また上司が天使様からお説教を喰らった。
こっそりと個人の裁量範囲内で製作されている筈の動画配信的魔法少女的三分ミニミニアニメーション作品だが、つい先日平均動画枚数が三〇〇〇枚ほども使われているとバレてしまった。
これはおよそ三〇分アニメーション作品で使う動画枚数である。
あまりに魔法少女的に本気過ぎる内容と我が教団色が無さ過ぎることを、やさしい天使様は憂慮されているようだ。
いや、憂慮なんてなまっちょろい言葉で表現するのはちと違うか。
既にネット界隈では高品質な作品として高評価されているし、確信犯的なあれやらこれやらが上層部や天使様のアレコレに抵触したっぽい。
愛、友情、努力、勝利、希望、その他もろもろをぎゅうぎゅうに詰め込んだ贅沢な映像作品。
各話の再生回数はそれぞれ一〇桁くらいあり(どうも世界規模で視聴されているらしい)、それに伴う利益は製作費を賄えている程だ。
また、平崎、横須賀、函館、堺、大宮、舞鶴、岡崎、冬木、呉、町田、佐世保、大都会岡山にあるヘクセンアインカウフェン(魔法少女アニメーション作品の関連商品販売店)は宗教色を徹底的に排除したせいか各店舗の売上は好調だし、過去作もそれぞれ固定の愛好家がかなりいるので今現在もそれなりの収益になっている。
ミニミニアニメーション作品でちょくちょく過去作の魔法少女が出てくるのも、需要の継続化という点で巧妙だ。
単に上司が斬り捨てを苦手とするゆーか、整理整頓が苦手とゆーか、わがままとゆーか、まー、魔法少女全員が好きと豪語しているのでそーゆーことなのだろう。
怒りたくてもなかなか怒りにくいのが現状だし、上司が製作統括でなくなったらすべてご破算になる可能性は極めて高い。
生存戦略が上手いとゆーか、なんとゆーか。
上司は天使様に説明すべく、分厚い資料を何冊も山積みにして台車で運んでいた。
説明というか弁明というか、まあそういった目的を達成しようと足掻くものと思われる。
かなり、怒られるんだろーなー。
それでも彼は前に進むのだろう。
上司は今日も我が道を行く。
※いつも誤字報告をいただきまして、ありがとうございます。
暑さが若干遠のいた気もしないでもない今日この頃。
いつもの播信……ではなく、いつものマヨーネさんの事務所を訪れる。
仲魔たちと一緒にいてばかりだと、少しばかり困ったことになるしな。
最近はマーラ様があの手この手を使っていろいろしてくるから、非常に困る。
のらりくらりとかわすのも、そろそろ限界かもしれない。
むう。
本日仲魔たちは、悪魔世界界隈で大人気作品の『戦姫熱唱ティターニア』のねっしょうしない総集篇を視聴するらしい。
みんな自由だな。
存外、画面越しにマリンカリンを喰らっていたりして。
事務所でマヨーネさんと雑談をしている内に、話が妙な方向へと向かう。
「ヘクセンアインカウフェン?」
「ええ、メシア教の外部委託組織が経営している魔法少女作品の専門店です。」
「魔法少女?」
「ええ、メシア教にしては宗教色が殆ど無い作品で、実に見応えがあります。」
「はあ。」
「平崎の商店街近くにもお店がありますので、あなたも寄ってみるといいですよ。そうですね、これからみんなで一緒に行きましょうか。」
「はい?」
「必要不可欠な視察ですから。」
「はあ。」
「あくまでも視察ですからね。」
「わかりました。」
よくわからないが、そういうことなのだろう。
「今回は、我がファントムソサエティの見習い魔法少女も同行します。」
「見習い魔法少女、ですか?」
「入りなさい。」
「はい。」
可愛らしい少女が室内に入ってきた。
中学生くらいかな?
金髪か。
天然だとしたら、ハーフかな?
髪の左右がくるくると巻かれている。
クリーム色の上着に赤いリボン。
プリーツの入ったミニスカート。
平崎市の中学生の制服に見える。
彼女はまごうことなき美少女だ。
あと何年かしたら、更に美人となるだろう。
「鞆絵(ともえ)マミです。本日はよろしくお願いいたします。」
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
「彼女は私の親戚で、現在魔法少女として修行中です。」
「ほう。」
「この子は久右ヱ門です。」
「キュー。」
彼女が抱えている白い四つ足のケモノはなんなのか?
キュウエモン?
赤いビー玉みたいな目が無機物のようだ。
新種の悪魔か?
それとも、珍獣とかナニカなのだろうか?
どんな魔法や特技を使うのだろうか?
秘神みたいな存在ならばなにかしら独特の気配を感じるものだが、そういう存在でも無いようだ。
ケモノはオレをじっと見つめていた。
マヨーネさんと鞆絵さんとオレとで、魔法少女の関連商品を販売する店へと向かう。
鞆絵さんの話を聞きながら、街をてくてく歩いた。
彼女は平崎市立魅滝原中学校の三年生。
紅茶とジェラートが大好きな女の子だ。
初対面なのに距離が近い。
気さくな子なのだろうな。
平崎市を訪れる観光客はけっこういる。
外国から訪れる旅人も少なくない。
中でもパンチパーマの若者と長い髪の毛の若者からなる男性二人連れは、なんだか存在感があるなあ。
あれ?
