あくいろ!   作:輪音

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それは人ならぬモノたちの戯れか
人の世の喜怒哀楽も神々の盤の上
駒の扱いにぞんざいなモノもいれば
極めてやさしく扱うモノも稀にいる
凝った駒はなんのため
セカイにあるはなんのため
蜘蛛の糸は細く切れやすく
ぷつんと切れたらさようなら

『白い闇を抜けて』

ツクリモノの駒は
その瞳になにを映すか






白い闇を抜けて

 

 

 

 

その娘は四号と呼ばれていた。

まるで役立たずの穀潰しとも。

彼女の住まうは白い研究施設。

白く白くどこまでも白い建物。

彼女は気がついたら、そこにいた。

施設に何故住まうことになったのか、ちっともわからない。

彼女には施設での数年ほどの記憶しか無いからで、最初の記憶とやらもひどく曖昧模糊としている。

幼少の頃もわからず、父母の顔さえ覚えてはおらぬ。

自分自身とはなんぞや、との問いを持ってはいるが、誰にも問うたことはない。

誰も答えてくれないだろうことは、何故だか既にわかっていたから。

 

『訓練』と称する実験では、彼女はいつも上手くいかない。

いつもなにか、誰かに邪魔をされるから。

一号、二号、三号、といった先輩たちに馬鹿にされる日々。

特にいびられたりはしなかったが、仲間外れは日常茶飯事。

それでも楽天的な彼女は、日々なんとかやりくりしていた。

 

 

 

そんなよくわからない日々は、唐突に終了を告げる。

ある夜、襲撃者たちが現れたからだ。

所長と副所長の会話が聞こえてくる。

彼らは四号がひっそり休んでいた部屋に入ると、なにやら早口で話し合いだした。

物陰に潜んでいた四号は、会話する所長と副所長の言葉をじっと聞くことにする。

お追従(ついしょう)の上手そうな副所長が部屋の一角にあった端末を操作し、偉そうな感じの所長は彼にあれこれ指図し出した。

インカムを付けた副所長が、てきぱきと指示を飛ばしてゆく。

 

「侵入者たちの迎撃には一号、二号、三号の三名も回せ。あいつらなら、すぐに侵入者たちを蹴散らせるだろう。」

「はっ! ただちに!」

 

端末を操作していた副所長がやがて叫んだ。

 

「所長! 侵入者が判明しました! ファントムソサエティとショッカーの合同部隊です! ファントムサマナーは幹部級でない模様ですが、見たことも無い悪魔を複数使役している模様です! ショッカーの方は今までになく戦闘員の統率が取れているようで、防衛部隊が苦戦しております!」

「なんだと! クズノハでもヤタガラスでもないのか! 悪魔使いを集中的に攻撃させろ! 主のいなくなった悪魔なぞ能力を活かしきれないのだから、おそれるに足らんっ! ショッカーは怪人を集中的に狙え! 戦闘員なぞ、怪人がいなければ烏合の衆に過ぎんっ!」

「三名と侵入者たちが、中央訓練場で戦闘状態に入りました!」

「奴らがここまで来るとは思えんが、いざという時のための処理をしておくぞ。」

「はっ! ところで、四号の姿を見かけませんが、アレの処遇はどうしますか?」

「捨ておけ。あの娘はなにも出来ん。一切問題ない。急げ! 時間は有限だぞ!」

「はっ!」

 

影にいながらそのやり取りを聞いていた四号は、彼らが部屋から出てゆくとちょっとしてから影を伝って外へ出る。

外の世界を知りたいと思っている彼女にとって、この緊急事態は好機到来に思えた。

 

 

数分後。

ドン! という音が闇夜に響く。

メギドラオンの多重詠唱の影響で、研究所の屋根の一部が吹き飛んだ。

激しくぶつかり合う両陣営が、ちらほらと見えてくる。

異形たちがその生存を賭けて、死闘を繰り広げていた。

それは阿鼻叫喚の渦巻く空間。

炎が、冷気が、雷が、周辺で荒れ狂う。

矢が、槍が、弾丸が、周囲で放たれた。

力尽きて倒れる者が続出する。

それは正に一進一退の攻防戦。

 

四号は研究員たちに見とがめられることもなく、無事に敷地外へと出られた。

さて、どこへ行こうか。

細い蜘蛛の糸をたどるかのように、彼女は慎重に歩き始めた。

 

 

 

 

