猫神幼女信仰を広めるために今日も剣を振る   作:トマトルテ
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3話:ツチノコ退治

 

「山賊を捕まえた懸賞金で、しばらくは大丈夫そうですが、やっぱり財布が心許ないですね」

「あいつらが、もう少し名有りの山賊ならもう少しもらえたんだろうけどな」

 

 山賊達を捕えて町に戻ってきたマナ、カズキ、ミトの3人。

 マナとカズキは山賊を捕まえたことで報酬を手に入れたが、2人で山分けしたこともあり、これからの旅に余裕のある額には届かなかった。

 

「さて、どうしましょうか……あれ? ミトちゃんはどこに行ったんですか?」

「おかしいな…俺からあまり離れることはないんだけど」

 

 そのためこれからどうするべきか考えている際に、マナがミトの姿が無いことに気づく。

 カズキの方もあまりミトに離れられると大変な目に遭うので、少し緊張した面持ちで探す。

 しかし、2人の心配とは裏腹にミトの姿はすぐに見つかった。

 

「おばあちゃん。その重そうな荷物、ミトが持ってあげようか?」

「おや、お嬢ちゃんすまないねぇ。でも、お嬢ちゃんじゃ重くて持てないと思うよ?」

 

 重そうな風呂敷を背負って歩く老婆に、心配そうに声をかけるミト。

 その姿を見つけたマナとカズキは、ホッと息を吐きながら老婆の下に近づいていく。

 

「大丈夫ですよ。代わりに俺が持ちますから」

「カズキ、ナイスタイミング! ほら、この荷物をおばあちゃんの家まで持っていくよ」

「もちろん、神のまにまに」

 

 軽く冗談を言いながら、老婆の荷物を自分で背負うカズキ。

 病弱故に一瞬よろめいてしまうのはご愛敬だ。

 

「本当かい? わざわざ悪いねぇ。年を取ると膝が上手いように動かなくてねぇ」

「いえいえ、困った時はお互い様です」

「お婆さん、他にも困ったことがあるなら私にも言ってくださいね」

「お二人ともまだ若いのに偉いねえ。あたしの若い時とは大違いだよ」

 

 若さが眩しいとばかりに、目を細めながら老婆コウメは笑う。

 そして、コウメを加えた4人は一先ず彼女家へと向かうのだった。

 

「ゼェ…ゼェ…」

「あの…カズキさん? 辛いなら私が代わりましょうか?」

「い、いや、大丈夫だ。俺にも男として意地が……ある」

「坊やは体が細いねえ。もっとご飯食べないとダメだよ?」

「……はい」

 

 そんなカズキの貧弱さが如実に表れた一幕があったものの、一行(いっこう)は無事にコウメの家に着く。

 因みに荷物はカズキがしっかりと最後まで運び終えた。

 もちろん、その後に崩れ落ちる程に体力を消耗したが、ゲロは根性で我慢した。

 

「はい、今お茶が入ったからお、菓子でも食べてゆっくりしていってねぇ」

「ありがとう…ございます……」

「カズキ、まだ息が整ってないの?」

「すみません、コウメさん。何もしてないのに私まで」

 

 コウメの家に着いた3人は縁側に上げられ、お茶とお菓子で歓待を受けていた。

 ミトは出されたお菓子に目を輝かせながらパクつき。

 カズキは己の体力の無さを憂いながらお茶をすする。

 そしてマナは、にこやかな顔をしながらも頻繁に膝を擦る、コウメの話し相手を務めていた。

 

「へぇ、覇刃祭(はじんさい)にねぇ。まだ若いのに偉いもんだ」

「いえいえ、まだ何も成し遂げていませんし。それにさっきも言ったように山賊にお金を盗まれちゃいましたので……旅に出るまでにある程度の額は貯めなおさないと」

「お金は大切だからねぇ。……そう言えばあれは捕まえたら結構な額になるって聞くねぇ」

「あれ?」

 

