ハクヤサイド
時刻は夜の六時半。この街に住むほとんどの人間が夕食を取っている時間帯だ。
「それでさあ!もう本当に死ぬかと思ったんだよね!!腹減るわ。風呂入れないわ。疲れるわ。臭いわで散々だったんだよねえ!!」
一週間ぶりの酒が入り上機嫌なソイホンはマリーにも自分がどれだけ苦労していたかを長々と語っていた。
「へーすごいね。がんばったね」
「でしょおお!」
もう一時間以上も同じ話を繰り返し聞かされているマリーは返事も適当になっているがそれでもソイホンはお構いなしに話し続ける。
そしてマリーの隣に座る俺は蛙の唐揚げを食べながら明日は何をしようかと頭の中で考えていた。
久しぶりに王都にでも行こうかな・・・。王下七武神やめてから一度も行ってねーし。そういえば俺の抜けた後って誰か入ったのかな?
一応俺もコジロウと同じ王下七武神の一人だったんだよねえ・・・まあいろいろあってやめちまったんだが。
「なんつー辛気臭い顔をしてんだお前は」
そんな事を考えて物思いに更けていた時ここの従業員である男に話し掛けられた。
その男はこのギルドの制服を着て接客業を生業としている。見た目はコジロウよりも青い髪をして背丈は俺より少し高い190㎝ってとこか?服の上からでもわかるように筋肉質で誰もが羨むような整った顔立ちをしている。
「客に向かって何て言い草だ。フーリン」
「あ、クーさん。お疲れ様です」
「お疲れ様ですクーさん」
「おうよ!しかしお前も隅に置けねーな!こんなカワイ子ちゃんを二人も仲間に入れるなんてな!」
俺の背中をバンバンと叩きながら慣れ慣れしく話し掛けてくるこの男の名前はフーリン。ソイホンとマリーはクーさんと呼んでいるが。
「痛いから叩くのやめろ。相変わらずの馬鹿力だな。」
「へへ!褒めんな」
「褒めてねーよ。てかお前って七武神のくせになんでバイトなんてしてんだ?」
そう。驚く事にこいつもコジロウと同じベルセルク王国直属の冒険者王下七武神の一人なのだ。王下七武神に加入すれば一生掛かっても使いきれない金が手に入るのだが。
マリーとソイホンもうんうんと顔を縦に振りながらフーリンの事を見る。
フーリンは胸ポケットから煙草を取り出しマッチで火をつける。言っとくけどここ禁煙な。
「ははは!別に深い理由はねーよ。ただこういう労働をした後の飯が美味く感じるからやってるだけだ。それに俺は七武神に加入してはいるが報酬は基本貰わねーよ。自分で労働した金で飯食いて―からな」
そんな労働者の鏡のようなフーリンを見てマリーとソイホンは「おお!」という驚きを声に出す。
「なんかいろいろと凄いなお前」
「あたぼーよ!やっぱり人間働かねーとな!」
「全国のニートに言ってやれ。その言葉」
そしてこの男は仕事中だというのにも関わらず俺たちと同じ席に座り酒を飲み始める。店長に見つかったらクビだろうなこいつ。
「そういえば俺が抜けた後って誰か入ったか?」
「ん?抜けた?ああお前の七武神の穴か。俺の知る限りまだ穴埋めはされてねーらしいぜ」
グビグビと酒を飲むフーリン。だからお前仕事中だろ。なに酒なんて飲んでんだ。
「私達じゃ務まらないかな?」
マリーが独り言のようにつぶやく。
「ぶっちゃけ言うがお前ら二人じゃまだ力不足だ。魔王軍十二師団の師団長クラスを一人で倒せるくらいにならないとな。」
酒が回って顔を赤くしたフーリンが答える。ソイホンとマリーは難しい顔をしながら俺を見る。
「ハクヤ。正直に答えてほしい。もし今の私が魔王軍十二師団の師団長クラスの敵と戦ったらどうなる?」
いつになく真面目だなこいつは。期待通り正直に答えてやろう。
「マジで正直に言うとタイマンだったらほぼ負けるだろ。逃げるのが精一杯だな」
俺の辛辣な評価にさらに難しい顔をするソイホン。
「マリーもだ。今のお前らじゃ勝てないからもし遭遇する事があっても逃げる事だけを考えろ。わかったな?」
「はい・・・」
「わかった・・・」
渋々俺の言う事を聞く二人。今のこいつらでは勝てないというだけでこれから鍛錬すれば充分師団長クラスの敵と戦えるようになる。ただ八王は一朝一夕の修行でどうにかなる敵ではない。まあそれはこいつらもわかってるし大丈夫だろう。
「なあフーリン。近くの古城の事は気付いているだろ?」
「ああ。コジロウが言うには第四師団らしい。」
やはり古城にいる魔王軍の事はこいつもすでに気づいているらしい。
「だが確か第四師団の団長はお前が・・・」
「ああ。俺が前に倒した。」
フーリンは酒瓶をテーブルに置き言う。
先ほどから俺たちが言っている第四師団とは魔王軍の基本戦力。
『魔王軍十二師団』の事だ。
文字通り第一師団から第十二師団まであり、一つの師団につき戦闘員は約200人ほど。
しかもその各師団の各団長はソイホンやマリーを大幅に上回る戦闘力を持っている。下手をすれば王下七武神にも匹敵するかもな。
そしてその十二師団の上に八王がいる。
八王は魔王軍十二師団の師団長ですら遠く及ばない程の戦闘力を持つ集団だ。
これだけ言うように魔王軍とはとてつもなく強大な力を持つ集団なのだ。
話を戻そう。実はこのフーリン。以前に魔王軍十二師団第四師団団長を討ち取っているのだ。
「ベルディアが団長に昇格したのか?それとも新しい奴が団長になったのか」
「わからない。だがもし後者の場合は警戒した方がいいな。この街に来られるとめんどーだ。まあ来たら来たで戦えばいいだけの話だ。さて俺はもう仕事に戻るとするわ。可愛い女の子が仲間にいるんだ。しっかり守ってやりな」
「言われなくてもわかってるさ」
そう俺が返すとフーリンは厨房に戻って行った。
この小説に登場するほとんどのキャラには元となるモデルがいます。
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