TSして聖女になってしまった少年のお話   作:あじぽんぽん

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砦のダンジョン その9

 ミレー達五人は一日ほどの時間で、地下ダンジョン第十階層まで到達していた。

 

 途中で睡眠を含んだ長時間の休憩を挟んだことを考えれば、驚異的なダンジョン攻略速度といえた。それは五人の能力の高かさもあるが他にも理由はあった。

 

「影さん、お願いねっ!」

『――――――――』

 

 彼女達が炎をまとった謎の巨人との戦闘中に、隊列の後方から挟撃をしかけてきたのは七匹のハイオークの群。しかしそれにいち早く気づいたミレーは相棒(・・)と共に迎撃にはいる。戦線を維持する女騎士達、複数の魔術を展開し援護するフラン、余力のない炎の巨人との戦闘中に背後から攻撃されるわけにはいかない。

 

 ミレーは先行して飛び出してた一匹のハイオークの前に立ちふさがる。

 

 巨漢のハイオークが走る勢いのまま振り下ろした錆びついた大剣を、丸盾の裏側にメイスを握った手をそえながら両腕で受け流す。

 強撃を完全には殺しきれず丸盾を持つ左腕がジンとしびれた。

 だが彼女は苦痛を漏らさない、この程度で悲鳴をあげるなら冒険者になろうとは思わなかっただろう。

 

 ゴニョゴニョと早口詠唱。持続の治癒。自己治癒力向上。

 

 同時にミレーの両足を伝って地面に黒々とした影が走る。

 

 薄い光にうつしだされ壁に踊る影はまるで悪魔のよう、ミレーに襲い掛かろう近寄る六匹のハイオークを包囲するように広がる。彼らは自分達に忍び寄る死の影には全く気づきもしない。

 

 ミレーとハイオーク、鉄同士の荒々しい打ち合いに火花が散る。

 そのまま組みあい鍔迫りあう、ミレーは押される。

 お互いの息が掛かる近距離で唸り睨み合った。

 

 二人の体格差は大人と子供。

 

 だがミレーの小柄な体に宿る魔力が凄まじい勢いで循環しだすと、微かな光を放ちながら肉体を強化、ハイオークの巨体を物ともせず力で押し返して拮抗する。

 だが数の有利をもつハイオークは焦るでもなく醜い顔を歪めた。

 

 ――こいつ、私をあざ笑ってる……!

 

 明らかに、こちらを侮るハイオークの様子にミレーは怒りを覚えた。

 

「なめるなぁ!!」

 

 ミレーが叫ぶ。

 

 普段はどちらかというと温厚な彼女だが、荒事になると途端に勇猛果敢になる。

 ダンジョン攻略が始まってからの彼女の行動は一々何だか主人公っぽかった。

 

 次回からこの物語の主人公(ヒーロー)はミレーでもいいのではないだろうか?

 

 その場合のモーリィだが、彼女は銀髪で巨乳で美人さんで聖女で控えめで博愛に満ちた性格なので、正統派なヒロインとしてやっていけるかもしれない。

 

 なんだかオークさんにアレコレされてしまうような危険な香りがする。

 

 ミレーはメイスを押されたように微かに引いた。

 しかし、それは明らかな誘いであった。

 まんまと乗せられたハイオークが、大剣に更に体重を掛けてミレーを押し崩そうとする。狙った瞬間、彼女は流水の動きで体を横回転させた。

 

 支えを失い、前に流され滑る大剣。

 ハイオークは勢いを殺しきれず前のめりに巨体を泳がせる。

 それでも強引に足を踏ん張ると、体をひねって振り向いた。

 

 ミレーはいなかった。

 ハイオークの視界からミレーは忽然と姿を消したのである。

 何が起きたのか、低い知能では理解できず、驚愕するハイオーク。

 

 しかし、ミレーは消えたわけではない。

 

 彼女は何と、ハイオークの直ぐ足元にいたのだ。

 地に体を伏せた片膝立ちの奇妙な姿勢を取っていた。

 額が地につくほど上半身を倒すその姿。

 まるで大地に祈りを捧げる、穢れなき崇敬な乙女である。

 

 だが刹那っ。

  

 過剰供給された魔力が、体に収まりきれず周囲までもを眩しく照らしだす。

 その現象に、ハイオークがようやく気づく、だが遅すぎた。

 

 吼えた、ミレーは獣のように吼えた!!

