TSして聖女になってしまった少年のお話   作:あじぽんぽん

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砦のダンジョン その11

 モーリィ達は光る壁の終点であるダンジョンの入り口手前の部屋まで戻って来た。短くはないダンジョン探索に一息つき、そのまま入り口まで歩き出す一同。

 

 しかしメルティは立ち止まり、その場から動こうとしなかった。

 

「クロエ……」

「どうしたんですかメルティ?」

 

 メルティの呼びかけにモーリィ達は足を止める。

 彼女はしばらく迷っていたが、やがて決意するように顔をあげた。

 

「ここでお別れねクロエ」

「え?」

 

 突然告げられた別れの言葉が理解できず、モーリィは聞き返してしまう。

 逸早く反応したのがフランだった。

 

「あ、メルティさん、もしかして下に戻られるのですか? その前に砦の責任者とだけでも会っていただけないでしょうか? 先の事も相談しなくてはなりませんし……あ、あと宜しければ先程のケーキのレシピなどを教えていただきたいのですが?」

 

 身振り手振りで慌てたようにメルティに頼み込むフラン。

 

 騎士団長に会わせることとケーキ……どちらの方が重要なのかは、ケーキを六個も平らげた彼女の行動から丸分かり。しかしメルティは違うと首を振った。

 

「そうではないのよ。貴方達が外に出たらダンジョンの扉を閉じて二度と開くことはないわ」

「ええ!? ど、どうしてですかメルティ?」

 

 明確な別れの言葉、しかも永遠の、悲鳴じみた声がモーリィの喉から出る。

 

「……限界なのよ。この世界で私の体を維持できるほどの魔力を手に入れるのは現状では不可能。体を保つためにはこのシェルターの中で再び眠りにつくしかないわ」

「そ、そんな……!」

「元々、眠りにつく前から長時間活動していて魔力枯渇が酷かったの。でも貴女がいなくなって、もう一度、貴女に会いたいと願った。だからクロエ……短い時間とはいえ貴女とまた過ごす事ができたのは本当に奇跡だったのよ」

 

 彼女は満足そうな顔をしていた。

 モーリィは納得できずメルティの手をつかむ。

 

「せっかく友達になれたのに、その何か……何か方法はないのですかメルティ!?」

「クロエ……無理なのよ、吸収するより消費する量のほうが遥かに大きいの。このままでは体を維持できず分裂するわ。私はそんな事になって貴女と過ごした大事な記憶の全て失ってしまうのが……何よりも恐ろしい」

「あ……あぁ……」

 

 モーリィに突きつけられたのはどうにも出来ない現実だった。

 

 聖女はうつむいてしまう、メルティが握られた手をそっと握り返してくれた。

 彼女はモーリィの顔に手を添えると丁寧に優しく頬を撫でる。

 

 聖女の澄んだ空色の瞳からは涙があふれて零れ落ちていたのだ。

 

「ねぇ、泣かないでクロエ? あの時、貴女に助けてもらって魔力を分けてもらわなければ、私はシェルターを出すことも叶わず、とっくに分裂して自分すらなかったわ。本当に感謝しているのよ? ひょっとしたらまた次の生まれ変わりの貴女に会えるかもしれない。だからね……泣かないでモーリィ(・・・・)?」

「メル……メルティ……うぅ……」

 

 メルティも涙を流し、長耳の頭がモーリィの肩に乗せられる、いつしか二人は抱きあい身を寄せあう。

 

 二人を見守るミレー達も声もかけられず沈痛な表情をしていた。

 

 彼女達も短い時間とはいえ、メルティという少女と接して好ましく感じていたからだ。女騎士達は静かに黙祷するように目を閉じ、喧嘩をしていたミレーですら眉間にシワを寄せ目頭を拭っている。フランなどは真っ赤になった鼻を指で押さえ涙をポロポロと零していた『ケーキィ……』という呟きは誰も聞こえない振りをした。

 

 メルティの小柄な体が静かにモーリィから離れていく。

 

「それじゃあ……さようなら」

「待ってメルティ、()はっ!」

 

『ヘイッ影さん! 一丁頼まーっ!!』

 

 ここにはいないはずの緩そうな女性の声がした。

 

 途端にミレーが着ていた漆黒のドレスがバラバラに分解され、黒々とした無数の闇となってメルティの体に纏わりつく。

 

 突然のことに驚くミレーと悲鳴をあげるメルティ。

 

「わっ、わわっ、ちょっと影さん!?」

「きゃっ、こ、これは!?」

「メルティ!?」

 

 メルティに纏わりついた闇は白い雪肌に溶け込むように消えていく。

 苦しそうに自らの体を抱き崩れ落ちるメルティをモーリィは慌てて支えた。

 

「メルティ! メルティ! しっかりしてください! メルティ!」

「う、うう……」

 

