猫神幼女信仰を広めるために今日も剣を振る   作:トマトルテ
次の話 >>

1 / 4
1話:猫神と少年

 『覇刃祭(はじんさい)』。

 神々の代理戦争とも呼ばれるそれは、神々が己の信仰を広げるために考え出した大会である。

 

 50年に一度の期間で開かれるこの大会では、多くの剣士が最強を目指してしのぎを削り合う。

 そして剣士達が武器として振るうものが、神々が己の力を誇示するために作った神剣(しんけん)である。

 『神剣(しんけん)』は神の力の一端を込めた武器の総称であり、その能力の幅は広い。

 

 有名どころで言えば、東の神アマテラスなどは神剣を持った者に火を操る力を与える。

 このように神は神剣を己の信徒に与え、『覇刃祭(はじんさい)』で覇を競わせ宣伝していく。

 そうすることで、この神の力にあやかりたいと思う者を増やして信者を獲得していくのだ。

 

 当然、『覇刃祭(はじんさい)』で優勝した信者を持つ神の下には大量の信者が集まる。

 その影響力は凄まじく、一度の開催で容易く神々の勢力図を塗り替えてしまう程だ。

 ゆえに、この大会は裏で『覇神祭(はじんさい)』とも呼ばれたりもする。

 

 そして、以前の開催から50年が経った今年もまた『覇刃祭(はじんさい)』が開催される。

 多くの若い剣士が己の名誉のために、何より信ずる神の信仰のために旅立っていく。

 そんな中に、ある目標を抱いて参加する1人の病弱な少年と幼い神が居た。

 

 

 これは、そんな彼らの物語である。

 

 

 

 

 

「おうおう、坊主。痛い目を見たくねえなら、金目のものを全部置いてきな」

「へっへっへ、大人しく渡してくれりゃ、隣の子どもにも手は出さねえからよ」

「流石だぜ、兄貴達! こんな悪党らしいセリフ言いたくても中々言えないぜ!」

「…………」

 

 山の中にある一本の細い道。

 うっそうと(しげ)った木々が光を遮り、昼でも暗いこの道は、山を越えた先にある町に最短で行ける代わりに山賊などが出やすい。今日もまたその評判に(たが)うことなく3人組の竹槍を持った山賊が1人の少年と幼女を囲っていた。

 

「なーんて言ってるけど、どうするのカズキ?」

「…………」

「あれ、ミトの声が聞こえてない?」

 

 竹槍を持つ山賊に囲まれているというのに、緊張感が欠片もない幼女に黙したままの少年。

 自らをミトと呼ぶ幼女の方は、巫女服に似た服を着ているが真に目を引くのはそこではない。

 普通の人間とは思えない金色の瞳を持ち、特徴的な猫の黒い耳としっぽが生えているのだ。

 しかし、山賊達は薄暗くて気づいていないのか、ただ単に興味がないのか気にも留めない。

 

「はっはっはっ! 大方俺達にビビッて声が出ねえんだろうさ」

「何だよ、仕方ねえな。喋らなくていいから金とついでに刀を置いていきな」

「くぅー! 流石だぜ、兄貴。腰に刀を差した奴も兄貴達の前じゃビビるしかないんだな!」

「…………」

 

 黙ったままの少年に良い気になったのか、山賊達は勝ち誇ったようにはやし立てる。

 しかし、カズキと呼ばれた少年はそれでもなお、顔を能面のようにしたまま口を開かない。

 少年の容姿は整っており、髪は短い白髪、顔は色白で非常に端正な顔立ちをしている。

 服装は武士が身につけるような紺色の(はかま)と、腰にある一本の刀。

 

 山賊が少年を戦う武器を持っていても、戦えない臆病者だと思うのも無理はない。

 そして、それはこの状況を隠れて見守っていた人間にとっても同じだった

 

「待てぇーい! この悪党共!」

『だ、誰でい!?』

 

