この家出娘にお迎えを 改め このお迎えに祝福を!   作:ひめりんご

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この家出娘にお迎えを

「『エクスプロージョン』ッッッ!!!」

 

力ある言葉を放つと同時に、凝縮された魔力が破壊の奔流となって解放される。目標は平原の先の大岩。解き放った魔力が再び収束し、大爆発を巻き起こす。爆風と粉塵が収まったとき、そこにあったはずの大岩は砕け、地面は大きく抉られていた。

「爆音も破壊力も酷すぎます。今日の私……10点……」

脱力した体を心地よい風が撫で、倒れた鼻先を青々とした草がくすぐる。今日もいつもの爆裂散歩……ではない。体を包む倦怠感は心地よいものではなく、せっかく爆裂魔法を放ったのに全然気持ち良くない。そして、いつもならそばにいる人がいない。今日は私一人だ。

朝にちょっとしたトラブルがあった。まあ、正直なところ悪いのは私だ。すぐに謝っていればそれで済んだのだろうけど、いつもの軽口の応酬がエスカレートして、売り言葉に買い言葉、アクアやダクネスの茶々も入り、イラっとして勢いで屋敷を飛び出してきてしまった。

街をぶらついても気は晴れず、かといって今更頭を下げる気にもなれず、足の向くまま、習性のように気付いたらここに来ていた。気晴らしのつもりで爆裂魔法を撃ってはみたがご覧の通りだ。というかこの状態、まずくないですかね?

「むしゃくしゃしてやった。後悔はしていない」

一人ごちる。あ、なんか今のカズマっぽいですね。

さて、街は遠い。爆裂魔法を撃ったのでしばらくは動けない。私は今一人。……嘘です、ちょっと後悔しています。最近はモンスターも少なくコントロールできているそうなので襲われることはないと信じたいです。もともと野盗の類は少ないですし、半端とはいえ爆裂魔法を見てわざわざ寄ってくることもないでしょう。なにより通常人が通らないような場所ですし、こんなところを張っている酔狂な野党もいないでしょう。まあ、いずれにしても動けないのでどうしようもありません。お日様も気持ちいいし、このまま少し……眠り……。

 

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「ギルドや商店街で見かけた者はいるが、どうやら街の外に出たようだ。守衛が出ていくところを確認している」

「カズマさーん、変な意地はってないでさっさと探しにいったらどーですかー」

帰ってきたダクネスの言葉を受け、もう何度目かもわからないがアクアがそう言ってくる。そして俺もまた、何度目になるかわからない、同じ答えを返した。

「うるさい。今日という今日は俺には一切非はない。謝るのはめぐみんだし、向こうから来ない限りこっちから出向くような理由は無い」

とはいえ後悔してないわけではない。最初はいつものちょっとした諍いだったはずなのにいつの間にかエスカレートして、いつも以上にキツいことを言ってしまった自覚はある。ここまでやってしまった以上、今更出ていくのも気まずいだけだ。めぐみんはああ見えて頭がいい。すぐに落ち着いて帰ってくる。帰ってきたら謝ってくる。そうしたら俺も謝って、アクアがちょっかい出してきて、ダクネスを巻き込んでからかって、それで元通りだ。

それで元通りなはずなんだが、いったいいつまでヘソを曲げているのか、何時間たっても帰ってくる様子が無い。見かねたダクネスが街に探しに出たがその結果が冒頭のセリフ。街の外に出ただと? 最近は魔物も少ないし大丈夫だとは思うが……仕方ないちょっと探しに

