真剣で私に恋しなさい!!~月下流麗~   作:†AiSAY

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ご指摘により、小次郎の一人称を「私」に変更しました。
まだまだ、マジ恋本編には入りませんが、どうかご辛抱ください。
ちなみに本作品は「真剣で私に恋しなさい!!S」から始めようと思いますので、よろしくお願い致します。


第3話 月下麗刃

九鬼ビル 鍛錬場

そこに小次郎は連れてこられていた。

目の前にはこれからの立ち会いの相手である桐山鯉が柔和な笑顔をしている。

周りには先ほどの部屋にいた九鬼家の面々を始め、従者達が控えている。

すると、九鬼帝が小次郎に向かって尋ねた。

 

「オイ、何か武器はいるか?“佐々木小次郎”?」

 

敢えて、名前を強調して語りかける彼に対して小次郎は特に憤りを見せることもなく、飄々とした口調で言った。

 

「では、刀を貸していただけますかな?何せこの身は無手では何も出来ない身ゆえ。」

 

「そりゃ、そうだ。おい誰か。」

 

すると、眼鏡をかけた老紳士が小次郎に近づき一本の刀(レプリカ)を渡して言った。

 

「では、こちらをお使い下さい。」

 

「忝い。」

 

小次郎は老紳士に礼を言うと、刀を手に取ると、目の前に掲げた。

しばらく、その刀を見つめると、フッと微笑む。

 

(この長さの刀を使うのもずいぶんと久しぶりだ。いや、やはりこの身にとってはもしかしたら初めてのことかも知れぬな。)

 

その様子を見て、再び老紳士が口を開く。

 

「今はこちらで我慢下さい。あなたの刀では万が一のことがありますので。」

 

「いや、充分。お気遣い感謝いたす。翁殿。」

 

と、今一度頭を下げ礼を言う小次郎。

その姿を見て、老紳士は微笑むと最後に言った。

 

「いえいえ、簡単なことにございます。それに、どうやら余計な心配であったようです。どうか、ご存分に。」

 

そう言って、老紳士は小次郎と鯉が向かい合っている鍛錬場の真ん中へと移動した。

そして、周りの者達もそれまでのざわめきを潜め静かに目線を中央へと向けた。

 

「それでは只今より、非公式ではございますが立ち会いを始めさせていただきます。審判は私、九鬼家従者部隊序列3位クラウディオ・ネエロが務めさせていただきます。」

 

「この立ち会いは、この俺、九鬼帝が立会人を務める。両者存分にやってくれ。細かいルールはなしだ。どちらかが戦闘不能になるか、審判のクラウディオが止めた時点で判断する。」

 

帝の言葉に両者が頷く。

そして、鍛錬場を緊張感が包む。

そして、クラウディオの声を合図に、今両者の戦いの火蓋が切って落とされた。

 

桐山鯉が構える。

しかし、一方で小次郎は構えていなかった。

両腕をだらんと下げているだけ。とても戦う意志があるようには思えない。

観戦している者達もそう思ったのか、序列15位のステイシーが同じく16位の李に言った。

 

「なんだアイツ、やる気あんのかよ?」

 

「確かに、あれでは隙だらけですが…。」

 

しかし、小次郎はその構えとも言えないものを止めはしなかった。

ただただ、自然体のまま対戦相手である鯉を見据えている。

一方、桐山鯉自身も思案していた。

果たして、どうすべきか。これまでも従者として様々な人間と戦うことはあったが小次郎のような相手はいなかった。

しかし、いつまでもこうしているわけにもいかない。

小次郎のあの姿が虚仮威しであるかどうかは、試してみれば解ることだ。

そう思うと、鯉はその驚異的な脚力で一気に距離を積め小次郎を攻めた。

小次郎はそれでも動かない。

やはり、ただの変わり者であったかと誰もがあきれた顔を浮かべる。

すると、その時である小次郎を攻撃した鯉が突然、距離をとったのだ。

何事かと全員が小次郎を見ると、彼は依然と自然体のままであった。しかし、一方で鯉の方を見るとその顔はいつもの嫌みな柔和さが消えていた。

そして、よく見てみると鯉の前髪がわずかに乱れていた。そして、小次郎の足下には青みがかった毛髪がはらはらと落ちている。

 