 コウメの口から零れた金になりそうな話に、グッと身を乗り出すマナ。

 それに少しばかり驚きながら、コウメはあれ(・・)の正体を明かす。

 

「ツチノコだよ」

「ツ、ツチノコ?」

「昔から、ここら辺でよく見かけられるんだよ」

「ツチノコってお金になるんですか…?」

「さあ、あたしも噂で聞いたことがある程度だからねぇ」

 

 ずんぐりむっくりとしたツチノコの姿を思い浮かべて、半信半疑に尋ねるマナ。

 その疑問に答えたのはコウメではなく、カズキだった。

 

「なるぞ。因みに相場は一匹100万G(ゴールド)だ」

「……100万G(ゴールド)?」

「ああ、100万G(ゴールド)だ」

 

 思わずと言った様子でカズキに問いかけ直すマナ。それに対して、カズキは至極真顔で100万G(ゴールド)だと繰り返す。G(ゴールド)とはカミール国の通貨の名称だ。因みに言うと、ミトが今頬張っている『うめえ棒』の値段は10G(ゴールド)と実にお手頃な価格で、人気を博しているお菓子である。

 

「な、なんでそんな高いんですか?」

「食うとかなり美味いらしい」

「ツチノコって食べられるんですか!?」

 

 衝撃の事実に思わず声を上げるマナ。

 ミトも食べられると聞いて、耳をピクリとカズキの方に向ける。

 

「俺は食べことはないが、まあ蛇は食べられるって言うしおかしくはないんじゃないか?」

「なるほど…珍味ってやつですね。でも、良く知ってましたね、カズキさん」

「まあ、俺も本で読んだだけどな。詳しくは実物を見ないと分からない」

 

 寝込んでいる間は本を読むぐらいしかすることがなかったので、カズキは今までに多くの本を読んできた。その知識がこうした場面で役に立ってきているのだが、百聞は一見に如かずなので、どこまで正確なものかは分からない。

 

「そうですか。しかし100万……」

「捕まえに行くか? 手伝うぞ」

「え、でもご迷惑じゃありませんか?」

「もとはと言えば俺が悪いのもあるしな。何より、ここまで来て他人行儀っていうのもな。それともマナは俺達が居ると迷惑か?」

「そんなことありません! 1人で居るよりもずっと楽しいですし!」

 

 またカズキ達を付き合わせることに一瞬だけ罪悪感を抱くマナだったが、カズキの意地悪な言葉にブンブンと首を横に振る。

 

「なら、俺達も一緒に行くさ。体力はさっぱりだが、剣なら助けられることもあるだろうしな」

「あははは、そうですね」

「……そこは否定して欲しかったけど…もう無理か」

 

 男としてはやはり女性に体力が無いとは思われたくなかったカズキだが、マナ相手には諦める。初対面でゲロを吐く暴挙を犯してしまったのだ。

 もう取り繕えない。しかし、悪い事ばかりでもないだろう。

 ある意味では、マナの前では肩肘(かたひじ)を張る必要がないと言えるわけでもあるのだから。

 

「さて、それではコウメさん。どこでよく見かけるとか知っていたら教えてくれませんか?」

「それは構わないけど……本当に気をつけるんだよ?」

 

 何やら、やけに心配そうな顔で尋ねてくるコウメにカズキは違和感を覚えるが、深く尋ねることはなかった。それ以上に、山賊の時のようにまたマナが1人で突っ走ってしまうのを阻止できた安心感があったからである。しかし、この時にちゃんと話を聞いておけばよかったと、後で2人して後悔することになるのだが、それを今の2人は知らない。

 

「もちろんです。心配してくださってありがとうございます」

「それじゃあ、そろそろ俺達は行かせてもらうか。ミト、行くぞ」

「んー、ちょっと待って。おばあちゃん、そこの『まねき猫』かしてくれない?」

「いいけど、何をするんだい?」

 

