あくいろ!   作:輪音

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朝の連続テレビ小説『悪魔はん』。
この冬、●HK大阪が放つ、禁断の悪魔異聞録。
西日本を舞台に暴れまわるのがセオリー。
学園に転校してきた謎の転校生は、実は悪魔使いだった?
スライムの可愛らしさが、人気沸騰を奏でるプロセスか?
張りぼてや顔に塗料を塗っただけの悪魔たちが、画面狭しと跳梁跋扈する。
唐突に繰り広げられるワイヤーアクション。
役者たちの熱意が溢れ過ぎる怪演。
放送コードぎりぎりを攻める台詞。
苦情対策は万全なのか?
視聴率で一喜一憂するのか?
果たして打ち切りにならないのか?

今日も美少年や美少女が、ぎこちない動きで滑舌悪く台詞を噛みまくる。
主人公の背後で子泣き爺ちゃんがニヤリと笑う。
夢見んぞ。




ハレルヤ・フォーティー

 

 

それはまさに、アイドルのコンサートに見えた。

場所は新横浜駅近くの横浜アリーナ。

白と青とに彩られた会場。

声援が聴こえてくる。

歓声が上がっていた。

映像を通して、その熱狂的熱気が伝わってくる。

信じることって大切だよね、的な歌詞が室内に満たされていった。

呪術的な言葉が、イタリアの高級家具で飾られた部屋を駆け巡る。

テルス教の嘉屋さんが持ち込んだデータは、なかなかに興味深い内容だった。

いつものマニトゥ平崎にあるマヨーネさんの事務所で、液晶テレビを眺める。

 

「よくもまあ、撮影用機器をこっそり持ち込めたものですね。」

「なに、会場の関係者から情報をありがたく『貰った』のさ。」

「ほう。」

「メシア教がアイドル路線に切り替えてから、この映像で見られるように支持者や入信者が格段に増えたのは事実だ。こうして、『ふれあい会』を開催したら会場が人で溢れる程にな。九割以上は四〇代までの男性だそうだ。その反動で、本職のアイドルは休業引退転職する者が増えているそうだ。今後はアイドル残酷物語が加速するだろうと、うちの戦略研究室はそのように睨んでいる。メシア教が本来的な『偶像崇拝』に梶を切るなんて、考えもしなかったよ。あれは形を変えているが聖歌だ。耐性の無い者が聴くと、崇拝者に早変わりという寸法だ。」

 

苦々しげに言い放つは嘉屋さん。

端正な顔立ちに苛立ちが見える。

マヨーネさんもオレも変化なし。

こうかはぜんぜんなかったのだ!

 

「あれが『ネオファイト』と呼ばれる末端構成員だ。奴らは漏れなく身体強化されていて、ちょっとした火炎や電撃や吹雪といった複数の攻撃魔法さえ使える。死ぬことをおそれずに突っ込んでくる、文字通り死兵さ。妙にしぶとい奴らには、毎度手こずらされる。低威力とはいえ、何発も魔法を当てられると我々とて危うい。」

 

青地に白の鉢巻きをしている彼らは、熱心に声援を送っている。

その疑いなき表情に少しゾクッとした。

 

「入信時に簡単な洗脳。信者自身の精神的負担も少なく、思考力も残したままだ。下手な機械や能力を使うと人格破壊になったり、思考力が無くなったりするからな。そして、洗脳の触媒にアイドルを使う。親衛隊に入ればアイドルの世話役になれると聞いて、滅私奉公する奴も多く出てくる。文字通り、身を磨り減らしてな。不純な動機で入っても優秀な者は昇進するし、組織に不要と思われたら最前線で使い捨てにされる。奴らからすると、無駄は無いらしい。まったく、我々からすると考えられないことを平気でするんだ。これが理想郷のためだというんだから、笑わせる。断言してやるが、あそこの幹部連中が民衆のことを考えるなど殆ど無いよ。気まぐれに餌を投げるだけだ。そうやって、都会のネズミは益々肥えてゆくのさ。ここに映っていないドブネズミどものために、素朴な民衆は踊る訳だ。実に忌々しい。」

「酷いですね。」

「実情はブラック企業と大差無いがな。五人で行う仕事を三人で行うならまだマシだと、そうした企業は真顔で言うからな。利益追求のために、間接的に人殺しをする。それを恥じずに何度も何度もやってのける連中は、ある意味殺人鬼だろうさ。人を殺すのは案外簡単なものだよ。時間さえかければ、沢山殺せる。それをもっと効率的にやっているのが、こいつらだ。ちなみに、ここに映っているのがメシア教の中核戦力たる『騎士』だ。」

「『騎士』ですか。」

「ああ、規律正しく、苦境にあっても整然と統率されて攻撃してくる連中だ。よく訓練された、戦闘機械だよ。ワーテルローの戦いに於ける、ナポレオンの親衛隊並みの屈強さで食い下がるので対処が大変なんだ。うちの隊長の一人が、この『騎士』の一人に討ち取られた程だ。」