「ふむ、仕損じたか。いやはや、流石というべきかな、桐山殿。」

 

と、小次郎は刀を肩にのせて言った。

 

「な、何があったんだ?」

 

と皆を代表するように、赤いハチマキをつけた従者の青年が声を上げる。

すると、先ほどヒュームと帝に呼ばれていたひときわ威圧感を放つ従者が答えた。

 

「あの赤子は桐山が仕掛けた蹴りを紙一重で受け流しつつ、身を翻した。しかもそれだけではなく、その時の回転を利用してあの赤子は桐山の首を狙った。翻った時、奴の刀は奴自身に隠れているため桐山自身もギリギリまで気づかなかった。もし、後少しでも反応が遅れていたら今ので終わっていただろうな。」

 

その言葉に殆どの人間が驚く。

従者部隊の中において、桐山鯉という人間はこと脚力において右に出る者はいない。

それこそが、彼が若くして序列42位という立場にいる理由の一つだ。

しかし、今自分たちの前にいる男は本気ではないとは言え常人では知覚できないほどの疾さの鯉の攻撃をかわすだけでなく、決定打を打ち込んだのだ。

それはまさに常人の域ではないだろう。そして、誰もが空想だと思っていた事実がこの時からわずかに確かなものへと変わっていく。

目の前に居る男はもしかしたら本当に佐々木小次郎なのではないかと。

 

「さて、桐山殿。今ので戯れはもうよさないか?」

 

「どういう意味でしょう?」

 

「いやなに、今ので私を相手に下手な小細工は必要なかろう。そこなご当主殿が言ったように、こちらは名を賭けているのだ。剣に捧げた生涯、持つのは剣の腕と名しか持たぬ身ゆえ、そのどちらか奪われてしまってはただの木偶になりさがってしまう。さすればこそ、存分に死合おうではないか。」

 

その言葉に鯉は再び構えた。

そして、今度はそれが本気だと言うことが解る。

 

「失礼いたしました。ならば私も九鬼家従者部隊序列42位にいる者として全力でお相手しましょう。」

 

「うむ、いざ参られよ。」

 

両者の間にそれまでとは異なる緊張感が漂う。

先に動いたのはまたしても桐山鯉だった。

先ほどとは比べものにならない、疾さの蹴り技が小次郎を襲う。

しかし、それでも小次郎の戦い方は変わらない。

紙一重で、鯉の攻撃をかいくぐり、その度に斬撃を繰り出す。

そのような攻防が10合ほど続いた。試合は平行線をたどっているかのように見えたが、その時

 

「フッ!」

 

小次郎が鯉の蹴りをかわすと同時に、それまでとは打って変わって刀を大きく振るった。

すると、鯉も大きく後退した。

両者の間に再び距離が開き、小次郎が刀を肩へとおく。

 

「ふむ、2尺弱と言ったところか。」

 

そう呟くと、小次郎は何食わぬ顔で鯉の方へと近づいていった。

その様子は構え同様、自然体そのものだった。

しかし、鯉もまたその不自然さに狼狽えはしない。ただ、目の前の相手に対して必殺の一撃を見舞う。

目で見えないほどの蹴りが小次郎の頭部を狙う。

しかし、その蹴りを小次郎は頭を後ろに反らすだけで回避する。

 

その光景にまたもや鍛錬場が驚きに包まれる。

先ほどまでの超人的な反応とは異なり、今度は回避行動自体が自然体のそれであった。

その光景に皆が先ほどの小次郎の言葉を思い出す。

 

“2尺弱”それはまさしく、桐山鯉の攻撃の間合いであった。

このわずかな間に小次郎は桐山鯉の攻撃の範囲を理解したのであった。

そして、それからは小次郎の独壇場であったといえた。

繰り出される斬撃が鯉を襲う。

 

「クッ!!」

 

「フッ!!」

 