空は快晴、日本晴れ。

雲ひとつ見えない空。

四号はふらふらと港町をさ迷う。

そこは神奈川県平崎市の繁華街。

賑やかに人々が周囲を闊歩する。

踊るボディコン娘の像が見えた。

熊や蛙の置物もその辺に見える。

彼女にとっては、初めて尽くし。

見るもの聞くもの、知らぬもの。

危なっかしく、ふらふらと歩く。

そんな四号を注視する者がいた。

漆黒をまとった、麗しき存在だ。

黒いセーラー服に黒髪に赤い瞳。

その子の傍にはふわふわ系少女。

信頼しきった表情の可愛い乙女。

麗しの少女が四号を見て言った。

 

「佳那子、あの子とお茶にしましょう。」

「はい、姉様、喜んで。」

 

四号は後ろから声をかけられた。

 

「そこの可愛い女の子。私と佳那子のお茶会に参加させてあげるわ。光栄に思いなさい。」

 

気付かずにふらふらと歩く四号。

首をひねる黒髪の少女。

 

「この子、聞こえないのかしら?」

「自分のことだと思っていないのではないでしょうか?」

「佳那子、その子を誘いなさい。」

「はい、姉様、おおせのままに。」

 

四号は自分の前にふわふわした女の子が立つのを確認した。

なんだろう?

こてん、と首をかしげる純粋培養娘。

 

「私たちと一緒に、お茶とケーキをいただきませんか?」

「お茶? ケーキ?」

「ええ、とてもおいしいですよ。」

「行く。」

「ええ、行きましょう。」

 

異形が二名と人間が一人。

彼女たちは『カフェ・マミーヤ』へ意気揚々と向かった。

そこはなんでもおいしい店なのだ。

ケーキにお茶に焼菓子にパン各種。

きっと人も人でないモノも舌を震わせ、胃を喜ばせることだろう。

 

 

 

 

おいしい時間を過ごした後、四号は再び街を歩く。

 

「ひらさきお城ツアー、まもなく参加者を締め切りまーす! 皆様、ご一緒に歴史を踊ってみませんか?」

 

蝶の髪留めを付けた美人が、深みのある声を辺りへ響かせている。

なにかをやっているみたいだ。

参加費無料とある。

一文無しの身としてはすこぶる都合がよい。

金銭の概念があるかは怪しいながら、四号はツアーへ参加してみることにする。

参加者はけっこういた。

孤独な感じに見える中年男性も、そこに参加している。

 

 

「はい、こちらが日本四大海城(うみじろ)の一つ、平崎城です。香川県の高松城、愛媛県の今治城、佐賀県の唐津城と並ぶ海沿いのお城ですね。天守閣が今尚現存している稀少なお城でもあります。函館の五稜郭と並ぶ星形要塞として、洋式建築を積極的に取り入れた先進性が平崎藩開祖たる秦野弘隆公の本領の一つとされています。徳川五虎将の一人だった弘隆公は勇将であったと同時に、一流の文化人でもありました。利休八哲の一人であったことからもそれはうかがえます。では早速、城内に入ってみましょう。」

 

長い髪の眼鏡美人系案内人がにこやかに言う。

 

「名古屋城の後に建築された平崎城は小さい天守閣を持ちながらも堅牢な造りで、江戸幕府は小田原城を支援出来る防御拠点として建設したのだろうと言われております。藤堂高虎公と加藤清正公とが設計に関わっており、当時の城郭建築の粋が籠められていると言っても過言ではないでしょう。」

 

和気あいあいと見学者一行は、黒い衣装の案内嬢に従って城の外郭を歩き回る。

 

「平崎城は関東唯一の海城であり、江戸周辺の海上防衛を担う要衝でもありました。熱海や小田原にも近く、賢人揃いと謳(うた)われた秦野氏が代々城主であったために平崎藩は長らく繁栄しました。」

 

一行は城の突端に到着し、案内嬢は優雅な手付きで砲台跡を撫で回す。

 

「江戸時代も後期に入り、幕末が近づいてきた時、平崎藩は海上防衛拠点としての重要性を更に高めてゆきました。平崎台場の跡がここになります。ここに砲台が据えられ、東京のお台場と共に若き侍たちが防衛任務に従事したのです。」

 

小ぶりながらも優美な天守閣を眺め、憂いを帯びた表情で案内嬢は淡々と語る。

 

