無地の魔導書   作:青ボタン

1 / 3
ページ1 『僕で遊んでるだけだろ』

『…嗚呼、卒業してしまった。本当にこれからどうしようか…』

遂に3月は終わり、球磨川禊は書類の上でも箱庭学園を卒業した。就職も大学も決まらないまま卒業してしまったのだ。当然行く宛もなく、取り敢えずは家に引きこもるという選択肢しか球磨川には見つからなかった。

 

『まあ、不知火ちゃんにスキルを改造してもらった以上、やる事はあるのだけれど。』

 

安心院さん探しもね、と心の中で呟く。一応今までの自分の行動の贖罪が今の目的だが、何百年掛かっても、安心院なじみを探すことだけはやめないと彼女が居なくなった時に誓っている。彼女が死ぬわけは無いのだから、いつか必ず見つかるはずだ。

 

『はぁ…どこにいるんだよ、安心院さんは…』

「なんだい?僕に用があるのかい?球磨川くん」

『あるよ。色々文句も言いたいし、お礼だって言えてないんだ………え?』

 

誰も居ない安心できるはずの自宅で、不意に聞こえた懐かしい声に驚き、勢いよく後ろを振り向いた――――勢いが良すぎて、こけてしまうくらいは。しかし、そんな事が気にもならないほど、いつもの笑顔が消し飛ぶほど、球磨川は驚愕していた。

 

『安心院さん…?どうして…』

 

安心院なじみは、球磨川のリアクションに満足気な笑みを浮かべてそこに立っていた。

 

「やあ球磨川くん。久しぶりだね。その様子だと元気にしていたようだ。」

『ちょ、ちょっと待って安心院さん!君は言彦に殺された筈じゃ――』

「何言ってるんだよ球磨川くん。僕を勝手に殺さないでくれ。君は本気で僕が死んだと思っていたのかい?」

『いや、それは微塵も思っていなかったけれど、君は不可逆の言彦に真っ二つにされたじゃないか!それなのにどうして』

「その言彦は倒されて、奴の不可逆は解けただろう。だから君は五体満足でそこに立っているんじゃないか」

『だったら、何で今まで僕らに顔を見せてくれなかったのさ?安心院さんの言うことが本当なら、奴が倒されてすぐに来れた筈だろ』

「さしもの僕も、不可逆のデストロイヤーに殺されてすぐに生き返るのは難しかったのさ。前にも言っただろう?僕は人を生き返させるスキルは持っていないんだって」

『矛盾だぜ安心院さん。それだと今君が生きている理由がつかないじゃないか。もしかしてあの時死んでいなかったとでも言うのかい?』

「ああ、そうとも」

 

断言された球磨川は、不機嫌そうに安心院に食いかかった。それもその筈、彼は安心院を探すことを人生の目標にしていた様なものだったのにも関わらず、それをすぐに達成されられ、なおかつ相手は心配させた事を全く悪びれていないのだ。これではさすがの球磨川でも怒る。

 

「死ぬ寸前に肉体だけ残して別世界に飛んでいたのさ。そしてそこで療養をとっていたから、直ぐにはこっちに顔を出せなかったんだぜ」

『…そう。でも良かったよ。君が無事だったのなら。そうだ、善吉ちゃん達にも連絡を―――』

「待てよ。僕は君に用があるから君にだけ顔を見せたんだ。まだ連絡はとらせないぜ」

 

安心院は球磨川が取り出した大量の携帯をひとつ残らず没収し、何故かそのままボディチェックを始めた。

 

『ちょっ、安心院さん?何してるの?』

「ふむ、大丈夫そうだね。悪いけど球磨川くん、実はさっき僕が言ってた世界に忘れ物をしちゃったんだよ。だから君にそれをとってきてもらいたいんだ。」

『断固拒否する』

「拒否権はない」

 

全力で逃げようとする球磨川だが、手首を掴まれたせいで逃げられない。

 

「まあ、向こうに行ったら色々サポートはしてあげるから安心していいぜ。安心院さんだけにね」

『ちょっ…待っ』

「じゃあね。行ってらっしゃい球磨川くん。君の健闘を楽しみにしているぜ」

 

歪む視界の中「また勝てなかった」とだけ呟き、球磨川の意識は闇に消えていった。

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――

 

 

 

『んっ……ここは?』

 

気がつくと、球磨川は林の中に寝ていた。ただ、それは林と言うには青々としていて、尚且つ謎の光るタンポポの綿毛が辺りを飛んでいた。

 

『ここが安心院さんの言っていた異世界…?ってあれ』

 

辺りをキョロキョロと見ていた球磨川は、足元に落ちている手紙を見つけた。開いてみると、可愛らしい便箋にメッセージが連ねられていた。

 

 

 

球磨川くんへ

無事に着いたみたいだね。それは何より。恐らく君は直ぐにこの手紙を見つけられただろうから、まあ間に合うだろう。今すぐ蛍タンポポの綿毛が多い方に行ってご覧。後は流れに任せればいいさ。君の検討を祈ってるよ

安心院なじみ

 

 

 

 