 モーリィは治癒士の経験からメルティを無理に揺さぶるようなことはしなかった。彼女は苦しそうに体を強張らしていたが、やがて力を抜き落ち着いた表情へと変化していく。メルティの様子は安定していて緊急を要する状態ではなさそうだった。

 

「メルティ、意識はありますか? ()の声は聞こえてますか?」

「クロエ……あ、あれ、私?」

 

 少しぼんやりとしているが、メルティの受け答えはしっかりしていた。

 見守っていた一同も、まずは大丈夫そうだと安心して息を吐く。

 

 だが次の瞬間、メルティがハッとしたように目を見開いたのだ。

 

「あ……え、これって!?」

「ど、どうしました? どこか体におかしいところがありますかメルティ!?」

「えっと、あ、あのねクロエ。その……大丈夫になっている」

「はい……?」

 

 不明瞭なメルティの様子にモーリィは疑問で返した。

 

「魔力の供給が問題ないレベルになっている……正確には体を維持するのに必要とされる魔力が極端に減っているわ」

「つまりその……?」

「……再び眠りにつかなくてもいいみたい?」

「え、えーとっ……?」

 

 どう返せばいいのか分からず、モーリィがメルティの顔をじっと見る。

 つつっと目を逸らされてしまった。

 

 あれほどの愁嘆場を演じた後だったので、メルティは凄く気まずそうだった。

 モーリィにも理解できる、彼女もひどく気まずかったからだ。

 直ぐ喜べばよかったのだが、今からだとワザとらしくて何となく外している。

 

 騎士トーマスあたりなら『おぉ……おっ! おおっう!?』と意味もなく盛り上げ強引に捻じ込むだろうが、モーリィはそれが出来るほど面の皮が厚くなかった。

 

 女騎士達も物凄く気まずい顔。

 

 各自が悲痛な態度を取っていたのでどのような反応をすればいいのか困っているのだ。フランさんは泣きながら『良かったぁ……ケーキ、ケーキィ』と呟いていたが食いしん坊のいやしん坊は全員が無視した。

 

「やったあっ! よかったじゃないモーリィ! メルティ!」

「わっ、ミレー?」

 

 そんな空気を全く読まないのが勇者(ミレー)。二人の首に抱きつくと腕を回し飛び込んできた。子供のように口を大きく開けて笑うとメルティの背中を嬉しそうにバンバンと叩く。

 

「ほらっ! メルティ! アンタも何をぼーとしているのよ。またモーリィと一緒に遊べるんだから素直に喜びなさいよっ!!」

「遊べる……え、ええ……そ、そうよね……?」

 

 張り合っていたことをすっかり忘れて、大喜びするミレーに感心するモーリィ。

 聖女も深く考えるのをやめて、微笑みながら祝いの言葉をかけた。

 

「おめでとうメルティ、本当に良かったよ」

「ええ、ありがとうクロエ……それにミレー」

 

 メルティは突然の幸運にまだ実感が薄いのか素直に喜べないようである、それでも二人に笑顔を見せてくれた。

 

「そろそろ宜しいですかな皆さん?」

 

 老成された落ち着きのある男の声だった。全員がそちらを、正確には女騎士達はすでにその方向を向いていたのだが……を向いた。魔導師服を纏った長い髪と髭の品の良さそうな老人が立っている。だが視線はその前にいる人物に集まった。

 

 漆黒の黒髪と深紅色の瞳に角と尻尾の人外の美貌をもった作務衣姿の女性。

 

 彼女は両目を閉じ右手の人差し指は天井を指し左手を腰に付けていた。

 片足だけ膝を曲げた爪先立ちポーズで、腰が微妙にクイッとなっているところが怪しげ。片目をチラリチラリと開け全員の視線が集まっているのを確認しているところが微妙にうざかった。

 

 作務衣姿の女性は親指でぐいっと自分を指差すと、足を広げ腰を落とし両手を見得でも切るかのように左右に広げた。

 

「アタシ参上!!」

 

 誰がどう見ても魔の国の魔王様だった。フラン以外の全員の視線が、何やってるんだこの人はという生ぬるい(バカをみる)ものに変わり魔王様の心臓を強く抉った。彼女は取っていたポーズを無言で解くと無表情で大地に立った。どうやら強い羞恥を覚えてしまったようだ。

 

 魔の国の魔王様は意外と……でもなく普通に(バカになれない)小心者だった。砦の騎士ほど振り切れていればまだマシだったのに、中途半端すぎる魔王様には誰も突っ込めなかった。

 

「N教授! それに観察対象X! 何でここに!?」

 

 メルティが驚いた声を上げる。聖女モーリィはまた面倒なことになりそうだとため息混じりに思ったのだ。

 

 ◇◇◇◇◇◇

 