「ねえねえカズマ、めぐみんが外に出たって聞いた途端に落ち着きがなくなったけど心配になった? 口でああは言ってもやっぱり気になる?」

「バっ、ちっげーよ! 何度も言うが俺には非はない! 探しに行く理由もない!」

「そんなこと言っちゃってー。女神であるこの私があなたに啓示を与えま痛い痛い痛いーーー!!!」

駄女神はこめかみを拳でグリグリして黙らせる。

「カズマ、それくらいにしておけ。めぐみんは頭はいいし上級職でもあるが、それでもまだ小さい女の子だ。何かあってからでは遅いぞ」

「うるさいうるさーい! 不愉快だ! ちょっと街を散歩でもしてくる!」

そう言って屋敷を後にする。なぜだかダクネスが俺の装備一式を手渡してきた。おい、なんだそのやれやれみたいな表情は。俺は街を散歩してくるだけだっつーの。ちっくしょー、午前中はあんなにいい天気だったのに雲が出てきてやがる。

 

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ぶるり。寒気がして目が覚める。どれくらい眠っていたのだろう。幸いにも何かに襲われるということはなかったようだが、あれだけ気持ちよかった日差しは陰り、雨の気配が近づいてきている。体のだるさは抜けきってはいないけれど、なんとか帰らないとまずそうですね。

「よい、しょっと」

杖を支えになんとか立ち上がるが、まだ足がおぼつかない。気まずさもありどうにも足が進まない。でも、本降りになる前に少しでも街に向かわないと。

 

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「ようカズマ、なんか辛気臭い顔してんな」

「ほっとけ」

早々に顔見知りの冒険者に絡まれる。世間話でもしてれば気が晴れるかと思ったが、

「ところでお前のところの紅魔の子が街の外に行くのを見たけど、一緒じゃなかったのな」

イラッ

「俺だっていつもあいつのお守りをしてるわけじゃねーよ」

「お、おいそんな顔すんなって。ちょっと表情が暗かったから気になっただけだっての」

どうやらめぐみんが外に出たのは本当らしい。しかしそんなに顔に出ていたか。なんでもないと適当にあしらいその場を離れる。

「あれ、カズマさん? めぐみんと一緒じゃなかったんですか?」

俺はいったい何だと思われているのか。

「ようゆんゆん、俺がめぐみんと一緒じゃないのがそんなにおかしいか?」

「いえっ、そういうわけじゃないんですけど……あの、私なにか悪いことしましたか?」

ちょっと怖がらせてしまったらしい。そんなにひどい顔してるのか、俺。

「あの、私午前中に他のパーティーに入れてもらってクエストに行っていたんですけど」

うんうん、この子もだんだん成長しているな。うちの駄女神やドMや爆裂狂も見習ってほしい。

「その帰り際に、森の向こうに爆裂魔法の爆炎が上がっているのを見たんです。それでてっきりカズマさんと一緒なのかなって」

は? 爆裂魔法? 俺はここにいる。アクアもダクネスも屋敷にいた。ゆんゆんも一緒じゃない。めぐみんの習性を知っていて同行する奴はそう多くはない。え、てことはまさか一人で爆裂魔法を?

「あのバカ……っ」

ゆんゆんから大体の場所を聞き出し。俺は走り出した。顔に当たる雨粒が鬱陶しかった。

 

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やばいですね。雨が強くなってきました。体力は回復した端から消耗し、濡れた服がそれを助長しています。雨宿りをしようにもここらには大きな木も無いのでなんとか向こうの森まで行かなければ。それもこれもカズマのせいですからね、と呟こうとして、顎が強張っていることに気づいた。体がそこまで冷えているらしい。そういえばこれだけ長い時間一言も話さないなんていつぶりだろう? 学校を卒業し、アクセルに来てしばらくはパーティーに定着することもできず、しばらくすると疎まれるようになり、人と話すこともなくなっていた。そんな私を、カズマは拾ってくれた。最初こそ脅迫じみたことをしてしまったが、私を捨てずにいてくれた。カズマがいなかったら私は……。話さないといえばゆんゆんだ。最近は人付き合いも頑張っているようだが根本的なところは変わっていない。人が集まっていると委縮するのか遠慮するのか会話に加われないことも多い。会話をできないということは、こんなに苦しいものだったか。

「帰ったら、もう少しゆんゆんの相手もしてあげましょうかね……」

思考が散漫だ。いつの間にか雨は本降りとなり、平衡感覚もおかしくなって……というかここはどこだろう? まさか道に迷った?