「……攻め寄せてくる薩摩藩兵に対して徹底抗戦すべしという意見もありましたが、時の藩主秦野幸隆公は、無益な流血は厳に戒めるべしと定められ、押し寄せる薩摩藩の軍勢にも臆することなく折衝にあたられました。その後、江戸にて勝海舟は薩摩藩代表との交渉を行い、江戸が火の海になることを回避出来ました。幸隆公の交渉が効を奏したとの見解もありまして、その辺りは歴史の闇に覆われています。ただ、私個人としては幸隆公の功績があったものと思っています。」

 

一行は天守閣の前に集まり、黒い姿の案内嬢は大きく手を広げる。

 

「廃藩置県後、平崎城は平崎県の県庁として使われることになりました。数年後、旧平崎藩などの周辺を含めた神奈川県が誕生します。横濱が力を増してゆく中で、相対的に平崎の力は衰えてゆきました。明治維新後の秦野家は秦野伯爵として旧平崎藩の地域を支え、尚且つ政治の場を舞台とし、薩長の人々と丁々発止の政争を繰り広げてゆくことになります。金儲けにあくせくする他の地方出身の政治家たちに比べ、ゲスなことを一切なさらない高潔な有り様は、まさに君主として理想的な姿のひとつだったことでしょう。過酷な労働を強いて搾取することもなく、阿片などの人の道に外れた外道的物品で稼ぐこともなく、一両のものを二〇両で売ることもなく、地域の人々と共に歩んできた姿は今なお平崎の誇りだと考えます。それではここで特別ゲストをお迎えしたいと思います。秦野直隆様ご息女の久美子様です。皆様、どうぞ盛大な拍手でお迎えください!」

 

 

 

城を存分に見学した後、四号は商店街へと向かってゆく。

たまたま出会ったパンチパーマと長髪の若者二人に食べ物をおごってもらって、彼女は商店街の名店を存分に堪能した。

彼らと一緒に訪れた赤毛ののっぽさんと金髪美人の経営するドイツ料理店で出される料理は、どれもすこぶる旨かった。

彼女は最後に出てきたデザートのケルシーのケーキまでぺろりと平らげて、おいしいことはとてもいいことだと考えた。

貴重な甲州大巴旦杏(はたんきょう)を使ったというその甘みと深みは、新鮮な驚きを四号に与えた。

また、同席したお兄さんたちにもそれは素晴らしいものに思えたようだ。

周囲に心のぽかぽかする光があふれ、花咲き乱れる百花繚乱のおもむきを見せるその景色。

店内にいた客たちと店主らは、この様相にたいそう驚いた。

若者二人は、これは我々が起こした奇術なのだと説明する。

我々は頂点を目指すお笑い芸人であると同時に、奇術師でもあるのだと。

汗をかきかき、彼らは懸命に言う。悪気はなかったのだと。

パンや葡萄酒をどこからともなく出してみせたり、額から光を放ったりしながら、二人は説明した。

素朴で善良且つやさしき隣人でもある人々はこの説明に対して素直に首肯し、実に感嘆すべき業(わざ)であると彼らを褒め称えるのであった。

 

すべてのやさしき人々に幸あらんことを。

 

 

 

 

広い公園。

のんきな四号はぼんやりしている内に、ここで夜を迎えた。

彼女はなにも嘆かない。

彼女はなにも恐れない。

のんびりと泰然自若に生きてゆくだけだ。

さあ、そろそろどこかで寝ようかな。

彼女は野宿する気満々だ。

うろうろしていたら、なんだか急に周辺の空間が結界によって閉じられてしまった。

異界化である。

数秒後、周辺の空間とは隔絶した箱庭的空間が完成した。

なんだか訓練の時みたいだな、と四号はのんびり考える。

すると、前方に炎が広がった。

それはどんどん収束してゆき、やがて人の形になる。

炎は見慣れた姿の少女を形作ってゆき、四号の先輩と化した。

 

「一号。」

 

四号は呟いた。

どことなく疲れた様子をした、白いドレスに金髪系ツインテールの娘が四号を睨む。

彼女はいきなり炎を放ってきた。

ひょいと避ける四号。

昔はどんくさくてしばしば燃やされたものだが、今では避けるのにもすっかり馴れてしまった。

 

「焼き尽くされなさい、四号!」

 

炎を浴びせようとする一号。

四号はきょとんとした顔で『先輩』に問い掛ける。

 

「何故?」

「これはあんたへの懲罰よ、四号!」

「懲罰?」

 

首をかしげる四号。

 

