《魔法騎士団入団テスト当日》
『うわあお、随分と鳥がすごいね。魔法騎士団は野鳥の管理もできないような所なのかい?』
「いや。これはアンチドリ。魔力の低いやつほどたかられる鳥」
「くっそぉおお!ユノだけ近寄られもしてねえぇえ!離れろいててててて」
「なにあそこ…黒い塊が2つと…ねえねえ、あの背の高い人ちょっとイケメンじゃない?」
「えー、でも下民でしょ?まあ確かにちょっとかっこいいけど」
「アンチドリが寄り付いてない…何者だアイツ?」
噂をされているとはつゆ知らず、オセロのような三人組はずんずんと会場へと歩いて行った。1人はたかってくる鳥から逃げながら、1人は余裕の表情でゆうゆうと、もう1人は大量の鳥につつかれもはや黒い玉と化しながらもなにを考えているのか読めない笑みを顔に貼り付けて。
そして試験が始まる時間になった。僕的には主人公たるアスタ君を追っていきたい所なんだが、ここは読者の期待に合わせて球磨川君サイドを写しておこう。…おっと、ついつい口調が崩れてしまった。この一文は無かったことにしておいてくれ。やり直すぜ。
そして試験が始まる時間になった。球磨川は2人といつのまにかはぐれ、喧騒の中たった1人で壇上を観ていた。やがて、ゆっくりと何人かの男女が出てくる。
「おおおおお!団長たちだ!」
『…ふぅん、あれが団長さんたちか。…あんなプラスの集団に入団させて、安心院さんは何をしたいんだろうね?』
半年間ですっかり安心院さんの忘れ物を取りに来たという目的を忘れてしまった球磨川は呑気にそんなことを考えた。どうでもいいことは覚えているのに大事な事は忘れてしまう。それが球磨川という男だから仕方ない。
やがて入団テストが始まった。とはいえ、球磨川には魔力何ていうファンタジーなものは存在しない。それ故に“魔力があることを前提に行う魔力を測るためのテスト”なんて言うものをまともに受けられるはずもない。お得意の螺子投げでなんとか零点は免れたものの、他の者とは大差をつけられているという事実までは覆せなかった。そして、なかなか得点を得られぬまま、ついに最終種目の実戦形式の試験になってしまう。
『2人組つくってー、ってやつか。いやー、僕ってこういうの嫌いなんだよね。こんな大事な試験で事前に相手が決められていないなんて正気を疑うよ。もしも誰かが余ってしまったらどうするつもりなんだ!』
球磨川は1人で叫んだ。キョロキョロと周りを見渡すも、既に周りにはペアを組み終わったものしかいない。気づいた頃にはもう遅く、既に余ることが確定していたのである。
「おい、余ってるやついるぞヴァンジャンヌ。あのボッチどうすんだ」
『ボッチとは失礼な!きっとまだペアを組んでいない人がーー』
「ふむ、そうだね。1人余ってしまったようだ。とはいえ、誰かに2回戦ってもらうわけには行かないから…ヤミ。」
「あ?」
「君が戦ってあげたらどうだい?ただし、手加減は忘れずにね」
「え、俺ぇ?何で…いや」
団長の1人、ヤミがちらりと球磨川の方を見る。
『?』
「仕方ねえ、俺がやるしかないか…よっと」
ヤミはひらりと柵を飛び越え、球磨川の近くまで飛び降りた。ドンッという衝撃音とともに土煙が派手に舞う。
『うわっ!?ケホケホ…いきなり飛び降りるなんて、僕が潰されちゃったらどうするんだ!』
「おい、そこのボッチ、お前のペアは俺だ。構えろ」
ヤミが飛び降りてきたことで距離をとっていた他の候補者は、ヤミの言葉を聞いてざわめき出した。
「は!?あんなぱっとしない、いまんとこ成績最低クラスの下民が団長と!?」
「何だそれ、あいつ死ぬんじゃねーの?」
「1人余ったら騎士団長と戦えるなんて聞いたことないんだけど」
『へー、僕の相手は団長サマになったの?なるほど。相手にとって不足無し、って感じかな?』
「いや、お前みたいな魔力の