 そろそろお(いとま)しようとしたカズキに、待ったをかけたのはミトの声であった。

 ミトはコウメからタンスの上にあった『まねき猫』を受け取ると、その上に手をかざす。

 すると、ボウっとした柔らかな光が『まねき猫』を包み込み中に入り込んでいく。

 

「はい、これ持ってみて」

「『まねき猫』をかい? それはいいけどねぇ……おや?」

「ふふーん。どう、膝が少しは軽くなったでしょ?」

 

 ミトから『まねき猫』を受け取ったコウメは、自身の膝の痛みが軽減されていることに気づく。

 コウメの様子にミトは満足気に耳をピクピクとさせて、ドヤ顔を見せる。

 

「これって…もしかして……『分霊(ぶんれい)』?」

「そうだけど、マナはアマテラス神の『分霊(ぶんれい)』を見たことはないのか?」

「アマテラス様は引きこも…コホン。基本は信徒の前に姿を現しませんので」

 

 ミトが何をしたのかを理解したマナが驚いたようにポツリと零す。

 『分霊(ぶんれい)』とは神の力を別のものに分けることである。

 神剣(しんけん)もこの『分霊(ぶんれい)』を利用して、神々の力を宿しているのだ。

 ついでに、カズキの問いにうっかり失礼な言葉を吐きかけていたが、それは気のせいだろう。

 

「神剣程じゃないけど、毎日この『まねき猫』に触れてミトに祈りを奉げてくれたら、膝の痛みを(やわ)らげたり、風邪を引かなくしてあげられるよ」

「そりゃあ、ありがたい。……けど、本当にいいのかい?」

「もっちろん! ミトは太っ腹だからね!」

 

 コウメの問いかけに、えっへんと胸を張ってみせるミト。

 その姿からは神としての威厳よりも、子どもとしての親しみやすさの方が滲み出ていた。

 そのため、コウメも遠慮をやめて孫に向けるようなにこやかな笑みを見せる。

 

「そうかい。じゃあ、ありがたく頂くよ」

「いっぱい祈ってね! 祈った分だけミトの力も上がるから、その分だけ膝も良くなるよ!」

「ほっほっほ、それは毎日祈らないといけないねぇ」

 

 ニコニコと笑い合うミトとコウメの姿に、カズキとマナも思わず微笑んでしまう。

 

「もう大丈夫か、ミト?」

「うん、大丈夫!」

「それでは行きましょうか、ツチノコ捕獲に!」

 

 この後に待ち受ける苦難を知ることもなく。

 

 

 

 

 

 深い山の中。うっそうと茂る木々の間にぽっかりと浮かぶように存在する小高い丘。

 コウメに教えられた、ツチノコの出現地であるその場所に到着したマナ、カズキ、ミトは木々の後ろに隠れながら揃って固まっていた。

 

 何も3人はツチノコが見つからずに途方にくれている訳ではない。

 むしろ、ツチノコを見つけてしまったから固まっているのだ。

 

「カズキさん。あれ……ツチノコですかね?」

「尻尾が短くて、胴体だけが太い。確かにツチノコの特徴を備えているな」

「ミトもただの蛇じゃないと思うよ」

 

 巨木の陰に身を潜めながら、ひそひそと会話を行う3人。

 目線の先にはしっかりとツチノコの特徴を備えた蛇の姿がある。

 

「ええ、そうですね。どこからどう見てもツチノコです。でも、これだけは言わせてください」

「ああ…」

 

 しかしながら、3人の顔には目標発見の喜びではなく困惑に染まっていた。

 それもそのはず、3人の目に映るツチノコの姿は。

 

 

「―――どう見ても10mはあるんですけど、幾ら何でも大き過ぎません!?」

 

 

 デカかった。それはもう、クマですら一呑みに出来そうなレベルでデカかった。

 

「私のイメージだと30から80㎝ぐらいで、何となく可愛いイメージがあるのがツチノコなんですけど。あれを見ても全く可愛いとか思えないです。というか、なんですかあれ? 大き過ぎでしょ。ツチノコが100匹ぐらい合体したキングツチノコとかそういう(たぐい)ですか?」

