TSして聖女になってしまった少年のお話   作:あじぽんぽん

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モーリィとお風呂の日(裏)その1

 騎士宿舎の狭い一室に十四人の男が集まっていた。

 

 彼らは、ある困難な任務を遂行するため自らの意思で集まった頼もしい勇者たちだ。

 まさに砦街が誇る一騎当千の男たちであった。

 

「待ってくださいよトーマス先輩! 何もっともらしいことを言っているんですか! 任務って、明らかに騎士として最悪最低な行いをしようとしているじゃないですか!?」

 

 ぐるぐるのがんじがらめに縛られ、芋虫みたいに床に転がされていた騎士ライトが必死に叫んだ。

 彼以外の十三名は、今更なにを言っているのかしらコイツ……という冷めた目をしていた。

 

 ◇

 

 それはトーマスがある話を入手したことから始まった。

 

 あの、聖女モーリィが特別宿舎の共同風呂を利用するというのだ。

 

 彼女は今まで自室の水風呂しか使用していなかった。

 聖女の肌を見るのには、女騎士が防衛する難攻不落な特別宿舎内に侵入し、彼女の部屋まで直接入る必要があった。

 

 それ故に……覗きを行うことは事実上不可能となっていたのだ。

 

 試した騎士(さる)はいた。

 ……次の日には、侵入を試みた全員が特別宿舎の塀に全裸(ふるちん)で逆さ吊りにされていた。

 彼らの額には『肉』という女騎士たちが使う謎文字が書かれていた。

 

 しかし共同風呂なら宿舎内に侵入しなくても外窓から室内を覗くことができるため、聖女の裸を見ることができるかもしれない。

 もちろん、あの女騎士たちのテリトリーに入るので困難なことは確かだが、可能性は決してゼロではないはず。

 

 そう、聖女モーリィの胸部装甲(ようふく)の下に窮屈に収納された胸部装甲(たわわ)を直接見ることができるかもしれないのだ!!

 

 目標が共同風呂を利用するのは今夜である。

 騎士トーマスは迅速に行動を開始した。

 闇の森の魔獣に匹敵するという索敵技能を持つ女騎士。

 その目を掻い潜る隠密技能を持った者が必要であった……先日、闇の森捜索を行った班員をルドルフ以外は全員集めた。

 鬼いちゃん(ルドルフ)に聞かれたらどうなるかは言わずとも知れている。

 むしろ彼の耳に入らないように細心の注意を払って人員を集めた。

 

 ライトも誘った。

 

 彼は有能だが真面目で人を疑うことを知らない素直な男なので、騙すのは非常にちょろかった。

 ちょろすぎて悪い先輩(トーマス)でも心が痛んだ。

 後で若くて綺麗なお姉ちゃんのいる飲み屋に連れてやろうと、優しい先輩でもあるトーマスは本気で思った。

 そしてもう一人、最近になって第三騎士隊に入った新米がいた。

 

 それは――

 

「ふふ、正直になりたまえよライト君? 女神のように美しいモーリィ嬢の麗しき裸体だよ? 男子として鑑賞してみたいとは思わないのかい?」

「くっ! ジェームズ、君というやつは……!!」

 

 彼の名はジェームズ・グレアム。

 

 以前、闇の森捜索で救出した青年貴族である。

 なぜ彼がここにいるか詳細は不明だが、依頼人の大臣のほうから『お願いしますうちの息子(あほ)の性根をこちらで鍛え直してやってくれませんか?』的なやり取りが騎士団長とあったようだ。

 

 砦にやってきたジェームズ青年。

 

 彼は世間知らずだが貴族にありがちな傲慢さなどはほとんどなく、やや気取った喋り方以外は普通に気さくで、あっというまに砦の騎士と馴染んでしまった。

 体力こそ()()()()()()()が、騎士(さる)にも通じる高いコミュニケーション能力もつ彼は、やはり冒険者として大成する資質があるかもしれない。

 しかも、ジェームズの知能は砦の騎士に交じっても全く下がらず、彼らと普通に交流ができていた……それはつまり彼は元から阿呆(さる)だからだろうか?

 

 たまにいるよね、勉強が物凄くできるけど頭も物凄く残念な人。

 

 そんなジェームズとライト。

 新米同士で年も近く普通に会話も通じ、また騎士宿舎で同室のため仲良くなるのは至極当然のことであった。

 

「魔導士ジェームズ、今回はお前の力が生かされる任務だ。よろしく頼むぜ?」

「ふふ、任せたまえよ騎士トーマス。この僕にご期待あれだ」

 

 ジェームズは砦騎士(さる)としては無能に近いが、希少である黒魔導士のクラスを持っていた。

 本来であれば王宮魔導士としてエリートコースは約束されているのに、なぜ冒険者(ごろつき)などを目指そうとしていたかは不明である。

 

 ああ……そうか、こいつ阿呆だからか。

 

 騎士団長としては棚からボタ餅的な意味で、二重においしい人材であった。

 

「そういうわけだライト、お前も腹を括れよ? この話を聞いてしまった時点で抜け出すことは許されない。特別宿舎にいって女騎士(ごりら)に捕まっても地獄。成功したとしても鬼いちゃん(ルドルフ)に捕まって地獄。ここにいたと言い訳しても奴は容赦しないぞ?」

「そ、そんなこと言われても自分は絶対にやりませんからね!!」

「ライト君。男子ならば例え愚かだと分かっていても、やらざる得ないことが一生に一度はあるはずだ。今がそのときだと僕は思うのだよ?」

 

 二人して何だかとっても格好よさげなことを言っている。

 

 ――でもなアンタたちのやろうとしていることはただの覗きだぞ!!