『蛍タンポポってこのふわふわしたやつ?って事はこっちかな』

 

ほとんど道のない苔だらけの林の中を、ふらふらと危ない足取りで綿毛を頼りに進む。30分くらい歩き続け、球磨川の貧弱な体力が尽きかけた頃、ようやく道のようなものが見えた。

 

『よっと。はー、もう疲れた…安心院さんったら、もうちょっと近い場所に送ってくれれば良いのに』

「おい、お前!もう授与式始まるぞ!受けるのなら早く入れ!」

 

疲れ果てて道の橋に座り込んだ球磨川を見て、何やら石造りの塔のようなものの前に立っている古風な格好をした大人が声を掛けた。

 

『授与式?』

「何言ってんだお前?お前も15になったから魔導書を受け取りに来たんだろう。もう始まるぞ。早く中に入れ!ったく、これだからガキは…」

『………ありがとうおじさん!そうさせてもらうよ!』

 

これが安心院が指しているイベントであると判断し、訳が分からないなりに球磨川は建物の中に入った。因みに、15歳であると判断された球磨川禊であるが、実際は高校卒業後、詰まるところでは18歳である。参考までに。後におじさんが地面に螺子で縫い付けられた状態で発見されたことは言うまでもない。

 

塔に入ると、何人かが後ろを振り向いた。そして球磨川の服装を見て小声で話し出す。

 

「おい、今入ってきたやつの格好見ろよ!」

「なんだあれ?見たことない格好だな。下民か?」

「なんでずっと笑ってんの?キモ…」

「ヒソヒソ…」

『………いやいや、まさか初対面でこれ程馬鹿にされるとは』

 

この世界の子供は凄いななんて見当違いのことを考えつつ、辺りを見渡した。円形の塔の真ん中辺りに、中学生くらいの子供が沢山いる。その周りには保護者のような大人がこれまた沢山いた。壁は1面が本棚になっていて、その全てに本が詰まっている。

 

『ふむ、カーブしている壁にどうしてこんなにも綺麗に本が収まっているのかは置いておいて、安心院さんはここで僕に一体何をさせたいのかな?』

 

ぼうっと周りを眺めているうちに、時間になったのかとんがり帽子を被った白髪のおじいさんが出てきた。

 

「ようこそ受領者諸君―――――」

『うわ、吃驚した』

 

突然鳴り響いた声に口だけで驚きつつ、お爺さんの話を聞き流し考えを巡らせた。

 

「今日から―――誠実と希望と愛を―――私はこの――」

(とんがり帽子に誰も反応しないってことは、あれが普通のファッションなのかな?でも周りにあんなのを被っている人はいないから、偉い人しか被れない?というか、スピーカーも見当たらないのに声が響くのは何でだろう)

「えー、この地からは―――いない――いやホントマジで!」

(なかなかユーモアのあるおじさんだな)

 

「それでは…魔導書(グリモワール)授与!」

『………!』

 

その瞬間、宙を本が飛び出した。様々な大きさの本は、ふわふわと各子供の元へ落ちていく。皆緊張と期待の入り交じった顔で自分のもとに落ちてくる魔導書を受け取っていくが―――

 

『全然来な―――ごふっ』

 

全然来ないじゃないか、と愚痴を吐こうとした球磨川の脳天に、小さな本が落ちてきた。ただし、他の人とは違い、相当の高度から、自由落下で小さいとはいえハードカバーの仕様だ。となればまあ、後は分かるだろう。

球磨川は頭を抑えてその場に蹲った

 

「うわっ!?おい、大丈夫か!?」

「ハッ、なんだあの下民は。魔導書が脳天に落ちて傷をおうなど聞いたことがないぞ。いくら下民でも酷すぎるな」

「おいみろよ、向こうの下民なんて魔導書貰えてないぜ?」

「今年は変な奴が多いな!」

 

例年とは違う風景に大人達は困惑し、子供たちは爆笑の嵐に包まれた。笑われている二人のうちのもう1人――魔導書を貰えなかった少年アスタは悔しそうな顔で立ち尽くしていた。一方球磨川は、自分に落ちてきた魔導書(?)をまじまじと見てから、おもむろになかを開けた。表紙と次のページのあいだに紙切れが挟まっているのを見つけ、ぴらっとめくって読んでみる。

 

やあ球磨川くん。この本は僕からのプレゼントだ。君が考えている通り、この世界は魔法の世界でね。魔導書がないと何もできないんだよ。君が確認したかどうかは知らないが、この世界ではスキルが使えない。その代わりに魔法があるって所かな。ただし、当たり前だけど君は魔法なんて使えないぜ。魔力無いんだから。ま、そこは僕がサービスで何とかしてあげたから、君は今まで通りに、スキルを使おうとすれば大丈夫だぜ。じゃ、頑張ってくれよ。

 

ps 次は魔法騎士団に入ってね

安心院なじみ

 

そこまで読み切ると、球磨川は柄のない真っ黒な魔導書をパタンと閉じた。

 

『結局、僕で遊んでるだけだろ、安心院さん』

 

忘れ物の存在自体を疑い始めた球磨川だった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。