あくいろ!   作:輪音

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「ワタシ、イノチ、アゲマス! ニューシンのワルイヒトたち、ミンナ、ヤッツケテクダサイ!」

このニンゲンから発せられる憎悪の気持ちが心地よい。
死にかけではあるが、これならば対価として十分だな。
負の感情に溢れていて、実に好ましい。
ワルモノ退治、か。
悪魔が退治する側に回るとはなんとも皮肉なものだけれども、なんにせよ、締結された契約は果たされねばならない。
我が権能を発揮し、この建物に巣食うニューシンとやらのワルイ奴らをとっちめに行くか。
気づくと何人ものニンゲンが我の周りにいた。
祈っている者さえいる。
気分的にくすぐったい。
神ではなく、悪魔に祈るか。
我は昔神であったが、今は零落した身。
現在は往時の力を振るえぬが、ニンゲンどもをとっちめるくらいは簡単だ。
契約者を抱えたり先導したりするニンゲンに囲まれ、ニューシンとかいう悪の組織の構成員を倒しに向かった。
なんとなく居心地が悪いのだけど、致し方あるまい。
どれ、構成員たちの悲鳴でも楽しむこととしようか。

「よくないなあ。キミたちは日本人じゃないだろう?」
「ふんっ!」
「あべし!」

立ちふさがった構成員の一人をひょいと捻り潰した。
ちょっとぐちゃぐちゃになったが、まあよかろうて。

…………ええい、お前ら、我をそんな風にあがめるのはやめんかっ!





入審は壊滅しました

 

 

 

 

 

東京入審が悪魔によって壊滅したという。

現在の正式名称は、東京出入国審査局だったか。

情報封鎖は現在進行形で行われているらしいが、どこからともなく情報漏れしているそうな。

沢山の職員が惨殺されたり行方不明になったりと、異常事態に陥っている。

なんでそんなことに。

入審を管轄する法務省の役人は多汗症なのか、汗を何度も何度も拭いていた。

彼の様子から、事態がかなり逼迫(ひっぱく)していると言外に我々へ告げている。

マヨーネさんは微笑みながら役人に対応していた。

視線は冷ややかだが。

 

 

入審の評判は悪い。

すこぶる悪い。

国際法違反を皮切りに、本来ならばやってはいけないことを当たり前の如くに幾つも日常的に行っていると聞いた。

犯罪者めいた(或いはそのものと言えそうな)職員が何人もいるとの噂まである。

もしそれが本当だとしたら、まさに外道の所業である。

悪魔はまるで吟味したかのように対象職員を選び、拷問し、なぶり殺しにしていた。

見せられた写真は数葉だったが、胸がムカムカする程だ。

悪魔は既に消えたし、召喚に関わっただろう人物たちも消滅していた。

よって、我々に出来ることなどない。

……無いよね?

後はクズノハとかヤタガラスとか、そうした組織の仕事だろう。

……その筈だ。

 

 

 

幾ばくかの職員や常勤医は収容されている人々に対して日常的に虐待を繰り返し、笑いながら暴力を振るっていたそうな。

事実だとしたら、国際問題になるのではなかろうか。

幹部にまでもろくでなしがいたとか。

『魚は頭から腐る』というが、上層部はどれだけ腐敗していることだろう。

 

収容されていた人々に対して虐待を繰り返していたと見られる職員や常勤医などが、全員悪魔によってなぶり殺しにされた。

その結果は噂の信憑(しんぴょう)性を増しているかに思える。

この事実を法務省は公式になかったことにしたいとのたまった。

御大層なこって。

都合の悪いことは存在しなかったことになるらしいし、警視庁も東京地検特捜部も上からの圧力には逆らえない。

日本の三権分立なんて建前でしかないからな。

仮に首相と女房殿が不正の限りを尽くそうとも、手出しすら出来ないだろう。

気に入らない人間を次々更迭(こうてつ)するような首相ならばまことにやりきれないし、自分のことしか考えないような人間が国の首長になることはとてもおそろしく思える。

硬派な報道番組の真面目できちんとした司会者を、目障りだとして排除することすら厭(いと)わないだろうし。

言論封殺は独裁政治の基本だし、都合の悪いことは皆無かったことにされる。

おー、やだやだ。

閑話休題。

それで、なんでお偉いお役人様がうちのような組織の事務所に来ているんだ?