 正義の味方よろしく、ミト達を守る様に茂みから飛び出してきた少女に、山賊がノリ良く叫ぶ。それを言われてしまえば、何故だか答えねばならない義務感に襲われた少女は名乗りを上げる。

 

「私はマナ! 剣聖の弟子にしてアマテラス様より神剣(しんけん)火御座ノ御剣(ひのおましのごけん)』を授かった者です!」

「なッ! 剣聖の弟子だと!?」

「しかも神剣使いかよ!」

「あ、兄貴達これちょっとヤバいんじゃ……」

 

 マナの名乗りに目に見えて顔を青ざめさせる山賊達。

 対するマナも相手の恐怖を煽るように、刀身に赤い炎を灯して脅しを行う。

 炎が辺りを照らし出し、軽装の鎧に身を包んだマナの姿がより美しく照らし出される。

 

 人懐っこそうな顔と炎のように赤い瞳は、今はキリリと引き締められ。長い絹のような黒髪をポニーテールで束ねた姿は、まさに女侍といったところだろう。並みの人間なら戦おうとは思わない。しかしながら、山賊達はいやに前向きであった。

 

「……いや、待ちな弟達。神剣持ちは剣士3人分って良く言うが、俺達がその3人だ」

「言われてみれば、互角になるのか。それに神剣つーと売ればかなり高値になるって噂だぜ」

「そうだよな! 兄貴達と俺が居れば負けるわけないぜ!」

「来るなら来なさい! 悪党共!」

 

 3対1なら負けない。戦いは数だという真理を思い出した山賊達は元気を取り戻す。

 反対にマナの方は戦いを避けられないと理解し、一層強く柄を握る。

 後はどちらが先にしかけるか。そんな戦闘の大勢を左右する駆け引きが始まりかけた時。

 

 今の今まで黙っていた少年、カズキが遂に口を開いた。

 

 

「オェェェェェ!」

 

 

 山の中に響き渡るゲロを吐く音。

 まるで時が止まったかのように驚き硬直する山賊達とマナ。

 そんな中、ミトだけは慣れた様子で、草むらにしゃがんでゲロを吐くカズキの背を撫でていた。

 

「あー……だからずっと黙ってたんだ。気持ち悪いなら悪いって言えばいいのに」

「いや…口を開いただけで…吐きそうだったから――オエェェ!」

「ああもう! ほら、全部出してから話そうか」

 

 そう。カズキが一度も口を開かなかったのはビビってたわけでも、無視していたわけでもない。純粋に口を開いたら、胃の中のものを全てぶちまけてしまう程に気分が悪かったからである。まあ、その努力は全てゲロ()の泡となったが。

 

「……ええと…その…大丈夫ですか? 何か悪いものでも食べたのですか?」

「いや…元々体が弱くてな…別に悪いものでなくても調子が悪いと…こうな…ウプッ」

「ああ、ごめんなさい! 話さなくていいですから!!」

 

 何とも言えない空気に耐えきれなくなったマナがカズキに声をかけてくるが、再び胃の中のものを吐き出しそうになっているのを見てすぐにやめる。そして、同じくどうすればいいか分からずに固まる山賊達と共に、カズキが吐き終わるのを待つ。優柔不断と言うなかれ、誰だって全てを他人に任せて思考を放棄したいことはあるのだから。

 

「……ふぅ。ありがとう、ミト。大分楽になった」

「ふふん、このミト様にかかれば朝飯前だよ。……カズキの朝飯はゲロになっちゃったけど」

「そうだな、勿体ないことをした。まあ、今はそれどころじゃないな」

 

 布で口元のゲロを拭いてから、カズキはクルリと振り返る。

 やっとかという視線が4つ程突き刺さるが、彼は気にしない。

 

「待たせて悪かったな。まずは、マナさん。守ってくれてありがとう」

「ど、どうも」

「それから名も知らぬ山賊達」

「な、なんだよ、ゲロ野郎」

 

