Infinite Dendrogram-蒼い瞳の刀使いー 作:びーびー
戦いは膠着状態だった。
ボギーワンの攻撃はすべて紙一重でホノカに避けられる。
長距離からの主砲は言うに及ばずかといって近距離から散弾をばらまこうにもホノカはどうにもすばしっこく砂丘や露出した岩を盾に逃げ回る。
かといってホノカが有利ということもない。
攻撃をしようにも近寄れば散弾の雨あられ。体勢を整えようと距離を取ると正確無比な主砲がホノカをつけ狙うように放たれる。
ほぼ膠着状態の戦場だったが【出血】というバッドステータス、疲れという要素がホノカを不利に追いやっていく。
(そったれっ)
再び始まる何度目かの追いかけっこ。鬼はボギーワンで逃げるのはホノカだった。
少なくとも、ホノカが切り込んでいくには何とか散弾を無効化する必要がある。近距離での散弾をどうにかするためにはホノカにはまだステータスが足りていなかった。
だからこその持久戦の構え。
【出血】により徐々に減っていくHP。足場の悪い砂の上で少しでも足を取られれば即座に敵の主砲に打ち抜かれてしまうという緊張感や照り付ける日差しからくる疲れ。持久戦はホノカにとって不利な要素が多すぎるということはほかでもないホノカ自身がわかっていた。
しかしだからといって特攻のように己を犠牲にして切り込めばどうなるのか。
特攻まがいの切り込みは何度もできるものではない。
散弾の弾幕を抜けた先にあるボギーワンを一撃で破壊できなければその瞬間ホノカの負けは決まる。
あまりにも分の悪い賭け。
だからこそホノカは弾丸を相手が打ち切ってしまえば、そんな細い希望にすがりこうして砂上をかけていく。
「っはぁ……はっ……」
極度の緊張感がホノカの体力を削る。研ぎ澄まされている自身の感覚を信じ、走る速度を変え、身を躱し敵の攻撃をいなしていく。
いつまで続くのか、終わりの見えない時間はしかし些細なきっかけで終わりを迎える。
「わっ……!」
それは小さな石だった。ただその石は砂に覆われておりホノカが地面に足をついた瞬間にその存在を主張し彼女の体のバランスを崩す。
普段だったらなんてことはないその石もギリギリのバランスの上での綱渡りを行っているホノカにとっては致命傷にも成り得るトラップだった。
「らぁっ!」
全身の筋肉を振り絞り無理な体勢から跳躍。紙一重でボギーワンの主砲を交わす。ホノカの外套をかすめ主砲はその衝撃を砂に刻む。
「あ……」
しかしそこまでだった。無理な体勢からの跳躍でホノカは完全に体勢を崩しており大きな隙をボギーワンにさらす。ホノカは自分の知覚が引き延ばされたような感覚になり、その感覚の中でボギーワンの主砲がホノカを射線に捉えるのを克明に感知する。
(くそっ!)
見えてはいるが体がついてこない。そんなもどかしさの中でホノカは歯を食いしばる。
ふとよぎる少女の泣き顔。
彼女は、ミリアムはホノカがここで死んだら泣いてしまうだろう。
それは砂漠で取り残される寂しさからか。
ホノカが死んでしまった悲しさからか。
戦いで役に立てなかった自分の無力さからか。
……あるいはそのすべてか。
(泣いてほしくないな)
そう強く思う。
だからこそホノカはここでやられるわけにはいかない。
ミリアムをここに取り残したくない。
……死にたくない。
あとコンマ数秒でホノカの体は主砲に食い尽くされこの場から消えてしまうだろう。変えようのない終わりはもうすぐそこまで来ていた。
【出血】により減り続けるHP。崩れた体勢。ボギーワンの主砲の攻撃力。すべての状況がホノカの敗北を示している。
それでも、
(負けてたまるか!)
それがホノカをあきらめさせる理由にはならなかった。
(動け……動け、動けぇ!)
ホノカは動かない体を叱咤する。
ここじゃない。まだ負けられない。そんな強い思いを込めて彼女の瞳は爛々と輝きを増しひと時もボギーワンから目をそらさない。
しかし、無情にも彼女の体は動かないまま時はその秒針を進める。
その刹那、砂漠に【嵐】が吹き荒れる。
「【砂嵐(サンドストーム)】」
大きな風が一つ吹いた。
砂漠に響くその声とともにボギーワンはその機能を停止する。
「ほのちゃん!」
「ミリィ!?」
声とともに現れたミリアムはダチョウの背からホノカに手を伸ばす。
無事だったの、今のは何、そんなことばかりでまともに働かない頭のまま、考えたわけではなく咄嗟にホノカはミリアムの手を掴み重さを感じさせない動きでダチョウの背のミリアムにしがみつき振り回されるようにしながらもその場を離脱していく。
「ミリィ、あいつは!」
「まだもうちょっとだけ大丈夫!」
『あとすこしだが奴さんは止まっちまってるはずだ。今のうちに体勢を整えろ!』
ミリアムとトイボックスの言葉の通りボギーワンは先ほどまでとは異なり一切動きを見せず沈黙している。
ホノカたちはその姿を尻目に姿を隠せそうな岩を探して砂漠をかけていく。
熱い砂上の一日は、まだ終わらない。