 

 

 

当初は収容されていた人物たちが暴動を起こし、職員に対して暴力をふるったとする筋書きの予定だったという。

そのことに対しクズノハとヤタガラスの戦士は強く反発。その後は集団食中毒の路線で筋書きが書き換えられた。

政府関係の職員が集団殺害されたことは事実だけれど、それが外部に漏れることなど一切あってはならないとか。

ひっそりと嘘っぱちを報じ、騒ぎが収まるのをじっくり待つ訳か。

虚報まみれかよ。

法務省は警備係として二〇人の人員を当然のように要求し、そこまでそんなことに人数を割けないとしてクズノハ及びヤタガラス側はこれを拒絶した。

交渉が決裂した結果、西次官に法務省が接触。

次官が子飼いとしているファントムソサエティの人員を派遣することで、施設の防衛が図られることに相成った。

流石に機動隊や自衛隊は呼べんわな。

悪魔はあくまでも隠された存在だし。

 

ファントムソサエティとしては幹部の派遣がそれぞれの業務的に不可能なため、身軽に動けるオレが今回の現場責任者に抜擢(ばってき)されたという次第。

後の一九人は、悪魔やマヨーネさんなどが最近勧誘してきた初級召喚師たちだ。

全員実戦未経験の上に、研修中の者まで引っ張り出してさえいる。

鉄パイプでも持たせろっていうんじゃないよね?

生身で戦った場合、うちのピクシーにも全然歯が立たない連中だ。

模擬戦をやってみたら、召喚師側が瞬殺された。

えへん、と胸を張ったピクシーが可愛い。

……んじゃなくて。

どうにもこうにもならない連中を抱えて、どないせえゆうねん。

なんちゃってファントムサマナーばかりやないか。

あくまでも来ないであろう悪魔対策なので死亡率はおそらく低いでしょうと、マヨーネさんはにこやかに言った。

こわいのうこわいのう。

 

 

 

 

こわいこわいと言ってばかりもいられないのでスリル博士の元へ行き、今回の装備品を受領する。

 

「ほれ、なんかの組織っぽい装備や。」

「博士、言い方がちょっと……。」

「じゃ、物語のやられ役っぽいやつ。」

「えええ……。」

 

ま、パッと見にはそんな感じかな。

受領品はこんな品々で共通装備だ。

 

◎耐弾耐刃仕様の黒スーツ(五.五六ミリNATO弾をなんとか止める性能だが、過信は禁物)

◎防弾チョッキ(特殊スチール製の板を入れたら、七.六二ミリNATO弾を止められる性能)

◎黒眼鏡(タフソーラー電池仕様で、●カウターぽい機能も一応ある)

◎伸縮式電磁警棒(単三乾電池三本仕様)

◎鎖分銅(分銅自体は五〇グラム)

◎棒手裏剣六本

 

 

我々って今回どういう扱いなんですか、とマヨーネさんに聞いたら『警備関係者』だという。

……無理があるんじゃね?

『警備』の腕章を付け、適当に数人ずつ見回ればいいと言われた。

初級召喚師たちが集まった際にそれぞれ何体仲魔を使役出来るのかと聞いたら、みな一体が基本という。

アッチョンプリケ。

そういや、先日の大規模作戦では誰も見なかった。

とても行ける状況ではなかったからだろうが、これではとんでもなく心細い。

元自衛官や元警察官が一人でもいたらよかったのだけど、世の中そんなに都合よくはいかないものだ。

鉄砲を撃ったことの無い者に銃器など扱えないし、仲魔との関係を育(はぐく)んでこなかった者がまともに使役出来る道理などない。

つまり、彼らは現時点で『生きた盾』以外の使い道がないことになる。

オーマイガーッ!

生きて帰ってこれたら、全員特訓じゃっ!

射撃場で撃ちまくってもらうけんのうっ!