「あんたはあんたの義務をなにも果たそうとしなかった! 所長も二号も三号も敵に殺られたわ! 生き残りは私とあんただけ!」

「そう。」

「そう、じゃないわよ、このトンチキ! 復讐するつもりも無いなら、あの世でみんなに詫びなさい! 引導を渡してあげるわ! 喰らいなさい! フォーティア・ルフィフトゥラ!」

 

渦巻く火炎が四号を包み込もうとする。

だが、それはあっけない程速やかに掻き消された。

直後にプチン、と音がする。

一号は鬱陶しく感じる気配を隠さないまま、右手に絡んだ糸を焼き払った。

 

「誰? 邪魔をするのは?」

 

彼女は闇に向かって誰何(すいか)する。

 

「こんなものじゃ、私を邪魔することなんて出来っこないわよ!」

「あら、そうなの。」

 

赤い瞳と黒い髪、それに黒いセーラー服。

優雅なる美少女がふわふわ系少女を連れて現れた。

四号は無邪気にぱたぱた手を振り、ふわふわ系少女がにこやかに振り返す。

第三勢力に戸惑いながら、一号は二名の戦力分析を始めた。

だが、ろくに『見えない』。

闇に溶けるがごとき、その気配。

圧倒的気配。

一号はそれを見て、たじろいでしまう。

これはなんだ?

人間よりも遥かな高みにある筈の私が、何故にこうも震えている?

彼女はその恐れを振り切らんとして、前方の闇に向かって吠える。

 

「ただのアラクネ風情が、私の邪魔なんてするんじゃないわよ!」

「ふっ。」

 

黒い娘が嗤う。

まるでツクリモノみたいに。

 

「な、なにがおかしいのよ。」

「佳那子。」

「はい、姉様。」

「この子、私のことをただのアラクネだと思っているんですって。ああ、ちゃんちゃらおかしいわ。」

「姉様、仕方ありませんよ。」

「そうね。お仕置きが必要のようだから、教えてあげましょうか。」

「えっ?」

「言葉をつつしみたまえ。君は今、蜘蛛の女王の前にいるのだから。」

「はあ?」

「姉様、この間見たアニメーション作品の台詞が混入されています。」

 

困惑する一号。

すると、黒いセーラー服の娘は姿をどんどん変化させながら急速に彼女へ迫ってくる。

蜘蛛へ、蜘蛛へと変わってゆく。

 

「くっ、このっ!」

 

炎を飛ばす一号。

炎を浴びても平然としている娘。

娘はどんどん異形化してゆき、やがて女郎蜘蛛の姿へと変わった。

 

「この姿になるのも久々ね。」

「どんな姿でも姉様は素敵です。」

「そうね、佳那子は正直者だわ。」

「お褒めに預りまして恐縮です。」

「あっ、あああっ!」

 

悲鳴をあげる一号。

この女は、この女は、アラクネではない。

それよりももっと……。

危険を感じた一号は瞬時に後方へ跳躍するが、なにかを失ったように感じた。

なんだ、これは?

女郎蜘蛛の姿をした美少女は、一号の左腕を掲げつつ彼女に向かって言った。

 

「こんなもので良かったかしら? お気に召して?」

「よくも! よくも!」

 

いつの間に取られていたのか?

即座に一号は痛覚を遮断した。

一号は自身の炎を渾身の力で練り上げてゆく。

 

「あんたこそ、これでも喰らえ! フォーティア・ルフィフトゥラ!」

 

極大火炎が黒い娘を襲った。

まともに喰らえば黒焦げ間違いなしの、激しい勢いの炎。

それは確かに黒髪の娘に直撃したが、なにほどのこともないかの如くに彼女は微笑む。

 

「身の程を知るのね、小娘。では、ごきげんよう。」

 

一号は瞬時の内に何本もの『糸』で斬り刻まれ、再生する余裕すら与えられないまま、黒い娘に『喰われて』ゆく。

喰われながらも、一号の戦意は衰えない。

 

「せめ……て……一……撃……。」

 

残った右腕の先端から炎がほとばしった。

それの向かった先は、『後輩』。

一号の執念の炎が四号を即時に包み込む。

そして、彼女はようやく知った。

四号には火炎が効かないのだと。

自分の技など通用しないのだと。

 

「一号、さようなら。」

 

炎をものともしないまま、それに包まれつつ四号は先輩に別れを告げた。

それは、彼女なりの親切だったのかもしれない。

咀嚼(そしゃく)されつつ、一号は涙をこぼす。

 