「いや、まあ…爬虫類だから長生きすれば理論上はどこまでも大きくなれるし……」

 

 聞いてた話と違うとばかりに、文句を吐き出すマナ。

 それに対して、カズキは苦し紛れに憶測を立てるが言葉にキレがない。

 彼もまた想像以上に(いか)ついツチノコに面を食らっているのだ。

 

「……ねえ、カズキ。あのツチノコからちょっと神様っぽいオーラを感じるんだけど」

「あのツチノコがミトちゃんと同じ神様? あはは、まさかぁ」

「いや、待て」

 

 そこへミトが神様ぽいと告げ、マナが笑いながら否定する。

 しかし、カズキが神妙な顔をして思い出してことを語りだす。

 

「ツチノコは野槌(のづち)と言われることもある。これは草の女神『カヤノヒメ』の別名である野椎神(のづちのかみ)からつけられたもので、野の精霊という意味を持つんだ。ここから考えればツチノコが妖怪だけでなく、神としての側面を持っていたとしても何もおかしくはない」

 

「く、詳しいですね」

「カズキ、ツチノコ博士みたい」

「本で読んだだけだよ」

 

 唐突なツチノコトークに、マナとミトが若干引いた眼で見つめてくるが、カズキは気にしない。彼は本で得た知識を披露しただけなのだから、何も悪くないというスタンスである。

 

「で、でも、神様だったら捕まえるってマズくないですか?」

「……そこら辺はどうなんだ、ミト?」

 

 神様を捕獲するのは流石にやばいのではないだろうかとマナが呟き、カズキもそのことが気になって神様代表であるミトに尋ねてみる。

 

「え? 食べたら美味しいって言われることは、既に食べた人が居るんだから全然大丈夫なんじゃないの?」

「それもそうか」

「言われてみると、そうですね」

 

 先駆者が居るのだから問題はない。そう結論付けた3人は恐れの表情を消す。

 もう、彼らの目にはツチノコは豚とか牛程度にしか映っていない。

 そんな、冷たい視線に寒気でもしたのか、ツチノコが遂に3人に気づいて目を向けてくる。

 

「チーッ!」

「気づかれたみたいだな」

「泣き声は『チー』なんですね。あれで小さかったから可愛いのに……」

「さ、カズキ、マナ。100万Gを捕まえるよ!」

 

 威嚇するように甲高い泣き声を上げるツチノコ。

 だが、カズキは特に怯む様子も見せずに剣を構える。

 マナの方もツチノコが可愛くないことに嘆きながらも、刀を引き抜く。

 そして、ミトは高みの見物とでも言うように木の上に昇って笑いながらツチノコを見下ろす。

 

 誰も緊張などしていないし、ツチノコ相手に負けるはずがないと思っている。

 しかしながら、3人はすぐにツチノコの恐ろしさを教えられることになるのだった。

 

「チィー!」

 

 再び雄叫びを上げたかと思うと、自身のしっぽの先端を加えて坂を転がってくるツチノコ。

 その姿はさながら巨大な鉄球のようで、進行方向にあるもの全てを轢き殺す勢いである。

 

「ふっふっふ。『火御座ノ御剣(ひのおましのごけん)』に正面から向かってくるとはいい度胸ですね。いいでしょう! 圧倒的な火力で丸焼きにしてあげます!」

 

 だが、マナは臆することなく刀を振り上げ、真正面から立ち向かう姿勢を見せる。

 良いように言えば正々堂々、悪く言えば単純だ。

 そんな、少しアホらしくも真っすぐなマナの姿勢に感心するカズキ。

 しかし、ツチノコに関するある情報を思い出して慌てて叫ぶ。

 

「待て、マナ! 転がってくるツチノコに当たると死ぬって噂があるぞ!」

「そういうことはもっと早くに言ってくれませんかねぇ!?」

 

