TSして聖女になってしまった少年のお話   作:あじぽんぽん

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モーリィという少年

「うう、ちくしょぅ……」

 

 ミレー……。

 

 陽だまりのような髪と鳶色の瞳をした明るくて優しい少女。

 彼女はモーリィの初恋であった。

 出会った瞬間に一目惚れをした。

 愛らしい顔立ちに小柄な体、そばにいるだけで元気を与えてくれる、生命力あふれる力強い内面にも惹かれていった。

 少年は告白をするつもりだった。

 

 しかし……。

 

『ねぇ、モーリィ聞いて、私ね、勇者様と一緒に旅に行くことになったの!』

『え、ゆ、勇者?』

『勇者様って私に一目惚れして、どうしてもきて欲しいって、うふふっ』

『ひ、一目惚れ?』

『うん、急な話だけどもう出発なの、モーリィも元気でねっ!』

『え、ええぇ!?』

 

 それは、ほんのつい数時間前の出来事。

 モーリィはただいま王都で絶賛売り出し中の勇者とやらのどこぞの何某に、好きになった少女を横から奪われてしまった。

 そして職場の先輩であり何かと親身になってくれる騎士ルドルフの家で惨めに飲んだくれていたのだ。

 

「しかし、ミレーがあの最近噂の勇者にか……」

「うぅ、そうなんです。ちくしょうちくしょう」

「ふむ……まあ、飲め、モーリィ」

「うううううぅぅぅ」

 

 ルドルフが木製のコップに入れてくれた酒を一気に飲み干す。

 普段は酒を嗜まないモーリィだが今夜は飲まずにいられない。

 果実から造られた酒は甘いはずだがほろ苦い味がした。

 彼の細君であるターニャがモーリィの様子を心配そうに見ながら、追加の料理をテーブルの上に置いた。

 少しタレ目気味だが緩やかな黒髪と褐色の肌を持つ愛嬌のある美人さんで、気立ても良く近所でも評判のいい女性である。

 

 ルドルフ夫婦には、モーリィが砦街に来た頃から色々と面倒をみてもらっており、それこそ身内のような付き合いだった。

 

「大丈夫かいモーリィ? しかしミレーが勇者とねぇ……わたし、てっきりアンタと一緒になるモノかと思っていたんだけどねぇ」

「うっー!」

「おいおい、ターニャ……」

「あっ、ご、ごめんよモーリィ。わたし別にそんなつもりでは!?」

 

 モーリィは泣きながらテーブルに置かれた料理を自棄食いした。

 

 何が悪かったのか、何が足りなかったのか。

 いつまでも告白できない優柔不断さが駄目だったのか。

 それとも出会って直ぐに告白できる勇者の半分も勇気があれば今頃は違う展開もあったのだろうか?

 酔いの回ったモーリィに答えはだせなかった。

 

「ちくしょ! こんな悲しい思いをするのなら女なんていらない! 男になんて生まれてこなければよかった!!」

 

 泣きむせび杯を煽るモーリィ。

 振られた男は必ず同じようなことを言うし思うものだ。

 ルドルフとターニャは顔を見合わせた。

 これは処置無しと思い、失恋の最高の治療薬……酒を好きなだけ飲ませてあげることにした。

 こういう場合は飲んで忘れるのが一番である。

 しかしこの後に少年の身に起きる出来事を知っていたのなら、そんな楽観的な考えはできなかっただろう。

 

 知っていても、どうにもならなかったと思うが。

 

 ◇

 

 モーリィは辺鄙な田舎の出であった。

 彼自身、辺境の村で農夫として一生を終えるものだと思っていた。

 農民としての生き方は嫌いではなく、他になりたいものも無かったので納得もしていた。

 そんな根っからの農耕民であるモーリィの運命が変わったのは十四歳になったものが受ける成人の儀式である。

 

 成人の儀式……人が持つ資質や才能を判別し、クラスという形で明確にする儀式。

 

 特殊能力を得る一部の希少クラス以外は、発現したクラスに関わる職業に就くことは決して必須ではなく、儀式とは将来への指針の一つとして受けるものであった。

 そのためモーリィは、どのようなクラスが出ても両親と同じ農夫として生きていくものだと考えていた。

 色々な意味で天然で愉快な夫婦の息子である自分が、希少クラスを引くなど夢にも思わなかったのだ。

 

 クラス:???