珍しく鯉の顔に焦りが見えた。

しかし、小次郎の斬撃は休む間もなく鯉を襲う。

そして、遂に

 

「ハァ!!」

 

と、鯉が蹴りを出す。しかし、それゆえに大振りになったことを小次郎は見逃さなかった。

最小限の回避をすると、小次郎は気づけば鯉の背後をとっていた。

そして、決定的な一刃が鯉を襲った。

 

「それまで!!」

 

と、審判のクラウディオの静止が入る。

小次郎の刃は鯉の首の寸前で止まっていた。

 

「勝者、佐々木小次郎。」

 

「ふむ、お相手かたじけない、桐山殿。」

 

そう言って、小次郎は鯉の首から刀を離し、再び肩へとおいた。

そして、目線を帝へと向けた。

すると、帝は笑顔を見せて言った。

 

「九鬼家従者部隊の精鋭がこうまで遊ばれちゃあ、認めるしかないわな。」

 

「いや、こちらも桐山殿がその気なら最初の一撃で決まっていた。それに、真の力を出されていたら話は全く違っていた。」

 

と、小次郎も笑顔で返す。

そして、帝はその場にいる全員を見渡すと声高に宣言した。

 

「ここに居るのは間違いなく佐々木小次郎だ。この九鬼帝がそう決めた!!」

 

その言葉に全員が頷く。

帝が前に出て、小次郎の前に出て来る。

 

「さて、改めてお前に問おう。佐々木小次郎。お前は自分の名前を賭けて戦った。そしてお前はそれに勝ったわけだが…。今度はこっちの番だ。お前は俺に何を望む?」

 

「ふむ…。」

 

帝の鋭い眼光を前に小次郎は考える。

そして、出てきた言葉はまさしく佐々木小次郎の真なる願いだった。

 

「私が私であることを。」

 

「何?」

 

小次郎の言葉に帝の目が見開く。

そして、小次郎は続けた。

 

「先も申したように、もとよりこの身にあるのは剣の腕と名のみ。しかし、この地ではどうやらその名も偽りと見なされてしまうようだ。ならば、どうか貴殿達だけでも認めてほしい、私が佐々木小次郎であることを。」

 

その真摯な言葉に全員が息をのむ。

すると、帝が笑いながら言った。

 

「ハハハハ!天下の佐々木小次郎が何を望むかと思えば、自分の名の保証とは!だがそれは言い換えりゃ、この世にいるはずのない人間の存在を肯定しろっつうことになる。欲がないんだか、強欲なんだかな~。」

 

「フッ、そう言われてみれば、どうやら大変な頼みごとをしてしまったようだ。」

 

「だがそれがお前の望みなら叶えてやろう!オイ!クラウディオ!」

 

すると、審判をしていたクラウディオが帝に近づいた。

そして、帝が言った。

 

「すぐに佐々木小次郎の戸籍を作れ。細かいことは後はお前に任すからよ。」

 

「簡単なことにございます。では、すぐにでも。」

 

と、笑顔で返した。

そして、再び帝は小次郎を見て言った。

 

「佐々木小次郎、九鬼はお前を認める。お前がお前であることをな。」

 

「忝い、九鬼帝殿。」

 

帝の言葉に小次郎は深々と頭を下げた。

そして、この件は落ちつきを見せようとした。その時だった。

 

「帝様、よろしいでしょうか?」

 

「ん、どうしたヒューム?」

 

控えていたヒュームと呼ばれる男が近づいてきて言った。

その表情は少しばかり厳しいものであった。

 

「その者との件は良いでしょう。しかし、突然現れた人間に九鬼家の従者が敗れたとあってはその意義が揺らぎます。ですので…。」

 

「あ、まさかお前…。」

 

これ以上ないほどの緊張感が鍛錬場を覆う。

そして、ヒュームは小次郎を見て言った。

 

「おい赤子。今度は俺が遊んでやろう、真の従者の姿を身を持って教えてやる。」

 

その言葉に小次郎はやはり笑みを見せた。

 

to be continued

 

 

 

 

 

 

 

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