 ぶつかると死ぬ。

 突如として教えられた驚愕の事実に絶叫しながら、マナは攻撃をやめて身を横に投げ出す。

 その行動が功を奏し、マナは間一髪のところでツチノコのローリングを躱すことに成功する。

 そして、すぐさま起き上がってツチノコが過ぎ去った場所を見てゾッとして声を零す。

 

「うわ…ツチノコがぶつかった木とか草が全部枯れてます(・・・・・)……」

「多分、呪いの類だろうな。まあ、坂を転がり落ちるのは得意でも、上るのは苦手と言うから、もう転がり攻撃は来ないだろ」

「そうなんですか? なら後は楽に――」

「チィーッ!」

 

 坂を上るのは苦手というカズキからの情報にホッと息を吐くマナ。

 だが、そんな姿を嘲笑う様にツチノコは空を舞うような大跳躍を見せて、坂の頂上に着地する。

 

「……カズキさん」

「……なんだ、マナ」

 

 着地による衝撃で舞った土埃が顔を撫でる中、マナはカズキにジト目を向ける。

 

「ツチノコは坂を上るのは苦手なんじゃないんですか?」

「普通のサイズのツチノコが2m位のジャンプ力を持つから……あのサイズなら坂を上らずに跳べば、頂上に簡単に戻れるんだろう」

「なるほど……て、弱点ないじゃないですかそれ!?」

 

 冷や汗を流しながら考察をするカズキに、マナが泣きつくがどうしようもない。ツチノコが100万Gという高値で取引されるのは、何も珍味だからという理由だけではないのだ。純粋に、ツチノコという存在がそう簡単には倒せない強さを持っているために、高値がつけられるのである。

 

「チィィイイイッ!」

「ああ! 何だか勝ち誇ったように鳴いていますよ! カズキさん、他にツチノコの情報とか知らないんですか!?」

「他には好物が日本酒だとか、味噌、スルメ、髪の毛を焼く臭いが好きとか、いびきをかいて寝るとかだな」

「ううぅ、戦闘にすごく役に立たない情報ばっかりですね…!」

 

 誘き出す際には使えそうだが、既に遭遇している以上は使い道がない。

 そんな情報の数々に愚痴をこぼすマナ。

 彼女の失望の視線に、カズキの方も何とかせねばと必死に記憶の引き出しを探っていく。

 

「あ、そうだ!」

「なにか思い出したんですか?」

 

 そしてカズキは思い出す。有益な情報を。

 

「いいか、マナ。ツチノコにはな」

「はい」

 

「―――猛毒があるんだ」

 

 どうだ重要な情報だろうと、胸を張るカズキ。そんな中タイミング良く、ツチノコの牙からポトリと落ちた毒液が、落ちた先にあった石を跡形もなく溶かしてしまう。

 

「……カズキさん」

「どうしたんだ、マナ」

「出来れば弱点とかの情報の方が良かったです…」

 

 ほろりとマナの瞳から涙がこぼれ落ちる。

 そりゃあ、相手の武器が分かるというのは重要な情報だ。

 でも、こんな時は相手の弱点とかの方が知りたい。

 だって、相手の強さを知ったって戦いが楽になるわけじゃないんだから。

 

「カズキー、マナー。そんなに悩まなくても大丈夫だって」

 

 そんな微妙な空気が流れる2人の下にミトの声が降ってくる。

 どうやら、猫らしく木の上を移動しながら2人の応援をしているらしい。

 

「ミトちゃん…でも、ツチノコが想像よりずっと強そうなんですよ?」

「マナは心配性だなー。だいたい、まだツチノコに攻撃をしてもないのに怯んでどうするの?」

 

 ミトの言葉に、マナはハッとする。

 そう。ミトの言うように、2人はまだツチノコに攻撃をしていないのだ。

 弱点の分からないツチノコであるが、斬ってみれば意外と簡単に行けるかもしれない。

 

「カズキもだよ。カズキにはこのミト様がついているんだから、負けるわけないじゃん!」

「ミト……そうだな」

 