 

 モーリィが得たのは謎のクラスであった。

 これは極稀にあることで、管理者と呼ばれる超常存在さえ認識していない新しいクラスが出現すると、何らかの条件を満たすまでクラスの名称が不明のままなのだ。

 

 モーリィは街の儀式の間から直ちに王都まで連行された。

 

 王宮内にある王宮魔導士の施設で様々なクラスの特性を測る試験を受け、結果は特性的に白魔導士が一番近いと判定される。

 本来のクラスが発現するまでは実務経験が積める砦街で、騎士団所属の治癒士として仕事をすることになったのだ。

 

 強い権力を持つ王宮魔導士長が決定し国王も承認したことである。

 

 王国の民であるモーリィにはもちろん逆らうことはできず、黙って従うしかなく、自分の意思とは関係無く決まっていく未来に激しい不安と心細さ感じた。

 

 ミレーと出会ったのはそんな頃だ。

 

 砦街とは、街部分ならともかく砦自体は一部の施設を除いて女っ気は殆どなく、いるのは女と呼ぶのは少々はばかれる十三名の女騎士(ごりら)と下働きの多くのご年配のご婦人方だけだ。

 

 そんな環境……モーリィにとってミレーは乾いた砂漠に咲く一輪の花だった。

 

 同じ白魔導士系列に同じ職場。

 近い年齢ということもありすぐ仲良くなった。

 ミレーは田舎者で都会の常識を知らないモーリィを馬鹿にすることなく、様々なことを優しく丁寧に教えてくれた。

 

 モーリィはますますミレーに好意を抱いた。

 

 脳筋な騎士連中に冷やかされつつも応援を受け、遅々たる歩みであるが出会ってから二年もの間ささやかな親愛を育んでいった……とモーリィは思っていた。

 しかしモーリィが決意して愛の告白をする前にミレーは勇者と共に冒険の旅に出ていってしまう。

 

『ちくしょう! もう一生、女なんて好きになるものか!!』 

 

 ルドルフの家で自棄酒をしこたま飲んだモーリィは、そんな言葉を心の中で繰り返し、砦の宿舎までフラフラに酔っぱらいながら戻ったのだ。

 

 ◇◇

 

 モーリィがベッドから起きると頭痛と体全体に熱があった。

 二日酔いではないと思うが変な感じである。

 背伸びをして背中まである長い髪を首元で一つにする。

 もう二年以上は切っていない……。

 モーリィは短くしたいのだが切ろうとすると、砦街の最高責任者である騎士団長が凄まじい勢いで反対してくるのだ。

 

 モーリィには長い髪が似合うし将来的(・・・)にかならず必要になると、力説した騎士団長の様子を思い出してモーリィは身震いした。

 

 身支度をしようと、汲み入れておいた桶の水に映るのは、白銀色の髪に澄んだ空色の瞳を持つ少女のような顔立ち。

 モーリィは桶の水鏡に映る歪んだ自分の顔にため息をつく。

 彼の容姿は瓜二つと言えるほど母親似であった。

 

 モーリィの母は昔から村どころか周辺一帯でも一番の才色兼備(現役維持)として有名で、父と一緒になるまで結婚の申し出が後を絶たなかったという。

 辺鄙な田舎にいるのは勿体ないほどの淑やかで美しい女性。

 それがモーリィの母親に対しての世間の評判であった。

 息子のモーリィにしてみれば世の他の息子と一緒で、母は口煩いだけの唯の面白いオバハンだったが。

 そんな母の美しい容姿だけではなく、男としては華奢で小柄な体格までも余すことなく受け継いだモーリィは、幼い頃から女だと勘違いされ多くの悲劇を味わってきた。

 

 その一つが男に言い寄られることである。

 

