皆さま長らくお待たせしておりました。
個人的な余裕も出てきたので、これからまた投稿を徐々にではありますが、再開したいと思っております。
また、他の作品に加えて休んでいた際に練っていた構想がありまして、そちらも投稿できればと思いますので、よろしければそちらよろしくお願いします。
書いている作品が計3点となりますが、それぞれのクオリティを落とさぬよう頑張ってまいりますので、今後ともよろしくお願いします。
川神学園と天神館による東西交流戦が始まった。
その間、小次郎はクラウディオの指示により自身が今後関わる学園の生徒が如何なるものか知る必要があるとして、直接的には関わらないものの決戦の地となる工場の様子を遠くより眺めていた。
そして、本日でそれはもう3日目となる。
初日は両校の1年生間で行われ、天神館の方に軍配は上がった。
内容としては川神学園側の総大将が討ち取られたらしい、結果だけ見れば至極簡単だが、見ていた小次郎からすれば、采配が稚拙過ぎたとしか言えなかった。
正直、川神の総大将はその器になく、負けるべくして負けたといえる。
しかし、そのような中にあって小次郎は1人の女学生に目を当てていた。
長い黒髪を後ろで結って、太刀を抱えている少女。
オドオドとしているようだが、その動きの一つ一つ、一挙手一投足が並みのそれではなく。
女人の身、あの齢にてあれほどの域にまであるその身を末恐ろしく思いながらも、不思議と笑みをこぼしていた。
事実、どうやら向こうも小次郎の目線には気づいていたようで、交流戦が終わった後も周囲への気を解いてはいなかった。
2日目は3年生の交流試合であったわけであるが。
もうこれは正直に言って、面白みのない試合であった。
拮抗することもなく、たった1人の女学生の大技にて終了したのである。
川神百代、先日戯れ程度ではあるが立ち会った少女。
彼女が皆の力を結集した天神館の巨人を無慈悲に薙ぎ払ったのを小次郎は見て、ため息をつく。
果たしてそれは、百代の行為を無粋と感じたからなのか、それともそんな彼女の周りに拮抗する相手がいない現実に対してなのかは小次郎自身にもわからなかった。
そして、東西交流戦最終日。
本日は2年生同士の決戦である。
聞くところによると、どうやら2年生は川神・天神館の両校共に生徒の質は高いようで、事実現状は拮抗しているように見える。
先の2日間とは違い、血気盛んに立ち会っている学生達を見る小次郎の表情も心なしか高揚しているようだ。
しかし、いつまでもそのような心持ちではいられない。
本日は川神学園の視察とは他に自分の義務でもある義経の護衛の任も兼ねているのである。
生徒達には非公表ではあるが、今日この日を持って源義経をはじめとした武士道プランが公のもとに明かされるのである。
しかし、当の本人に目をやると…。
どうやら緊張や不安やらが混じったような、冴えない面持ちである。
「どうかしたか、義経?」
「い、いえ!なんでもないで、す…。」
と、小次郎の言葉にとり作ったような返事をする義経。
そんな絶対に何でもなくはないくせに、無理をしているのが見え見えな義経に小次郎は、ふっと笑うと再び声をかける。
「で、あるならば私はもう何も言わんが、己が内に何かを溜め込んだまま戦さ場に赴いても、何も良いことはないぞ。」
「ッ!」
そう言われて、義経は一度下を向くと、思い切ったように小次郎の方を向いて言った。
「あの!小次郎さん!」
「なんだ、義経?」
「義経は今日が義経にとって、どれだけ大切な日か分かっているつもりだ!だけど、それと同じくらい、あそこにいる川神学園や天神館の皆にとっても大切な日だとも思っている。それなのに、義経が突然現れては、皆の大切な思い出を汚すことになるのではないだろうか?」
「ふむ…。」
小次郎はその言葉を聞き、考えを巡らせる。
実に義経らしいと言えば義経らしい。
自分の立場を考慮し、九鬼の期待に応えねばという思いと、これから学友となるであろう者達への配慮。
この2つが今義経の中でせめぎあっているのであろう。
それを知った上で小次郎は口を開いて言った。
「では、どうする義経?このまま帰るか?」
「そ、それはできない!」
「なれば、往くしかなかろう?」
「だ、だか!」
義経も自分で分かっているのであろう。
自分がどうしようもなく、身勝手なことを言っていることは。
分かっているからこそ、義経は悩んでいるのである。
「義経、言ったであろう。『思うままにやれば良い』と。」
「よ、義経は…。」
「義経、あそこにいる者達を見てどう思う?」
そう言って、小次郎は目線を義経から交流戦へと移す。
何があったのかは知らないが、中央にて爆音が響いたと思ったら、今度は海沿いの方で火の玉(よく見ると上半身裸の色黒の男だった。)が打ち上げられ、綺麗な弧を描いで海へと落ちて言った。そのような中にあって、学生達は必死な顔をしながらも、大いに青春を謳歌しているように見える。
その様子を義経も見た。
その表情はどこか羨望にも似た憧れを抱いたものであった。
そして、自然と義経は口を開いていた。
「義経もあそこに行きたい…。」
「ならば、もう決心はついたであろう?」
「だが…。」
それでも、義経はまだ迷いがあるように見える。
そんな義経を見て、小次郎は再び義経に問いを投げた。
「思うままにやれば良い。」
「小次郎さん…」
「何、明日から友となるであろう者達への手向けだと思えば良かろう?ましてや、あそこまでしのぎを削ることに真摯な者達だお前に討ち取られて、己が未熟を恥じはすれど、お前を恨む者はおらん。それに…」
「それに?」
自分を向く義経を見て、小次郎は笑みを浮かべながら言った。
「高所から駆けて敵を討ち取るなど、まさに源義経ではなかろうか?」
「小次郎さん…。」
すると、小次郎と義経の遥か足下にて大気が揺れた。
目をやるとそこには鈍く黄金のような光が輝いている。
「さて、どうやら学友が窮地のようだぞ、義経。私が見たところ、あの学生はどうやら川神学園側の軍師のような立場にいる者のようだが…。」
「えっ!小次郎さん、義経はいってくるぞ!」
そう言って、義経は一目散に飛び降りた。
その姿にもはや先ほどまでの迷いは微塵もなく、その姿はまさしく武士であった。
1人残された小次郎は義経の活躍を見ていた。
どうやら、何の憂いもなく義経によって、2年生の交流戦は川神学園に軍配があがった。
「一ノ谷の合戦ここにありと言ったところか。さて…。」
そう呟くと、小次郎はおそらく帰り道が分からないであろう義経を迎えに行くため、自身もまた飛び降りた。
to be continued…