TSして聖女になってしまった少年のお話   作:あじぽんぽん

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砦のダンジョン その4

 モーリィ達は地下ダンジョン二階層目へと降り立つ。

 

 二階層は一階層とほぼ同じ構造。

 

 ただ一階層と違い長い通路の合間に小さな部屋が配置されており、どの部屋にも水飲み場や石造りの机と長椅子が置かれていてまるで休憩所のようである。

 

 この階層で出現する魔物はオーク。猪に似た容貌に緑色の肌、出っ張ったお腹と肉厚な体、ゴブリンより遥かに丈夫な魔物。しかし普段から砦の体力馬鹿(さる)の相手をしている女騎士の敵ではない。

 

 むしろいいカモだった。

 

 ツヴァイに盾で殴られ剣で真っ二つにされて、フィーアの双剣で無数に切り刻まれ、ドライツェーンには背後から首刺されたりと、魔物とはいえ哀れになるくらい好き放題にされていた。オークが女騎士の天敵とはどこの世界の話か。

 

 ゴブリンとは違いオークは単体で活動していることが多く、出てきても三体程度で後衛の出番は殆どない。後ろの三人は後方を警戒しながらも比較的のんきな様子で女騎士達の応援をしていた。

 

 モーリィは女騎士達の戦っている姿より、横で嬉しそうにメイスの素振りをしているミレーが気になって仕方ない。彼女の素振りは下から上へと軌跡を描く酷くエグイ角度。聖女はひたすらオークとミレーが接戦しないことを祈った。

 

 そんな風に探索を続けて、しばらく過ぎた頃。

 

『……ロエ……クロ……』

 

 モーリィは立ち止まった。

 

 声が聞こえたのだ。初めてのことではない、この階層に降りてから三度目の声。ミレーは足を止めて耳を押さえているモーリィに気づいた。

 

「モーリィ、また聞こえたの?」

「うん、今度は、はっきりと……」

 

 モーリィは再び歩き出すと困ったように笑う。

 

 最初は本当に小さい声で空耳かとモーリィは思った。

 二度目は何か聞いたか他の者にも尋ねたのだが、その声を聞いたのはモーリィだけだった。そして今ので三度目である。

 

 二人の話を聞いていたフランは思案気な表情。

 

「幻聴……と無視するには引っかかりますね。次の小部屋を見つけたら休憩にして情報を整理しましょうか」

「ダンジョンのことについてですか?」

「ええ、それもありますが、何故モーリィさんだけが結界を通り抜けることが出来るのか……その声とも何か関係があるかもしれません」

 

 フランの意見に二人は頷く。

 

 同時に前方の女騎士フィーアから警戒の合図が出る、どうやらお客様のようだ。相手は……当然オークだった。

 ミレーが獣のように唇をつりあげて笑い、フランはそんなミレーを見て苦笑いをする。モーリィは太ももをすり合せて泣きそうな顔。

 

 三者三様で女騎士達の応援をするために向かったのだ。

 

 ◇◇◇◇◇◇

 

 見つけた小部屋で、情報整理の前に休憩と食事をとることになった。

 その場所にも水飲み場と机が設置されていて、小部屋に罠がないことは女騎士ドライツェーンが調べて確認済みである。

 部屋の外の通路には察知の術式札が複数枚張ってあり、魔物が通れば反応してフィーアがすぐ気がつくようだ。

 

 モーリィはスープを作るために、携帯用のコンロと鍋を使い湯を沸かした。

 

 小部屋の飲み水をモーリィは使わなかった。体に有害な成分が含まれている可能性もあり、地下ダンジョンの水を使うのは手持ちが全部なくなってからだ。

 空になった水筒に水飲み場の水を入れる。ダンジョンを出てから騎士達に試し飲みをしてもらい、半日以上たって異常がなければ安全な水だと分かる。

 

 聖女モーリィは騎士達で人体実験をしようと考えていた。砦思考の汚染が完全に終了していた彼女には、非道な行いであるという自覚は全くなかった。

 

 背嚢から粉の入った袋を取り出す。

 

 モーリィが数種類の野菜を乾燥させ粉末状にし、調味料とブレンドして作った携帯食スープの元だった。鍋の中に削った乾燥肉と一緒に入れ沸騰させから人数分のコップに注いだ。

 

 騎士達が使う携帯食のスープを参考にした自作品。

 

