真剣で私に恋しなさい!!~月下流麗~   作:†AiSAY

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今回は2話連投です。
が、1話は幕間の物語です。
焦点を変えての展開となるので、お読みづらいかもしれませんがよろしくお願いいたします。


幕間 武神、まだ至らぬ境地

川神院 門前

 

クラウディオ達を見送った4人は2人の姿が見えなくなると奥へと歩き始める。

すると、一子が口を開く。

 

「それにしても凄かったわ〜。」

 

「ホント、まさかあそこまでの使い手が九鬼にいるとはネ〜。」

 

「ふむ、あの歳で明鏡止水の境地に至るとは大したもんじゃ。」

 

3人が小次郎の腕前に感心する中、百代だけは釈然としない顔をしていた。

しかし、一子はそれに気づくことなく鉄心の言葉に反応する。

 

「メイキョー…、シスイ?」

 

「うむ、不動な水は、磨かれた鏡のように澄み渡る。己が心をそうすることが出来れば、如何なる物事、それがたとえ己が死であっても動じることはない。先ほどの男は、まさにその境地に至っていたのじゃ。」

 

鉄心の言葉がよく理解できないのか、一子はうーんと首を傾げていた。

そんな一子の様子をルーは微笑ましく見ている。

 

「つまりネ、一子。勝負の最中はどうしても、心が安定しなイ。それは、不安や恐れ、焦り等色々と理由は挙げられるケド、いずれにしてもそんな状態では勝つのは無理。さっきの百代みたいにね。」

 

「むっ!」

 

と、ルーは百代を見ながら説明した。

百代はその言葉に苛立ちを見せるが、反論できないため不貞腐れる。

そして、ルーの言葉を鉄心が続ける。

 

「ま、分かりやすく言うと、さっきの者は心が尋常じゃなく安定しておったのよ。」

 

「うーん、戦いの中でもの凄く落ち着いていたってこと?」

 

「ちと違うが…。ま、だいたいそんな感じじゃ。」

 

すると今度は百代が口を開いた。

 

「じゃあ、何か!?私に落ち着きがなかっただけで負けたって言うのか?」

 

「お前、さっきの自分が落ち着いていたとでも言うつもりか?」

 

と鉄心が百代を呆れた顔で見る。

しかし百代は納得しなかった。

 

「確かに、さっきの私は冷静じゃなかったかもしれない。だけど、それだけじゃないだろ?」

 

「ふむ、まあの〜。」

 

と、百代の言葉に鉄心は長い髭を弄りながら言う。

百代はその答えが知りたかった。

先ほどの組手で、百代はあの佐々木と名乗った男にこれまで戦ってきた相手とは違う何かを感じていたからである。

 

「モモ、お前は先ほどの者と立ち会った時のことを話してみい。」

 

「あ、ああ…。」

 

そして、百代は自分が見て、感じたことを全て話した。

自分の攻撃がまったく当たらないこと。その時、躱される感覚がなかったこと。

相手が持っていた枝が真剣であるように見えたが、そこに殺気はなかったこと。

 

「ほへ〜、なんだかすごいのね!!」

 

「ああ、あんな感覚は初めてだった。」

 

そう百代が話す中、一子は佐々木が使っていた枝を手に拾った。

すると、その軽さに驚く。

 

「え!何これ!?こんなのが何で折れなかったの⁉︎」

 

「うむ。一子、その枝を持ってきてくれんかの?」

 

そう言われ、一子は不思議そうな顔ををしながら言われた通り枝を待ってくる。

鉄心はその枝を持つと、百代と一子を目の前に立たせる。

そして、枝を2人に向かって振るう。

 

「「ッ!!」」

 

「ほほ、どうじゃモモ。コレじゃろ?」

 

「あ、ああ…。」

 

「え!な、何、今の!?」

 

鉄心のいきなりの行動に目を見開く2人。

彼女達が見たのはまごう事なき真剣であった。

すると、鉄心が説明する。

 

「このような軽い枝でさえ、研がれた真剣のようになる。剣の極みに至った者なればこのようなこともできる。」

 

「でも、枝よ。じーちゃん?」

 

「あぁ、さっきのヤツもそうだったが、今のは剣気を飛ばしたのとも違っていた。」

 

そう疑問を声にする2人。

鉄心は再び髭を撫でながら語る。

 

「剣に見せたのではない、お主らが剣と感じたのじゃ。」

 

「「はぁ?」」

 

「つまりの、あやつは振るっていた枝をお主らに真剣と見まちごうほどに扱っておったのじゃ。」

鉄心の言葉にますます首をかしげる2人。

すると、今度は鉄心が一子に枝を持たせる。

そして、手頃な木から葉を手に持って言った。

 

「一子、それを真剣だと思って、この葉を斬るつもりで振ってみなさい。」

 

「は、はい!」

 

そして、一子が鉄心の持つ葉めがけて枝を振るう。

だがやはり、狙いは良いものの、一子の枝は葉にあたり、寧ろその青々とした葉のしなやかさゆえにポキッとあっさりと折れてしまう。

 

「やっぱり、無理よ〜。」

 

「おいじじぃ、これがなんの意味があるっていうんだ?」

 

「いや何、先ほどの者なら見事に断ち切ったことじゃろうと思っての。」

 

その鉄心の一言に2人が息をのむ。

しかし、感心する一子とは異なり百代は怪訝そうな顔をして言った。

 

「そんなの腕に覚えがあるヤツなら誰でも出来るだろう?」

そう言って、人差し指を走らせ、葉を斬る百代。

空を見て、鉄心はため息を吐く。

 

「じゃから、お前さんは負けたのじゃ。」

 

「何!?」

 

「ただ葉を断ち切るだけなら、そんなことをしなくても子供でもできるわい。」

 

そう言って、普通に葉をちぎる鉄心。

それを風にのせて散らすと2人を見て言った。

 

「良いか、手や枝を刃にする技を持つ者はおる。しかし、枝を枝としたまま物を断つのは至難の業じゃ。」

 

「枝を枝として?」

 

「断ち切る?」

 

「左様。刃となった枝は枝にあらず、それは枝の可能性を縛っていることに他ならない。枝はそのようなことをしなくとも、無限の可能性を持つ。」

 

そう言って、折れた枝を手に持ち振るう鉄心。

すると風に揺られ落ちて来た葉が刀で斬られたように二つに分かれる。

その様子をただ見る百代と一子。

 

「枝は枝になろうとはしておらん。しかし、木から伸びても、折れて落ちても枝としてある。見よ、定っているがゆえに自由じゃろ?」

 

「それがさっきのアイツとなんの関係があるんだ?」

 

「あやつはそれをよく分かっておるのじゃ。」

 

「うーん、枝を良く理解しているってこと?」

 

未だに理解できていない2人を見て鉄心は語る。

 

「うむ、頭ではないところでの。ゆえに明鏡止水、あやつは自分を無して枝を手にした。その時、軽い枝は重くなる。そして、鋭さを増す。モモが枝を真剣と思ったのはだからじゃ、あやつにとっては枝であっても、モモからしてみれば、その重さと鋭さは真剣と見えてしまったんじゃろう。」

 

そう言って、鉄心は枝を捨て川神院の奥へと入って言った。

その姿を百代と一子は見送る。

呆然とする2人にルーが中に入るように言う。

一子はいち早く戻ったが、百代は地に落ちつ枝を少し見つめてから奥へと入った。

 

 

 

 

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