 勘違いや誤解ならまだマシだ。

 危険なのはそれでも構わないと言い寄ってくる男たちだ。

 モーリィは以前『むしろそれがいいんだっ!』と言われて襲われたことがあった。

 近くで井戸端会議をしていた母と友人のご婦人方が、モーリィの絹を裂くような悲鳴を聞いて駆け付け、男色家に叩く蹴る踏むなどの鉄槌を執拗かつ満遍なく加えて救出をしてくれたので事無きを得た。

 

 ただその際に……。

 

『このような華奢でか弱い女子(・・)を無理やり襲おうなどとは許せんっ! 男子の風上にも置けぬ! ええいっ痴れ者めっ恥を知れいっ!!』

 

 などと、やたらと古風で男前なことを言いながら、男色家を教育(ふみつけ)していたご婦人方が非常に気になった。

 恐怖でプルプルと母親に抱きついていたモーリィには、怒り狂う彼女たちの言葉を訂正することはできなかった。

 しかも彼女たちはモーリィの幼い頃からのご近所さんのはずなのだが?

 

 モーリィに対しての騎士団長の接し方は、それらの男色家と同じものを感じる。

 

 騎士団長は宮廷の高貴な貴婦人方と浮世名を流すほどの貴公子であるらしい。

 しかしモーリィは、それは世間を誤魔化すための偽装ではないかと密かに疑っていた。

 もちろん確かめたわけではないし本人には聞けない。

 仮に本物だったら騎士団長の性剣と性技で、モーリィのお尻が切り刻まれる可能性があるのだから。

 

 夜番と朝番の勤務交代の笛の音が聞こえた。

 

 モーリィは寝過ごしてしまっていたらしい。

 顔を真っ青にして食事も摂らず、慌てて砦の治療部屋へと向う。

 宿舎の自室から職場までは短い距離だが微妙に走りづらく感じた。

 昨晩は部屋に戻ってきてからそのまま寝てしまったので、服は昨日着ていた物と同じ筈なのに丈が合っていない気がした。

 胸やお尻が少しきつく、逆に裾周りや腰は少し緩く余って股間などはスカスカして、朝から妙な違和感があるのだ。

 

 治療部屋の扉を開け、薄暗い室内に入ってから深いため息をついた。

 

 誰もいない部屋。

 治療部屋に勤めていたのはモ-リィとミレーの二人だけだった。

 そして今日から一人の勤務だから慌てる必要もなく、例え遅刻したとしても優しいミレーはいつでも明るく笑って許してくれただろう。

 そんなミレーの笑顔を思い出し失恋の痛みに再び涙があふれ出す。

 モーリィは一人きりの孤独な部屋で椅子に力なく座り、机に突っ伏しってオイオイと泣きだした。

 

「おーい、モーリィいるか? てっ、オイッどうしたよ!?」

 

 扉を開けて治療部屋に入ってきたのはトーマスであった。

 彼はルドルフと同じ砦の騎士でモーリィの先輩だが、頼れる兄貴分というよりは頼れる悪友といった間柄である。

 赤毛の髪にやや三枚目な顔立ちと細く長身な体つき。

 一見は、優男風であるが砦の騎士をやっている。

 見た目に反して体力馬鹿であることは確かだ。

 

 トーマスは女顔という最高のネタ提供者であるモーリィを何かにつけてからかって遊ぶのだが、今回は泣いてる姿を見て大体の事情は聞いていたのだろう。

 モーリィの肩に手を置いて優しく話しかけてきた。

 

「あーなんだ。ミレーのやつは残念だったな。今は辛くても、いい出会いはまた必ずあるさ」

 

 そういって不器用に慰め肩をポンポンと叩く。

 いつもならば同僚の恋愛破局話でも容赦なく笑うのに珍しく励ましてくれる。

 初恋敗れたモーリィに対してからかえる状況じゃないと判断したのだ。

 思いがけない彼の優しさにモーリィは感動した。

 

 モーリィは顔をあげ涙を拭いて無理やり笑顔を作る。

 

「ありがとうございますトーマスさん。それで何の用事ですか?」

 