 

 鋼が鳴く、獣の唸り、彼女はメイスを振り上げる。

 這うような低位置から全筋力を乗せた渾身のメイスを。

 その威力や、推して知るべし。

 ハイオークに直撃する。

 光と化した鈍器はハイオークに確かに当たった。

 叩き上げる衝撃で空気が切り裂ける。

 あまりの威力に、ハイオークの巨体とミレーの小柄な体が大きく宙を舞う。

 

 

 

 そう、光の鉄杭は確かに直撃していたのだ。

 ミレーのメイスは直撃して、ハイオークの股間のアレをアレしていた。

 

 吐血、ハイオークは空中で苦悶し、悶絶して翼をもがれた鳥のように落下。

 勢い余って地面を跳ねて転がり続けるミレー。

 哀れなハイオークはぴくりとも動かない。

 

 

 回転が止まる……地に倒れ伏す二人の姿。

 しかし明確な勝者と敗者。

 紛れもなく、潰しのミレーの勝利であった。

 

「あいててて……」

 

 頭を振ると着ていた漆黒のドレスを払い叩きながら立ち上がる。

 残りの六匹のハイオークは影も形も残っていなかった。

 影さんが全部処理して(たべて)くれていたのだ。

 カランッ……ミレーの目の前で拳大の魔石が七個落ちた。

 辺りに漂っていた影さんが全て戻ってくる。

 

「ありがとう影さんっ!」

 

 ミレーのお礼の言葉にくねくね不思議な踊りを披露する人の形をした影。

 中々にイカしたステップ。

 

 影さんとミレーは、へーいっと空中でハイタッチ。

 

 二人はダンジョン探索で友情を育み、すっかりと仲良さんだ。

 影さんも満足したのか漆黒のドレスに吸い込まれるように戻る。

 振り返るとフラン達も謎の巨人との戦いを終わらせ一息ついているようだ。

 ミレーは魔石を回収すると彼女達の元に足早に向かうのであった。

 

 ◇◇◇◇◇◇

 

 二階層目で豪奢で清楚な喪服ドレスこと影さんの封印を解いた後、そのまま下層への探索を継続することになった。モーリィが消えてしまったからだ。

 フランたちは一旦入り口に戻り、ダンジョンで知り得た情報とダンジョンマスターについての報告をすることも考えた。

 

 しかし消えてしまった聖女モーリィの安否が心配である。

 

 もちろん感情面の話だけではなく、彼女がいないと結界を通り抜けることができず、合流しないとダンジョンから抜け出ることはできない。モーリィの居場所を一刻も早く突き止めるため探索をそのまま続行することにしたのだ。

 

 それに探索の予定は二日間と事前に決めていた。

 時間が過ぎて戻らなければ騎士団長が外部から何らかの対策を講じてくれるはずだ。彼は有能な男である、結界さえ解かれればダンジョン内部の様子を見て、フラン達が気づいた程度の異常は直ぐに分かるだろう。

 

 行動は決定した。そして次に影さんの取り扱いが問題となった。

 

 自立稼働が可能とはいえ影さんの本体はドレス。

 最大に力を発揮するには誰かが着る必要があったのだ。

 女騎士の二人とエルフのフランは装備や体格的に無理があり除外された。

 

 しかし、フランは着れないかを試した。

 

 影さんこと漆黒のドレスは実の母の形見であると同時に、敬愛する従姉様との思い出の品でもあるので当然の行動だった。

 

