TSして聖女になってしまった少年のお話   作:あじぽんぽん

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砦のダンジョン その8

 砦の執務室。

 騎士団長は極度の緊張を強いられていた。

 

 その原因は対面のソファーに浅く座る作務衣姿の女性。

 漆黒の黒髪。深紅色の目。雪のように白い肌。

 そして竜のような角に尻尾といった美しき異形。

 

 魔の国の王……魔王様だ。

 

 彼女はモーリィ達が地下ダンジョンに突入後、砦にひょこりとやってきた。

 ダンジョンの入り口を警備待機する騎士達の中に『何をしているのかしらキョロキョロ』と、いつの間にか魔王様が交じっていることに騎士団長は少し驚いてしまう。

 

 その場で彼女を捕まえて簡単な事情を説明、何か情報を得られないか話を聞く為に執務室まで来てもらったのだ。

 

 そしてそこには騎士団長も思いもよらなかった人物が待ち受けていた。

 

 魔王様は出されたお茶を手に持つと口に運びズズーと啜る。

 上品とは言えない仕草だが不思議と下品ではない、その隣に座る人物も同じように茶を啜るが、こちらは少々だらしない。

 

「やっぱり麦茶は熱いほうが美味しいわね」

「うむうむ、同意ですなぁ」

 

 二人して緩そうに微笑んだ。

 

 美貌の魔王様の隣に仲良く座る好々爺。

 長い髪と長いあごひげを持った整った顔立ちの御老人。

 彼は王宮魔導士の長、魔人ミゲル・ナイアラル。

 

 騎士団長アルフレッド・バードリーには、この世の中に苦手な人物が五人いる。

 その内の二人が目の前に座っていたのだ。

 

 ――今日は厄日だな。

 

 騎士団長は珍しくため息をつきそうになりながらも話を進めることにした。苦手な人達ではあるが、このような災時には頼りになる御老人方なのだから。

 

「それで発見したダンジョンのことなのですが」

「もう堅苦しいわね。もうちょっとフランクにいきましょうよアルちゃん」

「…………魔王陛下」

 

 騎士団長アルフレッド・バードリーには、この世の中に苦手な女性が三人いる。

 実の母親と砦街のミレー、そして目の前の魔王様。

 

 彼女はある事情で騎士団長が幼い頃からの知人であり、彼の若かりし頃の数々の弱みを握っている女性でもある。簡単に言うと親戚のおばちゃんのような間柄だ。

 

「はいはい、ちゃんとやりますよ。アルちゃんって変なところで真面目なんだから」

「真面目にならざるを得ないでしょう、何しろ聖女を投入しているのですから」

「ほう、アル坊ちゃんにしては、ずいぶんと思い切ったことをしたものですな?」

「その必然性があったからです、それとアルちゃんとアル坊ちゃんは勘弁してください」

「「はいはい、分かりました。アルフレッドさん」」

 

 美しい女性とあごひげの御老人の二人は、少し不満そうに口を尖らせブーたれた顔を作る。騎士団長は珍しく精神的な疲れを感じた。

 

「まずは魔王陛下、一つ聞いてよろしいですか?」

「何かしらアルフレッド?」

「今回の件、貴女は関わっていませんよね?」

 

 質問に魔王様はしばらく無言で騎士団長を見つめる。

 そして横に座る魔導士長をチラリ。御老人は片目を瞑ると肩を竦める、見た目の年には似合わずチャーミングな仕草。魔王様は再び顔を騎士団長に向けた。

 

 絶世の美女(推定四百~歳?)は艶やかに微笑んだ。

 

 彼女曰くニヘラ笑い……場を和ませるための微笑み。

 第三者からしたら同性すらも落とす恐るべき魔性の微笑み、しかし彼女が都合の悪いことを誤魔化す時によく使う微笑みだった。

 

 嫌になるほど、それを知っている騎士団長は思わず素で叫んだ。

 

「関係してたのかアンタっ!?」

「う、うん、関係していたというか、大元の関わりはあるけど今回の件にはたぶん関わってない感じかしら?」

「いやいや、洗いざらい話してくださいよ。順を追って全部説明してくださいよ」

「えぇ……ちょっと面倒かなぁ?」

「ふざけるなよ、くそ婆ぁ!!」

「酷いわアルちゃんっ! ミゲルちゃん今の聞いた? 今の聞いた? 何とか言ってあげてよ!!」

 