「悔し……い……わ。」

 

それが、最期の言葉。

食べ尽くされ。

一号は消える。

火炎が消えた。

結界も解ける。

異界も消えた。

 

女郎蜘蛛から人へと変貌してゆく娘。

彼女はカーテシーを行い、周囲の二名に拍手された。

娘はうーん、と背伸びする。

ちょっとした運動をこなしたかのように。

 

「気散じにおいしいものでも食べに行くわよ。」

 

姉様と呼ばれる存在が周囲の二名にそう言った。

 

「「はい、姉様。」」

「あちらがいいわ。」

 

すたすた歩きだす姉様。

その足取りに迷いなし。

ついてゆく二名も同様。

商店街へ突入してゆく。

やがて、彼女たちは『鳳翔』という小料理屋を発見した。

赤提灯に藍の暖簾に白木の引き戸と、まごうかたなき夜の店である。

今宵のオススメが店頭に置かれた黒板に複数書かれていて、それは意外に達筆だ。

いいにおいが辺りに漂っている。

ここならばハズレではなかろう。

引き戸を開けると、穏やかそうな中年男性と割烹着のよく似合う美人女将が彼女たちを出迎えた。

城で会った眼鏡美人や孤独な感じの中年男性。それに商店街で会ったパンチパーマと長髪の若者たちも、穏やかに美味しそうに食事をしている。

四号は素敵な夜になりそうだと、やさしく笑った。

ちょっと生意気そうで可愛い給仕からおしぼりと水を渡され、黒い娘は矢継ぎ早に食べ物を注文する。

焼き鳥、揚げ豆腐、野菜炒め、肉じゃが、カレー、麻婆豆腐、餃子、海の幸のグラタン、イワシのプロヴァンス風、おにぎりなどなど。

それは、店の食材を喰らい尽くさんばかりの勢いだった。

 

『米好きの下剋上』の新刊の話をする姉様と佳那子。

どこからともなく現れ、机の上で踊り出す妖精たち。

陽気な二人の若者たちからパンと葡萄酒を渡された。

眼鏡美人と孤独な感じの中年男性は静かに食事する。

 

夜はまだまだ終わりそうにない。

 

 

 

 









《参考資料:平崎市篇》
※あくまでも『あくいろ!』での独自設定です。ご留意くださいませ。




【平崎市及びその近辺に於ける主な為政者の歴史的流れ】


平崎王朝(通称。イナルナ姫を奉じていたということ以外の詳細は諸説入り乱れているものの、実質的にはよくわかっていない。宮内庁は今なおその存在を公式に否定している)

大和朝廷直轄(叛乱と鎮圧に明け暮れたという記録が残っている)

(不明)

平将門公(叛乱勢力の重要戦略拠点のひとつだったという)

源氏系?

《戦国時代》
後北条氏が周辺地域を支配

《江戸時代初期》
徳川五虎将の秦野弘隆公が封じられ、平崎藩開祖となる。江戸時代を通して国替転封一切無し

《江戸時代後期》
風眛公、大暴れ

《大政奉還》
秦野幸隆公、奮闘す

《明治政府樹立》
平崎県(数年で神奈川県に組み込まれる)

秦野幸隆公、伯爵に任ぜられる(政府要職を歴任)

平崎市:初代市長は秦野幸隆公

《太平洋戦争》
駆逐艦平崎、坊ノ岬にて激闘す

《大日本帝国消滅、占領軍による統治》
平崎神隠し事件、発生

秦野氏は公職追放の憂き目にあわなかったため、占領軍との密約説もある

現在に至る




※平崎市の歴史は戦国時代の後北条氏までの記録が散逸していたり破損されていたりすること極めて多く、不明点が非常に多い。


※平将門公の重要戦略拠点のひとつとして、平崎の地は大いに活用されたという。
オニが遊軍として暗躍すると共に各地で跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)し、都の軍勢を大変悩ませたとの記録が複数残っている。
このオニとは、人として認められていなかった存在のことではなかろうかとするのが学者たちの基本的定説。
また、オニ=忍者説を唱える学者もいる。
風魔の原型がいたとする研究もあり、後述する平崎藩の情報収集能力と併せて近年注目されている。


