その日、九鬼従者部隊のミーティングにて
「東西交流戦とな?」
「ああ、今川神市に西の天神館っていう川神鉄心の弟子が学長をしている学校が修学旅行に来てる。」
と、小次郎の疑問にあずみが答える。
「それでどーいうわけか、三学年それぞれで200対200の合戦形式の交流試合をすることになったんだよ。」
「して、それが私と何か関係があるのかな?」
「ああ、3日目に2年生の試合があるんだが、その日をきっかけに義経達が正式に川神学園に入学することになった。交流戦にも参加することになっている。」
その言葉に小次郎が得心いったように頷く。
「なるほど、それでは確かに私にも大きく関わるな。」
「ああ、別に常に側にいるわけじゃねぇが、もしもの時のためにお前には合戦を見ておいてもらう。」
「うむ、承知した。因みに、英雄様も参戦なさるということは、あずみ殿も同様に?」
「当たり前だ。私は英雄様の専属、どこにいようがお側に控えるに決まってんだろ?」
と、意気込んで答えるあずみ。
その言葉に小次郎は笑みを浮かべる。
「なんだよ?」
「いやなに、流石の忠義心に感服していたところよ。」
と、からかうような言い方をする小次郎。
あずみはその言いように僅かばかりに苛立ちを覚えながらも、今は無視をした。
すると、桐山も話に入ってくる。
「いずれにせよ、この日が武士道プラン始動の日となるわけです。万全の状態で臨みたいところですね。」
「ああ、当日までに時間がねぇ。各員、気合い入れていけよ。」
そのあずみの一喝に従者部隊全員が頷く。
そうして、この日のミーティングは終わった。
その後、小次郎は鍛錬場に足を向けた。
するとそこには自主鍛錬に汗を流す義経の姿があった。
一息つき、スポーツドリンクを飲む義経が小次郎に気づく。
「小次郎さん?」
「む、邪魔をしてしまったかな?」
「いいえ、丁度休憩中でしたから。」
そう言われ、鍛錬場に入り義経に近寄る小次郎。
義経は笑顔で小次郎に向き直る。
「よく励むな。」
「はい!もうすぐ東西交流戦というものがあるそうで、その日が義経が活躍できる最初の日なんです!!」
と意気込む義経。
しかし、やはり肩に力が入っているようで緊張が伝わって来た。
すると小次郎は義経の肩に手を置き、座るように促す。
義経も不思議な顔をしたが、それに従い腰を落とす。
「私はあまり人に話すほどの生涯を過ごしてはいないゆえ、今の義経にかける言葉はあまり持ち合わせてはおらん。だが、」
「は、はい。」
「私が言うことは変わらぬ。己が力を発揮する場、それがその先どれほどあるかは誰にもわからん。」
義経は只々、小次郎の言葉を聞いている。
余計な言葉を出さずともその真摯な想いが伝わってきた。
「なればこそ、義経。思うままにやれば良い。」
「え?」
「その時までお前は何者でもない。何者かになるために、ただ駆け抜けることだ。」
「小次郎さん…。」
そう言って、立ち上がる小次郎を黙って見る義経。
そして、最後に小次郎は言った。
「ま、私が言えたことではないがな…。」
そうして小次郎は鍛錬場から出ていった。
義経はその姿をただずっと目で追うだけだった。
鍛錬場を後にした小次郎は次の仕事のため廊下を歩く。
するとクラウディオと会った。
「小次郎、少しよろしいですか?」
「うむ、何用かな?」
「ここでは何ですので、落ち着ける場所に行きましょう。」
そうして、2人は休憩室に向かった。
あいも変わらず、テーブルの上にはクラウディオが淹れたお茶が置いてある。
「もうお聞きのことと思いますが、東西交流戦にて義経達武士プランが本格的に始動となります。」
「うむ、心得ている。」
「その次の日から義経達は川神学園に入学となります。そして、それは私達の務めも同様です。」
クラウディオの言葉は穏やかだが、どこか緊張感があった。
「朝礼にて各自挨拶がありますが、私達もその場で生徒の皆さんに挨拶をします。そこで貴方も佐々木小次郎として挨拶をして頂きます。これが何を意味するか分かりますね?」
「うむ、なるほどな…。」
“佐々木小次郎”として人の前に出る。
そして、その場には武士道プランとして注目される義経達もいる。
それは同時に小次郎が“佐々木小次郎”として世間に認知されることを意味する。
「そこで小次郎。貴方は義経達、同様武士道プランの一員として世間には公表するつもりです。誠に勝手ではありますが、それが現状貴方の素性を説明するのに適しております。申し訳ありませんが、どうか納得して下さい。」
「なるほど、それは確かにな。いや、もとよりこの身は九鬼に生かされている身。それに従うまでよ。」
「ありがとうございます。」
「他には?」
「そうですね、他には今後の仕事の諸注意となりますが、私的な交戦は厳禁とします。特に武神、川神百代とは絶対に戦ってはなりません。また、これは貴方に直接関係はございませんが、川神百代が義経達との戦闘を希望するでしょうが、現時点ではそれは阻止致します。その代わりと入ってなんですが、川神百代には義経達に挑戦を望む者たちとの事前審査として、その者達と立ち会って頂くことになりました。」
「うむ、なるほどな…。仕方あるまい。」
私的な交戦の禁止は小次郎にとってあまり好ましいものではなかったが、それは承知するしかなかった。
「しかし、相手側から無理やり挑戦を挑まれ回避が不可能であれば、その限りではございません。例えば、義経達の命を故意に狙うものや、暗殺を目論む者等は遠慮はいりませんので、排除して下さい。」
「うむ、それも承知した。」
「よろしい。また、川神学園には貴方に純粋に挑戦する生徒の方もいらっしゃると思います。その方とは仕事に支障のない場合のみ付き合って差し上げなさい。」
「む、良いのか?」
「ええ、武士道プランは英雄のクローンとの切磋琢磨することによって若者をはじめとした者達の成長を促すもの。貴方もその一員とするのですから、その点は気にすることはございません。」
「それは僥倖。確かに承った。」
と、守るべきことは多々あるがそれを加味しても小次郎にとっては満足のいくものだった。
「さて、以上となります。何か質問はありますか?」
「いや、無い。今後の流れによっては色々と変わるだろう。それはその都度、クラウディオ殿に指示を仰ぐようにしよう。」
「はい、結構です。では、改めてよろしくお願いします。小次郎。」
そして、2人は部屋から出て別れた。
小次郎は再び廊下を歩く。
すると、目の前から黒衣をまとった女性が歩いてくるのに気づいた。
「これはマープル殿。」
「ああ、あんたかい。」
小次郎が頭を下げたその人物は九鬼従者部隊序列2位ミス・マープルその人であった。
同じ敷地内にいても、あまり顔を合わせない2人。
マープルは小次郎を一瞥する。
「わかってると思うけど、まもなく武士道プランが始動する。新参者だからって怠るんじゃないよ。」
「うむ、肝に命じて置きましょう。」
「真実はどうあれ、九鬼が“佐々木小次郎”として認めた男。余計なことはせず、失望させないでおくれ。」
そう言って、マープルはそれ以上何も言わずに通り過ぎていった。
「ふっ、手厳しいな。しかし…、いやはや女狐と関わったせいか何かを企む女の姿に敏感になってしまったな。」
と、自嘲気味の笑顔を浮かべて小次郎は周辺の警備へと向かった。
to be continued