 N教授こと魔導士長は、ミレー以外には面識があり紹介などは特に問題はなかった。ただ、メルティから自分と同じ種族の同胞だと説明されると、王国の魔導士を束ねる長が外の世界の人間だったのかと全員が驚きを隠せなかった。

 

「あ、アタシも一応は外の世界の人間よ? がおー宇宙人だぞぅ!!」

 

 魔王様の発言は不思議と全員が無視……黙認した。

 

 そう、観察対象Xこと魔王様がちょっと問題だった。メルティの話を信じるのならば、彼女は世界を守るために外の世界の侵略者と戦っている英雄ということになるのだが、普段の魔王様を知っているモーリィとミレーには今一つピンとこなかった。

 

 間違って化粧水飲んで酔っぱらうようなアレな人が、人魔大戦を起こし世界を滅亡まで追い込んだとされる、影操りの魔王と同一人物とは到底思えなかったのだ。

 

 影さん付きのドレスは分解して、それこそ影も形もなくなってしまったのだが、落ち込むフランに魔王様が『フーには後でアタシと御揃いの作務衣もってきてあげるわよ~』と呼びかけたら女史は顔を真っ赤に染めて、エルフ耳をピコピコと動かし万歳しながら飛び跳ねて大喜び。

 

 その際にフラン女史の胸部装甲が『たゆんたゆん』ではなく『どたぷんどたぷん』といった感じで上下に揺れ、女子一同も『うおぉ……』と思わず声を漏らし珍しい生き物を見る感覚でじっと鑑賞してしまう。

 

 さり気無く視線を逸らした魔導士長は紳士である。

 

 しかし、いい年した大人のはしゃぎっぷりときたら……砦街のフーさんことフランは顔も見たことのない母親の形見より、敬愛する従姉様の贈り物のほうが余程嬉しいらしい。今回、色んな意味で株を落としたのは第五騎士隊隊長のフランシスではないだろうか?

 

 二人が入れないはずのダンジョンにいるのは魔導士長の持つ鍵とやらの力を使ったらしい。影さん付きのドレスが消えたことやメルティの魔力消費量が減った理由などについては、外に出て騎士団長を交えて説明しましょうかで全員合意した。

 

「ミ、ミ、ミ、ミレー! なんで私の下着を着けているの!!」

 

 突然のモーリィの叫び……聖女はミレーが胸に着けている物にようやく気がついてしまった。ミレーはドレスの下にチェーンメイルを着けていたが、その上に何故か、聖女の豊かな胸の寸法に合わせて作られた大きい乳当てを身に着けていたのだ。

 

「う、うぅ……モ、モーリィの乳当てが魅力的すぎるのがいけないのよっ!!」

 

 聖女の羞恥の叫びにミレーさんが意味不明な逆切れをした。

 

 速攻で逃げるミレーに太ももどころか高貴な下着が丸出しになるのも構わず、両手を前に出して追いかけるモーリィ。下着を作った際に細身に巨乳という稀な体型のため合う型紙が無く、隅々まで寸法を測って型紙から起こしてもらったという手間と時間のかかっている下着だ。何より乳肉を直に覆っていた物を人目に晒されるのは、つい最近まで男をしていたモーリィとはいえ恥ずかしさを覚えた。

 

 スカートがちょっとくらい捲れようと取り返さないわけにはいかなかったのだ。

 

 きゃーきゃーぎゃーぎゃーと騒ぎながら追いかけっこを始めた二人をポカンとした顔で見守るメルティ。流石にきりがないと、魔王様がミレーの背後に瞬間移動でもしたようにシュバと追いつき、聖女の乳当てをスパッと引っこ抜いた。

 

「はーい、ミレーちゃんごめんなさいね」

「あーあー! 私の乳当てがぁ!!」

「なに言ってるの! 私のです!!」

 

 そして魔王様は、聖女モーリィの目の前で作務衣の胸元にさり気無くしまっちゃっうオバさん。

 

「あの……私の下着は?」

 

 聖女の声は全員に無視……黙殺された。

 

 

 ダンジョン探索で得た下着(おたから)を奪われてしまったミレーだが、魔王様に肩に乗る大きさの影の丸玉、目と口らしき三個の穴の開いたミニ影さんという賞品(おたから)を貰い直ぐにご満喫になっていた。影さんは個にして複数の同一存在らしく、小さくてもミレーと過ごした影さんの記憶があり彼女にひどく懐いているようだ。

 

 ちゃんと育てていけば以前の影さんと同じ大きさになるらしく、魔王様の説明を熱心に聞いているミレーを見ながら、モーリィは将来的に起こる凶事を予想して眉間の皺を指で摘んで揉み解す。

 

 背中を軽く叩かれ振り向くと肩を竦め苦笑いをしているメルティと目が合う。

 

 何となくモーリィも可笑しくなって笑ってしまう。今はメルティと別れなくてよくなった喜びを噛み締めようと思う聖女モーリィだった。

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