 自分の信徒が負けるわけがないと、ニシシと笑うミト。

 そんな姿にカズキの方も冷静さを取り戻し、無猫即災(むびょうそくさい)を握り直す。

 

「やってやれないことなんてないんだから、2人とも頑張って!」

「よし。マナ、行くぞ」

「はい! ミトちゃんに私達の良いところを見せてあげましょう!」

 

 ミトの声援に押されたカズキは、マナに笑顔で声をかけてツチノコの下へ駆け出していく。

 当然、ツチノコはカズキを排除するために、短い尻尾を叩きつけるようにして攻撃してくる。

 だが、それらの攻撃は全てカズキに紙一重で見切られ、かすりもしない。

 

無猫即災(むびょうそくさい)の切れ味をとくと味わえ!」

 

 カズキはツチノコの胴元に辿り着くや否や、移動の勢いをそのまま剣に乗せた横切りを放つ。

 そして―――まるで金属をぶつけ合わせたかのような耳障りな甲高い音と共に弾かれる。

 

「なっ!?」

「チーッ!」

「カズキさん、危ない!」

 

 自身の剣が弾かれたことに驚き、目を見開くカズキ。

 ツチノコはその隙をついて、死神の鎌のような牙で命を刈り取らんと噛みついてくる。

 しかしそれは、マナが全力でツチノコの横っ面を吹き飛ばしたことで、間一髪で避けることに成功する。

 

「悪いな、マナ」

「いえ。それよりも、今のを見た感じだと…」

「ああ、あのツチノコの鱗は信じられない硬さだった。普通の蛇とは比べ物にならないぞ」

「やっぱりですか」

 

 カズキの言葉を聞いて、マナは顔をしかめてみせる。

 カズキは岩程度のものであれば、難なく斬り裂く技量を持つ。

 そのカズキの剣が弾かれたのだ。

 ツチノコの鱗は最低でも鉄クラスの硬さを持つのは疑いようがない。

 

「強いうえに硬いとかどんな超生物ですか、ツチノコって」

「本当に神性を持っているのかもな。しかし、困ったな。鱗が斬れないとなると口の中か目を狙うしかないが……」

「毒がありますもんね」

「リスクが高すぎるな。と言っても、斬れない以上は……いや、俺に斬れないだけか」

 

 じりじりとツチノコとの間合いを図りながら、会話を行う2人。

 そこで、カズキはマナが山賊の刀を斬っていたことを思い出す。

 

「マナ、鉄は斬れるか?」

「鉄ですか? まあ、純粋な剣の技術は抜いてもアマテラス様の火の力ならいけますよ」

「よし。それなら、俺がツチノコを引きつけるから隙をついてマナが決めてくれ」

 

 カズキの考えはシンプルだ。自分ではツチノコの鱗が斬れないので、文字通り火力が強いマナに代わりにやってもらうのだ。火を操るマナならば、焼き切るという硬さを無視した攻撃が出来るのだから、こういったことは適任だろう。

 

「私がですか?」

「ああ。俺じゃあ口の中でも狙わない限りはツチノコを斬れない。筋肉がないからな」

「き、筋肉ですか…」

 

 ツチノコを引きつけるために、前に進み出るカズキの背中を呆れた目で見つめるマナ。

 確かに言っていること自体は何とも気の抜けるセリフだが、彼は嘘を言ってはいない。

 元が病人のために、カズキには筋肉が少ない。そのため、技術があっても出来ない技がある。

 

 鉄を斬るなどという芸当も、技術的には不可能ではないのだが筋力不足で出来ないのだ。

 故に旅の間に筋肉をつけることも彼の密かな目標の1つとなっている。

 

「チィイイッ!!」

「来い。お前は斬れなくても、お前の攻撃をさばくことはできる!」

 

 しかしながら、筋肉がないからと言ってカズキの技量が活かせないというわけではない。

 

 ツチノコの噛みつきや、突進、しっぽでの撲打(ぼくだ)

