TSして聖女になってしまった少年のお話   作:あじぽんぽん

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闇の森の竜と女王

 治療部屋で待機していたモーリィにようやく呼びだしがかかった。

 

 モーリィは下ろしていた白銀髪をまとめ、慌ただしく部屋からでると砦の正門入り口にあたる大広場へと向かう。

 少し距離があるため駆け足……が、モーリィはどちらかというと足が遅いため、はた目にはトテトテといった感じの早歩きにしか見えない。

 一般女性に比べて大きな胸(たわわ)が、下着を着用しているにもかかわらず上下に跳ね揺れて煩わしい。

 仕方なしに両手で乳をつかんで走れば、道ですれ違う者の驚いたような好奇の視線が集中したが、自分の羞恥心よりも患者たち(・・・・)の容態のほうが気がかりである。

 モーリィが石畳で舗装された大広場に辿りつくと、端の方でげっそりといった風情で座っている騎士ルドルフと騎士トーマスを発見した。

 少し息を切らしたモーリィが横に立つと、ルドルフはため息をつき、トーマスは肩を竦めた。

 二人とも疲れた顔をしているが曲がりなりにも第三騎士隊所属のエリート脳筋である。

 体力的にではなく精神的に疲労を感じているようだ。

 

 目を広場にやる……モーリィは広がる光景に昔のことを思いだしていた。

 

 それは成人の儀式を受ける前日のことであった。

 彼はヨーサクという名前の幼馴染。

 成人の儀式を受けるために、近くの街に向かう荷馬車の中で、同年代の者と話をしている最中に彼は突然こう言ったのだ。

 

『俺には夢がある! 凄いクラスを得て英雄になったら、裸の女の子をベッドの上に一列に並べて、後ろからお尻パンパンするんだっ!!』

 

 みんなで一斉に大爆笑した。

 

 ヨーサクも多分本気で言ったわけではない。

 彼はそういうネタをたびたび挟んでは、みんなの笑いを誘うのが上手い頭のいい男だった。

 男の夢だよな~うんうん分かる分かると話が盛りあがった。

 

 ――あの頃は本当に楽しかったな……。

 

 何故そのようなことを思い出したかというと、広場には何百人もの裸の騎士(さる)たちが尻を剥きだしにされ、野営で使用する大きな麻布の上に並べられウンウン呻いて寝ていたからだ。

 

 ◇

 

 砦街の役割……正確には砦と騎士の役割というものがある。

 

 たまに砦街に襲撃に来る獣王国の獣王様の……。

 

『おっ? おめぇらっ強いやつ(脳筋)ばっかいるなぁ。よしっ! オラといっちょやってみっか!?』

 

 そう仰る要望に対して砦どころか国、そして周辺諸国をも巻き込んだ砦一武闘会を開催してみたり。

 

 このときは決勝戦で、獣王(ゴリラ)女騎士(ごりら)の数時間にも渡る殴り合いの末、女騎士(ごりら)が起死回生のボディからの八の字回転連撃を獣王(ゴリラ)に決め優勝した。

 会場の全員が立ちあがって拍手するほど熱く激しく盛りあがり、モーリィも感動のあまり少し泣いてしまった。ごりら。

 

 たまに砦街に襲撃に来る魔の国の自称魔王の……。

 

『フハハハッ! 我は魔王なり、人族どもよ我が力の前に跪くがよいっ!!』

 

 そう仰る要望に対して、その場にいた騎士たち全員で魔王迎撃戦(あそんであげた)をこなしてみたり。

 

『うわああんっ、御婆ちゃんに言いつけてやるんだからぁぁ!!』

 

 幼女(まおう)はそう言って泣きながら帰っていったので、これ以降、魔王ちゃん(仮)とか魔王ちゃん(笑)と呼称され砦のみなに親しまれている。

 それと迎撃成功にウキッーウキッーと大はしゃぎをする大人げのない騎士(さる)たちに、流石のモーリィも見るに見かねて『幼児相手にやりすぎですよ!』と厳しく叱った。

 

