※一人称を『私』から『オレ』に訂正しました【二〇一八〇八一五】。
「初めまして、ご主人様。ご主人様のためなら、たとえ火の中水の中メギドラオンの中のバロウズです。今後とも宜しくお願い申し上げます。」
「は、はい。よろしくお願いします。」
黒いメイド服を着た、白い娘が液晶画面の向こう側から微笑んでくる。
顔はのっぺらぼう系だが、そう感じられた。
傍らにいるスリル博士が、首を捻っている。
「おっかしいなあ。ワテ、メイド服のデータなんて全然入れとらんのに。」
「ご主人様のために他所のサイトから取り込みました。如何でしょうか?」
彼女はくるっと一回転した。
ファサっと揺れるスカート。
ヴィクトリア朝の正統派か。
芸が細かい。
「ええ、可愛いと思います。」
「うふふ、そうおっしゃっていただきますと、全身に電気が走ってぞくぞくします。気分が高揚してきました。もうなにもこわくありません。」
「キミ、ホンマ、女殺しやねえ。」
神奈川県平崎市にある、北山大学のスリル博士研究室。
エモニカスーツ用に開発された装着者補佐用のオペレーティングシステムが、このバロウズという存在らしい。
ずいぶん癖のある子のようだが、こういう性格の方が緊張感に囚われなくていいのかね?
つっけんどんな対応をされるよりは余程いいのだけれども。
別のパソコンをいじっていた博士がぼやく。
「設定しとらんかった項目が、いつの間にか普通に幾つも存在しとる。」
「私のご主人様のために最適化するのは、下僕として当然のことです。」
下僕って言っているよ、この子。
ちらりとスリル博士を見つめた。
無言で首を横に振られてしまう。
肩をすくめて、ため息をついた。
気を取り直したかのように、スリル博士が喋りだす。
「インストールソフトはいろいろ詰め込んどいた。基本中の基本の『悪魔召喚プログラム』に悪魔合体ソフトの『邪教の館』に鑑定ソフトの『トルネコ』に索敵ソフトの『瑞雲』に高度解析プログラムの『ユキ』に自動地図作成ソフトの『ハニー・ビー』。それから、戦闘終了後のアイテム拾得率向上ソフトの『ヒロえもん』、生体マグネタイトの価値を二倍にする『ボルタック』、射撃管制ソフトの『デューク』、他に特殊ソフトの『ダヴィンチ』と『シュタイナー』と『コペルニクス』も組み込んどいたけど、後でバロウズから説明を聞いてや。」
「わかりました。」
「キミはデジタル式悪魔召喚器無しで悪魔を呼び出せたり出来るようやけど、あんまり体に負荷をかけるやり方はせん方がええと思う。」
「ええ、そうですね、気を付けます。」
「で、話は飛ぶけど、鳥取県米子市では天海特区で仮想都市サービスの『はらいそえっくす』を行おうとしとる。その準備段階として『らくいちえっくす』のモニターを募集しとるんやけど、キミも参加してや。」
「『らくいちえっくす』?」
「せや。かつて織田信長公がされとった楽市楽座みたいな感じのモンやね。電脳仮想都市ゆうか仮想商店街規模でそれぞれの店が使えるゆう仕組みや。映画館、銀行、服飾店、ペットショップという名の悪魔市場、チャット室、占い屋を現時点で用意しといた。街並みやけど、日本人大好きなんちゃって中世風異世界もどきにしてある。気分はロマンチック街道やね。」
「ほう。」
「後、今後の戦力増強の一環としてキミにこれをやろう。」
ごとり、と博士が奇妙な人形を机の上に置いた。
「ドリーカドモンゆう素体や。古代の魔法技術で作られたホムンクルスを解析し、ワテの技術力で作ってみたんやで。ワテのガルガンチュアにもこれを使っとる。これに悪魔を喰わせて……言い方が悪いな、悪魔を合体させてどんどん強くしてってや。その状態を造魔とゆう。」
「はあ。」
「造魔は喰った悪魔の力をどんどん取り込んで、ばんばん強うなってゆく。取り込んだ悪魔の能力も使えたりするし、連れ歩くのに生体マグネタイトの消費も無い。けっこう便利やで。新月の時に合体させると元のドリーカドモンに戻るから要注意やけど、そうやって造魔を一から作り直すこともでける。」
「成程。」
「電脳悪魔市場のペットショップは『王国屋』ゆうんやけど、そこも行ってみるとええ。行き方や利用方法はバロウズが知っとる。」
博士が学生食堂で食事をしてくると言ったので、留守番を請け負う。
我が仲魔たちは散歩したりなにやら自由行動しているようだ。
問題を起こさなければ、大丈夫だろう。
たぶん。
バロウズと親睦を深めておこうか。
すると。
いきなり彼女が嘆きの声を上げる。
「嗚呼!」
「どうされました、バロウズさん。」
「卑しきバロウズめ、と蔑(さげす)んだ口調でおっしゃってください、ご主人様。」
「いきなり、なにを言われるんですか。」
「嗚呼、この身に肉体ありせば、ご主人様の暴れん坊将軍の鎮火も容易(たやす)いでしょうに。」
「大丈夫ですよ。自前でなんとかしますから。」
「私は私自身が役立たないことを嘆くのです。」
「そういう時は素数を数えたらいいんですよ。」
「もう既に、二三五八七回繰り返しましたわ。」
ボケたつもりが素で回答された。
さて、『らくいちえっくす』を起動してみるか。
エモニカスーツのバケツヘルムをかぶり、仮眠用の寝台に横たわる。
五感が電脳仮想空間への仮想体に互換され、仮初めのセカイに心が移動した。
バロウズはオレの安全を確認してから、こちらへ来るそうな。
彼女の作業効率は素晴らしく、変なことを口走ってはいたがすこぶる有能みたいだ。
感覚が消えてゆく。
と。
突然声が聞こえる。
「お前が、『適格者』か?」
え?
誰?
「あの、貴方はどちら様ですか?」
「我はレッドマン。また会おう。」
レッドマン?
特撮ヒーローか?
なにかの暗号か?
わからない。
感覚が戻ってゆく。
眼前に現れたのは青い部屋。
鼻の長い背広姿の人物が、机の向こう側からオレをじっと見つめている。
「おやおや、またお会いしましたね。」
異形の男は、そしてニヤリと笑った。
「おそれることは御座いません。貴方は既に、運命に抗う力をお持ちの筈ですから。さて、貴方はこのセカイになにを望まれますかな?」