あくいろ!   作:輪音

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暗い暗い部屋。
殺風景な部屋。
真ん中に椅子。
真っ白な椅子。
座るは若い男。
薄汚れた青年。
目隠しされて。
体は縛られて。

「な、なんで、俺を襲うんだよ! 俺、普通の一般人なのに! …………えっ? た、確かにそんなことはしたけど、だけど、周りのみんなだって一緒にやったんだぜ! み、みんな一緒だったんだ! そ、そいつらも同罪だろう! 俺一人にこんなことをするなんておかしいじゃないかっ! ……えっ? 俺が最後? じょ、冗談だろ。お、お前、もしかして中村か? それとも田中か? や、やめろよな、悪い冗談は。…………嘘だろ。あいつら、とっくにヤられちまったのかよ。お前、一体なんなんだよ! あ、あんな状況になったら、誰だってああいう風にやっちまうもんだろ? なんで、俺が責められなきゃいけないんだよ! 俺、おかしくないだろ! お前だって、俺と同じ状況になったらおんなじことをす……ギャアアアアアッ! 痛い痛い痛い痛い痛い痛い! やめてくれ! ……やめて……やめてください。お願いします。やめてくださいやめてくださいやめてくださいやめてください。お願いしますお願いしますお願いしますお願いします。あ…………。」

暗転。





夜を蹴散らせ

 

 

 

「♪おきろー おきろー サマナー おきろー おきろー おきろー サマナー おきろー はやくおきなきゃ、メギドラオン♪」

 

ピクシーが歌って、オレを起こす。

遮光カーテンの隙間から、やわらかな光が差し込んでいた。

新しい朝が来た。

今日も生きて起きることが出来る。

それはありがたいことなのだろう。

 

「シュウカク……アサツミイチゴ……カタイ……スッパイ……ジャム……サヤエンドウ……ユデル……イタメル……。」

 

ニケーが報告してきた。

今朝の畑は豊作みたいだ。

彼女の頭を撫でておく。

メカメカしい姿の目がチカチカと点滅し、光る触手が何本もうねうねした。

ピクシーが抗議してきたので、彼女の頭も撫でておく。

 

エンジェルとハコクルマが、やいのやいのやりながら食器を用意していた。

どうやら、洋食と和食の違いについてかなり激しく論じているみたいだな。

早い時間から両名とも苺のジャムを作っていたようで、周囲には甘い香りが漂っている。

またまた作りすぎたようだ。

お裾分けしないといけない。

近所に住んでいるミステラー星人の親子も喜ぶだろう。

お父さんは宇宙戦闘隊でエース級の実力者だったそうだが、今はタクシー運転手だ。

あの念動力はおそるべき能力だと感じた。

娘さんの輝美ちゃんは、聖仙武蔵野高校に通っている。

親子で仲睦まじいのはよきかなよきかな。

お婿さん探しがお父さんの悩みの種とか。

 

「サマナー、早く顔を洗って髭を剃って席につきなさい。そろそろパンも焼けてきたわ。」

 

アリスが食堂から声をかけてくる。

さあ、みんなで朝食を食べようか。

ところで、マリーさんは何故当然のように食卓にいるのだろうか?

 

 

 

居間で『変身駆逐艦嵐』を視聴する。

仲魔たちが熱心に見る番組だからだ。

ニチアサとかいうらしい。

今回の六〇分スペシャルではワルワル博士と鉄面党が手を組み、機関車仮面やホームラン仮面などが嵐に肉薄していた。

仲間のタツマキの犠牲を経て血骨(けっこつ)党の血骨摩羯(まかつ)斎は倒したものの、新たなる敵が現れた訳だな。

成程、テコ入れですね、わかります。

親友の萩風(はぎかぜ)や謎のくノ一三人衆の陽炎に不知火に浜風、それと戦闘妖精雪風の助けによって、事態を打開してゆく変身駆逐艦嵐。

その美しき戦士たちに助力する、謎の戦艦棲姫(せいき)とほっぽちゃん。

謎が謎呼ぶ展開だ。

ジャッカー電撃隊の四名の参戦も地味に侮れない。

豪快な活劇が人気のひとつだけど、よくあんなに動けるものだ。

実に感心する。

特撮も奥深い。

 

 

 

最近、不審な状況下で失血死する人が続出しているという。

吸血鬼かラミアかはたまたチュパカブラか。

場所も千差万別で、屋内外問わない感じだ。

マニトゥ平崎の事務所でマヨーネさんから概要を聞いて、さてはてどうしたものかと考える。

ちなみに彼女へ出来立て自家製苺ジャムを進呈したら、お返しに自家製ソーセージを貰った。

マヨーネさん自身が仕留めた猪や鹿で作られたものだそうな。

鹿革製品も好調のようで、商売熱心なのだと感心してしまう。

……意識が脱線してしまった。

そうそう、奇妙な事件が多発しているのでなんとかしなくてはならないのだ。

平崎市を含む関東圏の地方都市やら東京都内やらで、被害者が続出しているという。

警視庁と警察庁双方から、我々ファントムソサエティなどの退魔機関に協力要請が来ていた。

情報を共有しながら捜査を手伝って欲しいとのことだが、素人がどれ程役に立つのだろうか?