のほほんとして緊張感がまったく見当たらない新人たちを見ながら、オレはそう決意した。

 

 

 

 

 

何故悪魔は存在するのか。

人の心が悪魔を生むのか。

以前、小鬼(ゴブリン)の教官へそのことについて聞いたことがある。

すると、教官は言った。

 

「自分で考えてみな。それが答さ。」

「そういうもんですか。」

「誰がどう言ったって、納得しなきゃそれは答にならんだろ。」

「納得しませんか。」

「しないね。みんな、頭の中にそれぞれの答があるんだ。それははっきりしているかもしれないし、ぼんやりしているかもしれない。ただ、それに合致しないモノはすべてはじかれるのさ。」

「弾きますか。」

「はじくね。ニンゲンもアクマも狭量な奴らは得てしてそんなもんさ。」

 

語り合った場所は『二匹の蛙亭』。

地獄の釜炊きで揚げ物上手な、ウコバクの経営する店だ。

我々はコロッケや鶏の唐揚げなどをつまみながら、話に興じたのだった。

 

 

 

 

入審の警備日数は二週間予定。

その間にいろいろ誤魔化して、元通りのふりをする算段だとか。

 

なんちゃって警備員の日々が始まる。

最初は順調。

むしろ順調でないと困る。

異常なし。

初日は問題なく終わった。

よかったべな。

 

二日目が始まった。

我々が屋内全域をうろうろすることは、入審職員たちにとって精神的負荷の強い事態らしい。

そりゃ、好き勝手に出来ないもんな。

収容した人々に対する理不尽な言動を直接見て、部下が疑問を呈したそうな。

 

「規則ですから。」

 

職員はそう答えた。

 

「ウソだねー! このニンゲン、ウソをついているよ! ウソのにおいがぷんぷんするぜーっ!」

 

たまたま召喚師見習いと契約したばかりの悪魔が職員の嘘を見破ったことから、事態は急転直下する。

あくまでも規則と言い張る職員の支離滅裂な論理を快刀乱麻に打ち破ってゆく悪魔。

応援のつもりか職員たちがどこからともなく現れ、召喚師見習い側も人員が増加していった。

誤りを一切認めようとはしない職員。

容赦なく彼を追究しムキになる悪魔。

一触即発の気配が濃厚になってゆく。

オレがその場に現れたのは、丁度雰囲気が危険域に突入した頃だったようだ。

説明をざっと聞いたオレは、意固地になった職員へ救済のための言葉を放つ。

 

「悪魔を挑発したら、彼らは容易に実力行使してきますよ。」

「そんなつもりはありません!」

 

危ないところだった。

よくも殺されなかったものだ。

悪魔によっては問答無用だぞ。

事実、この場の悪魔たちは全員戦闘態勢に入っていた。

召喚師見習いと契約しているから、すぐには手を出さないだけだ。

もう少しで、集まった職員たちはあの世逝きになっていただろう。

悪魔のおそろしさが今もわからないとは。

ヤられなかったからか?

ではそんなあなたたちに写真をお見せしよう。

怒りの表情を隠せない職員たちに複数の写真を見せた。

これで理解出来なかったら、処置なしだ。

 

 

効果は抜群だった。

 

 

なんちゃって警備員最終日。

何事もなければいいのだが。

だが、その願いは叶わない。

 

夕方、通信機に連絡が入る。

 

「チェンバロの弦は切れた。繰り返す、チェンバロの弦は切れた。」

 

げえっ。

悪魔か。

来なくていいのに。

職員たちに通知し、即時に退避させた。

悪魔は収容している人たちの方に向かっていないようなので、予想通りといえばその通りである。

 

「エネミーソナーがビンビンに反応しています! 接敵までおよそ五分!」

 

若葉マーク系サマナーが緊張感溢れる顔で言った。

戦闘は不可避かねえ。

交渉を頑張ってみようか。

立てかけておいたハードケースから散弾銃を取り出し、弾を詰め込んでゆく。

薬室に弾はまだ送り込まない。

戦闘になるかどうかはまだわからないからだ。

念のために安全装置を作動させ、暗闇の向こうを見つめた。

なにかが近づいているのを肌で感じる。

電磁警棒を展開してゆく召喚師見習い。

こちら側の悪魔たちも警戒している。

うちの悪魔たちは悠然と構えていた。

にしし、と嗤(わら)ってさえいる。

あれは、どんな技能を使ってどう倒そうかと算段している表情だ。

 

 

 

闇がわだかまり、それが人の形を作ってゆく。

人間よりも大きい。

気配が強者っぽい。

上級悪魔か?

爵位持ちか?

なんにせよ、先ずは交渉だ。

だからピクシーさんや、開幕メギドラオンなどはしないでおくれよ。

では、オレなりの戦いを始めよう。

言葉。

それがオレの使える業なのだから。

さあ、交渉の時間だ。

 

 

 

 

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