戻って正しい道を探そう。

……カズマ。

戻るにしても道がわからないけれど。

……カズマ。

下手をしたら遭難、はもうしていますね。

……カズマ。

今の体調では最悪野垂れ死んでしまうかもしれません。

……カズマ。

ダメだ頭が働かない。なんでかカズマのことばかり浮かんでくる。こんなことになるのであれば、さっさと謝って、屋敷に帰っていればよかっ……

ガラッ

支えにしていた杖の先の感覚が無くなり、上下がわからなくなる。

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

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クソッ、雨が鬱陶しい。視界も悪い。雨具でも持ってくるんだった。もう日も落ちてきている。千里眼スキルが無かったら俺が遭難するところだった。ゆんゆんから聞き出した場所はおそらく最近の爆裂散歩の定番スポットで間違いない。道は一本道、何事もなければどこかでぶつかるはず。それだったらいいけど、もうすぐ着いちまうってのに見つからない。どこかで雨宿りしてるかもしれないけど、この森を抜けるとそんな場所は無い。いるならこのあたりだけど……そんな様子はない。まさかまだぶっ倒れてる? 

「ハァ、ハァ、ハァ……嘘だろ、いない?」

まさかここじゃなかった? そもそもゆんゆんの勘違い? いや、うっすらだが新しい爆裂痕が見える。あれは昨日までは無かった。ここで爆裂魔法を使ったことは間違いない。なんだ岩の破片がゴロゴロしてるじゃないか。威力不十分10点。

「って、爆裂ソムリエやってる場合じゃない。ここにはいない、すれ違ってもいない、見落とした可能性はあるけど……まさか」

迷ったのか? そうなると探す範囲が膨大になる。俺一人じゃ厳しいか……。何か痕跡でもあれば……。

そんなことを考えながら森の入り口まで戻ってきた、その時

……ァァァァァァァァァァ……

悲鳴が、聞こえた、気がした。

森の奥、見ようによっては道に見えないこともない。この先か?

状況は悪い。雨は降り続け日はすっかり落ちた。千里眼スキルを使っても限界がある。気のせいってこともある。このまま踏み込んで俺が遭難するかもしれない。

……知ったことか、何とかなる。俺は運がいいんだ!

 

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いつもの食卓。とりとめもない話。アクアが酔っ払って、ダクネスがいじられて、カズマが悪乗りして、反撃を受けて、その中に私もいて。日常の風景、温かい風景。あれ? 何か言わなければならないことがあった気がする。

「……夢?」

気を失っていたらしい。確か杖が滑って、あの感覚は落ちたのだろうか? 体を起こそうとして激痛が走る。胸を打ったのか、呼吸のたびにズキズキ痛む。なんとか体を起こして辺りを見渡すと、光の差さない森の中ではあるけれど、すぐそばに1mほどのガケが立ち上がっているのを見つけた。こんな地形は見覚えが無い。やはり私は遭難しているようだ。そしてここから落ちて気を失っていた、と。このくらいなら乗り越えられますかね。

「よっ、と、っつぅぅぅぅぅぅぅっ……!」

立とうとして足首にも激痛が走る。その拍子に声が漏れ、それでまた胸が痛む。私は耐え切れず、座り込むしかできなかった。

これは、今までで一番ピンチかもしれません。私がここにいることは誰も知りません。ただでさえ人が寄り付かないところにこんな雨の夜に偶然人が通りがかるなんてことは期待できません。この場所を知っている人自体カズマ一人。あんなことの後では探しに来てくれるはずもないですよね。よしんば来てくれたとしても、私は道を外れ遭難中。声を出すこともできない。体が震えてきたのは雨に濡れたからだけではない。ひょっとしてこのまま……。

「……ごめんなさい」

呟く。この一言が言えなかったがためにこんなことになってしまった。

「ごめんなさい」

さっき見た夢を思い出してしまった。あの空間へもう帰れないのだろうか?

