら、薄く掠れた、雪を模した絵にそっと触れる。
「子供達が元気に遊びながらね、今日はどれにしようかって…。こっちの自販機も、きっと…」
半壊した自動販売機の前に立ち、静かに思いを馳せる。商品のラインナップは、コーラ、ソーダ等の一般的なものだったが、傾いたり、倒れたまま放置されている。盤面左上から大きく割れが入り、そこからはもう何が売っていたのかは分からなくなっていた。
「…哀しいね…」
そう呟くと、折り重なって倒れたままの商品パッケージを手に取る。出来る限り元あった場所へと、一つ一つ丁寧に戻していく。
「あっ…」
色褪せた商品パッケージを片手に、小さく声をあげるまどか。
「ほむらちゃん、ほらっ…!」
差し出すまどかの両の手に、夕日を纏い、照り輝く小さな球体が、ひっそりと優しく包まれていた。
***
「まどか…ちゃんとドラゴンボール見つけたかな。…ま、あたしには関係ないか…。」
―さやかは、僕を苛めてるのかい―
―何で今でもまだ、僕に音楽なんか聴かせるんだ。嫌がらせのつもりなのか―
―僕の手はもう二度と動かない。奇跡か、魔法でもない限り治らない―
「そうだよ…奇跡も魔法も…あるんだよ…。」
***
「かんぱーい!!」
無事ドラゴンボールを探しだしたお祝いとして、風見野のラーメン屋に寄って帰ることにした。
「まどかちゃんお手柄ねぇ!」
「はい、見つかって良かったです。ふふっ。」
「よくやったわ、まどか。」
「ラーメンまだ来ねぇのかなぁ。」
まどかが見つけたドラゴンボールには星が5つ入っている。五星球だった。
「せっかくだし、悟空くんのドラゴンボールも見せてほしいな。並べてみたいし。」
「そうね。悟空、まどかに見せてあげて?」
「ん、いいぞ、ちょっと待ってろ。」
握りしめていた箸を一端置いて、四星球を取り出す。
「ほれ。」
「ありがとう、悟空くん。わぁ~やっぱり綺麗だなぁ…。あっ…!」
ブゥゥン…
「あら、少し輝きが増した?」
「多分、共鳴してるのよ。互いを引き合う様にね。ドラゴンレーダーでキャッチしている特殊な電波と似たような物だと思うわ。」
「へぇ~。全部集まったところ見てみたいなぁ。きっと…」
「綺麗でしょうね…。」
心穏やかに、ドラゴンボールをじっと眺めるほむらとまどかだった。
「ひゃ~食った、食った~!ごちそうさま~!」
豪快に最後のスープを飲み干し、実に満足した様子で丁寧に手を合わせる。この店のラーメンが相当気に入った様だ。
「何時もながら、よくあの体にあれだけ入るわ。」
「ふふっ…なんて幸せそうな顔なのかしら。」
「あははっ、でもたくさん食べられるって、凄い事だよね。」
ほどなくして、悟空がトイレにいっている間に会計することにした。
「げっ…!!」
金額を見てブルマの顔がひきつる。一般的なラーメン屋で叩き出せる会計の額ではない。財布が随分と軽い。底知れぬ悟空の胃袋のなせる技という他無いのか。
「おっ、もう帰るんか? まっ腹八分目っていうもんな。」
ズッコケかけたが、まぁ元々の資本はこいつだしと思う事にして、大量の割引券を手に退店するのだった。
「ふぅ、取り敢えず3つ集まったけど、やっぱり魔女を狩るしか無いのかしら…うーん。」
帰る道すがら、ドラゴンレーダーを見つめながらブルマがぼやく。
「えぇ、見つけた場所は魔法少女絡みのものばかり、地道に魔女を狩るしかないと思います。恐らく今日の五星球も…。」
「そうね。孫くん、いっぱい食べたんだから魔女退治、頼んだわよ!」
「おぅ! オラが全部倒してやるぞ!!」
悟空が力こぶを作って答える。
「そうだね。頑張らないと!」
まどかも悟空と同じポーズで楽しそうだ。
「わぁ~流石にあれだけ食べるとお腹もこんなになるんだね。お腹いっぱいのたぬきさんみたい。ほむらちゃん、見てっ。」
「これは…凄いわね。サスサス…」
「ぽーんぽん。ふふっ。」
「オラ太鼓じゃねぇぞ。ははっ!」
パンパンのお腹は思ったより堅かった。まどかがいい音色を奏でている。
「ホント、仲のおよろしいことで…何よりね。…後4つ、か…。」
カチカチッ…
「ん? ドラゴンボールの反応が1つ増えてるっ!?」
「えっ!?」
「本当ですか?」
「おっ!次はどの辺だ?」
「あぁ、これ…マミちゃんやるわねぇっ!ほら見てっ!」
ブルマが指差す先には、2つ寄り添うように半分重なりあって点滅する、ドラゴンボールの反応が映し出されていた。
***
「あんたの言ってた通り、あいつら堂々とあたしの縄張りに入ってきやがった。」
「わざわざ報告しに来てくれたのかい?杏子。でもそれにしては随分遅かったね。」
「マミの奴に家族が出来たって聞いたからさぁ。ていうか、なんだよあのスケベなじいさんは?」
「羨ましくて、ずっとみてたのかな?」
「ふん、あんなもんに興味はねぇよ。あたしはあたしなりに久々の見滝原を満喫して来たんだよ。」
「どうするつもりだい?杏子。」
「決まってんじゃん。要するに、ぶっ潰しちゃえばいいんでしょう?」
お読みいただきありがとうございました。読んだ人いるのかなw
ご意見ご感想お待ちしております。コロナで色々大変ですが、ほそぼそと投稿頑張ります。次いつかなw