 山賊にゲロ野郎と酷い呼ばれ方をするカズだが、事実のため否定はできない。

 というか、本人に否定する気がない。彼にとって自分の名称はどうでもいい事柄なのだ。

 

「盗人にやる金はびた一文もない。

 そして、この刀はミトから与えられた神剣。軽々しく他人に渡せるか」

「てめえも神剣使いだと!?」

「あの人も神剣を持ってるんだ……見たことがないからアマテラス様以外の神様だろうけど」

 

 今の今までひ弱な奴だと思っていたカズキが、神剣使いだと知って怯む山賊達。

 そして、カズキも神剣を持っていると分かったマナは、興味深そうにカズキの刀を見つめる。

 カズキはその期待に応えるようにゆっくりと刀を鞘から引き抜く。

 

 純白の刀身は光を浴びて輝き、ゆったりと波打つ波紋が光を屈折させる長い太刀(たち)

 神の力が込められたその刀の名前は。

 

「行くぞ――無猫即災(むびょうそくさい)

『む、無病息災(むびょうそくさい)?』

 

 思わず口をそろえて聞き返してしまう山賊達とマナ。

 無病息災もとい『無猫即災(むびょうそくさい)』はとても刀の名前とは思えない。

 何故、病気をせずに健康であることが刀の名前になっているのだろうか。

 そんな疑問が湧き上がってくるが、それを尋ねる時間はない。

 既にカズキは戦闘準備に入っているのだから。

 

「何だ? そっちが来ないのならこっちから行かせてもらうぞ」

「チッ、調子に乗ってじゃねえぞ坊主! 行くぜ、弟達!」

「おうよ! 生意気なガキにはお灸をすえてやらねえとな!」

「俺達兄弟の結束を見せてやりましょうぜ!」

 

 刀の切っ先を向けて、嘲笑うカズキの挑発に面白い程に反応して竹槍を手に突進してくる山賊達。それを見て、マナは慌てて加勢に入ろうとするが、のんびりと欠伸をしているミトに止められてしまう。

 

「ふわぁ…ああ、助けなくても大丈夫だよ」

「でも!」

「心配しない、心配しない。カズキはあんな奴らには負けないよ。だって―――天才なんだから」

 

 山賊達の3本の竹槍がカズキを貫こうとした瞬間。一筋の銀閃が走り去る。

 

「ヒャッハー! これでぶっ殺して……あん?」

「やけに竹槍が軽いような……って!」

「俺達の竹槍がカマボコみてえに切られちまったぁ!?」

 

 そして、次の瞬間。カズキを刺そうとした竹槍は幾重にも斬り刻まれ、バラバラと音を立てて崩れ落ちていったのだった。

 

「すごい……全然見えなかった。あの一瞬で3本全部をバラバラに斬り落とすなんて……」

「ふふーん! どう、このミト様の信徒筆頭の力は?」

「はい、すごく強いと思います……え? 信徒?」

 

 カズキの強さに自慢気な様子のミトに相槌を打つマナ。

 しかし、途中でミトの物言いに違和感を覚える。

 そんな中、カズキの方は山賊達に更なる追い打ちをかけていた。

 

「ど、どうするよ、兄貴達?」

「どうするってもよ。武器が……」

「うるせえ、諦めんな弟達! 竹槍がないなら素手で行くまでだ!」

「男らしいぜ、兄貴! ……でも、やっぱ無謀じゃねえかな」

「まだやるか? それなら今度はこんなのはどうだ」

 

 未だに諦めないものの不安気な顔の山賊達に向け、カズキは再び剣を振るう。

 すると、今度は山賊達の髪の毛がモーセの奇跡のように綺麗に切り開かれ、逆モヒカンと化す。

 

「お、俺達の髪が……」

「これが最後の警告だ。俺達の前からとっとと消えろ。でないと、次に切り開かれるのはお前達のはらわたになるぞ」

 

 そう低い声で告げて、リーダー格の山賊の腹に刀の切っ先を突き付けるカズキ。

 それが止めとなった。

 