 涙の後が残る頬に悲しげな笑顔。

 トーマスは口を開け呆然とモーリィを見ていた。

 その様子を疑問に思いながらモーリィは再び呼びかけた。

 

「あの、トーマスさん?」

「あ……あぁ、わ、悪い。ちょっいボーッとしてた」

「は、はい?」

 

 何故か頬を染めるトーマス。

 そして歯切れの悪い返答をしたと思うと突然真剣な眼差しになり、モーリィの顔を様々な角度から眺めるという奇妙な行動をとりだした。

 モーリィも自分の顔に何かあるのかと思わず手で頬を触って確認してしまう。

 

「……先ほどから本当に何なのですか?」

「いや、本当に悪い……あぁ、今朝は合同訓練があるから、いつも通り怪我人出た時のために外の修練場で待機してくれるか?」

「はい、分かりました。少し準備してから向かいますね」

「おぅ、待ってるぞー」

 

 騎士トーマスは何度も首を傾げながら治療部屋を出て行く。

 扉をくぐる際に『なんだ、さっきのモーリィは妙に色っぽかったな?』と呟いたが、その声は小さすぎてモーリィまでは届かなかった。

 

 

 モーリィは処置用の道具を背負い袋につめて折り畳み椅子と一緒に持つと、治療部屋の扉に『外出中』と書いた看板をかけ、テクテクと歩いて野外修練場へと向かった。

 

 それなりの距離を歩く。

 

 野外修練場は砦の中に設置されており、かなりの大きさが取られている。

 第一から第五まである騎士隊の野外訓練や馬術など練習。

 砦街住人の緊急時の避難所。

 また隊別対抗運動会にも使用される場所であった。

 

 ちなみに運動会は年に二回行われ、脳筋といわれる砦騎士の中でも、更に選ばれたエリート脳筋と名高い第三騎士隊が優勝候補筆頭である。

 つまり、これに優勝することは王国一の最高(ばか)名誉(おめい)を授かるのだ。

 

 今週は第二騎士隊は砦警備任務中で、周辺警戒任務についてる第四と街の治安維持専門の第五を除いた第一と第三での訓練。

 少し離れた場所にいる騎士たちの中に第三騎士隊所属のルドルフやトーマスの二人がいる。

 モーリィは彼らの元まで歩いて行った。

 

「おはようございます、ルドルフさん。昨日は迷惑をおかけしました」

「ああ、おはようモーリィ。昨夜のことは気にするな、もう大丈夫なのか?」

 

 ルドルフの質問にモーリィはうなずく。

 

 灰色の髪に薄茶色の目。

 鋭い顔立ちと分厚い筋肉を持つ引き締まった肉体。

 どっしりとした立ち姿には貫禄があり、女顔で男としては小柄で細いモーリィが密かに憧れて理想とする男らしい容姿と体格をもったルドルフ。

 彼は堅物な性格だが、真逆の性格のトーマスとよく一緒にいる。

 幼馴染ということもあるのだろうが公私に関わらず非常に仲が良い。

 

 ルドルフは顎に手を当てしばらくモーリィを見ていた。

 それからトーマスに視線を向ける。

 それに対して『どうよ?』というトーマスの仕草。

 

「トーマスの言う通り、少し頬がふっくらとしているが太ったのか?」

「え、ええっ?」

 

 ルドルフから突然質問をされてモーリィは返答に困ってしまう。

 

「ええっと、ルドルフさん?」

「ふむ、俺の勘違いかもしれん。すまない気にしないでくれ」

「は、はい……?」

 

 困惑するモーリィを置いて二人とも修練場に歩いていく。

 修練場の外にいた騎士たちもゾロゾロと集まってきていた。

 そろそろ訓練の開始のようだ。

 モーリィが手持ち無沙汰に眺めていたら軽くお尻を叩かれた。

 振り向くと女騎士(ごりら)たちが笑いながら手を振り通り過ぎる。

 微笑み、手を振り返したモーリィだが、少ししてから深いため息がこぼれた。

 

 モーリィが治癒士として訓練で行う仕事はそれほどない。

 