※平崎藩は情報収集能力に長けた藩で、知的且つ開明的な藩主が続いたことでも有名。
平崎城は小さいながらも堅固な作りで、小田原城の支城として有機的に連携出来た。


※戦後占領軍が我が物顔で本邦の土地を闊歩していた頃、ゴロツキ系やチンピラ系の米兵が複数名相次いで行方不明になった事件は殆ど知られていない(通称、平崎神隠し事件)。
メリケンの威信をかけてNSA(国家安全保障局)が内密且つ徹底的に調査したものの(ハーミット作戦と呼ばれていたとか)、消えた米兵たちの痕跡は一切見つからなかったらしい。
この事件時の逮捕者は非常に多く、旧軍兵士から共産主義者、暴力団関係者やテロリストに至るまで幅広く拘束され、吉田首相からの度重なる厳重抗議の末、完全に裏が取れた人物たちはようやく釈放された。
釈放されなかった人物たちがどうなったかは、未だに殆ど判明していない。
合衆国は現在もこの事件を公式に否定しており、関連書類は存在しないことになっている。
ずっと後に超常事件を追う男女の捜査官の番組(メリケンのテレビ局製作)にて、この事件を取り上げた回があった。
この回の放映終了直後にメリケン政府からテレビ局へ猛抗議が寄せられ、それ以降、この回は欠番扱いになっている。
ちなみに日本語吹替版では、そもそもこの回が放映されていない。


※歴代の秦野家に何故か現代的価値観を持つ人が散見されるのは事実。そのため、彼らは転生者だったという突拍子もない説が時折浮上する。




【秦野弘隆】
徳川五虎将の一人。
知謀兼有なる勇将。
幼名は小平太。
長篠の戦いにて初陣を飾り、猛攻してくる武田軍を迎え撃って大いに暴れ回った。
以降、徳川方の戦巧者な武将として各地を転戦する。
小牧・長久手の戦いに於いても大きな戦功をあげた。
その後の合戦でも勇猛果敢ないくさぶりを発揮し、特に釣り野伏せ的な戦法を得意とした。
武人として活躍した一方、『南蛮かぶれ』と呼ばれる程積極的に西洋文化を取り入れたことでも知られる。
関ヶ原の戦に於いては、猛擊してくる石田隊や大谷隊と激闘を繰り広げた。
晩年は平崎の人々が豊かになるように心を砕き、風流人としても名を残す。
柳生宗矩との親交があったことでも知られており、平崎は江戸柳生の系譜が唯一残る地となった。
忍びを優遇した開明的武将であり、平崎藩には伊賀甲賀(こうか)木曾武田風魔といった各地の忍びが弘隆公に忠誠を誓っていたという。
現代に通じる諜報網の構築を手掛けたことと現代的発言並びに後世に通ずる発明を複数行っていることから、転生者疑惑あり。
某戦国時代的戦略的電脳遊戯に於いては何故か忍術の使える稀少な武将として登場しており、能力の均衡性が極めて高い勇将。


【風昧公(ふうまいこう)】
江戸時代後期の大名である秦野春隆公のこと。
幼名は小太郎。
神算鬼謀の人。
多彩な発案家。
人を使う名手。
気さくな人柄で食いしん坊だったという。
平崎の人は敬愛を込めて、今も公のことを『春ちゃん』と呼んでいる。
不昧公の松平治郷(はるさと)公と並ぶ、江戸時代の代表的茶人の一人。
同時代を生きた治郷公とは日常的に交流があり、複数の書簡が現代も残っている。
現代的価値観を有しているような振る舞いが散見されている上、現代風の発言が幾つもあったことから、一部の人たちは公を転生者でないかと考えている。
また、『一人で平崎藩を近代化改修した』とも言われる。
ちなみに口癖のひとつは、「なーんちゃって。」である。
矢来まんじゅうや平崎カステラなどを考案したのも公で、紅茶や代用珈琲を発案したことでも知られる。
鶏の唐揚げと公自身が開発した魔夜姉図をこよなく愛好し、遂には風昧弁当なる代物まで考案。
それは、現在も愛され続けている弁当となった。
明治期の早期から平崎駅舎では売り子たちが誇り高く風眛弁当を発売し、平崎の名物弁当として今尚愛されている。
ヤングアダルト小説に於いての公は未来人だったり転生者だったりすることが多く、時代小説でも予言者や知恵袋として登場することがある。
伊瀬波京太郎氏の作品にも幾度か登場しており、江野山乱草氏や与古道雅士氏の作品にも何度か登場している。
某戦国時代的戦略的電脳遊戯では未来から時を超えてやって来たという設定の隠し武将として登場。大きな話題となった。
他にも出演多数で、たまに女体化して登場している。
公の遺言で創作に於けるそれらを禁ずることなかれとあったことから、やはり未来人だったとするのがSF小説家たちの定説。
牛の乳を好み、パンやビスケットやチーズやバターの開発などに挑み、果ては焼き鳥や唐揚げや猪カツまで手を出していることから、当時は変人奇人扱いされた。
養鶏や養豚の祖として、関係者からは神様扱いされている。
死後は新しく創建された風昧神社に奉られ、大変ご利益のある神様として日本全国各地は勿論のこと、海外からもお詣りに訪れる人が絶えない。