 ローテーブルに突っ伏すと、ワザとらしいオイオイと泣き真似をする魔王様。オウオウ可哀想にと笑いながら魔王様の背中をさする魔導士長。騎士団長としては御老人方のこのようなノリが、イラつくことこの上ないのだ。

 

「取り敢えず知っていることは全部話してもらいますからね、いいですね?」

「はいはい、でも昔ね。愛の告白までした相手をババア呼ばわりって酷くないかしら?」

「魔王陛下!!」

「うふふふふー」

「ひゃひゃ、若いですのぅ」

 

 口を押さえて笑う魔王様に、あごひげを扱きながら笑う魔導士長。

 

 騎士団長はこめかみを押さえた。

 赤ん坊の頃にオシメを取り替えてもらった連中というのは本当に厄介である。たまに記憶にない幼い頃のオネショ話をされても反応に困るというものだ。

 

 魔王様は残っていた麦茶を全部飲み干すと、急須から勝手にお茶のお代わりを入れ魔導士長のカップにも継ぎ足す。騎士団長のカップを見て中身が全然減ってないことを確認すると急須を静かに置き語りだした。

 

「それは四百年前のこと、ダンジョンが発生したのは魔術式の転移門を閉じられ、元の星に戻れなくなってしまった異星人達が原因なのよ」 

「……はっ?」

 

 魔王様が言っていることが理解できず、騎士団長は聞き返してしまった。

 

「うん、有り体に言えば、この世界の外の人間のことね異星人」

「え? 貴女、今凄いことをさらりと言いませんでしたか?」

「そうかしら? あ、ちなみにアタシとミゲルちゃんも異星人よ」

「いやぁ、長いことこの世界で過ごしていたから忘れていましたが、そういえばそうでしたなぁ」

「………………」

 

 二人の御老人共は同時に笑いだした。

 

 かなり衝撃的なことを茶飲み話のついでのように言う。魔王様は異形の美貌の持ち主で異世界の人間と言われてみれば何となく納得だが、王宮の魔導士達を束ねる魔導士長もそうだったとは騎士団長は夢にも思わなかった。

 

 彼でなくとも頭を抱えたいところだ。

 

 流石に、国王陛下はこの事実を把握をしているとは思うが、目の前の御老人方にそれを尋ねる勇気は騎士団長にはない。

 

「えーまずは四百年前。前提としての人魔大戦なんだけど、アルちゃんの認識としてはどうなのかしら?」

「どう……と言われましても人族連合と魔族の……貴女や闇竜を相手に起きた戦争でしょう?」

「ふむふむ、まあ間違ってはいませんな。しかし、アル坊ちゃんですらその程度の認識なら、極一部の者しか知らぬのも致し方ないところですかのぅ?」

「ええ、大戦後はどこの国も余裕がなかったからね。アレはアタシ達だけで片付けたし、それに情報は極力隠したのも理由だと思うわ」

 

 疑問を浮かべる騎士団長を魔王様は深紅色の瞳で見つめた。彼女の目は鏡のようで見る人次第で印象がまるで変わる、自分は今試されていると彼は感じた。

 

「人族と魔族の戦争。それはあくまでも始まりにすぎないのよ」

「……何故だか非常に嫌な予感がするのですが?」

「うふふふふー」

「ひゃひゃひゃ」

 

 またしても御老人方は笑い出した。

 

 こいつら絶対性格悪いよなと、騎士団長は自分のことを棚にあげて考えた。あるいは聖女(モーリィ)騎士団長(どくぶつ)などと評される彼の人格は、この二人の影響が少なからずあるのかもしれない。

 

「その後に行われたこと、異星人同士のこの星を巡っての覇権争い(せんそう)だったのよ」

 

 ――今日は本当に厄日だ。

 

 砦街の長、騎士団長のアルフレッド・バードリーは額を手で覆ったのだ。

 

◇◇◇◇◇◇

 

「つまりは神と呼ばれる、この世界を支配していた異世界人が人魔大戦時に消失し、それとは違う異世界人がこの世界の支配を企み攻めてきたと」

「ええ、そのとおりよ~」

「にわかに信じられない話ですが、貴方達が言うのならば事実なのでしょうね」

「うむうむ、流石はアル坊ちゃん。柔軟な思考をしておりますな」

「誰のせいですか、誰の?」

 

 また笑い出す御老人二人。それにしても、この年寄り共は笑いの水位が低すぎるのではないだろうか。

 

「うんとね、異星人同士の星を巡る戦いと言うと規模が大きく聞こえるけど、実際には国盗り程度の話だからね。アルちゃんだって、もしも隣の国の支配者が全員いなくなったら奪いに行こうかな程度は考えるでしょう? 実行するかは兎も角として?」