 フランは顔を真っ赤にして眉間にシワを寄せ歯を食いしばり、額に汗を滲ませながら必死になって試した。駄目だった。無謀だった。

 肌着を脱いで乳当てまで外して試した。やはり駄目だった。哀れだった。

 

『くっ……くぅ! ま、前は、私でも着れたのですがっ!』

 

 フランはダンジョンの壁をぺチぺチと叩きながら悔しそうに歯ぎしりする。

 そんな彼女に四人の何とも言えない視線が突き刺さった。

 

『ほ、本当です! い、今は、こ、この胸が大きすぎるだけですからっ!? 三百年前はちゃんと着れましたからっ!?』

 

 彼女は自分の胸部装甲(たわわ)をぺチぺチしながら、エルフ特有の透き通った美麗な顔を歪めて半泣きで言い訳をする。エルフ成分の無駄使いだった。

 

 ――それだけではないと思う。

 

 フランの剥き出しになったお腹を見つつ、同性の情けとして全員が指摘しないことにした。フラン(ブタ)の姿は、明日は我が身で決して他人ごとではないのだ。

 そして三百年前といったら、この地が遷都され砦街の名称になる前の話で、フランの年齢(オバハン)の噂はどうやら正しかったらしい。

 

 女騎士とミレーの四人は先輩女子(フラン)の知りたくもない数々の恥部を知った。

 

 ちなみに彼女達は知らぬことだが、砦街のフラン女史は仕事上がりの平日は自宅に帰ってワイン飲んでチーズをパクパク食べながら寝落ちし、休日は朝風呂しながらチーズ食べつつワインをカポカポ飲んでそのまま寝落ちするという、自堕落な生活を三百年も続けてきた筋金入りの駄目女子であった。むしろエルフだからこそ、この程度で済んでいるのかもしれない。

 

 故にフランのお腹はワインとチーズで出来ていた。

 

 残ったのは小柄な女騎士のドライツェーンとミレー。

 しかしドライツェーンは着ることを嫌がった。

 彼女のダンジョンの壁さえも利用する縦横無尽の戦闘スタイルには、体の動きを束縛するドレスは相性が悪く、なによりドライツェーンの堅実な性格から得体の知れないものを纏う気にはなれなかったのだ。

 

 こうしてミレーは影さん付きのドレスを纏うことに。

 

 探索中は二人の間で様々な出来事があった。

 お互いの着こなし(いきかた)を巡ってぶつかりあう二人。

 些細な事でいがみ合い衝突する二人。

 そこに現れる強敵、手を取り合い協力する二人。

 戦いの中でいつしか芽生える二人の友情。

 

 ミレーは無機物相手に一通りの英雄的な青春物語を展開していた。

 わずか一日の出来事である、砦街在住のミレーさんは色々半端なかった。

 

 実際のところ影さんの戦闘力は驚くほど高く、彼女一人いれば十分ではという状態なのだが世の中そうは上手くいかないもので、影さんは戦えば戦うほど持っている体力的なものを消耗し長い休息が必要となるらしい。

 ドレスの封印を解いた目的は聖女モーリィの居場所を探るためで、それ故に影さん頼りで戦闘をして消耗させる訳にはいかなかった。

 

 通常は五人で戦闘を行い、どうしても手が回らない時にだけ影さんに出張ってもらっていた『お願いします影さん先生』という感じである。

 

 

 第十階層に降りてから戦闘自体は少なくなっていたが、強い個体が単独で出てくるので戦闘自体が長引くようになっていた。

 

 先程のハイオークのような徒党を組む魔物は珍しいくらいだ。

 

 影さんの誘導の元、ドレスを纏うミレーを先頭にしてドライツェーンが横に並び残りの三人が続く。罠など怪しいと思われる場所は、ドライツェーンが先行して調査をしてくるというやり方でこの階層まで探索を続けていた。

 