 その参考にしたスープだが、闇の森捜索で初めて飲んだ際にあまりの不味さにモーリィは吐き出しそうになった。だが周りの騎士達は普通にスープを飲み干しており、味覚の狂った彼らを見ながら半泣きで飲んだのだ。

 

 周辺警戒任務中は塩分がやたらと濃い乾燥肉や、歯を尖らして武器化させるのが目的なのではと思えるような硬い乾パン、そして凄まじく不味いスープを飲んでいる騎士達がモーリィは哀れになった。

 

 せめてスープだけでも美味しいものをと開発したのだ。

 

 とはいえ王国も砦の騎士達を味覚音痴にして、安い食料(ぶたのえさ)で養うために不味い携帯食を提供しているのではない。決して砦の騎士達のように、いっぱい食えれば構わないという連中(ぶた)に味なんて理解できないし二の次でいいでしょう。というわけではない……たぶん。

 

 モーリィ自作の携帯スープは作るのに手間が掛かり、長期保存の観点からもとても完成品とはいえないものだ。味はかなり向上しているが少し割高になってしまう。色々と試作段階だが、今回はいい機会に持ち込んでみたのだ。

 

 ダンジョンの中で食事。

 モーリィはキャンプみたいだと少しだけ楽しくなった。

 

 ミレーとツヴァイはスープを受け取ると嬉しそうにごくごくと飲み干し、そしてモーリィにお代わりを要求する。二人は何度か治療部屋で試し飲みしていて美味しいことを知っているからだ。

 

 それ以外の三人は携帯スープは不味い物という認識。

 

 彼女達はミレーとツヴァイを少し不気味そうに見ながら、先にビスケットと乾燥肉を食べた。そして口の中のパサつきと塩味を中和するためにスープを飲んで驚いた顔をする。

 

「あ、あれ、このスープ、何だか物凄く美味しいですね?」

「ええ、凄く……美味しいわ」

「ふふん、そうでしょう、そうでしょう、これモーリィのお手製よ」

「…………えっ!?」

 

 何故か得意げな顔をするミレー。そしてフラン、フィーア、ドライツェーンの三人は慌ててスープを飲み干そうとする。どうやらお代わりをするつもりらしい。

 

 色気より食い気……なんだか分かりやすい人達。

 そう思いながらも、笑顔でお代わりをよそう聖女モーリィであった。

 

 ◇◇◇◇◇◇

 

「私が気になった点は二つです」

 

 食事も終わり、まったりとした空気の中、フランは切り出した。

 全員が椅子に座ってその言葉を聞いている。

 机にはお茶がだされ、これもモーリィがブレンドした一品。

 

 それを一口飲んだフラン。

 

『あ、あら、美味しいですね……あの、よろしかったらモーリィさん、私の家にお嫁さんに来ませんか?』

 

 などと突然に物議を醸すことを真顔で言いだした。

 

 第五騎士隊隊長のフランシス女史は、お金はあるが家事が壊滅的に苦手な女子だった。その発言に黙っていられないミレーとしばらく話し(じゃれ)合いになってしまう。

 

 モーリィとしては素で天然そうなフランに何と答えていいのか分からず、困った時の曖昧な微笑み(アルカイックスマイル)。最近の聖女は問題を先送りにすることが本当に増えた。

 

「一つは光る壁です。このようなものは、どのダンジョンでも、そして王宮や魔導士の研究所でも見たことがありません」

 

 女騎士は三人とも重々しく頷く。

 モーリィとミレーは「へぇそうなんだー」とあまり重要に思っていないようだ。この二人いつもながら、今回はやたらとのんきである。

 

「確かに……変だったわ」

 

 そう答えたのはフィーア。

 特別宿舎でよく話すモーリィと違い、普段はあまり絡みのない彼女の発言にミレーは興味を惹かれ聞き返す。

 

「変ってどういうこと?」

 

 フィーアは何かを言いかけ、フランに視線を送る。

 フランは頷き、引き続き説明をすることにした。

 

「ダンジョンには大きく分けて二種類あります。まずは天然のダンジョン。これはダンジョンコアが地形を浸食してダンジョンが形成します」

 

 彼女はちらりと部屋の周囲を覆う光る壁を見た。

 

「もう一つは建築物がダンジョンコアを得てダンジョン化してしまった場合。どちらのダンジョンも、自然物や構造物がそのまま使われます」

「えっと……?」

「ようするに、魔術を使用した仕掛けならともかく、建築技術以上の構造や仕掛けは普通はないという事です」

 

 フランの発言に、モーリィも遅れながら気がついた。

 そう、光る壁には魔術的な反応は全く感じなかったからだ。

 

