真剣で私に恋しなさい!!~月下流麗~   作:†AiSAY

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少しクールダウンの回です。
劇的な展開はございませんが、どうかご容赦ください。


第10話 小次郎、その一日の過ごし方

九鬼従者部隊の朝は早い。

それは、特例として番外位の小次郎も例外ではない。

 

九鬼ビル 小次郎自室

 

小次郎の目覚めは日の出とほぼ同時であった。

まずは窓から外を眺め、シャワー室にて行水をする。

余談だがベッドには未だに慣れない小次郎は、この朝の窓からの眺めとシャワーというものを気に入っており、これらは何気に彼の密かな楽しみの1つだった。

そして、寝巻として着ている襦袢からクラウディオから貰った特製の従者服に袖を通し、同じく貰った刀を肩に背負う。

 

「さて、本日も務めに励むとしよう。」

 

そう言って、自室を出る小次郎。

時刻は5時少し前、この時間だと廊下には流石に他の従者の姿もまばらである。

 

廊下を歩き、小次郎が向かったのは鍛錬場であった。

ここで小次郎の1日の業務は始まる。

だが、まだ誰も来てはいないため小次郎は座して待つことにする。

これもいつもの日課だった。

すると、鍛錬場の扉が開く音がして誰かが入ってくる。

 

「うむ、来たか。」

 

「すまない小次郎さん、お待たせした。」

 

「いや何、約束の刻限には間に合っている。」

 

と、振り向くとそこには源義経が立っていた。

義経はその真面目な気質からこの時間から自主的に鍛錬を行なっている。

その為、武士道プランの担当となった小次郎もまたどうせならと、それに付き合うようにしていた。

 

「それにしても、小次郎さんはいつも早いな。義経ももっと頑張らねば!」

 

「なに、義経は十分に良くやっている。」

 

「だが、それでもやらねば只の牛若丸だ…。」

 

「なればこそ、無理をする必要はなかろう。それがたたって、いざという時に動くことができねば、それこそお前は牛若でも何者でもない。」

 

そう言われ、少し気落ちする義経。

その様子からも義経が実に真面目な性格であることが分かり、小次郎は笑みを見せる。

 

「ま、今はまだ色々と学ぶべき身。それを自覚しつつ、己が足取りで精進すれば良かろう?」

 

「う!そ、そうだな。義経達は確かに未熟、小次郎さんの言う通りかもしれない。」

 

と、小次郎の言葉に気持ちを切り替える義経。

 

「まぁ鞍馬の天狗には及ばぬが、私も誠心誠意、己が務めを果たそう。」

 

「よろしくお願いします!!」

 

そして、2人は鍛錬を始める。

最初は義経が小次郎を相手に無手で攻撃をし続ける、いわゆるスパーリングというものから始まる。

未熟とは言ったものの、やはり英雄は英雄。

鋭い突きや蹴りが小次郎を襲うが、やはりそれを余裕で躱す彼もまた例に漏れず英雄のそれだった。

 

「はぁ、はぁ…。」

 

「まずは、これくらいか…。」

 

肩で息をする義経を横に冷静に言う小次郎。

すると、主に遅れて弁慶と与一が入ってくる。

 

「お待たせ〜。」

 

「遅いぞ!2人とも!!」

 

気だるそうな2人の姿を見ると義経は彼女達に近づぎ、喝を入れる。

が、やはり心根の優しさのためか義経も必要以上には厳しくは出来ず、それ故にその言葉は2人には響いてないように見えた。

 

「まぁまぁ、必要最低限の鍛錬の時間には間に合ってるんだからさ?」

 

「それはそうだが…。武士道プランの英雄である義経達はもっと頑張らねばならない!」

 

「だから、こうやって朝から鍛錬には来てるでしょ?九鬼の人間が考えてるメニューなんだから、その辺は大丈夫だよ。」

 

そう言うと弁慶は義経の頭を撫でて、柔軟を始めた。

一方で与一はやはり何かブツブツと言いっている。

 

「よ、与一も来てくれたんだな…。」

 

「あん?俺は姉御に無理やり連れてこられただけだ。俺は実戦派だ、お遊戯のような鍛錬なんて必要ない。」

 