 通路の行き止まりに小部屋、ドライツェーンが調査をするために入る。

 

「モーリィ……大丈夫かな?」

「ミレーさん……」

 

 通路で待ってる間、ぽつりとミレーは呟く。

 不安げに声を掛けるフラン。

 彼女だけではなくツヴァイとフィーアも不安そうにミレーを見つめていた。

 

 ミレーは自分の腕を鼻に近づけるとクンッと匂いを嗅ぐ。

 モーリィが着ていたドレス、微かに彼女の匂いが残っていた。

 聖女の着ていた衣服だ。

 それ以外の私物はフランが背負う背嚢の中。

 

「モーリィ……」

 

 つまり聖女モーリィは今スッポンポン。

 

 モーリィの胸部装甲(たわわ)が剥かれた胸部装甲(たわわ)になっている。

 あんなことや、こんなことになっているのかもしれない。

 それどころか、無理やりアンアンなことをされている可能性だってあるのだ。

 

 ア……アンアンだってっ!? そ、そんなこと!?

 嫌がるモーリィにそんなことを……。

 で、でも、私なら絶対アンアンすると思う……!!

 なんて酷いことを! 許せない……絶対に許せない……絶対にだっ!!

 

 ミレーは激怒した。そして流れるように妄想の世界に入った。

 

「あの……ミレーさん。取りあえず鼻血を拭きましょうか?」

 

 軽く旅立ったミレーには諦めたようなフランの声は聞こえない。

 ツヴァイとフィーアも諦めた顔をしていた。

 調査を終えたドライツェーンが部屋から出くる、どうやら罠はなかったようだ。

 彼女はミレーを見て『また鼻血だしてる……』といった呆れ顔。

 

 三人は無言で疲れたように首を左右に振った。

 

 ドライツェーンが小部屋で見つけたのは魔術式の転移陣。

 影さんの指す場所も転移陣を示しており、使用する為にフランとミレーの二人で魔力を込めることとなった。罠なども考えられたが今までのダンジョンの傾向からその可能性は低いだろうとフラン達は判断した。

 

 この地下ダンジョンは強力な魔物が出てくる割には余りにも温すぎる。

 まるで力試しでもさせられているようだった。

 ダンジョンのダンジョンマスターに知性と理性と呼べるものがあるかは不明だが、明らかに何かしらの意図を感じるのだ。

 

 ◇◇◇◇◇◇

 

 浮遊感、魔方陣を起動させた五人が転移したのは大部屋。

 一人も欠けることなく転移出来たことにまずは安堵した。

 それから全員が油断なく辺りを見回す。

 

 ミレーが一番最初に気がつき部屋の奥を見る。

 そこには白色の柔らかそうな素材で作られたソファーが設置されていた。

 

 ソファーに誰かがいる……不思議な形状のドレスを纏った二人の少女。

 漆黒の黒髪と黒いドレス、白銀色の髪と白いドレスという対照的な彼女達はソファーに並んで座っていた。

 

 ソファーに優雅に腰かけているのは黒髪の美貌の少女。

 その隣に座る白い少女は漆黒の少女の肩にもたれ掛り目を閉じている。

 

 白い少女は探していた行方不明の聖女モーリィだった。

 

「モ……モーリィ!!」

「待ってくださいミレーさん!!」

 

 フランの制止の声も聞かず、ミレーは部屋の奥に向かって走り出す。

 五人の中で一番視力が良い彼女にはハッキリ見えてしまったのだ。

 

 唇から大量の血を流すモーリィと、それを口づけでもするかのように嬉しそうに舌で舐めとっている漆黒の少女。

 深紅色の瞳と確かに視線が合った。

 彼女はモーリィの腰を抱きしめて、頬を撫で触りながら笑っていた……まるで聖女は私の物だと見せつけんばかりに。

 

 瞬間ミレーの頭は真っ白に。

 気づいたら彼女は異形の少女に対してメイスを振りかぶっていたのだ。

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