『アタシ参上!!』

 

 そんなセリフと共に泣きぐずる幼女を抱っこした女が砦にやって来た。

 やたら美人だけど、ほっかむりに作務衣という何だかよく分からない格好をした魔族女性。

 彼女は騎士たちをステゴロで全員ボコボコにし、女騎士の合体奥義トライフォーメーションアタックすらもデコピンで弾き返した。

 魔王ちゃん(仮)は手を叩いて大喜び、モーリィは惨劇に手で顔をおおった。

 

 そのあと、彼女は魔王ちゃんを抱っこして砦の井戸端会議に参加し、お土産に魔の国産と思われる大量の果樹植物や苔盆栽を置いて帰っていった。

 

 この最初から最後までクライマックス状態だった女性は魔王様(真)とか魔王様(恐)と呼称され、彼女が持ってきた苔盆栽は街でも一時期流行し、モーリィも治療部屋に置いて育てている。心安らぐよね苔盆栽。

 

 とまあ、ここまではあくまで予期せぬ突発イベントである。

 砦と騎士の本来の役割とは周辺の魔獣討伐。

 正確には闇の森からあふれでてくる魔獣を迎撃することにある。

 

 闇の森とは人族と魔族の領域を隔てる境界線である。

 以前は辛うじて行き来ができたようだが、四百年ほど前に起きた人魔大戦と呼称される人族と魔族の大戦争のあと、戦争の余波の影響なのか森の木々が急激に伸び二つの種族の領域を完全に分断することとなった。

 問題はこの闇の森で広大な森林には恐ろしい魔獣が生息しているが、同時に数多くの貴重な資源や動植物なども存在し、それを得るため無謀な冒険者たちが入り行方不明になることがある。

 立ち入るのは自己責任なので勝手にしてくれが基本なのだが、たまに森の支配者である闇竜などを刺激し大騒ぎを起こすのだ。

 人間離れした砦の騎士たちも闇竜が相手では流石に分が悪い。

 というか騎士たちの重傷原因の殆どが闇竜の仕業で、特にポチと呼ばれる片目の闇竜の強さが群を抜いて凶悪であった。

 

 砦街に襲撃(あそび)に来る魔王ちゃん(笑)が可愛らしいくらいだ。

 

 そして今回起きた出来事は、諸外国と問題を起こすことに関しては、安定した信頼と実績を持つ、神を祭る宗教国家の手の者によって起こされた事件だった。

 

 

 彼らはよりにもよって闇竜の卵を盗んだ。

 

 

 闇竜の大暴走の知らせがあり慌てて騎士団総出で出向いた。

 砦街を完全に留守にするわけにもいかないので、砦警備任務中の第三騎士隊と、街の治安維持専門の第五以外の第一・第二・第四で出陣した。

 間の悪いことに、騎士団長が王都に出向き不在だったため、指揮を第一騎士隊の騎士隊長が執り仕切り、彼を中心に事件に当たることとなった。

 

 ここで話は少し横にずれるのだが、砦の騎士隊で騎士隊長になるには、ある最低条件があるのだ……それは人としての知性を全て失っていないこと。

 

 以前も話したが入隊時は普通でも、砦で筋肉で会話するレベルの脳筋どもに囲まれて生活していると、いつの間にか全ての知性を理性と共に消失してしまう。

 砦に送られて来るような騎士だと最初は5程度の知性を持っているが、それがわずか数週間で2以下に落ち込み、そして数か月後には0に近い小数点以下まで下がり、晴れて砦の騎士(さる)の仲間入りとなる。

 

 彼らの行動は一見して常人と変わらないように思えるが、脳の筋肉が常に条件反射で動いているため傍目には普通に見えるのだ。

 

 だが隊長になるような者だと元々の知能が高いのか、脳筋たちに交じっても元の半分の3程度の落ち込みで済むらしい。

 脳筋に交じっても知性と理性を失わない高い頭脳を持つ者、それこそ砦の騎士隊長に必要とされる重要な資質である。

 

