あくいろ!   作:輪音

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内容修正しました(二六日)。


熱血教師諸岡金四郎

 

 

諸岡金四郎。

山梨県八十稲庭(やそいなにわ)市にある八十神(やそかみ)高校の名物教師。

本人はいつも一生懸命なのだが、周囲からはやかまし屋だと思われている模様。

すぐに熱くなり過ぎるところが難点だけど、それは生徒のことを真摯に思っているからだ。

生徒のために真剣になれる男。

それが我が恩師。

高速道路を使って平崎市へやって来た彼と共に、近所の明石商店で酒を酌み交わす。

肴は焼鳥。

塩とタレとの二種が用意され、皮やら軟骨やらつくねやらハツやらがずらりと皿に並んでいる。

これを男二人でわしわしもぐもぐと食べていった。

 

 

「今のインターネットは、性と暴力が渦巻く混沌だ。差別的な表現を平気で行う者はざらにいるし、自らの服を着ていない姿さえ晒す者がいる。それは悲しいことだ。」

 

オレの恩師は呑むと話が長くなる。

 

「先日の暖かい日のことだ。スカートをばさばさと振る女生徒がいたので注意したら、『センセー、ふるーい!』と下穿きが見えそうな程スカートを振りだしたのだ。」

「はあ。」

「化粧が水商売の女性の如く濃い、フレグランスを消臭剤の如く振りかける、ブラウスが透けて色濃い下着が見えるなどザラだ。なんとも嘆かわしい。」

「へえ。」

「もっと倫理的であるべきだ、などと言うと古い古いと否定の連呼だ。」

「学生たちからすると、先生は旧体制の骨董品に見えるのでしょうね。」

「そうだな、確かにそうだろうとも。だがな、倫理観なく枷(かせ)なきまま放埒(ほうらつ)に膨張を続けてみろ、待つのは破裂とそれに伴う破滅だ。実際、テレビジョンに映し出される謝罪会見せし人間の元の元を手繰れば、倫理観なき人間の欲望が見え隠れしていることもままある。生田目(なまため)とかいう男の記者会見を見たか? 一見気の弱そうな男でも、陰でいろいろとやらかしてしまうものだ。学生たちが起こすかも知れない、そうした未来を防ぐために私は日々尽力しているのだ。」

「ええ、先生のお気持ちはよくわかりますよ。」

「問題のひとつは、手段としてのエロスを目的と履き違える人間が増大してきたことだ。性行為が最終目標ではないのだ。大学入学が最終目標ではないように。エロスに溺れた者は、エロスによってすべてを失うのだ。それは歴史が証明しているし、報道も日々為されている。だが、それを自分自身のこととして受け止められる人間は思った以上に少ない。だからこそ、倫理学で歴史を知り、己を知ることが大切なのだ。モラルは人が社会性を持って暮らすために必要なものなのだ。人はエロスのみにて生くるに非ず、なのだよ。最近流行りのネット小説を何作か流し読みしてみたが、破廉恥極まるものがなんと多いことか。それに、婦女子の容貌や胸部を貶める発言のなんと多いことか。それらを当たり前と思ってはいけないのに、日常的に触れることで感覚が麻痺してしまう。それは非常に悲しいことだ。」

も日々為されている。だが、それを自分自身のこととして受け止められる人間は思った以上に少ない。だからこそ、倫理学で歴史を知り、己を知ることが大切なのだ。モラルは人が社会性を持って暮らすために必要なものなのだ。人はエロスのみにて生くるに非ず、なのだよ。最近流行りのネット小説を何作か流し読みしてみたが、破廉恥極まるものがなんと多いことか。それに、婦女子の容貌や胸部を貶める発言のなんと多いことか。それらを当たり前と思ってはいけないのに、日常的に触れることで感覚が麻痺してしまう。それは非常に悲しいことだ。」

「そういうのがウケるのでしょう。」

「創作物だから、相手になにをしても構わない。そういう感覚が現実生活に波及することをおそれているのだよ、規制派は。差別的で残酷な発言や行動が当たり前となってゆき、暴力が日常的になってゆく。それは、あってはならないことだ。だが、現実はイジメが絶えない。間接的人殺しの育成の場ではないのだよ、学校は。そして、間接的殺人者となって罪を償わずに社会へ出た者は、更なる殺人を重ねる可能性が高い。だから、イジメなどというモノがあってはならんのだ。明らかに異常な時間の労働をさせておいて、それをおかしいと思わない人間。いや、彼らは『人間』ではないのだ、既に。人を酷使して死に至らしめるなど、まるで殺人鬼の発想ではないか。それは『悪魔』の発想で、『人間』の発想ではない。納期をまともに考えられず、自らの失敗を認めず、他人を貶め酷使して恥じるところが無い。そんな社会がマトモなモノか。だが、学生たちはそんな話を聞いても、自分には関係無いとか、そんなことがある訳無いと私の話を否定する。経験すら無いのに。」