「つまり、光る壁は現在の技術ではあり得ないと?」

「ええ、その通り。私はこのようなものは聞いたことがありません。この建造物はいつの時代に作られたものか、どんな技術を使われているのか皆目見当がつきません」

「………………」

「光る壁……これを作れる高い技術力をもった文明が、人魔大戦以前にあったとは到底思えないのですよ」

 

 フランの口から出た人魔大戦という言葉に全員が沈黙する。

 

 四百年ほど前におきた人族と魔族の大戦争。

 

 その戦争を経験した長寿の種族の者達は黙して決して語らない。

 それ故に御伽話という形で断片的に細々と伝承されているのみ。

 

 魔族に突然現れた『影操りの魔王』もしくは『闇竜の支配者』と呼ばれた魔王。

 悪逆非道で超常的な力をもった邪悪な魔王により引き起こされた大戦争によって、平和だった世は終わりを告げ多くの者達が戦乱に巻き込まれた。

 

 その結果この世界からいくつもの国と種族が消えてしまったのだという。

 

 モーリィは不思議なことに、ご婦人方に頼まれて作った化粧水を飲み物と勘違いして全部飲んでしまい、酔っぱらった魔族の女性を思い出した。

 

 酔っぱらう成分なんて何も入ってなかったはずなのに安上がりな人である。

 

 魔王が最後にどうなったかは不明だが、伝承によるとある国が召喚した勇者と相打ちとなって滅んだとされている。

 

 ある国とは以前に闇竜の大暴走でやらかしてくれた宗教国家なのだが、何かあるとその話をして権威を振りかざし主導権を握ろうとする姿勢には、周辺国家もハイハイ凄い凄いと呆れ気味であるらしい。

 

 大戦時に消失した技術も少なからずありそうだが、博識な女騎士達は元より砦街の生き字引と言われるフランですら知らないのは普通ではない。

 

 明らかに今までにない高度な技術。

 世紀の大発見かもしれない。

 

「そ、それじゃフーさん、もう一つの気になった事ってなに?」

 

 ミレーもことの重大さに気づき驚いているようだ。

 フランを小さい頃の癖で砦街のフーさん呼ばわりするくらいに。

 砦街っ子、よくあるあるであった。

 それに少しだけ微笑みながらフーさんことフランは話を続けた。

 

「もう一つは出てくる魔物ですね」

「魔物? ゴブリンもオークもどこも変わってないように見えるけど」

 

 冒険者経験のあるミレーは当然ゴブリンやオークと何度も戦ったことがある。オークに至っては大得意といっていいほど潰して……討伐してきたのだ。

 その彼女からしても今まで出てきた魔物達に変わった点は見当たらなかった。

 

「はい、魔物自体には何も変わりはありません、ただ配置が不自然なんですよ」

「不自然……う、うーん、モーリィわかる?」

「魔物の配置かぁ、そう言えば一定の間隔で魔物が出てきてましたね」

「あ、言われてみれば確かに!」

 

 モーリィの指摘にミレーも気づき手を打ち鳴らす。

 

「ええ、それもありますがミレーさん。出てくる魔物が階層ごとで、ここまではっきりと別れているダンジョンは経験がありますか?」

「ううん、普通はゴブリンとかオークは同じ階層に出てくる事が多いかな」

「その通り、これらは危険指定を受けたダンジョンに共通している現象です」

「フランさん、それって……?」

 

 モーリィとミレーの不安げな視線。

 女騎士達も無言でフランを見た。

 やがてフランは自らも確認するように語りだす。

 

「この階層に入ってから確信しました。恐らく、このダンジョンには魔物を制御している存在がいるはずです」

 

 魔法剣士フランは重々しく告げた。

 

「それは、ダンジョンマスター」

 

 ダンジョンマスター……ダンジョンコアが意思をもち変化し生まれる特殊な魔物。

 

 それは当然ダンジョンコアそのもの。

 

 話し合いは通じずダンジョンを人の手で管理維持することが不可能になり、危険な状態となるために封印、つまり討伐しなくてはならない対象。

 ダンジョンマスターが発見された場合、どんなに資源の出るダンジョンでも直ちに大人数の討伐隊が編成されダンジョンマスターは排除される。

 

 ダンジョンマスターを放置すれば得られる資源以上の損害を被るからだ。

 

 そして今まで確認されたダンジョンマスターは、どれも闇の竜と匹敵するほどの強さを秘めた魔物だった。

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