「そ、そんな…。」

 

と、家臣達に翻弄される義経。

しかし、何だかんだと3人でいるあたり、仲はやはり良いのだろう。

と思いつつ小次郎は口を開く。

 

「さて、3人揃ったところで本格的に朝の鍛錬を始めようか。」

 

「はい!よろしくお願いします!」

 

「ま、ほどほどに…。」

 

「良いさ、こんな時間もいつかは懐かしく思える。いっ時の戯れだ…。」

 

小次郎の言葉に三者三様の反応が返ってくる。

そして、小次郎は先ほどの鍛錬で疲れているであろう義経を一旦休ませるために、まずは弁慶と与一の鍛錬から始めることにした。

内容は組手(武器あり)である。

これは、一見パワータイプの弁慶ではあるが、その実、技のモーションは非常に早い。

しかし、性格ゆえにある程度の状況にならないとそれは発揮されないため、それが鈍らないようにすることが目的であり、与一の場合は弓兵であるがために、相手が接近した状態でもある程度の対応ができることを目的としている。

 

ーーーーー30分後ーーーーーーーー

 

「ふむ、では一度休憩にするか。」

 

刀(レプリカ)を肩に置きそう言う小次郎の周りには汗だくで座っている武蔵坊弁慶と那須与一の姿があった。

小次郎は刀を持つとなると決して手は抜かない。

もちろん死合いではないため、全力は出さないがそれでも一度刀を持つのであれば、その太刀筋に容赦等はない。

 

「はぁはぁ、キッツい…。」

 

「クッ、昨夜の組織との心理戦が効いてるのか…。」

 

とその結果として英雄のクローン達はもはや満身創痍であった。

義経が心配そうにして、2人にスポーツドリンクとタオルを手渡す。

 

「それにしても流石は英雄。組手中に10は首を落とそうと思ったが、3度仕損じるとは。わたしもまだまだ鍛え方が足りんか…。」

 

「「「……。」」」

 

などと何の慰めにもならない言葉を目の前で吐く剣士。

3人はその男をやはり三者三様の目付きで見ている。

ちなみに内訳は1人はジト目、1人は悔しさを混じらせた睨み、1人は憧れにも似た感心の眼差しである。

 

「さて、では義経も武器を取れ。」

 

そう言われて、義経は刀(レプリカ)を手に取る。

そして、3人の準備が整ったと見ると小次郎は言った。

 

「よろしい。では、最後はいつものように3対1での実戦形式だ。喜べ与一お前の望み通りだぞ。」

「チッ!上等だ、今度こそお前のその思い上がりをぶっ壊す!」

 

「はぁ〜、また面倒臭いなぁ〜。」

 

「よろしくお願いします!小次郎さん!」

 

「うむ、毎度の通り時間内に私に一太刀でも入れたらそこで終わりだ。出来なければ、ヒューム殿にそのことを伝えるため、午後の鍛錬は厳しいものとなるだろうな。」

 

と、笑顔で恐ろしいことを言う小次郎。

その言葉に今度は3人同じ顔を見せた。

結果は必死に食らいつこうとしたものの、源氏一派は我流剣士に軽くあしらわれて終わった。

その時の3人の表情は疲労以上に午後の鍛錬への不安を物語っていた。

 

鍛錬が終わると小次郎は朝食をとる。

そこには基本的に専属の上司であるクラウディオがおり、彼からその日一日の仕事の流れの確認や変更を聞く。

そして、午前は小次郎はクラウディオの補佐として動き、彼から従者の仕事を学ぶ。

基本的に小次郎は義経達の鍛錬、守護がその仕事内容となるため、彼女達が他の学習をしている間はクラウディオがいなければ周辺の警備が仕事となる。

 

そして、昼になると今度は従者部隊のミーティングに出るために九鬼ビルの一室に向かう。

まだ開始まで時間はあるが部屋にはすでに見知った顔をがいた。

 

「お、来たな小次郎。相変わらずロックな従者服だな。」

 

「お疲れ様です。」

 

