あくいろ!   作:輪音

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今回は怪談ぽくしてみました。
そういうのが苦手な方はご注意ください。






憑き物

 

 

 

神奈川県平崎市。

そこは関東圏にある風光明媚な観光都市。

その市内中心部にあるマニトゥ平崎には我がファントムソサエティの事務所があり、そこでは幹部のマヨーネさんが事務や後方支援などを取り仕切っている。

比較的自由人の多い幹部の中でも話が通じやすい点では、彼女以上にふさわしい人材はいないものと思われる。

事務関連で優秀な人材の育成が今後の課題の一つだろう。

まあ、秘密結社系組織で事務関連の充実したところなどそうそう無いのが実状だ。

 

閑話休題。

 

春の終わりの午後、マヨーネさんに呼び出されてマニトゥ平崎へ行ってみたらなんだか事務所内の雰囲気がおかしい。

ケモノみたいなニオイさえしていた。

まさか、狩猟にでも行ってきたのか?

…………。

今は狩猟の時期でないから違うかな。

 

「マダムギンコから購入した香を使ったのですが、まだ変なニオイがしますね。」

 

困惑したマヨーネさんという珍しいものを見ながら、今回の任務を聞く。

うちの若いサマナーが狐だかなんだかにとり憑かれたらしい。

それをなんとかして欲しいとの、ふわっとした任務を伝えられた。

……ええと、お祓いは、神社の管轄では?

いつもと違って、マヨーネさんの物言いが曖昧だ。

なんだろう、このモヤモヤした感じは。

取り敢えず、くだんのサマナーの元へ行ってみよう。

 

 

 

 

平崎市の外れの方にある喫茶店。

そこで彼の話を聞くことにした。

青年は開口一番、オレに言った。

 

「今度、彼女と結婚しようと思うんです。」

 

それから、彼のマシンガントークが始まった。

口をはさむいとまさえない。

彼の瞳孔は開いたまんまだ。

恋愛をすると瞳孔が開くそうだけど、どうもその説は正しいみたいだ。

店の中が妙にケモノくさい。

我々以外の人間は店内に入ろうとして顔をしかめ、やがて出ていってしまう。

温厚篤実そうな初老のマスターが、こちらをじっと見ていた。

青年は周囲のことなどお構い無しでぺらぺら喋る。

警戒心がどこにも見当たらない。

このこと自体が悪魔召喚師としてはよくないし、このままだと最悪消されてしまう。

それは不味い。

彼はオレの後輩であるが、オレ自身はよく知らない新人だ。

キャロルKが鍛えているうちの一人で、みどころのある青年らしい。

なんとかして欲しいと友人から頼まれている以上、なんとかしたい。

しかし、そもそもこんな組織に来るとはなんとも不憫(ふびん)な……。

まあ、それはいい。

彼がいると、周囲がケモノくさくなる。

それが、大問題だ。

本人の目がやたらぎらぎらしているのも気になる。

なにがあったのか。

その『彼女』とやらが問題だろう。

我々で対処出来る相手だとよいのだけど。

 

話をしている筈だが、彼はこちらを見ている感じがしない。

ちなみにその彼女ってどんなところに住んでいるんだいと何気なく聞いたら、是非ともそこへ行ってみましょうと誘われた。

ガチッと腕を取られ、逃げられそうにない。

急いでお茶代を支払い、ため息をいただいた我々は車中の人となった。

 

 

移動には日本製の業務車輌を使ったのだが、なんらかの妨害だかをどこかからか喰らっているのかもしれない。

カーナビゲーションを信用していないので地図で時折確認しつつ彼の言うところの場所へ向かっているのだが、どうにもへんてこな気持ちになってしまう。

道路はぐにゃぐにゃした感じだし、道自体がどうにも変だ。

何故だか仲魔が召喚出来ない上に、携帯端末の調子も悪い。

アリスもピクシーも誰もそばにいないのは大変な痛手だ。

車内はケモノくさいし、換気もあまり上手くいってない。

彼は妙に上機嫌で『彼女』が如何に魅力的かを語り続け、状況をまともに認識しているようには見えなかった。

 

 

 

 

夕方近く、ようやく『彼女』が住むという家に辿り着いた。

……なんぞこれ?