【矢来まんじゅう】
上品な味わいの味噌饅頭。
風昧公が開発した傑作和菓子のひとつ。
味噌は地元産。
餡は奄美大島の黒糖を使っており、一個食べるとまた一個欲しくなる逸品。


【風馬羊羹】
風馬屋が江戸時代から作り続けている歴史的名菓。
風昧公の好物のひとつ。
間宮羊羹の元になった羊羹と言われており(諸説ある)、近年人気を博している『提督これくしょん』好きにも広く認知された平崎市民の誇る郷土菓子。
一説によると、風魔小太郎が店を始めたという。


【平崎カステラ】
島原の菓子職人がこの地に呼ばれて伝えた南蛮菓子。
しっとりしていて旨い。
風昧公の好物のひとつ。


【平崎味噌】
矢来まんじゅうに欠かせない味噌。
風昧公が改良したことで知られている。
その技術は北海道の八雲町を開拓した旧尾張藩士たちにも授けられ、道民の必需品のひとつと化している。


【平崎紅茶】
和紅茶の始まりとも呼ばれる国産紅茶。
例によって例のごとく、風昧公が開発。
今も市内の喫茶店などで普通に飲める。


【平崎可否】
代用珈琲のひとつ。春隆公が発案し、趣味人や風流人にしばしば飲まれた。
浅煎りを基本とする。
また、戦時中もよく飲まれた品として知られる。
今も市内の喫茶店などで普通に飲める。


【平崎拉麺】
日本で二番目に拉麺を食べたらしい風昧公は、いつもの飽くなき探究心を用いておいしい拉麺開発に挑んだ。
そしてそれは成功し、平崎市民が全国有数の麺好きになる切っ掛けとなった。
平崎市民の愛する郷土食のひとつ。
公の「出来たぞ、ガハハ!」は、公式記録にも記載されている有名な台詞のひとつ。


【春隆】
春隆公の名を冠した特別純米酒。
酒が苦手な人でも呑みやすい酒。
灘伏見の下り酒全盛期だった江戸時代に関東圏の造り酒屋が一致団結して春隆公完全監修のもとに醸し、関西圏の名酒群に唯一対抗し得たという幻の名酒『波瑠仁弥(はるにゃ)』を目指している。
幕末の頃、心なき西方の兵士たちによる乱暴狼藉の結果、名酒の製法が散逸した。
それは酷く残念なことだ。


【平崎焼】
真っ白な焼き物として知られる、春隆公発案の陶器。
真っ白ながらも精緻な浮き彫りや透かし彫りが特徴。
普及品は本当に真っ白なだけなので、発表当時は国内の数奇者たちをいたく困惑させたという。
春隆公は茶席で意図的に平崎焼を出し、参加者の先進性をはかったとの説もある。
海外への輸出時に本領を発揮し、平崎藩を大いに潤したという。
平崎焼に驚愕した平戸の和蘭陀商館長は春隆公との謁見を切に願い、それが叶えられた時は思わず神に祈ったという。
デザインの世界では、後世のバウハウスに影響を与えたことで知られる。


