遠方で降車したラピド・ポータは、交通規制の流れに乗って再度現場へと向かった。
「簪さん、変装用の服装に着替えてください。制服だと多分マズそうです」
「ほいさ」
万丈は後部座席に座る簪に指示する。外に出て野次馬に混ざる前提である。座席を倒すとささやかながら収納スペースがあり、着替え一式を揃えている。リアにはジェットエンジンが納まっているのでスペース自体は狭い。
速攻ヘッドセットを外し制服を脱ぎ始めた簪に対し、万丈は覗かないという意思表示のためバックミラーを上へとずらした。ついでに後部ガラスには黒いシールドを張った。そういう気遣いができる男なのだ。
ラピド・ポータの車上から、サングラスを掛けた上いかにも初めて知りましたって風を装い、万丈は現場近くで交通整理をしている警官に話しかける
「何かあったんですかー?」
「さぁー? あぁ、車は迂回してね」
「さぁーって。僕たち向こうの庁舎に用があるんですけど?」
「だったらどっかで車停めて歩きなさいよ」
「えー……」
面倒くさがった態度を装って見せ、万丈は近くの駐車場にラピド・ポータを停める。その頃には簪は着替え終わっていた。さっきの警官、着替え中の簪ちゃん覗いていないよね? 何か奥覗こうとしたし、と気を揉んだ万丈だったが、まぁ今更である。
三人がそこから数分程度歩くと、人垣の山が見えてきた。あちこちにパトカーに救急車、消防車が詰めている。
「あー揉めてる揉めてる」
Tシャツとジャケットにジーンズ、髪は纏めた上でハンチング帽を被った簪が、ジャケットに片手を突っ込んだ格好で人垣の中央、コンコースの一角をちょこんと指した。
そこには警官に事情聴取を受けている男女6人の姿があった。一部の者は、正直なところ態度があまりよろしくない。
「すみません、すみません」
6人の中の唯一の男子、織斑一夏君が恐縮して警官に何度も頭を下げている。まっとうに生きてきた日本の高校生にとって警官というのは底知れぬ怖い存在なのだ。同時に、姉である織斑女史への申し訳なさで頭が一杯一杯になっていた。
一通りの聴取を受けて、6人はパトカーに乗るよう促された。
「あの、私たちやっぱり有罪でムショ行きなのでしょうか?」
一夏の隣にいる篠ノ之箒嬢が申し訳なさそうに問う。最終的に司法面で罪の是非を問うのは警察の仕事ではないが、何故か警察に無限の権限があると思っちゃうものなのだ。
「あぁ、多分ちょっと取り調べの後すぐ開放されますよ」
とはいえ、応対した警官が一応は返してきた。注意してみれば露骨に棘があると判ったであろうが、緊張していた件の6名の未成年には伝わらなかったようだ。
「良かった~~」
フランス人のシャルロット・デュノア嬢が心底ホッとしたが、別の警官が一言聞こえるように呟いた。
「いいワケないじゃない」
「何よ!」
中国人の凰鈴音嬢が一瞬で沸騰し、右手にゴツイISの腕を展開して構えた。野次馬からはどよめきと小さな悲鳴が響き、僅かに輪が後退する。
「よせ鈴!」
「はーなーせー!」
ラウラ・ボーデヴィッヒ嬢が鈴音嬢を背後から羽交い絞めにし、他の2名も倣って抑えにかかった。ISの腕をぶんぶんと振り回す。もし警官が数歩歩いていなかったら、鈴音嬢の振り回した腕によって引き裂かれていただろう。一夏君と箒嬢は引いてしまってその場で固まってしまう。
直後、その場にいた警官全員が拳銃を構え、鈴音嬢に狙いを定めた。相手が尋常ではない武器を振りかざしてしまった以上、警官の措置は順当なものである。と後にこの件に関しては警察本部の記者会見で見解が述べられている。
遂には野次馬からは大きな悲鳴が上がった。
「止めるなあんたら! ナメられてんのよ!」
「そういう問題ではありませんわ……!」
イギリス人のセシリア・オルコット嬢が鈴音嬢を羽交い絞めにしたまま苦い顔で諫める。しかし鈴音嬢にとってはナメられるかそうでないかでしかない。終始好意的でない警官たちが気に食わなかったため、些細な一言で暴発してしまった。
万丈の見立てでは、警官たちの心情は職務への忠実さが半分、恐れが半分といったところか。
斬られそうになっていた警官が冷静さを失わず怒鳴る。
「怪我人が出てるでショ!」
6人は一瞬何を言われたのか理解できなかった。一拍置き、ようやく言葉を咀嚼できた。
「財産を奪われた人だっている! そんな真似やらかした被疑者を! 上からの圧力で無罪放免にしなきゃならないんですよ! この気持ち判ります!?」
言ってはならないことをぶっちゃけてしまっている。とはいえ彼女らに効果はあったようだ。
6人が恐る恐る周囲を見廻す。そこにいたのは、野次馬たち、作業を止めてこちらを見ている警官、救急隊員、救急患者、消防署員。それらが一斉にこちらを見ていた。その眼からは恐れ、怒り、色んなものがないまぜになって現れている。
一夏君は己の足元がぐらつく、そんな錯覚を覚えた。
「んーこれからどうなるんだろうね」
ずっと見ていたファン・ファンは何とも呆れた様子で呟く。
「あのお巡りさんの言う通り、業界官僚政治家が有耶無耶で済ませようとするだろうね。全く……」
万丈としてはこの後の方が問題になるだろうと考えている。CGの件といい何とも世の中面倒だ。
「ガッコ辞めたくなってきた」
とは簪。万丈は彼女の言うことが本気か冗談か判断しかねたので、多少ジョーク気味に返した。
「いっそうちに正式に就職します?」
「あーそれも、いや、それにはお姉ちゃんとカタ付けないと難しいかな?」
事務所では彼女を雇う際一応の身辺調査はしている。一族の頭領を継いでいるのが簪の姉なので中々一筋縄ではいかない様子だ。
遠くで誰かが退避の合図を指示する大声が響く。直後、何かが崩れる音がした。一夏君と箒嬢が頭をぶつけた連絡通路が、出来た損壊に耐えかねて崩壊したのだ。幸い周辺を立ち入り禁止にしていたため怪我人は出なかった。
次回:05 ランナバウト
・IS展開
公務の執行を妨害する罪でしょっぴける案件なのか果たしてどうだろう。
・ダイ以下略
テンダーギアとして出す予定。