「クソ! ここは撤退して大兄貴の指示を仰ぐぞ、弟達!」

「覚えておけよ坊主! 大兄貴にかかりゃお前なんてミソッカスだ!」

「あ、待ってくれよ、兄貴達!」

 

 我先にと茂み(・・)の中へと逃げ込んでいく山賊達。

 それを見届けると、カズキはゆっくりと息を吐いて慎重に刀を鞘に戻す。

 そして、フッと息を吐き。

 

「――ゴフッ」

 

 血を吐き出す。

 

「えぇッ、血!? どこかに攻撃を受けたんですか!?」

「いや、これは激しく動いた反動だから、いつものこ――コフッ」

「ああ! また吐血してる!?」

「しょうがないなぁ、カズキは。ほら、ミトが背中擦ってあげる」

 

 突然の吐血に焦って駆け寄っていくマナ。それと反対にまたかと呆れた顔でカズキの背中を優しく擦るミト。カズの方も吐血上級者らしく欠片も慌てた様子を見せずに、血が服につかないように綺麗に吐き出している。血は染みになると落ちにくいのだ。

 

「カズキ、お疲れさま」

「ありがとう、ミト。それと、マナさんも心配してくれてありがとう」

「い、いえ。ご無事ならいいんですけど……本当に大丈夫なんですよね?」

「ああ、このぐらい大したものじゃない。それに心配してもらえたから元気いっぱいだよ」

 

 そう言って、マナに笑みを向けるカズキ。その姿にマナは漠然と人が良いんだなと思う。

 そして、取り敢えず本人が大丈夫という本の言葉を信じることにする

 同時に、カズキの強さと神剣を持っているという事実から、ある可能性に気づく。

 

「えーと、カズキさんでよろしいでしょうか?」

「ああ、改めてよろしく頼むよ。……マナさん」

「私のことはマナでいいですよ。見たところ同じ十代後半みたいですし」

「なら、マナと呼ばせてもらうよ」

 

 しかし、まずは自己紹介からだ。挨拶は人間関係の基本なのだから。

 お互いに名乗り合い、距離を縮める。そしてここからが本題である。

 

「それでつかぬことをお聞きしますけど……カズキさんも『覇刃祭(はじんさい)』に参加を?」

 

 その問いに答えたのはカズキではなくミトの方であった。

 

「そう! カズキが覇刃祭(はじんさい)でバーッと活躍すればミトの信者が増えるんだから!」

「そういう訳だ。俺も『覇刃祭(はじんさい)』に参加するよ」

「だったら、私と一緒ですね。……それと、先程から気になっていたんですが、ミトちゃんって」

 

 やっぱり同じ参加者だったのかと、少しだけ硬い表情になるマナ。

 しかし、今はそれ以上に気になることがあるらしく、ミトの方をおっかなびっくり確認する。

 

「ああ、俺が信仰する神だ」

「ふふん! 無病息災・健康祈願の猫神、ミト様とはミトのことだよ!」

 

 腰に両手を当てて、胸を張って特大のドヤ顔を見せるミト。

 どこからどう見ても子どもにしか見えないが、これでもれっきとした神様なのだ。

 ゆえに、真面目な性格のマナは恐縮してしまう。

 

「先程は砕けた口調で話してしまって、申し訳ございませんでした!」

「ん? いいよ、別に。ミトはそういう硬いことは気にしないから」

「は、はぁ…」

「そうだぞ、マナ。ミトは生まれて3年程度しか経っていない見たまんまの子どもだ」

「3年!?」

 

 カズキから伝えられた情報に思わず目を見開いてしまうマナ。

 それもそうだろう。神と言われれば誰だって自分より年上を想像する。

 それが生まれて3年しか経っていないというのだから、驚きもひとしおだ。

 