一言でいうと、入りたくない気配に満ちている。

ここはよくない場所だ。

脳内警報がじゃんじゃん鳴っている。

そこは林に近く、周辺に家や建築物は一切なく、昼間から薄暗く陰鬱な気配がしていた。

庭には草が生い茂り、玄関前は薄汚れている。

ありていに言って、非常に廃屋っぽい。

 

「彼女、いるかなあ?」

 

人が住んでいるようにはとても見えない家屋の玄関へ彼は無造作に近づき、呼び鈴を普通に押した。

呼び鈴の鳴る音は聞こえない。

 

「あれ? いないのかな?」

 

何度も何度も何度も何度も何度も何度も呼び鈴を押す彼。

反応は無い。

だって、音自体が聞こえないし。

人の気配なんて全然感じないし。

むしろすぐに帰りたいで御座る。

彼は更に何度も何度も何度も何度も何度も呼び鈴を押す。

 

「おっかしいなあ。」

 

やたらと首をひねっている。

あの、もう帰っていいでしょうか?

 

「あ、開いた。」

 

開けちゃったよ、この人は。

 

「じゃ、入りましょう。」

 

無邪気な顔で、彼はそう言った。

 

 

 

 

 

あの廃屋は、人が住まなくなってから随分経っているように思われた。

彼の態度もこわかった。

おっかしいなあと、何度も何度も何度も何度も何度も呟きながら歩く。

仏間では室内をぐるぐる回っていた。

こちらを一切見ていない。

オレの腕を離すことなくそんなことをしていたので、大変こわかった。

 

 

 

 

関東某県の山奥にある射撃場で行う訓練に彼を参加させてみたらどうかと、あの妙ちきりんな場所から生還した後で提案してみた。

朝から晩までばんばん鉄砲を撃っていたら多少はよくなるかもしれない。

始まるまではそう思っていた。

だが、始まってみるととんでもない状況が次々発生したのだった。

誤射こそなかったものの、射撃場では本来あり得ないような問題が頻発する。

送弾不良とか撃針が雷管を叩いたのに弾が発射されないのはまだ可愛い方で、銃身が破裂するとか照星(フロントサイト)や照門(リアサイト)が吹っ飛ぶなどの事態が多発した。

不発が発生した際に銃口を覗きこもうとした新人はとっさにどつき、事なきを得た。

パン、という乾いた音が直後に聞こえたけれど、誰にも弾が当たらなくてよかった。

なお、青年が最も多くの問題を引き起こした。

 

 

 

彼にとり憑いたのが悪魔なら話は早いのだけど、どうもそうではないみたいだ。

対処出来る相手ならば、即刻討伐するのだけども。

ヤタガラスから専門家を派遣してもらおうとしたが、その専門家は別任務でなかなかこちらに来れないという。

むう。

 

 

実験をしてみることになった。

悪魔の魅了に彼が耐えられるかどうかというものだ。

彼に対して、悪魔たちが魅了系の呪文や術を唱えてゆく。

効いていない。

ムキになった悪魔たちが、バンバン魔法をぶつけた。

まったく効いていない。

 

 

スリル博士にも話をしてみたが、なに言っとんねん的な対応だった。

うん、わかっていた。

 

 

 

 

『彼女』の家とやらへ、彼に内緒で向かってみることにした。

彼は特訓のため、こちらへは来れないようにしておく。

事前にアリス、ピクシー、スカアハ、ハトホルは呼び出してある。

エモニカスーツを着て、バロウズには常時監視してもらっておく。

マリーさんにも別車輌で遅れてついて来てもらっており、いざという時は回収してもらえるように手筈を調(ととの)えた。

よし。

そうして勢いこんで、いざ訪ねてみたら。

 

くだんの家のあった場所はとっくの前に更地になっていたかの如く、草がぼうぼうに生い茂っているだけだった。

 

 

 

 

 

現在。

青年は何事もなかったかのように、悪魔召喚師としての仕事に従事している。

結婚したい発言は既になく、あの異様な事象はそもそも無かったかのようだ。

関係者の誰もが今なお不完全燃焼だ。

彼以外の関係者全員の前でかの家に行ったことを報告した時の、あの激しいツッコミの数々は今も忘れられない。

 

 

あれは一体なんだったのだろうか?

もう二度とあそこには行けないだろう。

なんとなく、そんな気がする。

 

 

 

 

 

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