 怪我人がでた際に治癒術を使う程度だが、元々この砦の騎士たちは頭まで筋肉でできている可哀想な連中である。

 入隊時は普通でもいつの間にやら知性を失い、脳筋たちの仲間入りを果たしているのだ。

 魔獣ひしめく山奥に、何一つ持たぬ全裸で放置しても野生化して生きていける脳筋たちである。

 骨折程度なら何もしなくても勝手に治してしまう。

 というか彼らは怪我をしたことにすら気がつかない。

 本当に残念で可哀想なことに怪我という概念を理解できるだけの知能が既にないのだ。

 

 馬鹿は風邪ひかないと同じ理屈である。

 

 モーリィが仕事をするのは手足が千切れる……もしくはその一歩手前のような重度の怪我を負った場合だけだ。

 そこまでいくと流石の彼らでも自然治癒には時間がかかるらしく、そのおかげでモーリィはここ二年ほどで凄惨なモノに対しての耐性がついてしまった。

 今では内臓が出た……腕が吹っ飛んだ……全身黒焦げだ……程度の治療では動じなくなっている。

 頭と心臓さえ無事なら人間何とかなるものだと砦に来てから学んだ。

 多分ここの常識は他では通じないことも、そこはかとなくモーリィは気づいている。

 

 そういうわけで、やることがなくモーリィは暇を持て余していた。

 

 折り畳み椅子に座り両手の平にあごを乗せ、騎士たちの訓練を見ていたのだが先ほどからやたらと視線を感じる。

 視線の先を追うと騎士たちがモーリィを見ているのだが、顔が合うと慌ててその場から離れていくのだ。

 どの騎士も頬を赤く染めているのが不気味である。

 騎士団長がアレだ……配下の騎士達にもアレが移ってしまったのではないだろか?

 

 モーリィはその恐ろしい想像に身震いした。

 

 騎士たちを薙ぎ倒す女騎士(ごりら)たちだけが頼もしい同志(なかま)であった。

 後で砦の井戸端会議のときにでも、自家製の薬草クッキーを持って行こうと考えるモーリィ。

 

 怪我人(重傷者)はでず、午前の訓練は終わり昼食の時間になった。

 

 モーリィはルドルフとトーマスの二人と合流して、食堂で料理を受け取るとテーブルについた。

 今朝はご飯を食べていないので非常にお腹が空いていた。

 ところがここで異変があった。

 最初は口いっぱいに頬張って食事をしていたモーリィだが、半分ほど食べたところでお腹が膨れ料理が入らなくなったのだ。

 いつものモーリィなら、この程度の量は問題ないはずなのだが。

 

 おかしな様子に気づいたのか二人がモーリィに声をかける。

 

「おいおい、大丈夫かモーリィ? 失恋がまだ堪えているのか?」

「トーマスの馬鹿が言うことはともかく、体調が悪いのか?」

「わかりません、お腹にこれ以上、入りそうにないです……」

 

 モーリィは悲しくなって顔を伏せた。

 トーマスはその表情を見て頬を染めるとゴクリと唾を飲み込み、ルドルフは眉間にしわを寄せる。

 

 モーリィは料理の残った食器を持ちあげ片づけることにした。

 

 沈んだ気分のまま治療部屋へ戻るために通路を歩いていた。

 唐突にミレーの笑顔を思い出して、ジクジクとした痛みが下腹部にはしる。

 今日は朝からゴタゴタしていて手洗いにも行ってないことに気づく。

 モーリィは治療部屋に戻るのを止めて手洗い所に向かうことにした。

 

 手洗いの個室に入る。

 

 モーリィはお尻に引っかかるズボンを苦労しながら下げ、下着から息子を取り出そうとしたところで全く手ごたえがないことに気がついた。

 慌てて深く手を突っ込むと、いつもいるご子息はご不在で、代わりに何かつるつるした溝のようなものに指先が触れた。

 

 そのまま力を入れると、ぐにゅっと、指がわずかに沈んだ。

 

 絹を裂くような悲鳴をあげてモーリィは意識を失った。

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