今回は若干エグめです。
「ハハハッ! あたいのミラープリズンをたんと喰らいな! アハハッ! みーんな鏡になっちまえ!」
「そしてこのストリゴイイ様の必殺技を喰らってあの世に逝きなっ! ほらよ! キリングステップ!」
闇夜に叫ぶ二つの異形。
彼らの構築した異界の中で敵対者たちは瞬時に鏡と化し、荒々しく踏みつけられあっさりと砕かれる。
その破片は寸時きらきらと光って、わたあめのようにはかなく消えていった。
対魔部隊はこうして、あっという間に怪異によって全滅させられたのだった。
「カーッカッカ。もろいなあ、ニンゲンはよ。」
「そりゃそうさ。よわっちいニンゲンだもの。」
異形が消えた後、空間が歪んで元の世界へ再構築される。
死人はその姿さえ残すことがなかった。
死して屍(しかばね)、残ることなし。
ただひとつ、小さな祠(ほこら)の後ろに刺さった破片以外は。
「次のニュースです。平崎市議会は本日、紛糾の末にようやく本会議で市内の再開発計画を承認しました。これに伴い、難航していた平崎駅周辺の空き地問題が全面的に解消される見通しです。ただ、工事予定地区内にある例の祠を保護するか或いは撤去するかどうかについてですが、依然として解決の見通しが立たない状況です。保護派の意見と撤去派の意見が完全に平行線をたどっており、妥協点を見出だせないままに明日も両派の会合が開かれる予定です。宮内庁はこの件に関して、本日も発表がありませんでした。さて、この後は、本日のゲストである346プロの武内プロデューサーへの徹底インタビューとなります。皆さんから多数いただきましたご要望から選り抜きのモノを使って、謎多き彼の秘密に迫りたいと思います。ご期待ください。その前に一曲お聴きください。喜多修平さんで『Soul Phrase』。」
地元のラジオ番組を聞きつつ、中古のイタリア車を平崎市中心部へ向けて走らせる。
どうやら、駅舎近くに大きな珈琲店を作っただけでは物足りないらしい。
百貨店を誘致するとか、大型商業施設を勧誘するとか、アウトレットモールを招致するとか、いろいろな話が錯綜している。
昔のバブル期の話でもないのに。
景気は少しでもよくなるのかな?
マヨーネさんに呼び出され、同業者の対魔部隊の幾つかが行方不明になっていることを聞かされた。
我がファントムソサエティのサマナーも、数人連絡が取れないらしい。
生存は絶望的でしょう、と言われた。
白系の色合いを好む組織も黒系の色合いを偏愛する組織も関係なく、どうなっているのかわからないとか。
鋭意調査中とのことだが、今のところ僅かな痕跡すら見つからないのだとか。
部隊が移動に使った車輌は残されているものの、肝心の人員の誰もが影も形も見当たらないらしい。
それなんて怪談?
彼らの調査を引き受けると伝え、エスプレッソを飲みながらの雑談に移る。
マヨーネさんは日本の文化にいたく興味があり、雑談の名目で情報収集するのに余念がないのだ。
まあ、最終的にはイタリア自慢になるのだけど。
現在使っているワゴン車が手狭に感じられたり排気量不足に思われたりするので(特に長距離移動時)、日本車に切り替えようかと考えていると言ってみた。
ドイツ車もいいかもしれない。
ピクリ、と頬をかすかに動かしつつも微笑みながら彼女は言った。
「古い型のものですが、丁度よいイタリア車があるんですよ。」
やっぱりなあ。
神奈川県内に於いてその歴史の古さを誇る平崎市だが、律令制の頃にその一帯で大規模な戦闘があったと言われる。
実際、市内の開発をしようとすると大抵なにかしらが出土するのだ。
平崎王朝については小説家の司麻亮太郎氏と松森清聴氏とが大論争で揉めに揉めたけれども、『邪馬台国論争』と『平崎論争』とで彼らは創作に於ける息抜きをしていたのかもしれない。
貴重な執筆時間を多大に喪失したと考える向きもあるが、よかれあしかれ、歴史を考える上での多様性が重要なことだとも考えられるのではなかろうか?