 参考までに普通の人の知性は最低でも10以上だ。

 

 そんな素敵に脳筋な彼らだが、まずは原因の調査とばかりに闇竜の偵察に嫌々向かうと、そこで必死に逃げている怪しい集団を偶然発見した。

 頭脳はおそまつでも行動力と戦闘力は王国一の砦の騎士たち。

 ある意味で、はた迷惑な連中だがこの状況下ではいい方向に転がった。

 手早く追跡し、手早く拘束し、手早く尋問し、手早く闇竜の卵を発見した。

 

 おま、おまえらまじかよ!? ふ、ふざけんなよぉ!!

 

 べキバキボコ……という流れだった。

 それはそれとして、砦の騎士たちは途方に暮れた。

 この状況、闇竜側にすれば人族の者が卵を盗んだ。

 つまり、今の彼らにとって人族すべてが怒りをぶつける対象ということである。

 

 僕たちと違う国の人が盗んだんです。

 僕たちは君たちの良き理解者です。

 僕たちは平和を愛する平和主義者です。

 ですので、あの、あの……ま、まずはお友たちからお願いします!!

 

 ボフッ!!(闇竜ブレス)

 

 なんて感じで、初めての恋の告白もどきは悲しいことに通用しないだろう。

 

 しかし大暴走する闇竜たちを放置すれば、王国はおろか、周りの国もいくつ滅びるか分かったものではない。

 彼らは王に忠誠を誓う剣として、国と民を守る盾として、騎士道精神を遵守する騎士として命を賭ける決断をしたのだ。 

 

 その場で最も高い知性を持つ第一騎士隊長の指揮のもと、持ってきた炎ブレス避けの大盾と覚悟を持って全員で説得交渉を(みんなでわたれば)しに行こうか(こわくないよ)? で向かった。

 だが、おっかなびっくり近づいた騎士たちは闇竜の罠にまんまと誘きだされ、背後に分散して潜んだ闇竜たちの炎ブレスによる集中砲火を浴びせられる。

 

 ぶっちゃけ、交渉にもならなかった。

 

 同時に砦の騎士(さる)たちの知性は、闇竜(とかげ)には遥かに及ばないことが証明されてしまった歴史的瞬間だった。

 正直、砦の騎士のおつむ具合は近隣諸国でもとても有名だったので、どうでもよかった。

 

 全員がお尻を後ろに引いた逃げ腰の、へっぴり腰だったのが不味かったのか、こんがりとお尻を重点的に焼かれてしまったのだ。

 

 へたれ過ぎ、王国の剣は?

 

 無茶言うなよ、騎士たちだって自分の身が……一番かわいいんだ!!

 

 騎士たちのお尻の姿焼きという地獄絵図な場所に現れたのは、炎のような色合いの髪と瞳を持つ、どこかで見たことあるような、やたら美人な魔族女性だった。

 

『なるほどキサマたちは闇竜の卵を取り戻して来てくれたようだな……ふむ、良いだろう……今回はその働きに免じて引いてやる……だが、次はないぞ人族?』

 

 女王様のような見下し視線と、ぞくぞくするようなあり難い言葉を仰って、卵と卵を盗んだ者たちの身柄と引き換えに、彼女と闇竜たちは闇の森に帰って行った。

 

 このとき、騎士(さる)の何人かは職変更して騎士(いぬ)になったかもしれない。

 

 そして負傷した騎士たちは、万が一を考慮して偵察に来ていた女騎士と、その知らせを聞いてやって来た砦街の住民有志の協力によって、出荷前の豚のように荷馬車にぎゅうぎゅう詰めで大量に乗せられ、砦まで運搬されていったのだ。

 

 このよう(おまつり)なときの砦街住民の団結力(やじうま)は素晴らしいものがある。

 

 

 負傷した騎士たちの鎧や服を脱がす作業を居残りの第三騎士隊と、砦街のご年配のご婦人方と女騎士たちで取り組んだ。

 モーリィも治癒しながら手伝おうとしたらご婦人方に遠慮願われた。

 彼女たちいわく……未婚の若い娘さんが成人男子の服を脱がすという、そのような恥じらいのない、はしたない行為をするものではないらしい。

 

 モーリィは前々から感じていたのだが、ここに来た当初から街の住人に女と勘違いされ、女と認識されていたのではないだろうか?