と、入るやいなや話しかけて来たのは序列15位のステイシー・コナーと16位の李静初である。

さらに部屋の奥では1位の忍足あずみと桐山鯉が何やら話をしている。

すると他の従者達もゾロゾロと部屋の中に入って来た。

そして、時間になったのを確認するとあずみが声を上げる。

 

「よし、それじゃあ今日のミーティングを始める。まずは各自、業務の進行状況の確認からだ。」

「はい、では僭越ながら私がチェックしていきましょう。」

 

と、あずみの声を受けて鯉が従者達の業務を確認していく。

ちなみにこのミーティングにおいて最も時間がかかるのが最初のこの業務確認だ。

少しでもミスがあると桐山鯉の嫌味な小言が始まるため、この時間、従者達のフラストレーションは高まる。

 

「さて、最後に小次郎さん。最近の義経さん達の様子はいかがですか?」

 

「そうさな、あいも変わらず義経はその名に恥じぬように真面目に鍛錬している。ちと、硬くなりすぎているところはあるがな。弁慶も雲のようにゆるりとはしているが、実際にやるべきことはしているから特に問題はなかろう。与一は少し斜に構えてはいるが、やはりその弓の腕は本物だが、接近された時の対応はまだまだ拙い。」

 

と、報告する小次郎。

すると鯉がさらに質問を投げかける。

 

「義経はともかく、弁慶と与一はもう少し真面目になって頂きたいものですね。小次郎さん、引き続き、よろしくお願いしますよ。」

 

「ふむ、心得た。」

 

そう短く答える。

とは言ったものの小次郎自身は特に焦りは感じていない。

自分が今の域にいるのも、ただ徒然にやることもなく剣を振っていたからにすぎない。

しかし、義経達に対する接し方も結局はそこからしか発する言葉はなかった。

 

「さて、最後になるが武士道プランがまもなく本格的に始動する。そのために各自、自分の仕事は気合い入れて臨めよ。特に桐山。」

 

「はい、私もそろそろ動こうと思っていたところです。」

 

そうあずみの言葉に意味深に頷き、答える桐山。

その姿に何かを感じつつも、小次郎はただ黙ってミーティングを終えた。

 

その後、小次郎は昼食をとり午後の業務に備える。

午後、この時間の小次郎の仕事はその日によって異なる。

他の従者達の手伝いをすることもあれば、クラウディオからまだ完璧には把握していない九鬼や従者、川神のこと等について学ぶこともある。

 

因みにこの日はステイシー、李と共に川神市内の巡回であった。

川神駅から始まり、金柳街、仲見世通りを歩く。

そして、3人は多馬大橋に着いた。

 

「それにしても毎回思うがすげぇ街だよな。この格好のあたし達に誰も何も言わないなんてな…。」

「そうですね。でも、それも九鬼への理解があるからでしょう。」

 

等と言って先を行く2人の後ろについている小次郎。

すると、ステイシーが振り返って言った。

 

「でも小次郎はその格好が不思議なほどに合ってるから特に騒がれないと思ったけど、やっぱりチラチラと見られてるな。」

 

「む、そうだろうか?」

 

「ええ、悪目立ちとまではいきませんが、それでも目を引きます。」

 

と、李も小次郎を見て言う。

しかし、当の本人は特に自分の格好に違和感はないと思っていた。

 

「ま、メイドとサムライが一緒にいる光景なんて明らかにおかしいからな。」

 

「私達もその従者服を初めて見た時は驚きましたからね…。」

 

「うむ、だが私は気に入っている。」

 

と、どこか嬉しそうにする小次郎を見て2人はなんとも言えない顔をしていた。

そんな取り留めもないことを話しながら橋を渡っていると、目の前からなんとも言えない格好の男が現れた。

 

「美しいお嬢さん方、どうだろうお時間がよろしければ、私とお茶でも?」

 

「おいおい、ナンパか?それにしたって…。」

 

ステイシーが言い淀むのももっともであった。

パリッとしたブランドのスーツに、オールバックの髪型、時計も高級なものだと一目でわかる。

だが、彼の下半身に問題があった。

濃紺の三角形。それはまさしくブルマ以外の何物でもなかった。

しかし、その下は靴下、革靴装備である。

 

「流石、変態の橋だな。」

 