「ごめんなさい」

……私の名前を呼ばれた気がした。雨音が反響する森の中、きっと気のせいだ。あの人の声がするはずがない。幻聴だ。それだけこの体は限界なのだろう。それでも、その声にすがりたくて、私は……。

「かずまぁ……」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

雨が降る森の中は想像以上に視界が悪かった。千里眼スキルでも木の向こうは見えない。ここにいてくれ、そう願って回り込んでも誰もいない。一人では捜索はなかなか進まない。

「いないならいないってはっきり言ってくれ」

吐き捨てるように呟くが無茶もいいとこだ。いないんだったら返事ができるわけがない。俺もいよいよ頭がおかしくなってる。

「めぐみーん! どこだー! 返事をしてくれー!」

可能性としては、実は本当にこんなところにはいなくて、とっくに街に帰っているってのもある。いっそこれであってほしい。変な意地はった俺が悪かっただけの話だ。最悪なのはここでもない、どこか見当違いの場所で遭難しているケース。雨宿りができなければめぐみんの体力じゃぁ……。頭を振り嫌な想像を振り払う。大丈夫だ、この辺りに必ずいる。俺は運がいいんだ。

しかし、時間ばかりが過ぎていく。

いつしか雨はやんでいたらしい。枝葉から落ちる水滴がわずかに音を立てる以外は静寂と沈黙が辺りを覆いつくす。

いや、何か聞こえた気がした。目を閉じ、微かな音に集中する。どっちだ、どこからだっ?!

 

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「カズマ……」

あの人の名前を呟く。

「ごめんなさい」

こんなところで謝ってもどうしようもない。でも謝らずにはいられない。

「アクア、ダクネス、ゆんゆん……」

大事な人たちの名前を並べる。もう体の感覚も無い。こうして声を出していなければ自分がいなくなってしまいそうなくらいだ。

「カズマ……かずまぁ」

一体何度この名を呼んだだろう。あの人に会いたい、謝りたい、話しかけてもらいたい、声が聴きたい、笑顔が見たい。もう、ダメかもしれない……。

「……カズマ」

「はいはい、カズマだよ」

えっ?

「やーっと見つけた。ほら、さっさと帰るぞ。痛いとこないか?」

こんな幻まで見えるなんて、私は本当にどうかしてしまったのだろう。

「おい、なんでそこで顔を伏せる? そんなに俺の顔を見たくないのか?」

そう言って無理やり顔を上げられる。幻では、ない?

「唇真っ青じゃないか。これだけ濡れてれば仕方ないか」

「カズマ? 本当にカズマなのですか? カズマ、カズマ……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ……」

なんだか色んな気持ちがぐちゃぐちゃになって、言いたかったことも分からなくなって、私は泣きつくことしかできなかった。

 

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2人ともあまりに冷えていたので何とか火を起こして暖を取る。めぐみんの足を応急処置して、アバラの様子をみてみようとしたらセクハラはやめろと止められたが、妙に嬉しそうな顔をしていた。触ってみたことろ折れてる様子はないけどよくわからん。いつも背中では味わってるけど改めて女の子の体って柔らかいな……不可抗力ですよ? そんなに睨まないでくれ。

さて、言うべきことは言っておかないと。大きく息を吸い込んで

「こんの、大馬鹿がぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

万感の思いを込めた言葉は森中に響き渡ったのではなかろうか。そこから始まり思いの丈を綴った怒声はとめどなく続いたのだが、めぐみんはどこか嬉しそうにしていた。Mに目覚めたのかと聞いてみたら蹴られた。解せぬ。

 

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カズマの手が私の足に触れる。ちょっとがさつだけど、精いっぱい丁寧に。そんなことで妙に嬉しくなる。胸の確認に移ろうとしたときに、ちょっと気恥しくなってセクハラと言ってしまった。こんな時にそんなことをするような人じゃないのは良く分かっている。触るくらいは許してやりましょう。ちょっと邪な気配を感じたので一応睨んでおく。