 

 ライトは怒りを覚えた。

 彼の正義の心がメラメラ燃えていた。

 しかし残念なことに、今のライトは芋虫のように縛られ、ギリギリと歯ぎしりをすることしかできなかった。

 

「ま、それにこれは先輩としてのささやかな親心でもあるんだぜ?」

「う? いったいなんのことですか?」

「好きな女に恋を言いだせない男に、せめて裸を見せてやりたい……お前さ、モーリィのやつに惚れてるだろう?」

「ト、トーマス先輩! な、何故それを!?」

 

 ライトの顔が一瞬で赤く染まる。

 そこでハッと、自分を見下ろす騎士たちが全員ニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべていることに気がついた。

 

 ――こ、これは……!?

 

「ゆ、誘導尋問!? トーマス先輩、ひ、引っ掛けましたね!?」

「いやいや、ライト君……君の今までの態度でバレバレというか……いいや、その素直さは非常に美徳だと僕は思うな。君の恋が実るように影ながら応援するよ」

 

 羞恥のため芋虫のように部屋中をゴロゴロ悶え転がるライトに、ジェームズは同情と哀れみの視線を向けた。

 そして何だかんだでライト・ウォーカーの正義は折られ、気がついたら夜間野戦装備を着用して作戦会議に参加していたのだ。

 

 目標は聖女の裸体観察。

 

 作戦内容は非常にシンプルだった。

 特別宿舎裏側の林から侵入。

 女騎士の襲撃を警戒しつつ林を抜け、共同風呂までの遮蔽物の無い開けた敷地を匍匐前進で隠密移動。

 到着したら共同風呂の外窓の鍵を解除し、目標の聖女のたわわを確認して、じっくりと観察したのち速やかに撤収。

 緊急時の交戦は認めるが最重要目標(のぞき)を忘れるな、以上だ!!

 

 こいつら最低である。

 

 全員が特殊兵装を――気配消しの術式がふんだんに織り込まれ、木の葉や苔のように偽装された外套を身にまとう。

 これ一枚で騎士一式装備が馬含めて余裕で揃えられてしまう高価な装備で、そのため闇の森捜索のときですら使われたことはない貴重品であった。

 

 ――たかが覗きごときで、武器庫の奥に厳重に保管されていた貸出不可の特殊兵装まで持ちだしている……この人たちはいったいどこまで本気なのだろうか?

 

 ライトはこの時点で、言いようのない不安と精神的な疲労を感じていた。

 

 ◇◇

 

 男たちは夕暮れ時に特別宿舎の裏側に回り込むと、予定通り敷地内の林から侵入を試みた。

 林と言ってもその規模は森に近いが、全力で走れば数分で抜けることができる。

 しかしそうすると、女騎士の警戒網の確実に引っかかるだろう。

 そのため彼らは、あえて林の木々の中からは抜けださず、宿舎の建屋を目指してスローペースで黙々と移動をした。

 そして、いつの間にやら辺りは薄暗くなっていた。

 

 ――本当に静かな夜だ……こころ穏やかに逝くにはいい日だろうよ……。

 

 ちょっと詩的にそんなことを考えてしまうトーマス。

 しかし彼のやろうとしていることはただの覗きだ。

 

 月明かりが照らしているとはいえ、木の周りには影がいくつもできて視界は良好ではない。

 もっとも、獣に近い目を持つ彼らには行動の障害にはなりえない。

 黒魔導士ジェームズが自らに暗視の魔術を使い、罠発見と索敵用の魔術を展開させて騎士たちについていく。

 騎士の動物的な勘と魔導士の魔術的な探知。

 敵陣に侵入する布陣としてはこれ以上は望めないほど完璧だった。

 そんな中、ライトだけが周りの空気が微かに変わったことに気がついた。

 ライトは嫌な予感を覚え、トーマスに声をかけようとした。

 だが、その判断は少しばかり遅すぎた。

 

 惨劇の始まりは本当に静かなものであった。

 

 覗き集団(きしたち)の名誉のために言っておくと彼らに油断はなかった。

 警戒は怠らなかったし、仕掛けられているだろう罠にも注意を払っていた。

 察知することができなかっただけなのだ……彼女たちが忍び寄る気配を。

 騎士たちは彼女たちの怖さをよく知っているつもりだった。

 だがまだ甘かった。

 砦街の対人最強と名高い彼女たち……女騎士の戦闘能力を甘く見積もっていたのだ。

 