 

 

 

なにか新たな証拠でもないかなと、犯行現場の幾つかへ立ち寄ってみる。

外見がイタリア車で中身が日本車の、日伊連盟的ワゴン車で走り回った。

車がそろそろ馬力不足というか、もう少し力強い方がいい気もしてくる。

ちと検討しておこう。

とある郊外の駅前駐車場へ車を停め、犯行現場へ出向いてゆく。

犯人の行動範囲はけっこう広いし、時間帯も様々だ。謎が多い。

薄暗くて人目につきにくい場所、というのは共通項であるけど。

ピクシーがその小さな体を利用し、隙間をちらほら覗いていた。

付いてきたアリスも、キョロキョロと辺りを鋭く見回している。

 

「サマナー、これ、なにかしら?」

 

ピクシーが持ち上げているのは女物の首飾り。

銀製の細い、素っ気ない意匠のものだ。

ちぎれていた。

側溝に転がっていたという。

被害者が意識的にか無意識的にか、加害者の首元から引っ張ったのかもしれない。

 

「サマナー、こんなものも出てきたわ。」

 

アリスからふわっとしたモノを渡される。

なにかの毛のようだ。

獣?

スリル博士に調べてもらおうか。

 

 

翌日、スリル博士から着信アリ。

 

「あれは蝙蝠(こうもり)みたいな生き物の毛やね、たぶん。」

「蝙蝠で確定ではないのですか?」

「なんか強度が段違いなんやわ。」

「ほう。」

「ま、もちょっと調べてみるわ。」

「お願いします。」

 

蝙蝠?

サキュバス?

血を吸うのかな?

わからない。

 

 

 

調査が行き詰まる。

犯人はどこにいる?

夜も捜査してゆく。

当てもないままに。

 

「よう。」

 

軽い響きの声が前方から聞こえてきた。

暗闇から、複数の異形がぬっと現れる。

先頭の人物が、我々に話しかけてきた。

 

「俺はショッカーのマムシ。ぽんこつ再生怪人とかしまし女子高生戦闘員たちとちびっこ見習い戦闘員たちを率いる、中間管理職で外道への天誅が専門の上級戦闘員さ。よろしくな、ファントムソサエティのサマナーさんよ。」

「こちらこそよろしく。」

 

ショッカーは我々と提携している組織でないけど、場合によっては共闘もやぶさかでない。

現場判断でもかまわないだろう。

それに向こうから提案している。

別段断る理由がなければ、柔軟性を維持したいものだ。

普通っぽい外見の男性だが、何名もの異形を引き連れるだけの実力はあるものと思われる。

その証拠に、彼の配下は誰も油断していない。

ちびっこ見習い戦闘員が、全員年齢的に幼いのは気になるところだが。

 

「俺は普段、ショッカー・スクールの教師をやっていてな。ま、先公なんて柄じゃないんだが、生徒は可愛いもんさ。」

 

ちびっこ見習い戦闘員たちの頭を撫でながら、強面(こわもて)の上級戦闘員ははにかんだ。

 

 

 

捜査機関に提出した銀の首飾りからは、被害者の体液などが検出されたそうだ。

彼らはその首飾りの販売元を辿って、犯人の特定を行うつもりらしい。

上手くいくのかな?

 

 

 

平崎市内の繁華街にある薄暗い路地裏。

マムシの配下である女子高生たちを餌にして、犯人が食いつくように仕向けている。

前回、前々回は手応えがなかった。

今日はどうだろうか?

エモニカスーツを着込んだ状態で車内待機していたら、突然、中の人のバロウズが警告を発した。

 

「ご主人様! エネミーソナーに感あり!」

「敵ですか?」

「反応は赤!」

 

エモニカスーツの全機能の安全装置を解除し、バケツヘルムをかぶった。

戦闘準備完了して車から飛び出す。

続々と集結するは混成部隊の面々。

囮の少女は危機一髪だったようだ。

白いワンピースを着た若い女性が我々を見て、ニヤリと嗤う。

途端、周囲が異界化していった。

……もしかして、我々は謀られた?