一通り手当てが終わったところで、いきなり怒鳴られました。

「こんの、大馬鹿がぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

そこからも怒鳴り声は続く。怒られているのに、これだけ心配してもらえていること、そしてなによりこうして声を聴けていることが嬉しかった。何故か唐突にM認定されたので蹴っておいた。

 

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俺の気力が戻ったところで帰る算段を立てる。といっても俺がめぐみんをおぶることはもう確定事項だ。冷えた体は体力を簡単には取り戻さず、なにより足を挫いているめぐみんを歩かせるわけにはいかない。アバラが心配ではあるが、おぶってみたら思ったより大丈夫そうだ。

歩き始めたところで背中から声がかかった。

「ごめんなさい」

何のことだ? 雨の中走り回ったことか、手当の手間をかけたことか、おぶって帰ることか……見当がつかない。なのでそのまま聞いてみる。

「何のことだ?」

「あの、今朝のことです。ごめんなさい、私が言いすぎました」

「あ、あー。なんだっけ? 忘れちゃったからもういいよ」

些細なことが原因のトラブルだったはず。あれだけ謝らせようとしていたのが嘘のように綺麗に忘れていた。大したことじゃなかったんだろう。背中から何か呆れたような気配を感じる。

 

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思い切って謝罪の言葉を切り出したら、まさかの反応だった。この男今朝はあれだけネチネチ気にしておいて今更忘れただと? 素なのか忘れたことにしてくれているのかはわからないがそのままありがたく埋めさせてもらおう。言うべきことは言いました。

「カズマ」

「カズマです」

「ありがとうございます、探しに来てくれて。見つけてくれて」

「……おう」

言いたいことはたくさんある。

「カズマ」

「カズマだよ」

「どうして、私がここにいるとわかったんですか?」

「街でゆんゆんが教えてくれたんだ。この辺りで爆炎を見たって。あの情報がなかったらわからなかったからな。後でお礼しとけ」

それは癪なので、これからはもう少し構ってあげることにしよう。さっきもそんなことを考えていた気がする。

「カズマ」

「はいはいカズマだよ」

「何か話をしてください」

「何かってなんだよ。しょうがねぇなぁ……」

言いたいことはたくさんあるけれど、今はただただ会話をしたい。どんなことでもいい。そんなことを考えながら、目の前の背中に寄りかかる。

「ふふ。ねえ、カズマ」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「カズマさんですが何か?」

「カズマの背中は温かいですね。それに大きくて、なんだか安心します」

さっきからなんだ、名前を呼んではこんな恥ずかしいセリフを臆面もなくぶん投げてくる。

「これでも一応男の子だからな」

男の子だからなんか色々と意識しちゃうんですけどねっ! 大丈夫だ、こいつは今熱に浮かされているようなもんだ。発言に意味を求めるな。

「カズマカズマ……カズマ?」

ちょっと耐えられそうにないので無視してみたらいきなり泣きそうな声になる。

「……カズマさんだよ。どうした、何かあったか?」

「呼びたくなっただけです」

はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……

「まだ街まではかかるから、ちょっと寝てろ。寝心地は保障しないけどな。帰ったらヒールかけてもらって、風呂入れてもらって、さっさと寝ろ」

俺の心の平穏の為にも。

「はい、そうさせてもらいます。私は好きですよ。いつもおぶってくれる、慣れ親しんだ感覚ですし」

……はいはい。

適当にあしらっていると寝息が聞こえてきた。まあ、一晩寝かせて、また明日改めて説教だ。一連の恥ずかしい流れも持ち出してからかってやる。

 

 

 

気が付くと雨雲はすっかり消えて、綺麗な星空が広がっている。街の城壁も見えてきた。

「かずま……」

「どうした? 起こしちまったか?」

返事はない。穏やかな寝息だけが聞こえる。首だけ回してみると、星明りに弱弱しい寝顔が照らされていた。

「おかえり。あんまり心配かけるなよ」

さて、家までもう少しだ。

 

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