「まったく、武士道プランも始動し義経達も学校に通うになるのに、このままではいけませんね。」

 

そう言う2人を気にすることなく、変態はグイグイと迫ってくる。

すると、小次郎が2人の前に出る。

 

「恋を語るのは自由。それを阻むのも無粋だが、それにしても其方の格好は雅さに欠ける。」

 

「な、随分と綺麗な長髪だったので女性だと思ったが、まさか男だったとは!」

 

そう勝手に悲嘆にくれる変態に対し、小次郎はため息を吐く。

しかし、後ろのステイシーは変態が小次郎を女性と間違えたことに笑いを我慢し、李は頭を抱えている。

そして、ステイシーが変態を追っ払おうと前に出る。

 

「おい、いい加減に…。」

 

「?ステイシー、どうしました?」

 

「気絶してる。」

 

2人が小次郎の方を見ると、小次郎はフッと笑うとスタスタと先へと歩いて言った。

顔を見合わせるステイシーと李。

 

「今のアイツか?」

 

「でしょうね。何をどうしたのかは知りませんが。」

 

「はぁ…。やっぱりとんでもねぇヤツだな…。」

 

そう言って、小次郎の背中へと目を向ける2人。

すると、小次郎が振り返る。

 

「ん?行かないのか?」

 

そう言われ、2人は早足で付いて行った。

その後、川神学園を外から下見した後、イタリア街ラ・チッタデッラを通って九鬼ビルへと戻った。

 

九鬼ビルへ戻ると小次郎は鍛錬場へと向かう。

すると、そこは死屍累々。

倒れ込んでいる義経、弁慶、与一の中心にヒュームが立っていた。

 

「戻ったか。」

 

「うむ、随分と張り切っていたようですな。」

 

と、ヒュームに頭を下げ中に入る小次郎。

すると義経達が起き上がる。

 

「あ、こ、小次郎さん、お疲れ様です。」

 

「ああ、午後の鍛錬も励んでいるようで何よりだ。」

 

「ああ、お陰様で…。」

 

と、このような状況でも丁寧な義経とは異なり恨めしそうな目でを向けてくる弁慶。

与一は未だに床にへたり込んでいる。

すると、ヒュームが口を開く。

 

「いかに英雄といっても、お前達も俺から見れば赤子も赤子。そんなことで、これから先どうする。」

 

「フッ、ヒューム殿を前にしては誰もが赤子だろう。」

 

と、呟く小次郎。

するとヒュームが横目で見ていう。

 

「フン、お前が言うと嫌味にしか聞こえんがな…。」

 

「はて、そうかな…。」

 

2人の間に緊張が走る。

そのピリピリとした様子を息をのんで見る源氏3人。

しかし、ヒュームが息を吐くとその空気は霧散した。

 

「さて、お前も来たことだ。最後の仕上げと行こうか。胃に汗をかかせてやろう。」

 

「「「ッ!!!」」」

 

「うむ、今朝と比べてどれほど成長したか見せてもらおうか。」

 

そして、鍛錬場は再び地獄絵図となった。

それは稽古などというものではなく、もはや虐待に等しいものだった。

 

鍛錬後、小次郎はその日一日のことをクラウディオに報告して、一日が終わりを迎える。

そして、今小次郎は屋上に立ち空を見上げている。

 

「今日もつつがなく一日が終わったが…。私は何故、この地にいるのだろうか?」

 

それは小次郎がこの川神に来てから、常に考えていたことだった。

過去の英霊、それも佐々木小次郎という人々の幻想が生み出した殻を被ったような存在である自分が何故このように人間のような日々を送れているのか。

小次郎には分からないことだらけだった。

もしかしたら、これは夢なのか。そう考えてしまうことも多い。

 

「胡蝶の夢か。いや、そもそもこの身は夢まぼろし。いくら能書きを述べたところでそれは変わらぬ。なれば、やはり流れに身をまかせる他あるまい。」

 

そう呟き、小次郎は自室へと戻っていった。

妖しく光る月だけが、その姿を見ているだけだった。

 

to be continued

 

 




お読みいただきありがとうございます。
次回からマジ恋Sのストーリーに入っていきますので、今後ともよろしくお願いします致します。

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