「ちょっとカズキ! ミトへの敬意が足りてないよ、けーいが!」

「硬いのは気にしないってさっき言っただろ?」

「信徒は別ですー。信仰そのものがミトのパワーになるんだからもっと敬いなさい!」

「だったら、覇刃祭(はじんさい)の出場条件を言えるか?」

「え? 普通に出ればいいんじゃないの?」

 

 出場条件など初耳だとばかりに猫耳をピンと立てるミトに、カズキは肩をすくめてみせる。

 

「こんな風に生まれたばかりだから、神様なら知って当然のことも知らないわけだ」

「なるほど……」

「信仰はしても、こんな神様を尊敬しろと言われてもな」

 

 このやり取りから、本当にミトが幼い神なのだと理解して頷くマナ。

 一方のミトは自分が知らなかったことが恥ずかしくなり、顔を赤らめる。

 

「か、神様も知らないことあるし。というか、そういうことは先に教えておくべきでしょ!」

「俺は教えたけど、ミトが婆さんにもらった魚に夢中で聞いてなかったんだろ」

「む、ムムム……そう言えばそんなこともあったような」

 

 記憶の片隅にある記憶を何とか掘り起こそうと腕を組んで唸るミトだが、出ないものは出ない。なので、早々に諦めて尋ねることにする。ただし、プライドがあるのでカズキにではなくマナにだが。

 

「ねえ、マナ。覇刃祭の出場条件ってなに?」

「え、私に聞くんですか?」

「だってカズキは意地悪するし」

「おいおい、俺だって尋ねられたらちゃんと説明するぞ」

 

 ツンツンと抗議するようにカズキを突くミト。それを受けてカズキの方は苦笑いをしながらミトの頭をポンポンと叩く。そんな微笑ましい姿にマナは思わず笑みをこぼして兄妹みたいだなと思う。

 

「フフ…はい、それでしたら私が説明しますね」

「やった! マナは優しいね。そうだ、私の信徒にならない? 今なら洗剤もつけるよ」

「そ、それはすみません。私はアマテラス様の信徒なので」

「そっか、なら仕方ないか。じゃあ説明お願いね」

「わ、わかりました」

 

 前向きな性格なのか、ただ単に猫らしく自由奔放なのか分からないミトに振り回されながらもマナは説明を始める。

 

「コホン…それでは説明を始めますね。覇刃祭は毎回多くの出場希望者がいます。しかし、全員が参加しますといつまで経っても大会が終わりません」

「ふんふん」

「ですので、出場者の数を絞るために、出場条件として4つの指輪を集める試練が課されます」

「4つの指輪?」

 

 腕を組んでコテンと首を傾げるミトに微笑みながら頷いて、マナは説明を続ける。

 

「指輪はこのカミール国の東西南北、それぞれの地方になぞらえて4つとなっているんです」

「なるほど。じゃあ、どうやってその指輪を集めたらいいの?」

 

 重要なのはそこだと急かすようにミトは尋ねる。マナは神様相手に急かされていることに、内心で少し焦って額に軽く汗を流す。そんな内心に気づいたカズキが申し訳なさそうに頭を下げるが、マナはそれに気づく余裕もない。

 

「東西南北それぞれに居る、『天下五剣』の方々が出す試練を受けて指輪を集めるんです」

「天下五剣?」

「……あ、天下五剣も分からないんですね」

「悪い、マナ。やっぱり俺が全部説明するよ」

 

 まさか、前提知識がここまで無いとは思っていなかったとマナが少し固まる。

 そんな様子に、カズキはやはり自分が説明した方が良いと思い、話を引き継ぐ。

 

「いいか、ミト。天下五剣って言うのは以前の覇刃祭で名を残した人達のことだ。

 アマテラス神の信徒筆頭『東の剣聖』。ゼウス神の信徒筆頭『西の剣王』。

 シヴァ神の信徒筆頭『南の剣勇』。オーディン神の信徒筆頭『北の剣帝』。

 要は、この4人の筆頭から試練を受けて合格すれば覇刃祭に正式に出場できるってことだな」

 

「なるほどね……ん? 天下五剣なんだから5人じゃないの?」

 

