Infinite Dendrogram-蒼い瞳の刀使いー   作:びーびー

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砂漠の街

 真っ白な光に埋め尽くされたホノカの視界が突如色を取り戻す。

「わぁっ……!」

 彼女の目に映ったのは石で作られたオアシスを連想させる街並みとそこを行く様々な格好の人々。地球で言う中東でみられるようなゆったりとした服装の人が多いがそれ以外にもシャツとズボンといった一般的な洋服を着ている人や浴衣のような和服を着た人、その他にも鎧などで武装した人が道を行き交っていた。

 焼き付くような日差しに顔を上げると果てのない蒼い空が広がっており、そこには見たこともないような鳥が羽ばたいていく。

 同時に先ほどまでの静かな空間が嘘のように彼女の周りが音で満ちていく。客引きをする商人や値切ろうとする客。道を走る子供たちの笑い声など様々な音が我こそはと彼女の耳に飛び込んでくる。

 始まりの街、『コルタナ』の日常がそこにあった。

「っ……」

 情報の洪水はそれ自体が物理的な力を持つようにホノカの体を押し流し、彼女はふらふらと座り込んでそのまま空を見上げる。

「すごい……!」

 知らずのうちにホノカの口から言葉が漏れる。

 正直所詮はゲーム、とあまり期待していなかったがこの一瞬だけでそれがすべてひっくり返されていた。

突然座り込んだまま立ち上がらないホノカを通行人が心配そうに声をかけようとするが、皆彼女の表情を見て安心して立ち去っていく。心配してくれた人々にお礼を言うホノカの顔には空にある太陽のような笑顔が浮かんでいた。

 

 

どれくらいそうしていただろうか、飽きることなく空や通りすがる人を見ていたホノカに後ろから声がかけられる。

「いつまで店の前で座っとるんじゃ小娘!商売の邪魔じゃ!」

 突然かけられた声に驚いて振り返るホノカの視線の先には何かの店舗であろう出入口から白衣を着た老人が訝し気に彼女を見下ろしていた。

「あー、ごめん。すぐにどくよ」

「そうしとくれ。いつまでもそこに居座られたら商売あがったりじゃ」

「もー、だめですよセンセっ!私たちはお客さんがいない方が良いんですから」

 やれやれとばかりに首を振る老人に店舗の中から声がかかる。老人に続いて建物からナース服を着た女性が姿を見せ、老人に注意をするが老人はそれをどこ吹く風と気にした様子を見せない。

(診療所……か)

 ホノカは立ち上がりながら店舗に掲げられた看板を見てひとりなるほどと納得をする。確かに病人やけが人がたくさん来てくれと願う医療関係者はご遠慮願いたい。そんなことを思いながら老人たちの方をなんとなしに見ていると、ナース服の女性がこちらに気づいたように顔を向ける。

「患者さんですか?」

「いや、私は……」

 違う、そうホノカが言い切る前にナース服の彼女はその手をホノカの額に当てて熱を測るようなしぐさをする。

 その瞬間何か得体のしれないものがホノカの体を駆け抜けていく。

「メイリン、そやつは客じゃないぞ」

「あら、ほんと」

「?」

 自身の体が感じた感覚に目を白黒させながら自分の体を確かめるホノカの様子を面白そうに見ながらメイリンと呼ばれた女性は種明かしをする。

「今のは【看護師】という職業のスキルで、相手に手を当てて健康状態を調べるものなの」

「はー。これがスキル、ね」

「なんも知らん奴じゃの。さては、おぬしマスターか?」

「え……うん。そうだよ、あたしはホノカ」

 そう名乗りながら相対する二人の左手を見て、彼女はそこにマスターを示す紋章がないことに気づく。

「あんたたちは……マスターじゃ、ないの?」

 ホノカの視線の先を察したのか彼らはそれぞれの左手の甲を彼女に見せるように軽く振りその通り、と答える。

「わしらはティアン。おぬし等マスターが言うところの、えぬぴーなんちゃらとやらじゃよ」

「NPCですよ、センセ」

「やつらの言葉はわかりずらくていかんの」

 まるで生きているかのような二人の動きややり取りにホノカは今日何度目かの驚きを感じる。

(いや、生きてるみたいとかじゃないねこれは……)

 突然黙り込んだホノカの様子にメイリンと老人は会話を止めてホノカの方を見る。二人の視線が向いたのを感じたのかホノカは人好きのする笑みを浮かべ、まず老人にむかって右手を差し出す。

「診療所の前で座り込んで悪かったね。改めて、あたしはホノカ。よろしく」

「ん……わしはこの診療所の院長じゃ。皆からはノルと呼ばれておる」

「よろしくね、ノル爺」

 ノルの返した言葉に笑みを深くしてホノカは彼に言葉を返す。失礼な小娘じゃ、という彼の言葉にホノカは小さく舌をのぞかせながらも隣のメイリンに視線を移す。

「よろしくね、ほのちゃん。私はメイリン、ここの看護師長をしているわ」

「ほ、ほのちゃん……」

 まるで子供に接するようなメイリンの態度にホノカは握手をしながら講義をするように目を半眼にメイリンを見る。するとメイリンは先ほどホノカがやったように舌を軽くだしホノカにウインクをする。

「そいつにかなうとは思わんことだ。おぬしよりだいぶ長く生きとるからな」

「へ、だってこんなに若い……」

「センセ、女性の年齢のことは口に出さない方が良いですよ?」

 優しそうな声でありながら妙な威圧感を感じる彼女からホノカとノルは同時に目をそらす。

 そんな二人の様子にメイリンは苦笑をこぼし纏っていた威圧感を霧散させる。そんなメイリンの様子にノルはこれ幸いと診療所の中に戻っていく。

 ホノカはそんなノルの様子に、さてこれからどうするか、と軽くほほを掻きあたりを見回す。

(とりあえずどっかのマスターにでも聞いてみるか)

 そんなことを考えホノカも踵を返そうとしたところノルから声がかかる。

「ほれ、何しとる。付いて来い」

「いや、あたし患者じゃないし……」

「どうせここに来たばかりなんじゃろ?おぬしみたいなやつは山ほど見たわい」

 それとついていくこととどんな関係が、と聞こうとするホノカの後ろからメイリンが背中を押す。

「まぁここであったのも何かの縁よほのちゃん。お茶でもしていきなさい」

「メ、メイリン……」

 困ったように顔だけ振り向かせメイリンの方を向くホノカだが、メイリンの楽しそうな顔を見て肩の力を抜く。

「ほのちゃん?」

 別にそこまで急いでいるわけでもなく、少なくとも彼らの誘いを断るような用事はホノカの予定には入っていなかった。

「お邪魔します……」

 患者でないものがこの扉をくぐること、これはこの街のティアンの間では珍しいものではない。そんなことをホノカが知るのはもうしばらく後のことだった。

 

 

 




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