Infinite Dendrogram-蒼い瞳の刀使いー   作:びーびー

10 / 12
短いです。


暗闇にて

 時は少しさかのぼる。

 ホノカとミリアムがログアウトした直後、相変わらずの暗闇の中、ジャバウォックはほめたたえるように過去を語る。

 

 先々期文明末期。

 世間ではフラグマンの名がもてはやされていたが、とある国に彼に引けを取らない技術者がいた。

 その時代、人類は化身と呼ばれるものに生存を脅かされており各国で化身に対抗する兵器の開発が行われており当然のようにその技術者もその国の兵器開発の主任として辣腕をふるっていた。

 刻一刻と追い詰められていく人類、失われていく命の中で彼が選んだ兵器のコンセプトは無人兵器だった。

「失われていく命を少しでも減らそうと彼は人工知能を搭載し、無補給・無整備で戦線を保つことのできる戦車を求めた。彼のコンセプトを国は喝采をもって受け入れプロジェクトは順調に進んでいった」

 イクスの手元にはジャバウォックが開いたモニターがありジャバウォックの言葉に合わせるように画面がスクロールしていく。

「まず人工知能が完成し技術者は次に動力炉へと取り掛かろうとした。すべてが順調に見えた中で国から研究にストップがかけられた」

 そういうとジャバウォックはイクスの方に目をやる。イクスの目の前に展開したモニターには件の動力炉の解説が映し出されていた。

「これは……」

「こいつは……悲劇を食らう」

 ジャバウォックは端的に動力炉の特徴を告げる。敵でも味方でも、人でも生物でも関係なく負の想念をMPに変換することで動力炉はほぼ無限に動き続ける。あたりに負の想念があり続ける限り。

 そのことが発覚し、国はその研究にストップをかけた。

「国としては当然だろう。敵を倒し切ったそいつはどうなると思う。自身を動かし続けるために新たな負の想念をあたりにまき散らそうとするのさ」

 それはどこから?

 ……敵がいなければ残されたのは味方しかいない。

「しかし遅かった。技術者は姿を消した。ほぼ完成していた動力炉とともにね」

 その時フラグマンの手によって自力でMPが生成可能な動力炉は完成していた。にもかかわらずその技術者が負の想念を動力として欲したのは何故なのか。どこへ姿を消したのか。様々な疑問が残る中、国は彼の研究と施設を念入りの消去し、封印した。同様の研究がなされないように。

 そうして一人の技術者は歴史から消失した。

 遠くないうちにその国も滅び、時代は今に舞い戻る。

「面白いとは思わないか?」

「面白い……ですか?」

「悲劇を打ち倒すために悲劇の力を求める。今まであなたも何度も見てきたはずだ」

 そう問いかけるジャバウォックにイクスは言葉を返さず、ただ静かに頷く。

 イクスが今まで見てきた多くのものの中には確かにジャバウォックの言う通りのものも数多く存在した。

 かつてはその力を扱いきれず時代を終わらせるほどの【大戦】へと導いてしまった世界もある。

「人は本能として悲劇を、死を追い求めているのかもしれない」

 高いところからふと飛び降りたくなったり、悲劇の方が喜劇より喜ばれたり、自身の手に負えない兵器を開発したりといったことは多くある。

 ジャバウォックはそれらを評してそう語った。

「ここにも一つ、長い時を経て悲劇を生み出すものが生まれた」

 ジャバウォックの目の前にポップアップしたモニタはボギーワンと呼ばれるそれが起動状態に入ったことを示すものだった。

 慣れた手つきでモニタの詳細を確認し、承認ボタンに手をかざす。

「それでも……」

 承認ボタンに手が触れる瞬間ジャバウォックの傍らから静かに声が上がる。

「それでも……皆必死に今を生きてます」

 イクスは常の穏やかな笑みを顔に浮かべ語りかけるように言葉を紡ぐ。

「私も……そう願っている」

 静かに目を閉じてジャバウォックは承認ボタンをタッチする。

 この瞬間世界に新たなUBMが誕生した。

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございます。
感想等お待ちしております。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。