 うんうんと頷いていたところで、おかしな点に気づくミト。

 天下五剣という名前の通りならば、あと1人が居なければおかしい。

 その当然の疑問に答えのは今度はマナの方であった。

 

「残りの1人の天下五剣の方は前回の覇刃祭の優勝者、剣神(けんしん)様です」

剣神(けんしん)……」

 

 人の身で剣の神を名乗るとはどれ程の人間なのだろうかと、ミトは思わず唾を飲み込む。

 

「その剣神って人は試練を出さないの?」

「剣神様は前回の覇刃祭が終わると同時に、どこかに姿をくらませてしまったらしいです。でも、その強さは龍を一撃で屠る程だったと、お…コホン。お師匠様が良く言っていました」

「お師匠様……そう言えば、マナは剣聖の弟子だったな」

 

 何故か、お師匠という言葉を言い直したマナに一瞬だけ疑問を持つカズキ。

 しかし、すぐにマナが剣聖の弟子であるという事実に興味がいく。

 

「はい! その影響で神剣もアマテラス様から授かったものですし」

「アマテラス……確か、ここ東地方で一番信者が多い神だよね?」

「はい。私みたいなお師匠様に教えを受けた人達以外からも、広く信仰されています」

 

 流石のミトも地元で一番勢力が強い神の名前は知っているらしい。

 そのことに何となく嬉しい気持ちになり、マナは笑顔で頷く。

 

「やっぱり覇刃祭に出れば信者はガッポリ増えるんだ! カズキ、頼りにしてるからね!」

「簡単に言ってくれるなぁ。まあ、俺の目的のためにもミトの信者を増やすのは重要だしな」

「カズキさんの目的…?」

「純粋にミトのためってのも勿論あるんだが、俺自身もこの旅で叶えたいことがあってな」

 

 ミトからの激励に白髪を掻きながら苦笑いをするカズキ。

 そんな彼の言葉の中に気になる点があったので、マナは何となしに尋ねてみる。

 すると、カズキは少しだけ寂しそうな顔をして1つ咳をこぼす。

 

「コホン…簡単に言えば健康祈願だな」

「健康祈願…ですか?」

「ま、そこら辺は歩きながら話そうか。このままじゃ町に着く前に日が暮れる」

「あ、そうですね。少し待ってください、荷物を取ってきますので」

 

 カズキからの提案に、自分も町に向かう途中だったと思い出すマナ。

 そして、山賊達の前に飛び出す前に荷物を置いてきた茂み(・・)に入る。

 

「えーと、確かここら辺に置いたはず……あ、あれ?」

 

 何やら焦った様子で、キョロキョロと辺りを見渡すマナ。

 

「どうしたの、マナ?」

「み、ミトちゃん。ここに置いておいた荷物知らないですか?」

「ミトは知らないよ。そこに置いてるなんて知らなかったし」

「ですよね……なんで無くなってるの…?」

「まさか……荷物が無くなったのか、マナ?」

 

 カズキからの問いかけにマナは顔を青ざめさせながら頷く。

 置いていた場所に間違いはない。だというのに無くなっている。

 どういうことだと、焦りながらマナは必死に考える。そして気づく。

 ここにはつい先ほどまで自分達の人間も居たことを。

 

「も、もしかして……あの山賊達に」

「そう言えば、あの人達こっちの茂みの方に逃げてたような……」

「……悪い。俺が手心を加えずにちゃんと捕まえとけば」

 

 ミトの言うように山賊達は茂みの中へと逃げていった。

 そして、その時にこの荷物を見つけたのならば、考えられることは1つ。

 

 

「ぬ、盗まれたぁーッ!?」

 

 

 マナの悲痛な叫びが暗い山の中に、むなしく響き渡るのだった。

 




ヒロイン(ゲロイン)ならぬヒーロー(ゲーロー)


※この小説はログインせずに感想を書き込むことが可能です。ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に
感想を投稿する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。