以下は、平崎市の歴史を研究する大学の先生から聞いた話だ。
昔々のその昔、大和朝廷が出雲王朝や吉備王朝に武力をちらつかせて圧迫していた時代。
この関東の地にも、一大勢力を築いていた王朝があったと言われている。
圧倒的兵力で反抗勢力を血祭りにあげたり屈服させたりしていた無慈悲な支配者たちは、新たな矛先を関東圏に求めた。
支配欲に酔った冷酷なモノどもは躊躇なく独立勢力を滅ぼし、それが正しいのだと信じ一切疑わない。
そうした傲慢極まる考え方が、悲劇的結末を増やしていった。
古今東西、人間は愚か者を継続するしかないのかもしれない。
大和朝廷への屈辱的隷属を拒(こば)んだ
ため、かの王朝は絶望的戦争を余儀なくされた。
卑弥呼に比肩し得る巫女にして王朝の統率者たる姫君は『悪魔』を召喚し、猛犬のような大和朝廷の軍兵と干戈(かんか)を交える結果となった。
緒戦は王朝側が制したものの、数の暴力で迫る猛々しき朝廷軍に勇敢な悪魔や献身溢れる王朝の兵卒は次々と討たれてゆき、或いは虜囚となって酷く残忍な手法で次々に殺された。
それでも抵抗は激しく、朝廷軍も指揮官を何人も失う結果となる程だった。
彼らは数の暴力と残酷な刑罰をもって侵略してゆき、進攻方向にある村落をすべて焼き払い、村人たちをも酷い目にあわせた。
それでも姫を恨む者はいなかったそうだ。
いまだに拷問を受けたと見られる遺骨や炭化した家の柱などが複数出土することから、それは歴史的事実とされている。
宮内庁や政府は、頑(かたく)なにその事実を認めようとしないが。
やがて姫も囚われの身となる。
彼女はありとあらゆるむごたらしい仕打ちを受け、身分にふさわしくない殺され方をしたという。
その姫君は死後怨霊と化して大和朝廷の政治家や将軍や兵士を何人も呪い殺し、彼女に辱(はずか)しめを与えた人間と関係者を皆殺しにしたらしい。
呪術合戦が都で激しく繰り広げられ、首都は一時期死者さえもが闊歩(かっぽ)する異界と化して大変だった。
そう、先生は主張している。
実際、鬼退治の話が頻出している時期でもあるので強い説得力が感じられた。
死者は鬼と化して人に仇なし、仇なした鬼は人に討伐される。
諸行無常。
後に呪術師として本邦最高峰の実力者の吉備真備(きびのまきび)を首班とする集団によって、怨霊と化した彼女を鎮めるためにありとあらゆる手段が講じられたという。
そして今の平崎市内に幾つもの封印を施したお陰で、ようやくこの地での怪異が無くなったそうだ。
再開発計画の予定地にもその伝説の祠があり、地元の古老や在野系研究者や学者がこぞって再開発の反対を訴えている。
宮内庁はその祠の歴史的重要性を公的に認めておらず、それは疚(やま)しいことがあるからだとうそぶく人物もいた。
新しく買い換えたイタリア製のバンに乗って、平崎市内をぐるぐる回る。
我が仲魔たちは、中古車ながらもきちんと手入れされた車内に興味津々のようだ。
ひっろーい。
あちこちをぺたぺた触っている。
悪魔という存在は人間との接点が少ないそうだが、いやいやどうして、その好奇心はけっこう幅広いように思えた。
途中、平崎市の歴史に関わる祠に立ち寄ってみる。
小さいが、雰囲気のある代物だ。
その裏でピクシーが破片を発見した。
硝子の破片のような、異なるような。
仲魔たちがなんだなんだと見つめている内に、まるで淡雪のように溶け去ってゆく。
それを見ていたピクシーが、我々になにやら推論を話し始めた。
どことも知れぬ場所。
異形が二つお話し中。
「あのよ、ストリゲス。」
「なによ、ストリゴイイ。」
「封印とやらは解かなくていいのかよ。」
「別にいいんじゃない。あたしたちが解こうと解かまいと、こちらに役得がある訳じゃないし。」
「ま、人間との約束なんざ、どうでもいいか。」
「ハハッ、それでこそ悪魔ってもんじゃない。」
霧散するように消える、異形二つ。
最初からなにもなかったかの如く。
ぐるぐる回って捜索していたある日の夕方。
雲雀丘で、部隊が行方不明となった原因らしい悪魔たちと遭遇した。
片方は黄色いコートを着ている男性系悪魔で、もう片方はハーピーみたいな女性系悪魔だ。
どちらも好戦的な感じがする。
「カーッカッカ。このストリゴイイ様の邪魔をするとはいい度胸だな、おい。」
「ハハハッ。ニンゲンどもの無謀さにはつくづく呆れる限りだよ。バカねえ。」
二つの異形がオレたちを侮蔑の目で見つめた。
どちらも油断しているぞ!
