百代戦、皆様のご感想を見る限り楽しんでいただけたようで、ホッとしています。
今回の第9話は前話とは別の形で、ご指摘なさる方もいらっしゃると思いますがよろしくお願いします。
九鬼ビル 従者控え室
「まったく、今後は気をつけることです。」
「うむ、以後猛省しよう。」
川神院からの帰り、小次郎はクラウディオから先ほど一件についてお説教を受けていた。
実際に自分でも自らの立場を認識したため、ただただ今はクラウディオの言葉にしきりに頭を下げていた。
その様子が自分でも可笑しく思えてくる。
「さて、小言はこれくらいで良いでしょう。さて、改めて今後のことについてお話ししましょうか?」
「うむ、よろしく頼む。」
流石は完璧執事といったところか、これ以上は空気が悪くなると思ったのか丁度良いタイミングで話を切り上げる。
もちろん、その際にお茶の用意も忘れない。
今度は緑茶ではなく、紅茶であった。
「うむ、口にしたことはないが西洋の茶も美味いな。」
「それは良かったです。」
小次郎の言葉にクラウディオもほころぶ。
そして、クラウディオが説明を始める。
「さて、すでに話したとおり貴方は従者部隊の序列番外位として職務に励んで貰います。内容も話したとおりです。」
「は。しかと承ろう。」
「よろしい。では、細かい点をお話ししましょうか。まず第一に貴方の仕事着ですが、本来であるならば他の従者と同様、執事服を着用していただくのですが、帝様の言葉をそのまま伝えます。」
『いや、小次郎はあのままで良いだろう。剣豪に執事服を無理に着せることもないしな。1人ぐらい和装の従者がいても良いだろう!まあ、きてる姿も見てみたい気もするがな!』
「とのことです。」
「それはそれは…。だが、良いのか?」
小次郎は帝の提案を聞き、嬉しくは思ったが、果たして仕えた身となった自分がそこまでの待遇を受けて良いのか戸惑った。
正直、服装に頓着はない。確かにこのままの服装で良いのならそれには越したことはないが、やはりどこか居心地が悪かった。
「そういった方です。帝様がそう仰ったのであれば、それに従うまでです。」
「ふむ、ありがたいが…。」
すると、クラウディオが悩んでいる小次郎を微笑ましく身ながら言った。
「ふふ、貴方ならそう言う反応をすると思いました。そこで、私から提案というかご用意したものがあります。」
「む?」
そう言って、クラウディオがどこからともなく取り出したのは小次郎がきている服に似た着物と袴だった。
しかし、その色合いは異なり目の前のクラウディオや他の従者達が着ているものと同じ色合いだった。
「これは!?」
「貴方に合わせて、したためた従者服です。これであれば、誰が見ても貴方が九鬼の従者であることが分かるでしょう。」
小次郎が珍しく目を丸くする。
そして、用意された着物を手渡され、それを触れ、見る。
丁寧に、そしてどこか愛おしそうに手で撫でる。
「忝い、クラウディオ殿。人から物を貰うのは久しぶり、いや初めてかも知れぬ。」
「それは良かったです。そう言っていただけると、用意した私も嬉しく思います。」
「大切に袖を通そう。いや、この場合は傷むほど奮起したと言った方が良いのか。」
その言葉にクラウディオの笑顔で頷く。
そして、小次郎は一言断って、その場で用意された従者服を着た。
「うむ、驚くことに丈も丁度良い。本当に礼を言わせていただく、クラウディオ殿。」
「簡単なことにございます。似合っていますよ、小次郎。」
「何やら、年甲斐もなくはしゃいでしまうな。(とはいえこの身が齢いくつかは分からぬが…。)」
「私からすれば、貴方のような者であっても子供のようなものです。因み、用意した貴方の戸籍には25歳としておきました。」
小次郎は驚いた顔をする。
自分の思っていたことを察したのかと、クラウディオを見る。
「貴方の考えることも少しずつですが、分かるようになってきました。」
「いやはや、本当に適わぬな。」
と、笑う小次郎。
しかし、その顔はどこか嬉しそうだった。
「そして、貴方に差し上げる物がもう一つあります。」
「む、何?」
そう言ってクラウディオは再びどこからともなく何かを取り出した。
それは刀だった。
それは、ヒュームとの戦いで折れた小次郎の刀、“備中青江”通称“物干し竿”とは異なる長刀であった。
しかし、その拵えはどこか似ている。
「この刀は…。」
「備前長船長光でございます。貴方の刀はヒュームとの立ち会いにて折れてしまいました。今は柄、刃共々お預かりして、九鬼家御用達の鍛冶職人のもとで修復しております。が、やはり時間がかかるとのことですので、しばらくはこちらをお使い下さい。」
「そうであったか…。」
小次郎は手渡された新たな刀を手に持つ。
その顔には愛刀が離れたことの寂しさと同時に、新たな出会いに心を向けていた。
そして、その場で鞘から抜き、その刀身を見る。
そして、頷くと再び鞘に納める。
「そちらは、私からの就職祝いと思って下さい。帯刀許可もすでに取り付けております。」
「本当に心より感謝する。」
と、深々と頭を下げる小次郎。
クラウディオは言う。
「いいえ、簡単なことにございます。それに…」
「む?」
「やはり、刀を持つ貴方は絵になりますな。」
小次郎はその言葉に笑顔で返すと、刀を背中にかける。
そして、クラウディオに言った。
「この刀に似合う働きをせねばな。しかし、同時に抜き際を見極める必要もあるがな。」
「その言葉を聞けば、何も言うことはありません。」
そう言うと、クラウディオと小次郎は静かにテーブルにつきカップを傾けた。
この日はそれで終わった。
side out
部屋を出て、自室へと戻る途中、小次郎は目の前から見知った顔が歩いてくるのに気がついた。
みまごうとこなく、その人物は昨日立ち会った張本人ヒューム・ヘルシングであった。
すれ違い時、小次郎は立ち止まり頭を下げた。
すると、ヒュームが振り返り口を開く。
「武神、川神百代と戦ったようだな。」
「武神か…。なるほど…。いかにも…、とは言っても、あれは戯れのようなもの…。」
「フン、だがアイツのことだお前相手にムキになってかかってきたのではないか?」
「ふっ、確かに…。そのようになってしまった。」
そして、2人の間に沈黙が生まれる。
すると、ヒュームは言った。
「で、どうだった?」
「うむ、その猛々しさたるは流石とでも申しておこう。才気もまた同様。」
「それで?」
「“がらんどうの巨木”、されば、いずれ花を咲かせるのを待つのみかと…。」
そう言って、小次郎は今一度頭を下げるとそのまま自室へと向かった。
ヒュームはその後ろ姿を見ると呟いた。
「フン、“がらんどうの巨木”言い得て妙だな…。やはり、ヤツには一度“敗北”を知る必要があるということか。」
そう言って、再び歩き始めた。
to be continued