そう言いつつもヤミは刀を構えようとはしない。仁王立ちのまま、ちょいちょいと球磨川に向かって合図を送る。
『ふむ、先手は譲ってくれるって事かな?展開が早くてちょっと混乱してきたけど、取り敢えずーーー』
ぱっと螺子を両手に構えて低い姿勢から前に飛び出す。
『先手必勝ーーってね!』
「甘いな」
一見無防備にも見える体に突き刺さろうとした瞬間、キインという軽い音と共に螺子が両断される。
「その螺子出すのがお前の魔法か?そんなんで騎士団に入れると思ってんのかよ」
『あはは、何言ってるのかな団長さん。今のはただの小手調べだぜ?よ、っと』
さらにどこからともなく螺子を取り出し、今度は遠くから投げつける。と同時に球磨川も走り出した。しかし、投げられた螺子は避けるまでもなく当たらない。他の候補生に当たりそうになった螺子のみ破壊してから、走ってきた球磨川の攻撃も難なく回避する。
「こんな事やったっていたちごっこだぞ。分かったら降参しろ。実力はもう見えたろ」
『降参しろって言われてするわけないだろ?まあ見ててよ。本番はここからなんだから…!』
唐突に球磨川は一本の螺子を取り出す。そしてその螺子を、…候補生に向かって投げた。
「なっ…!チッ!どういうつもりだ?てめえ…」
素早く反応したヤミが螺子を切り裂く。続けざまに自分に向かって飛んできた螺子を返す刀で斬る。
『なるほどね。ま、予想してたけど…さ!』
球磨川は完全にヤミに背を向け、他の候補生に向かって螺子を投げる。投げる。投げる。その度に両断された螺子の破片が周りに飛び散る。
「クソ…おい!止めろ!ーーーチッ」
意識が一瞬散漫になった所に、死角から螺子が飛んでくる。が、まるで見えていたかのようにひとつ舌打ちを入れつつ回避する。
『あれ、避けられた?…うーん、今のがようやく出来た弱点だったんだけど…うん。じゃあ、次で最後の攻撃にするよ。それが当たったら僕の勝ち、団長さんがよけられたら僕の負けでいい?』
「いやなんだそれ。お前に有利すぎるだろ。何言ってんだ」
『えー、だって僕って弱いし。いいハンデでしょ?』
「…分かった。ただし、他のやつに危害を加えるようなんは禁止だ。…お前本当に騎士団に入りたいのか?」
『勿論だぜ!じゃ、いくよ…いち、にの…!』
ふっ、とヤミの上が暗くなる。もはや何も見ずに素早く移動すると、ズドン、という大きな音とともに、ヤミの身長くらいはあるであろう巨大な螺子が地面に突き刺さる。移動した先には既に螺子が配置されていた。それを蹴り飛ばすと、背後に気配が接近してくる。
「あんなのどこから出したんだ…?魔法か?」
『あんなのただの暗器みたいなものだったりするかもしれないんだぜ』
キイン、と螺子と刀が交差する。暫くギリギリと噛み合わされた後、お互いにバックステップで距離をとる。
飛び退いた瞬間に背の高い螺子がヤミを囲うように地面に突き刺さった。
「あん…?今更足止めか?」
『これで…おしまい!』
球磨川が1本の螺子を真っ直ぐヤミに向かって投げる。それを足止め用の螺子ごと横に斬ろうと刀を構え、到達しようとした螺子を切り裂いたその時。
『
ぱっと上が暗くなる。
「…!」
振り抜いた姿勢からくるっと刃を上に向け、こんどは真上に向かって振り抜く。一瞬の間の後に、ドン、ドンッと真っ二つになった巨大な螺子だったものがヤミの背後に落ちた。
『あちゃ、今のでも駄目か…』
「おい、今ので終わりっつったよな?俺の勝ちだ。諦めろ」
『あーあ、また勝てなかったぜ』
くしゃくしゃと頭をかきながら、観戦していた他の人々の方に足を向ける。お辞儀もせず、スタスタと球磨川はその中に入っていった。
「…なんだアイツ」
取り残されたヤミは刀を収めて腕を組み、ただそのあとを暫く睨みつけていた。
球磨川先輩の口調が分からなくなって来ました…ヤミさんも分からん。