「まあ、それが普通でしょうね……」

 

 ――国盗りだって十分規模の大きい話なんだけどなぁ……。

 

 突っ込みかけたが、騎士団長は懸命にもぐっと我慢した。

 

「この世界を支配していた神の消失ですか、話には聞いたことがありましたが事実でしたとは……しかし、一体どうして消えてしまったのですかね?」

 

 それほど深い意味はなく何気ない質問だった。

 

 ヘラヘラと笑っていた二人が同時にぴたりと止まった。そしてお互いに譲り合うようにチラチラ目配せ、騎士団長は今日何度目か分からぬ嫌な予感。

 

 やがて観念したのか話し出す魔王様。

 

「あー、あのね、それも詳しいことを話すと本当に長くなるんだけどね」

「え、ええ」

「アタシがヤッちゃった感じかな?」

「……はい?」

「うん、直接じゃないけど間接的にアタシが殺っちゃった感じかしら?」

「……なにを殺ったのですか?」

「神ぽい異星人?」

 

 後頭部に手を当ててテヘッと照れる魔王様。

 魔導士長もウンウンと頷いていた。

 

 この婆は一体何に対して照れているのだろう?

 この爺は一体何に対して頷いているのだろう?

 

 ……質問をしようか騎士団長は本気で迷ってしまった。

 

「えーまあ、続きお願いできますか?」

 

 もう話だけを聞こうと彼は結論付けた。この御老人方の秘密話は心臓に悪すぎる。

 

「うん、それで色々あって今は神の代理……管理者がこの世界を維持してくれているのだけど、星が安定し、しばらくしたら突然に異星人達が攻めてきてね」

「それは……また難儀ですね」

「うんうん、もう話し合いも何もなしの問答無用だったわ」

「ふむ……それでどうなったのですか?」

「勿論、言葉も通じないし根こそぎ破壊したわよ?」

「……………………」

「一応この星を守るためにがんばったのよ?」

 

 ――ひょっとして世界の全ての悪の元凶は目の前の女ではないのだろうか?

 

 閃光のように脳裏に浮かんだ考えを、騎士団長は慌てて打ち消した。

 

「で、そこまでは良かったのだけど……」

「全然良くないと思われますが、また何かあったのですか?」

「ええ、ヤツら性懲りもなく大量に兵隊送り込んできたのよねぇ」

「あれは観察しただけでも、えらい数でしたなぁ」

「ねー」

 

 二人の御老人は何が楽しいのかヘラヘラと笑い出す。

 騎士団長は全く楽しくなかった。

 

「倒したけど、その後もしつこく来るものだから面倒になって、この星に来るための魔術式の転移門をアタシが根こそぎ破壊しちゃったってわけ」

「アンタ何でも根こそぎ破壊しすぎだろう……あ、いや失礼。それはまた、かなりの無茶をしたものですね?」

「んー無茶と言うか、そのせいでミゲルちゃん達が帰れなくなったのよね」

「いやはや、あれには一同、途方にくれましたよ」

 

 騎士団長は考える。

 

 魔王様がこの地を訪れた理由は不明だ。だが異世界の人間だとしても現在はこの世界のために戦っている、彼女には様々な守る存在としがらみがあるのだから。ならば魔導士長はどうなのだろう、騎士団長の知る限り彼には家族はいないし、これといって庇護する対象もないはずだ。

 

 話の流れからして二人が別口の異世界人なのは分かる。

 

 それを質問することに騎士団長は迷う。

 返答の結果しだいでは、魔人ミゲル・ナイアラルと王宮魔導士達を王国の、ひいては世界の敵として見なくてはいけなくなるからだ。

 

 王国の砦街を預かる者として聞かなかった振りも出来ない、宮廷での腹芸駆使する狐と狸の化かし合い(おあそび)とは訳が違うのだ。ためらったが、いざという時は魔王様(ばばあ)が何とかしてくれるだろうとあっさり考え、騎士団長は聞くことにした。

 

 彼も何だかんだと根っ子のほうでは、いい加減な楽天家だった。

 間違いなく幼い頃の周囲の影響……三つ子の魂と言うやつである。

 

「魔導士長の目的は何です? 故郷に戻れなくなったというのはともかく、この世界に来た目的が私にはみえませんが?」

「ああ、それはアタシも気になってたのよねミゲルちゃん。なにしろ貴方達とは有耶無耶のうちに協力関係になっていたからね?」

「ふーむ、そうでしたかな?」

「はっきり聞くわ、ミゲル・ナイアラル。貴方達の種族はこの星をどうしたいのかしら?」

 