あの二人、以前どこかで見かけたような……。
二人は、『仏の顔も三度まで』と『あなたは三度わたしを知らないと言うだろう』と記されたTシャツにジーンズといった軽装でぶらぶら歩いていた。
ヘクセンアインカウフェン平崎店に到着した。
洒落た感じのする建物だ。
一階は販売店、二階は各種催しを行うための催事場か。
キラキラさせた瞳の女の子たちとか、ギラギラさせた目の男性群とかで店内はひしめいていた。
いくばくかの買い物を終えた鞆絵さんがため息をつきながら見つめる先にあるモノ。
光輝くモノ。
橙色(だいだいいろ)の石を真ん中にして純銀で縁取りしたブローチ。
魔法少女の中でも別格の力を持つ子が有する品を再現したモノだとか。
思春期の学生が買うにはやや高くて、社会人が対象の商品と思われた。
限定生産品の表記と残り一点の表記が、悩ましく少女へ打撃を与える。
どないすっぺか。
気まぐれオレンジロードが耳元で囁いた。
ユー、買ってあげなよ、と。
ま、よかろう。
買ってあげることにした。
大喜びしてくれたのでよしとしよう。
マヨーネさんは呆れていたけれども。
ケモノはオレをじっと見つめている。
帰り道。
我々は複数の悪魔の待ち伏せを受けた。
異界を作り出すと同時に姿を現す異形の存在たち。
混成部隊か。
仲魔がそばにいないので、速攻で倒そうとでも思ったのか。
やれやれ、ヤるしかないのか。
と、思ったその時。
「おじさまはヤらせません!」
え、となった時、既に彼女は前に出て悪魔と対峙していた。
鞆絵さんは宝石の首飾りを高く掲げる。
「ゼーレ・エーゼルシュタインの力を開放! トラスフォルマーレ!」
宝石のようなモノから発せられた何本もの光のリボンが彼女の全身を包み込み、少女をサナギから蝶へと変貌させてゆく。
おお、まるで魔法少女のアニメーション作品みたいだ。
「必殺! ティロ・フィナーレ!」
大砲を顕現させた魔法少女は悪魔に向かっていきなり容赦なく発砲し、必殺技をまともに喰らった悪魔たちは皆爆発四散した。
なんて破壊力だ。
「成敗!」
特撮っぽい見栄をきり、決め台詞を放つ鞆絵さん。
彼女の笑顔がとても眩しい。
しっかり練習したのだろう。
無垢な笑顔を向けられ、思わず微笑んで拍手した。
これにて、一件落着。
現在、駅前の百貨店でうまいもの展をしているから、みんなに土産を買って帰ろうか。
今回の目玉はいずれもおいしい店だ。
洋菓子屋のキラキラコンフェクショナリーやラッキーフォーク、パン屋の日向屋、和菓子屋の菓子舗胡万智に春野屋、弁当屋のおおもり屋本店、お好み焼き屋の朱音、洋食屋のこしょね亭。
購入すれば、きっと満足度の高い結果が得られると思われる。
よし、行こう。
一人で行こうとしたら何故か鞆絵さんが一緒に行くと言い出し、マヨーネさんもついてくる展開になった。
ま、いっか。
ケモノがオレをじっと見つめているのは、なんとなく気がかりだけれど。
よーし! 旨いもんを買いに行くぜよ!
今日、親戚のマヨーネさんと一見普通っぽいけれどとっても魅力的なおじさまと共に、メシア教関連の魔法少女アニメーション作品の関連商品販売店に行きました。
私の大好きな作品の関連商品はどれもよく出来ていて、思わず幾つも買い込んでしまいました。
おじさまが私のために買ってくれた素敵なブローチは、ずっとずっと大切にしようと思います。
帰り道、悪魔が襲ってきたのですべて返り討ちにしました。
必殺技のティロ・フィナーレがきまって大変よかったです。
練習を何度も何度も何度も何度も重ねた甲斐がありました。
私がいる限り、おじさまに手出しはさせません。
おじさまもマヨーネさんも、私を誉めてくれました。
それは、とっても嬉しいなって。
「たかだか三分の魔法少女のアニメーション作品で、三〇分の作品と同じ予算がかかるとは一体どういうことですか?」
「わかりました、天使様。これから三時間ほどかけて、じっくりと懇切丁寧に説明させていただきます。先ずはこの資料をご覧ください。」
「……三時間?」
「はい、それが終わりましたら、変身バンクについて五時間ほどたっぷりと説明させていただきます。」
「……五時間?」
「はい、誠心誠意全力投球で説明させていただきます。ご安心くださいませ。」
「では天使様、劇場版たるオールスターキャストに於いての動きと流れと必殺技の概要について、九時間ほど説明させていただこうと存じます。」
「まだ……あるのですか……。」
「はい。天使様の憂いを完全に無くすため、全身全霊で全員合体必殺技を放つが如く、誠心誠意全力投球で説明させていただく所存であります。」
「まだ……するのですね……。」