Infinite Dendrogram-蒼い瞳の刀使いー   作:びーびー

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地下にて

 

 

『ミリアム!起きろミリアム!』

 その空間に響き渡る声にミリアムは薄目を開ける。

『起きろミリアム!』

 視界に入るのはどこまでも続く闇と薄っすらと照らされた砂まみれの自分の体だった。あたりに砂が散乱しているが周りの材質から調査目的の遺跡で間違いないだろう。そこまで考えた瞬間、意識が覚醒し飛び起きる。

 あたりを見回し状況を把握しようとするも光源は自分の頭の上のトイボックスのみで視界は数メートルもなく、それ以上は闇に包まれている。

「どうなったの!」

『落ちたんだよ。昨日調べた遺跡だな』

 簡潔すぎるトイボックスの言葉にミリアムは立ち上がり声を上げようとするが、その時に右足から鈍い痛みが彼女を襲う。

『折れてやがんだ、おとなしくしとけ』

 ミリアムは彼女を気遣うトイボックスの声には答えずしばらく自分の足を見ていたが突然アイテムボックスから彼女の背丈ほどありそうなハンマーを取り出しそれを杖代わりに立ち上がる。

『ミリアム!』

 強い口調のトイボックスの言葉に一瞬身をすくませるがそれでもミリアムは立ち上がり歩き出そうとする。

 折れている方の足を引きずりながらも彼女は足を止めない。

『ミリア……ム?』

 強情な相棒に声を荒げそうになるトイボックスだが彼女の様子がおかしいことに気づき言葉を止める。

『……泣いてんのか?』

「……っ」

 トイボックスの言葉の通りにミリアムは泣いていた。

 大きな瞳からぽろぽろと涙をこぼし、しかし唇をかみしめ嗚咽を噛み殺し彼女は泣いていた。

 痛いのか、そう言葉をかけようとしたトイボックスの予想はミリアムの言葉によって否定される。

「私……足でまといだった……」

 それは先ほどの戦闘のことだった。敵の攻撃もわからずただただホノカに手を引かれるだけだった自分。

「一緒に行きたいって、そう言ったのに何の役にも立てなかった」

『そりゃお嬢だって了承済みだろ』

「でも……、あんな……!」

 それはほかでもないミリアムがホノカに言ったことだった。生産職であるミリアムは戦闘においてはずぶの素人であり、その方面では間違いなくホノカの足を引っ張るといった彼女にホノカは笑って関係ないと言い放った。

 しかし、だからと言ってミリアムほどの少女が自身の無力さを割り切れるかというとそれはそう簡単なことではない。いくら言葉にしようとも実際に自分がホノカの足を引っ張ったという事実はミリアムの心を傷つけるのには十分だった。

『だからってお前が行ってどうなる。また足を引っ張んのか?』

 ミリアムの足が止まる。

 トイボックスはAIではあるが、彼自身はミリアムから生まれた者でもあるため彼女の気持ちは痛いほどわかる。戦闘でたいして役に立たないという言葉は彼にも突き刺さるものだ。でも、だからこそ彼はミリアムに厳しい言葉を投げかけなければならなかった。ほかならぬ彼女の身を守るために。

『ここで待ってろ。お嬢を信じろよ。お嬢ならきっと勝つって』

 そうは言いながらも彼はホノカの勝機が薄いことを知っていた。将来ならいざ知らず今のホノカにUBМを相手取って勝つことはほぼ不可能に近い。そう知っていてなおトイボックスはミリアムに嘘をつき続ける。ミリアムを止めるために。

 

UBМ(ユニークボスモンスター)

 デンドロで同種のボスモンスターは数多くいるが、UBMはその名の通り世界で唯一その個体しか存在しない。出会うことがレアなうえ、例外なく非常に強力な特殊能力やステータスを持っているモンスターである。落ちる間際に捉えた敵の名前からしてホノカたちが出会った【無限軌道 ボギーワン】も間違いなくUBMであった。

 

 トイボックスの言葉にしばらくミリアムは立ち尽くしていたが、袖で涙をぬぐい一歩、また一歩と歩き出す。

『ミリア「わかってるよ」』

 トイボックスの声にかぶせるようにミリアムがつぶやく。その瞳は悲しみにとらわれているのではなくただ前を向いていた。

「わかってたよ、戦いじゃあほのちゃんの役に立てないのは……」

 言葉をかみしめるように、ゆっくりと自分に言い聞かせるようにミリアムは言葉を紡ぐ。

「でもあんなに惨めな気持ちになるとは思わなかった。……そういう意味じゃ分かってなかったのかもね」

 分かったつもりになってたのかも、とつぶやきミリアムは舌を小さく出す。だから彼女は先ほどまで泣いていたのだ。自分の無力さが嫌で。親友の助けになれないのが悲しくて。

 自分の無力さを知るなど彼女ほどの年頃ではできるわけがない。そこまで自分を分析できるという意味では彼女は恐ろしく早熟な人間なのだろう。

「でもね、戦いじゃほのちゃんの足を引っ張っちゃうかもだけどこっちの道なら私だって役に立てる」

 そう言ってミリアムは指す方には通路の上に残された轍があった。先日までは間違いなくなかったそれはあのボギーワンがここを通ったことを意味している。

「調査、解析なら私だって役に立てる」

『お前ってやつは……!』

 意識を取り戻して足元を見た瞬間にミリアムは轍に気づいた。だから無理をしてでも轍の続く先を見極めようとしたのだ。そこに敵を攻略するヒントが隠されていると信じて。

『わかったぜ嬢ちゃん。俺たちの本領発揮と行こうか!』

「うん!」

 

 そして二人は一番大きな部屋にたどり着く。そこには先日まではなかったシャッターがあり、全開の状態で残されていた。

『どこにこんなもんがあったんだよ』

「ぜんぜん反応しなかったね」

 そう言葉を交わしながら二人はシャッターをくぐる。しばらく続いた通路の先は開けた空間が広がっていた。

「格納庫、かな?」

『どっちかっつーと整備工場っぽいな』

 ごく最近まで使われていたであろうそれらの機械はそれがはるか昔に作られたということを感じさせないほど状態の良いものばかりであった。

 間違いなくあのボギーワンは先日までここにいたのだ。

「でも……」

 施設を見回してミリアムは口をつぐむ。あそこまで徹底的にこの施設の資料などを消そうとしていたはずなのになぜボギーワンはここまで状態よく残されていたのか。そう考えるミリアムの疑問の一部はすぐに晴らされる。

『嬢ちゃん、そこに資料があるぜ』

 トイボックスが示す先には整えられた施設の中でそこだけ生活感を感じさせる机があり、その上に数枚の資料が残されていた。

 恐る恐るミリアムはその資料に目を通す。それは資料というよりは遺書のようなものだった。

「これって……!」

 とある一人の男の、願いが込められた一通の遺書だった。

 

 

 

 




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