Infinite Dendrogram-蒼い瞳の刀使いー 作:びーびー
時間は現在に、場所は地下の整備工場に戻る。
ミリアムは手にした遺書を握りしめ地上へと向かっている。
『嬢ちゃん、これはちっとばっか危ねえぞ!』
「わかってる!だから私が落ちないようにしっかり固定してて!」
その小さな体をダチョウにくくりつけながら。
地下の整備室でとある技術者の遺書を見たミリアムは一刻も早くホノカの元へ戻ろうとしたが、足のけがのせいで走ることもできない。思い出したようにアイテムボックスからダチョウの入ったジェムを取り出すが、そもそも【騎乗】のスキルを持っていないため上手く乗ることができない。
「トイボックス、私をしばって!」
そんな彼女が咄嗟に思いついたのがこれだった。トイボックスがワイヤーによってミリアムとダチョウをくくることで何とかミリアムはダチョウにしがみついているのだった。
(ほのちゃん……!)
ホノカを心配するミリアムはちらりと手にした遺書に目を落とす。
内容は呪いとでもいうようなものだった。
彼は先々期文明のとある国に生まれた技術者だった。
国は追い詰められており彼は自身の能力を喜んで国のために使った。優秀だった彼は国の技術主任として力を発揮するようになる。そのころに彼はとある女性と出会い、結婚。子供を授かり、まさに人生の絶頂期だった。
『僕が……エミリア、君と世界を救って見せる』
彼がそう告げると彼の妻は嬉しそうに笑っていた。いつまでもこの幸せが続くと思っていた。
『エミリア?』
しかしそれは唐突に終わりを告げる。
対化身プロジェクトのため彼がこの研究施設にこもっているときに彼の家に賊が入り、妻と子供はその命を落とした。理由は単純な金目当てだったとも、彼の技術目当ての隣国のスパイだったともいわれているが詳細は明らかになっていない。
『何故だ!』
……彼は絶望した。家族を失ったこともそうだが、こんな時でも争いあっている人というもの自体に深い絶望を抱いた。
そうして彼は悪魔の研究へと手を染める。終わらない悲劇を生み出す研究へと。
国から止められようとも彼は出来上がったばかりの人工知能とともに研究所の地下の隠し整備工場へと潜った。仮にもフラグマンに並ぶと讃えられた彼が造った整備工場はほかの者には全く見つけられず研究は進められていく。
『滅びてしまえばいい。こんな世界も。争いしかできない者たちも……!』
長く続く地下での生活は彼の体を蝕み、やがて彼はベッドから出られなくなってしまうがそれでも研究は続いていく。彼の息子の名がつけられた人工知能によって。
……遺書はこう締めくくられている。
『神よ、世界よ、人よ、すべてに災いあれ オレグ』
暗闇の中、ミリアムたちは駆けていた。先日の調査でマッピングが済んだ通路を逆にたどり出入口としていた地点まで暗闇の中を駆け抜ける。
時折出てくるモンスターを速力のみで振り切り一直線に出入口まで向かう。
「……止めないと、こんなこと。悲しすぎるよ」
『つってもどうするよ?嬢ちゃんが加勢したくらいじゃあいつは倒せねえぞ。……UBMはそんなに甘くねえ』
「わかってる。でも、あの子を起こしちゃったから」
そう言ってミリアムはわずかに目を伏せる。
『こればっかりは運が悪いとしか言いようがねえや』
トイボックスに体があれば肩をすくめていただろう。そんな調子でトイボックスは言葉を発する。
ここではないどこかでジャバウォックが言う通り、ボギーワンの起動のための最後のトリガーを引いたのはほかでもないホノカたちだった。
ボギーワンが周囲にある負の想念というわずかなエネルギーを使い、建造をつづけやっと完成したのは先々期文明のころと比べればごく最近と言ってもいいくらいの昔であった。
ボギーワンは完成後、起動に必要なエネルギーが足りず休眠状態であったが、つい先日休眠中のボギーワンに莫大なエネルギーが流れ込んできた。それは超級二人が力をふるった結果生まれたモンスターたちの負の想念の塊だった。
いずれ、近いうちにボギーワンは起動していた。それは間違いない。それこそ何か負の想念が彼のエネルギーを吸収できる範囲内で発生すればいつ起動してもおかしくなかった。
……そのタイミングでホノカたちはここへやってきた。ここでホノカが切り払った数匹のモンスター。それこそがまさにトリガーだったのだ。
「頑張ろう」
それがトイボックスに対しての言葉なのか、それともミリアム自身に対しての言葉なのか。言葉を発したミリアムでさえも定かではない。
ただそうつぶやいたミリアムの瞳にはある種の決意があった。
力不足は自覚している。
戦闘では足手まといだ。
でも、だからこそほかの面でホノカを助けることができる。
助けなければ……ならない。
「……まずはほのちゃんと合流しよう」
『あいよ』
地上は……もう間近だった。