 それら全てを一本の刀で、風に舞う羽の如くいなして見せているのだ。

 普通の人間ならこれをこなすのに、軽く二桁の年数の修行を必要とするだろう。

 だが、カズキは違う。

 

 一年程度の修行でこれらを身につけ、自由自在に扱ってみせているのだ。

 逆に常人なら何も鍛えずとも、身につけられる程度の筋肉さえ持っていない。

 天の悪戯か、はたまた何者かの策謀か、カズキの(いびつ)さは見る者にそんなことすら考えさせる。

 

「……やっぱり凄い」

 

 それはマナも例外ではなかった。

 刀に太陽を浴びせ、アマテラス神の力を最大限に高めながら羨望の眼差しをカズキに向ける。

 

 あれだけの技量を果たして自分が身につけられるか。

 何より、自分は彼と戦った時に勝つことが出来るだろうか。

 そんな目の前のこととは関係の無いことばかり考えてしまう。

 

「…いけない。今はツチノコを倒すことに集中しないと」

 

 しかし、彼女はそんな暗い心を振り掃える強さを持っている。

 マナは天才的な剣の才能持つわけではないし、多彩な技を使えるほど器用ではない。

 だが、誰よりも努力することができる実直さがある。

 その真っすぐさがアマテラス神に気に入られ、神剣を授けられるに至ったのだ。

 

「カズキさん、準備ができました!」

「分かった。頼むぞ、マナ!」

「はい、お任せくださいッ!」

 

 だから、何も恥ずべきことはない。

 素直過ぎると師匠の剣聖から言われる剣筋もまた、彼女の在り方の1つ。

 技の応酬の場では不利でも、ただ1つを刺し貫くためならばこれ程心強い者もいない。

 

 

「暗雲射抜くは空に輝く日輪(にちりん)……天照(あまてらす)―――火刺し(ひざし)!」

 

 

 業火を灯した真っすぐ過ぎる突きが、ツチノコに向けて放たれる。

 それは、僅かの歪みもぶれもなく、ただひたすら直線的に敵に向かう。

 敵からすれば軌道が読みやすく、避けやすい技だろう。

 

 だが、しかし。避けやすいことと、その技の恐ろしさはイコールとはならない。

 避けやすい攻撃程、当たった時の威力は―――計り知れない。

 燃え上がる太陽の火が1本の刀に集約され喉元を容赦なく貫いていく。

 

「ヂィィィイイイッ!?」

 

 断末魔の悲鳴を上げ崩れ落ちるツチノコの喉元には、ぽっかりと穴が空いていた。

 鉄のような鱗など最初から無かったかのような業炎の突き。

 血も出ず、無駄な傷も残さない。恐ろしさを通り越し、美しさすら感じさせる程の一撃。

 それが彼女、マナの真骨頂だ。

 

「ミトちゃんの言う通り、やってやれないことはないんですね。さて……どんなもんでしたか?」

「……すごいな、マナ。いや、本当にそれ以外の言葉が出てこない」

「マナ、やるじゃーん!」

 

 息絶えたツチノコを確認し、はにかんだ笑顔を見せるマナ。

 その笑顔は、今まさに凶悪な怪物を倒した人間とは思えない程に可憐なものであった。

 

「あれだけの火力で突きを放たれたら、鉄の鱗も形無しか。ホント、俺にはできない芸当だよ」

「えへへ、もっと褒めてくれてもいいんですよ? カズキさん」

 

 自分が凄いと思っている相手から褒められたのが嬉しいのか、胸を張ってドヤ顔を作るマナ。

 そんな仕草にカズキは、まるでミトみたいだなと微笑みながらさらに褒めていく。

 しかしながら、そんな微笑ましい光景はそのミトの言葉で終わりを迎えることになる。

 

「ねー、マナ。あっちで炎が森に燃え広がってるんだけどいいの?」

「……はい?」

 

 ドヤ顔から一転して表情が凍りつくマナ。

 そして、まるで壊れたブリキ人形のようにギギギっと振り向いて、森を確認する。

 