 枝がしなる音がした。

 

 同時だった。

 突然、先行していた斥候役の二名が宙に吊りあげられた。

 声もあがらなかった。

 装備含めるとかなりの重量になるはずの男二人があっけなく持ちあげられ、宙ぶらりんとなった。

 おそらく、木の上から魔獣の体毛で作られた極細のワイヤーを使い、騎士の首に引っ掛けて、枝を支点にして吊りあげたのだろう。

 その二名に全員が気を取られた瞬間、隊列の背後から現れた複数の影に騎士三名が首を極められ、体の自由を奪われて木々の闇の奥へと引きずり込まれた。

 

 一瞬の隙を突く早技であった。

 

 音なくあまりに速すぎて、その姿を視認するのはおろか察知することすら誰にもできなかった。

 

 時間にしてわずか数秒で、五名も食われた。

 

 悪い夢でも見ているようであった。

 闇の森という魔境でも十二分に活動できる屈強な男たちが、女騎士に完全に手玉に取られていた。

 それも不本意なことに、彼らが得意とするはずのフィールドでだ。

 

 この状況はひどく不味い、遅かれ早かれ全滅してしまう。

 

 そう考えたトーマスは合図の口笛と共に、革ホルダーから術式を刻んだ術式札を一枚抜いて魔力を通した。

 札を握った手をあげて、目を閉じその場で術式を発動。

 凄まじい閃光が暗闇の林の中で広がった。

 

 術式札とは、魔導士ではなくとも札に刻まれた術式を使用することで、刻印に応じた魔術を使用可能とする消費型の魔導具である。

 札であるため携帯性に優れるが、使用には一定以上の魔力と魔術を理解するだけの知能が必要とされるため、砦の騎士の半数以上は使うことができない。

 

 術式札は十本の指を使う以上の暗算ができないと使えないのだ。

 

 トーマスは閃光を放つ術式札を攪乱のために使用した。

 生き残った騎士たち全員が同時に散開する。

 このような状況下ではいちいち言葉にしなくてもやることは決まっている。

 砦で何度も味わった経験が彼らの体を動かしていた。

 

 戦う?

 いいえ!

 

 女騎士(ごりら)犠牲者(さる)甚振(ぼこ)っている間に逃げるのです!!

 

 女相手に大の男が情けない?

 相手が同じ人類ならばそうかもしれない。

 しかし、野生の獣相手に素手で勝てないからといって嘆く者は普通いない。

 

 いたとしたら相当のサドマゾ野郎である。

 

 まあ、でもたまに、鉈一本で魔獣の討伐をしてしまう、信じられないことをやらかす田舎の老人方なんて者もいるが、あれは例外中の例外である。

 例えば、闇の森のまだ若い闇竜あたりを、チョップ(しつけ)一発で気絶させる芸当ができるのは作務衣姿の女性くらいなものだろうから。

 

 ……この世界、ご老人どもがちょっと元気(やんちゃ)すぎないだろうか?

 

 ともかく野生の法則である。

 女騎士を相手に騎士では逆立ちしても勝てない。

 彼女たちは『くっ、ころせ!』などと仰ってマウント取られて、あんなことやこんなことをされるようなエロか弱い、くっころさんではない。

 むしろ『くっそが、ころすぞ!』といった感じでマウント取って、あんなこと(こぶしれんだ)こんなこと(ひじうち)をするような、純然たる強者なのだ。

 

 そんな理屈は新米のライトには分からず、そして真面目な彼が砦で逃走する経験は一度もなかった。 

 

 しかし、田舎の規格外な老人方に野外生存(いきのびる)技能を散々叩き込まれた彼の体は、瞬時に最適を導きだし手足を勝手に動かした。

 状況を理解できずに口を開けていたジェームズの体を抱えて肩に担ぎ、現状において最も危険のないと思われる方角……トーマスと同じ方向に走りだした。

 ライトがこの時に逃げないで、素直に捕まっておけばよかったと気づいたのは逃げ切ったあとである。

 

 無意味に有能すぎるのがまた仇となった。

 

 そのまま三人で息を切らして走る。

 ついてくる者は誰もいなかった。

 トーマス、ライト、ジェームズはしばらく走ってから、ようやく一息つく。

 そして引き続き、聖女がいるだろう共同風呂を目指すことにした。

 

 ここで逃げても鬼いちゃんによって地獄を見るのは決定しているのだから。

 

 そう、最終的に逝くのは分かっている。

 ならばその前に天国(おっぱい)を見てから果てようと、ライト以外は一致していたのだ。

 

 ライトは馬鹿なことはもう止めて、潔く自首しましょうという気持ちでいっぱいだった。

 しかし空気を読みすぎるところがある彼は、二人のあまりの熱意に言いだすことができなかった。

 

 ライトは、怪しい目の色で『おっぱい、おっぱい、おっぱい』とブツブツ呟きながら進む二人の姿に、どうしようもない情けなさを感じていた。

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