 最初から砦の井戸端会議に参加させられてるし、たまに相手が男のお見合いを勧められるなど、思い当たる節が色々とあるのだ。

 

 後……二十代くらいの者が多い女騎士たち(わかいむすめ)はいいのだろうか?

 

 そのような事情でモーリィは治療部屋で椅子に座り、騎士の剥き身の下ごしらえが出来あがるまで指をトントンしながら待機していた。

 

 そして呼び出され、大広場についたモーリィが見たのは、砦街の市場で年に一度行われる肉祭りのように、ぎっしりと並べられた騎士(ぶた)たちであった。

 元男のモーリィとしては男の裸を見ても特に何も感じない。

 感じないわけではないが、何か汚いな……くらいの感想である。

 むしろルドルフやトーマスのように男の服を延々と脱がしていたら、うんざりしていたかもしれない。

 本物の女性ならば何か思うことはあるのかと辺りを見回してみれば、騎士たちを剥いたご婦人方や女騎士たちが、腕を組みゲフフグフフといったご様子で、ニヤニヤニタニタと全裸の騎士たちを眺めながら何やら熱い評論を交わしていた。

 

 どうやら、あんな連中でも本物の女性の方々には需要があるようだ。

 

 モーリィは休んでいるルドルフとトーマスに小さく手を振って、治療を開始することにした。

 並んでいる騎士たち、その一人の前にちょこんと立つ。

 四角いお尻を軽くパンっと叩くと、あれほど酷かった重度の火傷が見る見るうちに治癒されていった。

 

 本来なら治癒の術はゴニョゴニョと複雑で長い呪文を唱える必要があるのだが、聖女の能力だと対象を触るだけで治癒させることが可能であった。

 正直このときだけは聖女になってよかったとモーリィは心の奥底から思った。

 これだけの数の男尻を前にして呪文を唱えながら治療していたら、確実に精神が病んでしまったはずだ。

 

 なるべくお尻を見ないようにしながらカニのように横移動し、腰をかがめて次々とパンパンしていく。

 

 ――騎士の皆様方、オゥフとかウッとかアフゥ、と変なお声をあげられますのは大変に気持ち悪いのでお止め頂けるようお願いいたします。

 

 モーリィはしばらくそうやって治療をしていたが、ふと集中力が切れて横を見てしまう。

 騎士たちの治療を終えたお尻が密集するように並んでいた。

 ツルツルと綺麗になった筋肉質で四角いが様々な形状のお尻が並んでいた。

 

 おお、神さま!! ……モーリィは天に向かって絶叫したくなった。

 

 

 ――ヨーサクお元気ですか? 私は元気です。あの頃のあなたの夢は裸の女の子を並べて、後ろからお尻をパンパンすることでしたね? 夢は叶いましたか、まず無理ですよね? 実は今の私はあなたの夢を代理で叶えているところです。ただし目の前にいるのは女の子ではなく、むさ苦しい男どもで、全裸にされた野郎の汚いお尻を後ろからパンパンしております。不思議なことに涙がこぼれてきました。嬉し泣きというものでしょうか? ヨーサクもお体を大事にし日々を健やかにお過ごしください。かしこ。

 

 

 モーリィはそのように心を別の場所に隔離した。

 死んだ魚の目で無心に数百人以上の騎士のお尻を治癒したのである。パンパン。

 

 後日、それからしばらくの間。

 

 治療した騎士たちがモーリィと会うたびに、頬を染めて俯き、チラチラと上目使いで乙女(メス)の顔をしてくるのが、聖女には酷く酷く苛立たしかった。

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