「う、うそ…本当に燃えてる。火力が強すぎた? いや、でもそれだけじゃ生きてる木はそうそう燃えないはず」

「……なあ、マナ。あっちってツチノコが転がって木々を枯らした(・・・・)方じゃないか?」

「……あ」

 

 カズキの言葉にマナは思い出す。ツチノコが転がった場所の木々が枯れていたことを。

 通常の生きている木は大量の水分を含んでいるために、そう簡単には燃えない。

 しかし、枯れてしまえば別だ。多くの人が知っているように実によく燃える。

 

「な、何ですかこれ!? もしかしてツチノコの(たた)りか何かですかッ!?」

「マナ、呪いうんぬんよりも今は火を消す方が先だ! 早く消さないと山火事だぞ!」

「自分じゃ炎を消せないの、マナ?」

「刀から出している時ならともかく、他のものにこれだけ燃え広がると…あわわ!」

「よ、よし。どうせ血を吐くんだから俺が血を吐いて炎を消してくる!」

「そんなので足りるわけないじゃないですか!? そもそも足りても死ぬのでやめてください!」

 

 山火事という大惨事を引き起こしかねない事態に目を回すマナ。

 ついでに、カズキの方も大分混乱しているのか変なことを口走っている。

 この場で落ち着いているのは子ども故か、それとも神故にか呑気なままのミト。

 

 そして―――新しくこの場に現れた男だけである。

 

「あの炎を消せばいいのだな?」

「え? は、はい!」

「……大地よ、炎を呑み込め」

 

 突如として現れた長く青い髪を持つ男は、マナの返事を聞くや否や背負っていた大剣を地面に突き立てる。すると、地面が隆起(りゅうき)していき蓋をするように炎の上にのしかかっていく。そうなると、酸素が失われるので当然炎は鎮火されることとなる。

 

「ふむ、これでもう大丈夫か」

「あ、ありがとうございます」

「礼は良い。偶々騒ぎを聞きつけて来たまでだ」

 

 マナは巨躯を灰色の西洋式の鎧で覆った武骨な顔の男に、お礼を言うが男は軽く流す。

 しかし、それは2人に興味がないという訳ではない。

 男は息絶えたツチノコを見て、今度はマナとカズキを見つめて感嘆するように息を吐く。

 

「あのツチノコは貴殿らが?」

「……ああ。俺達が倒したけど何か問題があったのか?」

「いや。剣聖殿からの試練を受ける前の調整にと思っていたが、倒されたのならば仕方ない」

 

 男の言葉から、男もまた覇刃祭の参加者なのだと理解するカズキとマナ。

 そして同時に男がツチノコの強さを理解した上で、腕試し感覚で戦いに来れる猛者だと察する。

 

「調整か……随分と腕に自信があるんだな」

「なに、自分はただ単に戦いが好きな物好きだ。そこまで大したものではない」

 

 そう言って肩をすくめてみせる男だが、とても言葉通りには見えない。

 一目で鍛えこまれていると分かる太い首。細かい傷が刻まれている使い込まれた鎧。

 そして何より、何事にも動じることがないような大地の如く重い琥珀色の瞳。

 ただ者ではない。それはカズキとマナから見た共通意見であった。

 

「あの…失礼ですが、お名前を伺っても?」

「む、これは失礼した。まずは名乗らねばな」

 

 マナからの問いかけに本当に失礼をしたという表情で喉をならす男。

 そして、恥じることも隠すこともなく堂々と自身の名乗りをあげる。

 

 

「オーディン神の信徒筆頭である剣帝の弟子にして次期筆頭(・・・・)の『地竜』シグルドだ。

 もし貴殿らがよければだが、自分と手合わせをして貰えないだろうか?」

 

 




ミトはジジババ特攻持ち。

後、日本神話だけでなく他の神話も使います。
日本、北欧、ギリシャ、インドの多神教がメイン。


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