「それは大変な相手ですね。そんな彼らも今はノリノリで応援していますよ。」

「このまま箱庭でずっとずっと暮らしてくれたら、本当にありがたいんだがな。歌っているこいつらが、現在メシア教でアイドルをしている『ハレルヤ・フォーティー』とやらだ。芸能人でもないのに、下手なタレントをしのぐ人気者さ。コンサートだけで済ませるつもりだった一般人が、帰宅後熱心なメシア教教徒になった事例は枚挙に暇(いとま)が無い程だ。うちの調査員が複数それにやられた。今ちらっと映っているな。こいつはメシア教を嫌悪し闘争に明け暮れていたが、見ろ、この締まりのない顔を。なんとも強力な部隊だよ。砲火ではなく、文化で人を『殺す』のだからな。」

「そんな強い影響力を持つ少女が四〇人ですか。」

「連中は研修生制度と入学卒業制度を導入していて、実際は数倍の人員を抱えているらしい。定期的に人員を入れ替えるのだから、完全に消耗品扱いだな。看板は同じでも、商品は別物だ。上手い商いだよ。人気度別に班分けしているし、功績の有無での格差もけっこうあると聞く。楽屋で食べる弁当の内容とかな。例えば、貢献度次第で一〇〇〇円の弁当と三八〇円の弁当という、露骨な格差もあると聞く。それでもアイドル志望の女の子を積極的に受け入れているから、面接会場はかなり賑わうそうだ。自分は違うという、絶大な自信でもあるのだろう。切磋琢磨しても、『寿命』は精々数年なのにな。余程魅力的に見えるみたいだ。下手をすると食い物にされるのにな。ちなみに、握手会で人気の無い娘は早々に切られて強制的に卒業させられ、裏の仕事に回されると聞いた。あくまで噂だがな。」

「うわあ。」

「現実にある某人海戦術集団を参考にしたらしいが、あそことえげつなさは似たり寄ったりかもな。で、あの一際大きく手を振っている坊やが府凛といって、サムライマスターを名乗る手練れだ。彼の隣にいるのが那奈志といって、彼の後輩に当たる少年だ。どちらも優秀な幹部候補生らしい。」

 

無邪気にキラキラとアイドルを見つめる、純朴そうな青年たちが映っていた。

良くも悪くも純粋な感じはある。

狂信者にも悪しき存在にも見えないな。

 

「純粋、とはおそろしいものだ。いつの時代でもどの場所でも。」

 

嘉屋さんはそう言って、ため息を吐いた。

それまで口を開かなかったマヨーネさんが、重々しく喋り出した。

 

「このような輝きは、残念ながらファントムソサエティでは出せませんわね。」

「テルス教でも無理だな。うちの長老たちにこんなものを見せたら、怒り狂うに決まっている。」

「一見、普通のアイドルのコンサートにしか見えませんからね。」

 

映像は、ノリノリでアンコールに応えて懐かしい曲を歌う彼女たちを捉えていた。

愛こそがすべて、といった内容の歌詞を高らかに歌っている。

これが今のメシア教か。

 

 

我が家は時折訳のわからない怪現象がちらほら起きるのだが、人的被害には程遠いので放置している。

閉めておいた筈の押し入れの戸が開いていたり、点けていない蛍光灯がいきなりチカチカ点いたり消えたり。

人がいない筈の場所から気配を感じたり。

もしかしたらなにかいるのかもしれない。

しかし、それに下手にかまけると『縁』が出来てしまってよくないことになってしまうかもしれない。

なので、基本的に放置だ。

そんな月一万円と格安で借りている我が家から徒歩二〇分圏内に、『ふれあいフクロウカフェ』というケモノ友達的喫茶店が出来た。

郵便受けにチラシが入っていたのだ。

白と青とに彩られた広告。

名前と色彩に若干引っかかるが、全員で訪れてみることにした。

皆それぞれ好奇心が強いのだ。

 

ちょっとした林の中の、きれいな青い屋根に白い外壁のオサレな店。

店の前の舗装されていない駐車場は車が何台も停まっていて、既に人気高めの模様。

入ってみると、人が割合いたけれども席に座れない程ではなかった。

丁度テーブルが一つ空いている。

そこを素早く占拠した。

我々の席に、おっとりした感じの巨乳眼鏡っ子がやって来る。

あ、この子知っとる。

メシア教の看板娘だ。

アイヤー。

兎に角、フクロウを愛でようか。

おお、人懐っこくて可愛いのう。

 

「あの。」

「はい。」

 

ヤバい。

バレたか?

 

「うちの子たちはみんな可愛いので、楽しんでいってくださいね。」

 

無垢な微笑み。

嗚呼、これでみんなヤられるんだろうなあ。

気づかれていないようで、内心ホッとする。

彼女はちょこちょこ店内を歩き回り、オレの近くに何度も何度もやって来た。

ピリピリするマリーさんと仲魔たち。

程々で切り上げることにした。

さあ、帰ろう。

会計は眼鏡っ子だった。

 

「また来てくださいね。」

 

ぎゅっと手を握られる。

これが手か。

教えられて、そのままやっているのだろうな。

店を出て、帰途につく。

振り返ると、彼女がぶんぶん手を振っていた。

わざわざ、店舗の前まで出てきてくれている。

再訪者を増やす為のやり口なのだな、これが。

そう思いつつ、手を振り返す。

 

 

帰宅後、女性陣から大いに怒られた。

なんか納得いかないが、致し方ない。

 

 

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