「自分自身は失敗しないと思っているのかもしれません。」

「ああ、そうかもしれない。だからこそ、常に留意しなくてはならんのだ。『対岸の火事』で終わらせてはならないし、『人の振りみて我が振り直せ』や『他山の石』という格言箴言(しんげん)が何故今も生き延びているかを考える必要がある。考えるからこそ人はホモ・サピエンスであり、広い視点が大切なのだ。自分自身の狭い正義感だけで物事を判断する危険性を知り、弱者へ慈愛を向けることが重要なのだ。幾ら力を得ても、それを身勝手な論理だけで使うならばケモノ以下だ。」

「ところで先生の結婚式の件ですが、元教え子とご成婚なされるとは夢にも思いませんでした。」

「う、うむ、正直なところ、私も驚いているのだ。だが、これは事実。『事実は小説よりも奇なり』を地でゆく話だな。」

「よかったじゃないですか。」

「そうだな、だが、私はただでさえ古い男だ。しかも、真の童貞。魔法使い。私は彼女を喜ばせることが出来るだろうか?」

「マリッジブルーですか?」

「そうかもしれんな。」

「大丈夫ですよ、先生に惚れるくらいの器量人なんですから、どーんと任せたらいいんですよ、どーんと。」

「ドーン、と言われたら、嗚呼! とか言いながらおかしくなるのは厭だぞ。」

「ホーッホッホッホ。」

「お前はまさか、黒いサラリーマン?」

「出動せよ、科学忍者隊!」

「あまりマニアックなことを言うと、誰もついてこれんぞ。」

「そうなりますね。式場はあちらで? それとも甲府市? 或いは横浜市で?」

「ひっそりとやろうかなと思うのだよ。結婚式場は大正時代の産物だからね。」

「よし、では、広島県の宮島と岡山県の後楽園と島根県の出雲大社で挙式しましょうか? とどめは香川県の金比羅さんで。」

「ははは、新婚旅行は熱海かね?」

「いっそのこと、ハワイにしましょう!」

「「アハハハハ!」」

 

 

 

「奈良駅到着! 今回は久々に喰いまくりましたね、センパイ。」

「そうね、今回のコレが私にとっての『食べ納め』になるから。」

「しっかし、センパイがニンゲンごときとケッコンするとは思いませんでしたよ。しかもソイツ、筋張っていてなんだか不味そうですし。」

「あら、あの人は意外といいところがいっぱいあるのよ。」

「ハイハイ、おのろけは先程までにたっくさんいただきました。既にお腹イッパイです。」

「貴女、食べ過ぎね。」

「ダイジョーブですよ、ニンゲンなんてその辺にうじゃうじゃいるんですから。少し腹ごなしに歩きましょう。」

「ちょっと食べ過ぎたかしら。」

「ダイジョーブですって。キンキラの屋敷をチョーっとダメにしただけじゃないですか。ニンゲンはおバカだから、わかりませんて。」

「貴女は楽観的ね。」

「センパイがニンゲンに影響を受けすぎなんですよ。薬屋アヌーンみたいにやっちゃえばよかったのに。」

「ああいうやり方はちょっと。」

「この奈良でほとぼりを冷ましてから帰ります? 適当に古民家カフェとかお寺をぶらぶらして。」

「そうね。今の神戸大阪はぴりぴりしていて厳戒体勢だし、一週間くらいのんびりしましょうか。」

「九州中国地方からの『西日本ムシャムシャツアー』も無事終了ということで、後は結婚式ですか。気に入らなくなったら、ソイツをマルカジリすればいいんです。」

「誰を呼ぶかが悩みどころね。」

「でも、よかったですね、センパイ。」

「ええ、とてもいい人に巡り逢えてよかったわ。」

「センパイもとうとう処女じゃなくなりますし。」

「ふん、貞潔に過ごしてきただけよ。」

「うふふ。」

「今夜は呑むわよ。覚悟しなさいね。」

「真っ向から受けて立ちますよ。」

 

「あの店なんてどうですか?」

「焼鳥、ね。さてはて、塩にするか、タレにするか。」

「両方とも食べちゃえばいいんじゃないですか?」

「それもそうね。」

「このトール・ハンマーって店、米は県内の阿澄村産のあすみ米を使っていて、その米を使った特別純米酒の耶麻ノ誉(やまのほまれ)もあるとは、なかなかヤるじゃない。へえ、阿澄村にあるカフェ・アトリの古墳フィナンシェもあるんだ。ここ、決定ですね。」

「古墳フィナンシェ?」

「奈良県の山あいの村に住む、酔狂極まりないフランス人パティシエが作り出す魅惑の焼菓子ですよ。明日は是非とも阿澄村へ行きましょ、センパイ!」

「え、ええ。」

「よーし、食べるぞう!」

「あんなにオトコを喰ったのに。」

「あんなの、前菜ですよ、前菜。」

 

 

夜は更けてゆく。

人も人ならざる者も、どちらにも等しく時間が過ぎてゆく。

 

 

 

 

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