【駆逐艦平崎】
陽炎型駆逐艦第二〇番艦。
改弐時に防空駆逐艦として改装された。
艦長は秦野道隆大佐で、対空防御と潜水艦狩りを特に得意とした。
平崎市出身の軍人が多く搭乗した艦艇。
米軍からは『ニンジャ』と呼ばれ、非常におそれられる。
大佐は未来予言的な発言を複数行っていることから、一部の人たちは彼に対して転生者でなかろうかと疑っている。
坊ノ岬では戦艦大和を守るべく獅子奮迅の働きで活躍し、防空駆逐艦としての本領を大いに発揮した。
次々と僚艦が轟沈する中でも恐れを見せずに阿修羅のごときいくさぶりを見せるが、大和に迫る雷撃を幾つも引き受けたため、遂に武運つたなく轟沈。
大和が沖縄県に到達する切っ掛けを作った武勲艦。
艦艇擬人化的電脳遊戯の『提督これくしょん』に於いては、風馬羊羹と鶏の唐揚げと平崎拉麺が大好物の勇猛果敢なおかっぱ系黒髪美少女として戦列に加わる。
担当声優は秦野隆子嬢。
他の同型艦と違って忍者っぽい衣装を着ているために『くノ一駆逐艦』という異名があり、愛好家の間では『ひらりん』の愛称で呼ばれている。
レベル一三五で超時空駆逐艦イナルナに改装可能。但し、条件が鬼厳しい。
ちなみに特徴的な口癖は、「出来たわ、ガハハ!」と「なーんちゃって。」である。


【フロイライン・ウント・ヘッツァー】
アニメーション作品のひとつ。
軽駆逐戦車ヘッツァーをこよなく愛する乙女と親友の娘との、愛と青春と戦車のお話。
平崎市を舞台とすることから、同市は聖地とされている。
同市出身の声優秦野隆子嬢が作品に出演していることもあって、平崎市民が自発的に作品の世界観を守ろうとしている。


【秦野隆子】
平崎市出身の声優。
現役高校生。
秦野家次女にして平崎市公式広報担当者。
長女の久美子嬢と大の仲良しで知られる。
陶芸家、食品研究者、歴史研究者、司会。
秦野春隆公研究者としても有名なご令嬢。
凛とした張りのある美麗な声で知られる。
代表作は、『提督これくしょん』の駆逐艦平崎役、『フロイライン・ウント・ヘッツァー』の春山結花理役、『ルリキュア・エスカレーション』の北野せつな/ノース役、『とてつもないスキルを使って異世界本当に旨いメシ』のスイム役、『米好きの下剋上』のアンネローレ役、『陛下の撤退命令を受け取らない私』のイリス・クローネ少尉役など。
人気ゲームやアニメーション作品に複数出演しており、洋画の吹き替えやナレーションも幾つか行っている。
平崎市内を走る循環バスでもその声が聴けるため、市民の認知度が高い。
実写映画の『にゃんこサムライ』や『春ちゃん』や『ヨコハマアリス』などにも出演し、その演技力は多方面から注目されている。
ちなみに口癖は、彼女が敬愛する春隆公がしばしば口にした「なーんちゃって。」である。
父の直隆から毎月多額のお小遣いを貰っているが、殆どの額を躊躇なく趣味に投入している豪の者。


【あんこ祭】
餡好きの、餡好きによる、餡好きのための祭。
小豆餡、白餡、うぐいす餡、胡麻餡など様々な餡を集めた催しで、近年はクリーム餡なども加わって勢力拡大に努めている。
始めたのは風昧公で、存命中は公自身が司会を務めていた。
当時は斬新過ぎる企画として幕府も難色を示したそうだが、公はいつもの口八丁手八丁で幕閣のお偉いさんたちを丸め込んで開催に漕ぎ着けた。
士農工商関係なく楽しめる催しとして、当時の人々にも愛された。
今も地元の人々が熱心に楽しんでおり、風昧公の先進性はここでも遺憾なく発揮されていることがよくわかる。
現在の公式司会は秦野隆子嬢で、彼女は七歳の時から誇り高く司会を行っている。
『フロイライン・ウント・ヘッツァー』内で描写されたことによって、一気に全国的に知名度が上昇した。


【ハルちゃん】
平崎市公認のゆるキャラ。
春隆公の作った土人形の『波瑠』を原形にしている。
公自身が民俗玩具として複数の現代風土人形を複数考案しており、それは現在の目で見ても先進的である。


【秦野久美子】
秦野家長女。
北山大学の文学部に通う女子大生。
趣味は歴史学、旅行、帽子の収集。
好物はラーメンで、平崎拉麺は大好物のひとつ。
父の直隆から、毎月高額のお小遣いを貰っている。
母の真央はセクシーな声を特長とする現役の声優。
大学では非常に人気があり、芸能界からも複数引き合いが来ている。
男女関係なく友人が多い。
天然的箱入り娘。
以前、とある占い師から『世界の鍵を握る女性となるだろう』と言われたことがある。
平崎市公式広報担当者の一人として、時折メディアに顔を出している。
ちなみに平崎市立歴史資料館の音声案内は彼女の声。


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