勝機!
いざ、死にたまえ!
「シャッフラー!」
「マハラギオン!」
オレたちの呪文は敵対する悪魔へ即座に届き、札と化した彼らは悲鳴をあげる間もなく紅蓮の炎に包まれやがて消滅した。
必殺の〇.一秒、って感じである。
奴らの慢心を利用出来てよかったと思う。
もしも奴らが慢心することなく素早く術を使っていたら、行方不明になった部隊の面々と同じ運命をたどっていたことであろう。
戦い終わって、日が暮れて。
弛緩(しかん)した車内で、仲魔たちがテレビ番組について論じあっている。
先日放映終了した『フロストエースRX』の後番組の『仮面サマナーR1』。
今、悪魔の間で大人気の『アクアサ』系作品がそれだ。
仮面装甲服を装着したイケイケのサマナーと彼を支えるけなげなホムンクルスとの、愛と青春と殺戮のお話らしい。
そのせつなさ乱れ撃ち的な展開が、悪魔の心をズッキューンと撃ち抜いているとか。
『仲魔ちゃんねる』内の『アクアサ』枠は外れが無いと、沢山の悪魔が太鼓判を押しているという。
なにそれ見てみたい。
楽しそうに会話している彼女たちを見ていると、人間と悪魔の違いって一体なんだろうなと考える。
……いかんいかん。
少し感傷的になっているようだ。
殺しあいでなく、話し合いで解決出来たらいいなあと思う夕暮れの街角。
「今夜はカキフライが食べたいわ!」
もやもやを打ち払うようなピクシーの声。
他の仲魔たちもそれにすぐさま唱和する。
「では、途中で牡蠣を買って家にて作りましょう。」
そう言ったら、車内は更に盛り上がる。
そうだ。
これでいい。
これがいい。
溶けゆく夕陽に向かって、我々は『死ね死ね団のテーマ』を歌いながら走ってゆく。
明日も晴れるといいな。
結局、撤去派の代表が収賄罪で逮捕されたのを機にして、祠とその周辺を除外して工事が進められることになった。
政府がちょっかいをかけてこなくなったことも、このことに関連しているように考えられる。
最近の与党は司法の人事権で横暴な振る舞いをしたり土地の売買で不正をしたり懇親会で反政府団体を呼んだり賭博場の建設関連で汚職をしたりと、毎週の如く次々に不祥事が発覚している。
博打(ばくち)を大々的に行うことで賭博依存性の人間を意図的に増やすだなんて、正気の沙汰にはとても思えない。
金に困った経験の無いエリート様たちは、少しの金を巡って必死になる人間のことなどどうでもいいのだろう。
与党の支持率は急降下中の上に内部告発が相次ぎ、政局は大混乱だ。
野党の猛攻に対し与党は防戦一方なので、それが少しは状況に影響しているのかもしれない。
それと、保護運動が活発化したのも追い風になったのだろう。
たぶん。
マヨーネさんがなにかやっていたようだけども、それとは関係あるのかな?
よくわからないな。
ともあれ、仲魔たちがお出かけしようとおねだりしてくる。
まあ、どこかに出かけるのもいいだろう。
平和だからこそ、そうしたことが出来る。
そういった世界を守りたいものだ。
勿論、出来る範囲で。