 超常の力をもつ人外達はしばし見つめあう。

 

 切欠を作ったとはいえ、張り詰めた重苦しい空気に騎士団長は心底ゾクリとした。二人とも穏やかな微笑を浮かべているが、内心全く笑ってないことを長い付き合いの彼には分かったからだ。

 

 やがて魔導士長が先に口を開いた。

 

「我々、観察チームの目的は変わりませんよ魔王陛下。観察対象X……つまり貴女様を見守るファンということですな」

「あらあら、そういうことを面と向かって言われると照れるわね」

「この星に関してはこの星に生きる者に決定権があり、それを外からどうこうするのは傲慢だと我々の種族は考えております故」

「良かったわミゲルちゃん、今のところ貴方達と戦う理由がないと分かってね」

「ひゃひゃひゃ、それは何よりです魔王陛下」

 

 騎士団長は室内の空気が緩んでいくのを感じ息をはいた。そして魔導士長が魔王様の後を引き継ぐように語りだす。

 

「ここからは我々の種族の話になりますが、その戦いの折にですな、何人かの者が生体維持……命を保つ力に支障をきたしましてなぁ。もちろん故郷の星に戻れれば修復可能で問題はなかったのですが……」

 

 チラリ魔王様を見る魔導士長。見られた彼女は呑気にお茶を啜っていた。

 

「まあ、戻るための星系移動術式……魔術式の転移門を破壊されましたので、救助が来るまでそれぞれ休眠状態にはいったのですが、やはり支障をきたした状態では上手く休眠できない者も出てきまして……」

 

 魔導士長は、彼としては珍しく困った表情になるとあごひげを扱いた。

 

「この世界は我々種族の力となる魔力が薄すぎて、言うなれば食料の全くない牢屋と同じです。その状態だと魔力減少で肉体を維持することが出来ずに分裂を起こし、それでも元の状態に戻ろうと魔力を効率よく得るため無数に発生したのが、この世界で言うところのダンジョンというわけですな」

 

 ――どうしようこれ、とてもじゃないけど公表できないやつだよね?

 

 騎士団長は頭を抱えた。しかし勇気を出し聞いてみることにした。

 

「国王陛下は……知っておられるのですよね?」

「ええ、それは勿論ですよ。ああ、あの方もこの話を聞いたときは、今のアル坊ちゃんと同じように頭を抱えてましたなぁ」

「あらあら、行動が似るのは一族の血ってやつかしらね?」

 

 笑い出す御老人共。騎士団長も、もう自棄になって笑うしかなかった。

 

「では、この地下ダンジョンは?」

「それでしたら恐らく問題はないかと、中にいるのは私の弟子のような者でして、彼女は少々変わり者ですが無闇に周りの者に害をなす行為はしませんよ」

「そうそう、あの娘はちょっとツンデレさんだけど良い子よ~」

 

 たまに出る魔王様の意味不明の発言は、騎士団長にとっては今更なので気にもならない。ともかく彼は問題解決とばかりにようやく安堵のため息をついた。だが、そんな彼の安息を打ち壊すように魔王様が爆弾発言をしやがったのだ。

 

「ああ、これはディーちゃん……ディードリッヒ国王もまだ知らない事なんだけどね」

「え?」

「転移門を壊したはいいのだけど、転移中だった異星人が星のすぐ外の空間に大量に閉じ込められた状態になっててねぇ」

「………………」

「ここ最近の事なんだけど、週一くらいの間隔かしら? それくらいで空間が僅かに開いて、中から異星人の兵隊達が這い出てきちゃうのよ。わらわらと」

「推測するに、あれは中で繁殖しているのではないですかのぅ?」

「そうかしらね? まあ、そんな訳で出て来てくる異星人は、その都度アタシが超魔王キック打ち込んで根こそぎ破壊しているのよ。何しろ一匹でも地上に下ろすと大惨事になるからね」

 

 わらわらとのところから両手を小さく前に出し波のように揺すっている魔王様(ばばあ)

 

 ――不本意ながら、少しだけ可愛いなちくしょう。

 

 騎士団長は現実逃避ぎみにそんなことを考えた。

 魔王様は彼のほうに身を乗り出すと何故か得意気になって、またしても意味不明な発言をするのだ。

 

「ねね、アルちゃん、なんだかアタシって特撮のヒーローみたいじゃない?」

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