ピクシーが叫ぶ。

 

「あれは吸血宇宙星人ドラキュラス!」

「知っているんですか、ピクシーさん?」

「女性の遺体に憑依し、次々に人々を襲って吸血行為にいそしむ危険な相手よ! 口からは毒の霧と赤色光弾を放つわ。後、エナジードレインも使うから気をつけて!」

 

彼女は様子見していた再生怪人に素早く近づくと、その首筋に鋭い牙を突き刺した。

あっという間に干からびる怪人。

あれはとてもヤバい感じがする。

マムシが周囲に声をかけてゆく。

 

「お前ら、散開して攻撃しろっ!」

 

オレも仲魔に指示を飛ばす。

 

「各自、攻撃開始してください!」

 

そして、激戦が始まった。

 

 

「ちっ、こいつ、はええ!」

 

短機関銃を撃っていたマムシが呻(うめ)く。

実際、吸血星人の動きは相当素早い。

おまけに強い。

囮扱いの再生怪人たちが翻弄され、エナジードレインされ、各個撃破されつつあった。

女子高生戦闘員たちもナイフや手裏剣を投げたり斬りかかったりしているが、なかなか上手くいかないようだ。

ちびっこ見習い戦闘員は言わずもがな。

こちらからの攻撃魔法も無効化されたりして、今一決め手に欠ける。

広域攻撃魔法のメギドラオンを使うだなんて論外だし、困ったなあ。

ニケーの拡散波動砲もこの状況では使えない。

周囲の面々を巻き込む訳にもいかないし。

うーん。

そこへぬっと現れる敵の増援。

坊主頭の奥知れぬ気配の巨漢。

巨大なバールのようなモノを振り回す男。

おそらくは、吸血星人の手下なのだろう。

精神支配されているのか、自主的なのか。

兎に角早めに奴を排除せねばなるまいて。

 

「こいつは俺がヤる!」

 

屈強な男に飛びかかってゆくマムシ。

 

「とうっ!」

 

マムシは怪力男を抱えて、跳躍する。

 

「きりもみシュート!」

「ギャアアアアアッ!」

 

大男の悲鳴が聞こえてきた。

なんと激しく回転するのだろうか。

ピクシーが叫んだ。

 

「あれはきりもみシュート!」

「ピクシーさん、知っているんですか?」

「空中できりもみ投げを浴びせることにより、敵の周囲に真空を作り出すの。敵は酸欠状態になり、そのまま地面に叩きつけられるから実におそるべき必殺技ね。」

「成程。」

 

ドスン!

落下音。

あらぬ方向に首をねじ曲げた怪力男は地面と激しい口づけを交わしてピクピクしており、やがてピクリとも動かなくなった。

 

「思い出した! 光よ! 出来る限り、激しい光をあいつにぶつけて!」

 

ピクシーが叫ぶ。

それに応じて、エンジェルはマハンマを唱えた。

まばゆい光が放たれる。

ハコクルマがなんだか嫌そうな顔をしていたけれども、ここは我慢してもらおう。

ドラキュラスはもがき苦しんでいた。

効いている。

マリーさんも同じくマハンマを唱え、ニケーの全身が光り始める。

更に苦しむ吸血星人。

エモニカスーツからも探照灯のような光を浴びせながら、聖なる銀の弾丸を三発撃ち込んだ。

イスカリオテ機関からマヨーネさんを経由し回してもらった特製品だ、とくと味わうがいい。

 

「ギャアアアアアッ!」

 

そうして、ソレは灰と化して消滅した。

 

 

 

……犯人の確保は出来なかった。

だが、この国の警察は優秀なようで、ある女性を被疑者として追跡調査したそうだ。

半年前に若くして心臓麻痺で亡くなった彼女が、エンバーミングだかなんだかで某所にある洞窟に保存されていたところまでは突き止めたという。

問題はそこら辺りから曖昧になってくることで、彼女の父親が木乃伊(ミイラ)となって見つかったこともあって捜査当局を混乱させているとか。

マヨーネさんが、それらのことを教えてくれた。

なんだかもやっとしてくるが、どうにもならぬ。

 

マニトゥ平崎から出ると、マムシが配下の女学生群共々オレたちを待ち受けていた。

 

「これからサンドウィッチとケーキの食べ放題に行く予定なんだが、お前らも一緒に行こうぜ。事件も解決したことだしよ。」

「それはいい提案ですね。」

 

仲魔の面々もどうやら乗り気のようだ。

 

「じゃ、行こうか。」

「ええ、行きましょう。」

 

我々は、春風に吹かれながら食べ放題を実施しているホテルへと向かった。

 

暗い夜は蹴散らしたらいい、と思いつつ。

 

 

 

 

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